アモン・デュールのセカンド・アルバム『崩壊』はデビュー作『サイケデリック・アンダーグラウンド』と同年の1969年に早くも発表された。前回に『サイケデリック・アンダーグラウンド』の新装再発盤『恋歌』(原題"Minnelied")のジャケットについて触れたが、画像上がそれです。パンツをはいた雲というのはマヤコフスキーの詩集(1915年)のタイトルでマヤコフスキーといえばロシア革命後に政治的立場から自殺を強いられた詩人だが、本当にマヤコフスキーから着想したジャケットだったりして。そのデビュー作が実質的にはAB面が3パートに分かれた片面一曲の構成(なので各国盤や再発盤でAB面の逆転や曲目記載の混乱が生じた)だったのに対して、セカンド・アルバムでは2分~4分の曲がAB面で11曲と、一見尋常なロックのアルバムのような構成になっている。そこが曲者で、まず今回はメンバーや作者の記載がない。デビュー作では作詞作曲アモン・デュール、メンバーもファースト・ネームでニックネームだけとはいえ記されており、序列からバンド内での役割分担が類推できた。今回はアルバム・ジャケットのSingvogel Ruckwarts & Co.がクレジットのすべてになるのだろう。
動画サイトから拾えたのが全11曲中3曲しかないが、サンプルには十分だろう。デビュー作では強引にLP片面20分のメドレーにされていたが、原型となるセッションではおよそ曲の体をなしていないサウンド断片だったのだ。アルバムのサブタイトル曲"Singvogel~"の動画を観るといきなりイアン・カーティスのライヴ映像がコラージュされるので驚くが、実際その箇所のアモン・デュールはジョイ・ディヴィジョンの"Atrocity Exhibition"を先取りした演奏をしている。すぐに曲はエイト・ビートの実験に変わってしまうが、4分間でアモン・デュールの特徴を凝縮した代表曲だろう。また、"Big Sound"はアモン・デュールIIのデビュー作収録曲"Dem Guten,Schonen,Wahren"のサビのコード・チェンジだけを反復した断片だが、前作では同曲のイントロだけを反復した楽章があり、これはアモン・デュール初期メンバーでアモン・デュールII結成のため抜けたクリス・カーレルとペーター・レオポルドの置き土産だろうが(アモン・デュールIIのアルバムでは同曲の完成型が聴ける)、このことからも『崩壊』は『サイケデリック・アンダーグラウンド』の未使用部分を断片単位で集めたものと類推できる。アルバム最終曲"Natur"は曲でも何でもなくただの自然音のSEで、個々の曲でもメンバーが揃った演奏はほとんどなく、ここまで述べたような事情で作詞作曲やメンバーの記載も放棄したのだろう。アモン・デュールはコミュニストの集団で、後にイギリスのコミュニストのポストパンク・バンド、ザ・ポップ・グループが著作権放棄を宣言したが、アモン・デュールは10年前にもっと過激で匿名的なやり方でやっていた。音楽的にもそうだ。
Amon Duul-Collapsing(West Germany,1969[rec.late 1968])
"Singvogel Ruckwarts(Sinvogel Vorwarts)"
https://www.youtube.com/watch?v=6jwmG2HqUrw&feature=youtube_gdata_player
"Big Sound(Die Show Der Blaumeisen)"
https://www.youtube.com/watch?v=0FSZGwrqbnY&feature=youtube_gdata_player
"Nature(Auf Dem Lande)
https://www.youtube.com/watch?v=liSDvBw44Vo&feature=youtube_gdata_player
アモン・デュールの第三作
(『崩壊』を独立した第二作とすれば)『楽園に向かうデュール』は一年半後のレコーディングで、アンダーグラウンド・ロックの新興インディーズ・レーベルOhrからシングル『エターナル・フロウ』と共にリリースされた。ちょうどアモン・デュールIIがセカンド・アルバム"Yeti"70(邦題『地獄』)を録音中で、この二枚組大作の最終曲はオリジナル・デュールのメンバーのゲスト参加で『楽園に向かうデュール』と同じ作風になった。その曲を先にご紹介するが、『サイケデリック・アンダーグラウンド』でも曲名に頻出したSandozとはLSDの商標名らしい。
Amon Duul II-"Sandoz in the Rain(Improvisation)1970
https://www.youtube.com/watch?v=iKSjmhsEdcE&feature=youtube_gdata_player
