文学史知ったかぶり(19)
この連載は元々ドイツの文学史家エーリヒ・アウエルバッハ(1892~1957)の代表的著作『ミメーシス』46で論じられる文学概念の検討から始まりました。同書邦訳では「ヨーロッパ文学における現実描写」と副題がつけられているように邦訳で上下巻1000ページを20章に分けて、ヨーロッパ文学の文体表現史を展望してみせたものが『ミメーシス』(表象・模倣)です。著者がそこで選出した作者・作品の総体がヨーロッパ文学...
View Article偽ムーミン谷のレストラン(64)
長い窃盗生活のあいだ、スティンキーのコレクションは役にもたたないがらくたが増える一方でした。職業的窃盗とは盗品売買という目的がないと窃盗自体も目的を失いますが、もとを正せば市場経済という原理がムーミン谷には存在しない以上、スティンキーの活動は盗難ではなく損失として谷の需要を維持させるだけで、スティンキー自身には趣味以上の利益をもたらさないのは明らかでした。その状態は以下のように説明できるだろう、とジ...
View Article偽ムーミン谷のレストラン(65)
ぼくがいる場所は、本来ならぼくにとってはやや窮屈なようだ。椅子がひとつある。丈は低くて背もたれはないから、腰掛けという方がいいだろう。浴室で使うようなやつだ。床、四方に壁、そして天井。この六面の空間は、ぼくの見るかぎりでは、立方体になっている。まっ白の照明、影はない。腰掛けの影すらない。これを書いている携帯電話―基本ソフト以外にデータらしきものは何も残っていない。元々ぼくの持ち物なのか、腰掛け同様こ...
View Article文学史知ったかぶり(20)
エーリヒ・アウエルバッハの『ミメーシス~ヨーロッパ文学における現実描写』のような大局的な文学史書となると、読者が気を取られるのはまず全体像であって、各論ではありません。この著書は学問的立場から意図的に各章の分量を統一しており、文庫版の上下巻では収録章数も十章ずつ、ページ数も同じです。アウエルバッハの作品選出も一見客観的で妥当に見えますが、実はそこに『ミメーシス』の詐術があります。第一章・『オデュッセ...
View Article偽ムーミン谷のレストラン(66)
でもなんだか入院みたいで嫌ですねえ、とスノークが苦笑しました。いくら三食上げ膳据え膳、昼寝つきといってもねえ。ほう、きみも入院したことがあるのかね?とヘムル署長が言外に、バカは病気はしないものだろうとほのめかしました。ええ、もうヒマでヒマで、トイレに隠れてはオナニーしていましたよ(実話)。あまりに唐突な告白に、それまでスノークの同席をうざったく感じていた悪党四人もぷっ、っと吹き出しました。いやいやス...
View Article偽ムーミン谷のレストラン(67)
でもやっぱり入院するのは嫌ですねえ、とスノークが苦笑しました。いくら三食上げ膳据え膳、昼寝つきといってもねえ。ほう、きみも入院したことがあるのかね?とヘムル署長が言外に、その話ならおれにまかせろとほのめかしました。ほのめかすまでもなく、ヘムル夫人(正妻)はムーミン谷立病院の院長兼現役婦長なのです。病院は立派な建物で、特に立派なのは門でした。ムーミン谷議事堂も立派な建物で、やはり特に立派なのは門でした...
View Article土用の丑の日クイズ
例年なら谷岡ヤスジの名作『ヤスジのアニマルどー・ウナギの死』を画像と台詞起しでご紹介しているところだが、今年はクイズで行きます。昨夜はサンマの蒲焼き丼、今日は丑の日当日だから中国産の養殖ウナギの蒲焼きを丼に載せて昼食にした。画像1と2のどちらがサンマでどちらがウナギか当てていただきたい。ついでだから画像3と4は今朝の朝食の玉子焼きサンドと昨日の昼食の五目ちらし丼でございます。コメントがこないとクイズ...
