もっともムーミンがこの拘束具に拘束されるのは今回が初めてではなく、肉体ごとのすり替わりではなく精神交換で偽ムーミンとの入れ替わりを強要される時はいつもこの手口が使われました。強要といってもムーミンが言い負かされて従っているので任意でもあり、同時に二人のムーミンがうろうろしているのはまずいだろ?なるほどそれももっともで、こうしていなければ退屈で出歩きたくなるだろ?それもその通りなのでムーミンは大人しく拘束、ただし肉体的には偽ムーミンの状態で拘束されていました。拘束されているのも退屈きわまりないことですが、精神交換の唯一の楽しみは同期している偽ムーミンの活動状況が情報としてのみわかることで、読めるだけでテレパシー会話はできませんがムーミンはレストランで偽ムーミンが見聞きしたすべてを識ることができました。
そしてムーミン本人は一切の刺激がない状態でいますから、皮肉なことにこの場合拘束されたムーミンが認識主体で、偽ムーミンは情報端末でしかないとも言えるのです。特に偽ムーミンが混乱した状況にあるほどムーミンは事態を冷静に判断できますから、フローレンはどうやら別のフローレンになって戻ってきたようだな、と気づきました。それなら彼女にはきっと何か企みがあるんだ。現に彼女は自分が席を外した間に何があったか気にしている。即答ができずに困っていると、ねえムーミン、教えてよ、とフローレンは食い下がってきました。それともこう呼ばなくちゃ駄目かしら―教えてよ偽ムーミン。