あまりに『サイケデリック・アンダーグラウンド』や『崩壊』からの変貌ぶりに驚くが、『楽園に向かうデュール』はギターとヴォーカルのダダム(ライナー改名)とベースのウルリーヒだけが残って制作したアシッド・フォークのアルバムだった。強烈な『サイケデリック・アンダーグラウンド』の抜け殻のような作品であり、アメリカやイギリスのフラワーなサイケデリアとは違う自己破壊的なバッド・トリップ感では本質的な変化はないとも言える。A面1曲、B面2曲(動画サイトの都合上B面2曲の間にシングル曲が挟まったが、同一セッションからの曲なので違和感はない)と今回も大作曲のような構成に見えるが、シンプルな曲をだらだらやっているから長いだけだし、A1に顕著だが二本のギターとベースがさりげなくズレたリフでポリリズムを作り、ヴォーカル・パートではいつの間にか転調しているなど曲作りもうまく、ヴォーカルも良い。B1は5分半目から曲調が変わってアコースティックなアンサンブルになるが、ジェファーソン・エアプレインの"Comin' Back To Me"のギター・フレーズが出てくる。B2もギターが弾いているのはニール・ヤングの"Down By the River"でエアプレインは67年2月、ニール・ヤングは69年5月のアルバムからだからアモン・デュールのメンバーが聴いていないはずはないが、パクりでもオマージュでもない堂々とした本家どりになっている。また、このアルバムは歌詞だけでなく、曲名や担当楽器クレジットが英語表記になった。
アモン・デュールのアルバムの著作権はなぜかアモン・デュールIIのクリス・カーレルとペーター・レオポルドが所持しており、オリジナル・デュールのメンバーは以後消息不明で、この失踪予告のようなアルバムが『楽園に向かうデュール』とは、実にダウナーなユーモアを感じさせる。しかもその後も未発表音源の発掘リリースが続くのです。
Amon Duul-Paradieswarts Duul(West Germany,1970)
(A)1.Love in Peace
https://www.youtube.com/watch?v=oUNxXhzF0fw&feature=youtube_gdata_player
(B)1.Snow Your Thurst and Sun You Open Mouse/Eternal Flow(Single)
https://www.youtube.com/watch?v=I28KNVqbhX0&feature=youtube_gdata_player
2.Paramechanische Welt
https://www.youtube.com/watch?v=3R1aAmIbrD8&feature=youtube_gdata_player
Dadam-Guitars,Vocal
Ulrich-Bass,Chorus,Piano
Lemur-Percussion,Chorus,Guitars
Helga-Percussion
Hansi-Flute,Bongos
Ella-Harp,Bongos
Chris-Bongos
動画サイトから拾えたのが全11曲中3曲しかないが、サンプルには十分だろう。デビュー作では強引にLP片面20分のメドレーにされていたが、原型となるセッションではおよそ曲の体をなしていないサウンド断片だったのだ。アルバムのサブタイトル曲"Singvogel~"の動画を観るといきなりイアン・カーティスのライヴ映像がコラージュされるので驚くが、実際その箇所のアモン・デュールはジョイ・ディヴィジョンの"Atrocity Exhibition"を先取りした演奏をしている。すぐに曲はエイト・ビートの実験に変わってしまうが、4分間でアモン・デュールの特徴を凝縮した代表曲だろう。また、"Big Sound"はアモン・デュールIIのデビュー作収録曲"Dem Guten,Schonen,Wahren"のサビのコード・チェンジだけを反復した断片だが、前作では同曲のイントロだけを反復した楽章があり、これはアモン・デュール初期メンバーでアモン・デュールII結成のため抜けたクリス・カーレルとペーター・レオポルドの置き土産だろうが(アモン・デュールIIのアルバムでは同曲の完成型が聴ける)、このことからも『崩壊』は『サイケデリック・アンダーグラウンド』の未使用部分を断片単位で集めたものと類推できる。アルバム最終曲"Natur"は曲でも何でもなくただの自然音のSEで、個々の曲でもメンバーが揃った演奏はほとんどなく、ここまで述べたような事情で作詞作曲やメンバーの記載も放棄したのだろう。アモン・デュールはコミュニストの集団で、後にイギリスのコミュニストのポストパンク・バンド、ザ・ポップ・グループが著作権放棄を宣言したが、アモン・デュールは10年前にもっと過激で匿名的なやり方でやっていた。音楽的にもそうだ。
Amon Duul-Collapsing(West Germany,1969[rec.late 1968])