View Article文学史知ったかぶり(21)
通常の文学史であれば『オデュッセイア』(紀元前六世紀までに成立)に続き、紀元前六世紀中葉からのギリシャ抒情詩、紀元前五世紀のギリシャ演劇―三代悲劇作者アイスキュロス、ソポクレス、エウリピデスと突出した喜劇作者アリストファネスは古代文学の表現史上欠かせません。ギリシャ演劇の円熟期は歴史記録の確立期でもあり、エウリピデスの画期的作品『メディア』前430の翌年にヘロドトスの『歴史』が完成され、その10年後...
View Article[未定稿]偽ムーミン谷のレストラン(68)
フローレンはすぐにこの店のトイレは廊下に出ると見当をつけたので、適当に無難なカクテルを頼み、飲み干したらスノークにちょっちトイレ、と席を立つつもりでした。兄はうむフローレン、だがそのちょっちはやめろ、と言うでしょう。ですが彼女の誤算は適当なカクテルにするべきではなかった、考えるべきだったということでした。一回戦。私はロックでいいか、フローレンは?カルーアミルクをお願いするわ。スノークの前には岩、フロ...
View ArticleGang of Four-PEEL SESSIONS(rec.1979-81/rel.1990)
イギリスのポスト・パンクのバンド勢でも異彩を放ったのがニュー・レフトの校風を持つリーズ大学の学生バンド、ギャング・オブ・フォーで、デビュー・アルバム『エンターテイメント!』(邦題。正しくは『エンターテインメント!』)を79年9月に発表します。同年同月にはワイヤーがラスト・アルバム『154』を発表し、ザ・ポップ・グループのデビュー作『Y』が同年4月、ジョイ・ディヴィジョンのデビュー作が同年6月でした。...
View Article偽ムーミン谷のレストラン(69)
トゥーティッキさんと魔女モラン、フィリフヨンカはもともと親しいわけでもなければ、これから親しくなろうという気もなかったので、なるべくならばそれがきっかけで親しくせざるを得ないような係わりが起きないように、つとめて用心深くしていました。ひとの好いトゥーティッキさんは冷たいモランが苦手でしたし、モランは万事に神経質なフィリフヨンカが薄気味悪く、そのフィリフヨンカはトゥーティッキさんに劣等感を感じていたた...
View Article人骨出汁ラーメン屋の夏
あいかわらず店内の様子は遮光ガラスでまったくわからないこの中華料理店なのだが(画像1.)、最近ショーケースが新しくなったのを発見した(画像2.)。それまでは陽射しに色褪せたプラスチックの料理見本だったのだが(画像4.)かえって不味そうなのにようやく気づいたらしい。しかしプラスチック見本を新調すると高くつくのでたぶん自家製でデジカメプリントして写真でショーケースを飾ったのだ。やはり諜報活動も近年では予...
View Article文学史知ったかぶり(22)
『ミメーシス』は第一章で『旧約聖書』を取り上げていますから古代ギリシャ抒情詩を落すのはまだしも、古代ギリシャ演劇―三代悲劇作者アイスキュロス、ソポクレス、エウリピデスと突出した喜劇作者アリストファネスは文学の発展史上欠かせない里程標になるでしょう。アウエルバッハが演劇文学を決して軽んじていたわけではないのは、その後の章でしばしば演劇を取り上げていることでもわかります。ただしアウエルバッハが採択してい...
View Article偽ムーミン谷のレストラン(70)
ウェイターは突然マイクを持って現れました。服装も燕尾服に着替えています。それではみなさま、とウェイターは壁に向って体を斜めにし、当店がお送りする歌姫の舞台をお楽しみください。しまった、音楽料金を取られる店かもしれんぞ、とムーミンパパ。食事だけなら踏み倒す自信がある、トロールが飯など食うか!で済むが歌となると聴かなかった、では済まされんぞ。壁が左右に開くと舞台が現れ、そこに妙齢の乙女がライトを浴びて立...
View Articleヤキトリ屋こーちゃんの最期
昨日は久しぶりにヤキトリ屋こーちゃんと、その向かいにある中華正興軒の前を通りかかる偶然に恵まれて記事を載せた。その時撮った昨日のこーちゃんの写真が画像2.なのだが、看板がなくなっているのに気をとられ、シャッターの文字が消されかけているのに気がつかなかったのだ。どうせ自然に剥げるがままにしているだけだろうと、気にもとめなかった。今日もその道を通る用事があって店の前にさしかかってみると、開店時間でもない...
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