頭の中の映画6/フェリーニ、アントニオーニ
ミケランジェロ・アントニオーニ(1912~2009)もフェデリコ・フェリーニ(1920~1993)もルキノ・ヴィスコンティ『郵便配達は二度ベルを鳴らす』1942、ロベルト・ロッセリーニ『無防備都市』1945、ヴィットリオ・デ・シーカ『自転車泥棒』1948らが先駆をつけたイタリアのネオ・リアリズモの末席に連なる映画作家です。アントニオーニはデビューが遅れ、フェリーニは最年少でした。この五人の監督を並べ...
View Article偽ムーミン谷のレストラン(17)
ほら、と偽ムーミンはスプーンの底をスープの表面につけると、軽く押したり持ち上げたりしてみせ、もう皮ができてるよ。ほう、とムーミンパパは皮肉な口調で、お前もいつの間にかずいぶん賢くなったようだな、われわれは良い息子を持ったものだなママや、しかも親に向かって聞いたような口をききおるとは実に大したものだ、将来が楽しみというものではないかね?などなど、なんだか妙に絡んでくるので、黒ビール一杯でこんなに酔うも...
View Article偽ムーミン谷のレストラン(18)
ヘムレンさんは床に一辺が一メートル半の正三角形をチョークで描くと、それぞれの辺を二分割する位置に辺と交差する印を引きました。起き上がって描いた図形を眺め、こんなものかな。ではお二人とも印のところに立っておくれ。条件は公平なはすだが、納得いかないならその都度遠慮なく言おうじゃないか。私も異議はないがね、と、床と天井を見較べながら、ジャコウネズミ博士。つまりヘムレンさんの公平さには異議はない。あえて追加...
View Article頭の中の映画7/フェリーニ、アントニオーニ
今回もミケランジェロ・アントニオーニ(1912~2009)もフェデリコ・フェリーニ(1920~1993)の代表作を取り上げ、同時期の同傾向の作品とされることが多い両者をともに検討したいと思いますが、奇しくもアントニオーニ『さすらい』への回答とも言えるフェリーニ『甘い生活』と、『さすらい』からさらに大胆な映画文法の解体を実行したアントニオーニ『情事』はともに1960年2月、6月に公開されました。彼らに...
View Article偽ムーミン谷のレストラン(19)
偽ムーミンはムーミンパパにさりげなく告げただけですが、そのひと言で思わずスニフとフローレン兄妹もぎょっとしてムーミン一家から目を逸らし、ヘムレンさんとジャコウネズミ博士も意図的に無視し、トフスランとビフスラン夫婦も双子であることを忘れたような顔で背け、ヘムル署長とスティンキーもおまわりと泥棒の立場をわきまえて無視し、ミムラとミイも35人の兄弟姉妹を忘れて呆け、あの孤高のスナフキンも今やニョロニョロの...
View Articleアル中病棟入院記208
(人名はすべて仮名です)・5月1日(土)晴れ「梅崎さんの退院、それから入院以来初めての帰宅外泊。朝の会を終えて10時の解錠まで仕度して待ち、コンビニ横のバス停から10時17分のバスに乗る。町田駅までは長い。町田で寄り道せずに小田急線に乗り、下車してまっすぐ駅徒歩一分の老朽自宅マンションへ。線路沿いの桜並木は見事な葉桜になっていた。二か月ぶりの帰宅になるのだ。郵便物やチラシをごっそり取り出して部屋に入...
View Article頭の中の映画8/フェリーニ、アントニオーニ
ミケランジェロ・アントニオーニ(1912~2009)の『情事』はフェデリコ・フェリーニ(1920~1993)の『甘い生活』からわずか四か月後の、60年六月に公開されました。『甘い生活』が三時間ならこちらは二時間半の大作です。ただし国際上映ヴァージョンでは40分もの短縮版が流通しており、さらにその中間の長さのヴァージョンも出回るなど、高名なカンヌ映画祭審査員特別賞受賞作とも思えない奇妙な別編集版が流通...
View Articleアル中病棟入院記209
(人名はすべて仮名です)・5月2日(日)晴れ「早く起きたら教会の礼拝に出席するつもりもあったが、夜更かしがすぎて寝坊して起きる。飲酒問題が起きたきっかけは教会の内輪揉めに首を突っ込んだからだったのだが、なにしろ入院していると反省時間が長いので気持のわだかまりはなくなっている。朝の子供番組の録画ビデオ観て、牧師先生や画家のお二人、闘病中の知人へのメールを時間かけて書き送るうちに午後になる。電車とバスの...
View Article頭の中の映画9/フェリーニ、アントニオーニ
地中海クルーズ中に失踪した大使令嬢アンナ。アンナの恋人で建築家サンドロ、アンナの親友クラウディアはアンナの行方を追う内に愛人関係に陥り、アンナ捜しの目的を失う上に恋愛感情も枯渇し行き詰まる。ベンチに座り込み嗚咽するサンドロ。立ったままでサンドロの肩に手を置くクラウディア。二人を背後から写した全景ショット―サンドロの座るベンチ側右半分は黒い断崖、クラウディアの立つ左半分は蒼白の晴天―が映され、無言の場...
