(前回から続く)
「問診の順番は六人目だったのにずいぶん早く呼ばれた。30分、いや20分も待たなかったかもしれない。それだけどの患者も安定していて、確認だけで済んだのだろう、と思いながら立ち上がる。第三病棟は重篤で入ってくる患者も重篤のままの患者も多いから(たぶん一般精神科の第一も)診察室は独立しているが、第二病棟では名ばかりの診察室コーナーはあっても実際はナースステーションが診察室を兼ねている。他の病院の基準でこの病院を考えてはいけない」
「と、戸口まで出てハッと思い出して引き返し、女性患者で被害妄想か幻覚があるらしく、佐伯に言い寄られたりつけまわされたりしている、それで頭痛がして眠れないだの頓服薬がほしいだのナースステーションに訴えたり他の患者(少なくともYzさん)にこぼしたりしている人がいまして。どの人？とIi看護婦。HAの名前を出すとさもありなんといった様子で、彼女の主治医に伝えておきますよ、とDm先生。これで幾分安心する」
「問診を終え、水を飲みにコップを提げて流し台に向かうと、Skさんが鏡台の前でシェイバーを使って頭を剃っていた。便利ですね、坊主にした時はあるけど、スキンヘッドはシェイバーで済むんですね。坊主くらいだと無理でしょう、本当にツルツルじゃないと。頭はどうやって洗うんですか？どこまで顔でどこから頭かわからないですからシャンプーは不要ですね。第三で介助浴されててヘルパーに訊かれましたよ、シャンプー使います？って(笑)」
「昼食はチーズカレーと中華あえ豆腐サラダ、りんごジュース。やっと通常食に戻ったKくんは大好物のカレーライスを、やっぱ男は米の飯だぜ。二、三日前はお粥からパンになって毎食パンなんて最高じゃん、て言ってなかったか？わがままな男、とUzさん。少食のUzさんはカレーライスは半分残す。食べる？食べる、とKくん。ただし人参は端にのける。Uzさんの前にはりんごジュース二本。さっきYzさんがトレイを下げる通りすがりに置いて行ったのだ。あの人は気がまわるから、Uzさんの少食を知っていてジュースくらい飲めよ、とおすそわけしたのだろう。Kくんは見るからに羨ましそうだったがさすがにジュースまではねだれない。これやる、と豆腐サラダをよこす。もちろんいただく。でもジュースはあげない」(続く)