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頭の中の映画8/フェリーニ、アントニオーニ

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ミケランジェロ・アントニオーニ(1912~2009)の『情事』はフェデリコ・フェリーニ(1920~1993)の『甘い生活』からわずか四か月後の、60年六月に公開されました。『甘い生活』が三時間ならこちらは二時間半の大作です。ただし国際上映ヴァージョンでは40分もの短縮版が流通しており、さらにその中間の長さのヴァージョンも出回るなど、高名なカンヌ映画祭審査員特別賞受賞作とも思えない奇妙な別編集版が流通している作品です。これは『甘い生活』ではあり得ないことでしょう。

『甘い生活』の発想は単純に言えば足し算でした。一本の映画に六本分の物語を持ち込み、各エピソードのコントラストがプロットを形成する。そのために三時間の長さを必要としたのですから、短縮不可能です。ですが『情事』というのは思い切った引き算の映画でした。主要人物は大使の令嬢アンナとその恋人の建築家サンドロ、アンナの親友クラウディアの三人だけ。映画の冒頭30分でアンナは地中海巡りの船旅中に失踪します。サンドロもクラウディアも実家が裕福なので働いていません。これは戦後のイタリアで社会問題になっていた現象なのはフェリーニの『青春群像』でもわかります。

職はなくても暇と金はあるので、残されたサンドロとクラウディアはアンナの行方を捜しますが、毎日のように会っているうちに男女の仲になってしまい、アンナを捜す目的も見失ってしまう。映画は途方にくれて無言で佇む二人の姿を映して終ります。

『甘い生活』は同年のカンヌ映画祭グランプリを受賞していますし、フェリーニ作品のポピュラリティはアントニオーニとは比較になりませんが、『情事』は内容の不道徳性からローマ法王庁の指定により上映を制限された、という栄誉があり、各種短縮版の存在はそのための措置でしょう。また、二時間半の全長版でもストーリーは先に要約したように、数行で書けるようなものなのです。

人間性の堕落を描いて『甘い生活』と『情事』は一見類似して見えますが、『甘い生活』ではそれは社会生活から生じるものであり、いわば外在的なものです。ですが『情事』の主人公たちは社会的な生活を欠いており、人間性の悪は徹底して内在的なものとして追求されています。これは主流映画ではごく限られた作家にしか試みられていない領域でした。『情事』の真価もそこにあります。

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