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アメリカ喜劇映画の起源(13)マルクス兄弟1

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チャップリンのキャリアは前回まででようやく半分にすぎず、『黄金狂時代』が分水嶺となって本格的な長編時代が始まるのですが、それにはハロルド・ロイドとバスター・キートンの短編時代~初期長編に触れなければ、チャップリンだけを特別視することになります。短編から長編へ主力を移行したのはまずロイド、次いでキートンで、チャップリンは『キッド』21を先駆的な試みとしながらも、シリアス長編に『巴里の女性』23はあれ、喜劇長編の次作は『黄金狂時代』25になり、ロイドとキートンの長編作品は22~23年から年間2~3作が制作されて人気を博していました。30年代のサウンド映画への完全移行期までにロイドとキートンには一ダースの長編作品がありますが、チャップリンは『キッド』『黄金狂時代』と『サーカス』28の三本しか制作していないのです。

マルクス兄弟の第一作『ココナッツ』29はサウンド作品で、つまりマルクス兄弟は最初からサウンド映画の喜劇俳優チームでした。では彼らはチャップリンらと較べて年少の芸人だったかというとそうではなく、映画のサイレント時代には舞台芸人として一座を持って活動していました。
生年と映画デビュー年を並べてみましょう。
※チャールズ・チャップリン―1889年生、1914年映画デビュー
※ハロルド・ロイド―1893年生、1915年映画デビュー
※バスター・キートン―1895年生、1917年映画デビュー
※マルクス兄弟―チコ・1887年生、ハーポ・1888年生、グルーチョ・1890年生、1929年映画デビュー
となります。ちなみに広辞苑にはチャップリン、ロイド、キートンの項目はありますが、同姓の経済学者やマルクス・アウレリウスは載っていてもマルクス兄弟は載っておりません。

サイレント三大喜劇王が20代前半で舞台芸人から映画俳優に転職したのに対し、マルクス兄弟は40歳を過ぎて舞台芸人から映画デビューしました。それが芸の質に如実に現れているのは、マルクス兄弟映画は舞台劇の記録作品という趣きからも感じられることで、ロイドやキートンもサウンド映画に進出しましたがそれとも違う。マルクス兄弟とともにまったく新しい喜劇が映画の世界に出現した、という印象が強く、しかもそれはマルクス兄弟一代の芸でした。そこがサイレント期全般を置いて先にマルクス兄弟を取り上げるゆえんです。

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