View Article偽ムーミン谷のレストラン(20)
スニフくんはご存知ないかもしれないが、とジャコウネズミ博士は言いました、ヘムレンさんと私は併せて69もの学位を取得しておるのだ。これはわれわれ二人でムーミン谷に国際大学を開校するに十分な資格があることを意味する。なるほど、私はその唯一の生徒というわけですなはっはっは、とスニフは謙譲して答えましたが、どうやら今は社交辞令など問題ではない議題にさしかかっているのにすぐ気づきました。それで博士、おっしゃり...
View Articleアル中病棟入院記210
(人名はすべて仮名です)・5月6日(木)晴れ「朝の会では連絡事項が多く、滝口さんの退院のあいさつはどさくさ紛れに忘れられてしまった。早くも今日のうちに第三病棟から四名移室してくる。中嶋、島田、三上、佐藤と、一度に四人ではどういう人たちかもすぐにはわからない。午前中の主治医の診察で、来週の診察時に退院日を決めましょう、と言われる。つまり最短なら来週の金曜、14日には退院できるということだ。これには病棟...
View Articleアンドレ・ジッド(5)『ジイド全集』と戦後日本の出版事情
文学者としてのアンドレ・ジッド(1869~1951)は晩年には評価が定まっていたと言えて、翻訳版の決定版全集は50~51年にかけて刊行された全16巻の『アンドレ・ジイド全集』と、別売された500ページ×5巻に及ぶ『ジイドの日記』50~52年刊で、どちらも新潮社から当時としては破格の上質紙と製本で刊行されました。これは、版元としては老舗文芸出版社としての社運をかけていたということで、新潮社の前身は明治...
View Article前歯損失
七年前に全歯の治療を受けて全歯が義歯になった。以来奥歯に根元まで虫歯が進行して二本が入歯になったが、これは入歯をしていなくても食事・発音などまったく影響がない。逆に言えば、使わない歯だからこそ虫歯が進行したとも言えるかもしれない。ところが、今日の昼食後にぽろり、と上の前歯のど真ん中が取れてしまった。原因は固い氷菓子など食べていたからで、画像に載せているのがそれだと言ったらあと二週間で満50歳になる男...
View Articleアル中病棟入院記211
(人名はすべて仮名です)・5月8日(土)晴れ「朝の会は山崎さんの転院のあいさつ。もう肝癌がステージ4に進行していて延命措置の可能性しかない、と本人の口から淡々と告げられる。皆さんも引き返せるうちに引き返してください、と結ばれると沈鬱な拍手で送るしかない。そういえば冬村さんの退院を書き落してしまったが、これでついに第三病棟の最古参患者になってしまった。数日差で勝浦くんがいるが、彼はアルコール科ではない...
View Articleアンドレ・ジッド(6)『文学界』グループからの評価
19世紀末の文学思潮を正確に批判し20世紀に橋渡ししたことで、アンドレ・ジッド(1869~1951)は20世紀のちょうど前半に一種の規範とされる思想家的作家と見なされていました。新潮社版の翻訳全集や日記が配本中にジッドは81歳で逝去しましたが(51年二月)、同年七月刊の第13回配本『文学評論』付録の月報で河上徹太郎は正面から「ジイドは小説家としては二流だが、批評家としては一流だといふのが、以前からの...
View Articleうおおおおーっ!
圧倒的な戦闘力の差に窮地に陥ったアクション仮面は子どもたちの声援を受けてうおおおおーっ、と絶叫するのだが、パラダイスキングは吠えれば強くなるのかよ、と嘲笑・一蹴して再び攻撃を繰り出す。しかし本当にアクション仮面は吠えると共に覚悟を固めて強くなったのだった。…というのが名作『映画クレヨンしんちゃん・嵐を呼ぶジャングル』2000の盛り上がりシーンなのだが、画像上は別に吠えているつもりではない。昨日は画像...
View Articleアル中病棟入院記212
(人名はすべて仮名です)・5月9日(日)晴れ「母の日。今年は義母にも娘たちの母へも花は贈らずに済ます。この週末の帰宅外泊患者は坂部、金子、尾崎さんの三人だけというのも珍しいが、尾崎さんは気性の良い人だからともかくとして、何かにつけて他人に絡み、口うるさくて説教くさく、肝心な時には無責任でいる坂部と金子のおやじ二人がいないだけでもずいぶん病棟が落ち着いている。ということは、あの二人がいるだけで普段のこ...
View Articleアンドレ・ジッド(7)ジッドの日本受容~文学界というグループ
菊地寛の肝入りと川端康成の後見で発足した文学界グループは小林秀雄をボスとした文学エリート集団で、フランス文学専攻のメンバーが多く、彼らによるアンドレ・ジッド(1869~1951)の位置づけは戦前だけでも三社から『ジイド全集』が刊行された昭和10年までには固まっていたと目せるでしょう。訳者解説つきの小林訳岩波文庫版ジッド『パリュウド』の刊行が昭和10年九月です。文学界グループは極端な悪文でも知られ、晩...
View Article偽ムーミン谷のレストラン(21)
第三章。登場人物・承前。ムーミン。ムーミンパパ。ムーミンママ。―以上核家族。スニフ。フローレン。―以上兄妹。ヘムレンさん・ジャコウネズミ博士。―以上学者仲間。トフスランとビフスラン夫婦。―以上双生児夫婦。ヘムル署長。スティンキー。―以上警官と泥棒。ミムラ。ミイ。その他総勢35人。―以上多産系兄弟姉妹。スナフキン。―単独孤行者。ニョロニョロ。―群棲担子菌類。偽ムーミン。―影武者。図書館司書。その情婦。...
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