"Singvogel Ruckwarts(Sinvogel Vorwarts)"
https://www.youtube.com/watch?v=6jwmG2HqUrw&feature=youtube_gdata_player
"Big Sound(Die Show Der Blaumeisen)"
https://www.youtube.com/watch?v=0FSZGwrqbnY&feature=youtube_gdata_player
"Nature(Auf Dem Lande)
https://www.youtube.com/watch?v=liSDvBw44Vo&feature=youtube_gdata_player
アモン・デュールの第三作
(『崩壊』を独立した第二作とすれば)『楽園に向かうデュール』は一年半後のレコーディングで、アンダーグラウンド・ロックの新興インディーズ・レーベルOhrからシングル『エターナル・フロウ』と共にリリースされた。ちょうどアモン・デュールIIがセカンド・アルバム"Yeti"70(邦題『地獄』)を録音中で、この二枚組大作の最終曲はオリジナル・デュールのメンバーのゲスト参加で『楽園に向かうデュール』と同じ作風になった。その曲を先にご紹介するが、『サイケデリック・アンダーグラウンド』でも曲名に頻出したSandozとはLSDの商標名らしい。
Amon Duul II-"Sandoz in the Rain(Improvisation)1970
https://www.youtube.com/watch?v=iKSjmhsEdcE&feature=youtube_gdata_player
あまりに『サイケデリック・アンダーグラウンド』や『崩壊』からの変貌ぶりに驚くが、『楽園に向かうデュール』はギターとヴォーカルのダダム(ライナー改名)とベースのウルリーヒだけが残って制作したアシッド・フォークのアルバムだった。強烈な『サイケデリック・アンダーグラウンド』の抜け殻のような作品であり、アメリカやイギリスのフラワーなサイケデリアとは違う自己破壊的なバッド・トリップ感では本質的な変化はないとも言える。A面1曲、B面2曲(動画サイトの都合上B面2曲の間にシングル曲が挟まったが、同一セッションからの曲なので違和感はない)と今回も大作曲のような構成に見えるが、シンプルな曲をだらだらやっているから長いだけだし、A1に顕著だが二本のギターとベースがさりげなくズレたリフでポリリズムを作り、ヴォーカル・パートではいつの間にか転調しているなど曲作りもうまく、ヴォーカルも良い。B1は5分半目から曲調が変わってアコースティックなアンサンブルになるが、ジェファーソン・エアプレインの"Comin' Back To Me"のギター・フレーズが出てくる。B2もギターが弾いているのはニール・ヤングの"Down By the River"でエアプレインは67年2月、ニール・ヤングは69年5月のアルバムからだからアモン・デュールのメンバーが聴いていないはずはないが、パクりでもオマージュでもない堂々とした本家どりになっている。また、このアルバムは歌詞だけでなく、曲名や担当楽器クレジットが英語表記になった。
アモン・デュールのアルバムの著作権はなぜかアモン・デュールIIのクリス・カーレルとペーター・レオポルドが所持しており、オリジナル・デュールのメンバーは以後消息不明で、この失踪予告のようなアルバムが『楽園に向かうデュール』とは、実にダウナーなユーモアを感じさせる。しかもその後も未発表音源の発掘リリースが続くのです。
Amon Duul-Paradieswarts Duul(West Germany,1970)
(A)1.Love in Peace
https://www.youtube.com/watch?v=oUNxXhzF0fw&feature=youtube_gdata_player
(B)1.Snow Your Thurst and Sun You Open Mouse/Eternal Flow(Single)
https://www.youtube.com/watch?v=I28KNVqbhX0&feature=youtube_gdata_player
2.Paramechanische Welt
https://www.youtube.com/watch?v=3R1aAmIbrD8&feature=youtube_gdata_player
Dadam-Guitars,Vocal
Ulrich-Bass,Chorus,Piano
Lemur-Percussion,Chorus,Guitars
Helga-Percussion
Hansi-Flute,Bongos
Ella-Harp,Bongos
Chris-Bongos