この場所を部屋と呼ぶのに抵抗があるのは、見たところ、またあちこち試してみたが、出入口というものが見当らないからだ。イメージとしては溶接した感じ、ならば照明や換気は一体どうなっているのか。脱いでも着衣でも体感温度はほとんど変らない。照明はずっと一定のため朝も昼も夜もなく、昼夜の推移にともなうはずの気温や湿度の変化もない。寝具はない。
食事と呼べるなら、食べることは楽しい。積極的に食べる理由はそれしかない。他にすることも大してないのだ。一方の壁の、ぼくの胸くらいの高さからトレイが出てくる。トレイには八つに区分けされたパレットが乗っていて、八色のペーストをパレットから直接舐める。上品な食べ方ではないが、これがすこぶるうまいのだ。たぶん補助栄養素を含む飲料水がトレイの脇から管で飲めて、こちらはいつでも飲めるようになっている。トレイが出入りする開閉口は食事の時しか現れない。やがて尿意や便意を催すと、腰掛けの蓋を開ければ便器になっている。よくできたものだ。ホームレスが夢見る天国のような場所だ。
部屋の隅には控え目な設備がある。ラジウム、ガイガー・カウンター、青酸ガス発生装置。この三つの関連性は専門外でもわかる。
そしてぼくは装置が作動しようがしまいが、つまり生死を問わず、もういいぞスナフキン、と呼ばれるまでここから出られないだけは確かなことなのだ。