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第四章。
わかりました、としょくぱんまんはあまりの話に腕組みをしそうになりましたが、スマートなぼくには似つかわしくないな、と思い額に手を当てました。少しうつむき加減のそのポーズは山型パンの輪郭にばっちりきまっていたので、こいつこんな時にでも格好つけだけは忘れやしないんだな、とカレーパンマンのしゃくに障るのに十分でした。きっと家でも全身鏡が置いてあって、その前で決めポーズの研究とかしていやがるに違いない。
というのは、いつぞや自分たちも3人組で登場ポーズと決め口上をそろえるトレーニングをしよう、としょくぱんまんが言い出したことがあったからです。カレーパンマンは何で今さら、だってアンパンマンには「元気100倍、アンパンマン!」がもうあるし、カレーパンマンには「辛さ100倍、カレーパンマン!」がある。ちなみにジャムおじさんのパン生地をこねる呪文は「美味しくな~れ……美味しくな~れ……」だ。そうか、食パンのやつには決め台詞がないんだ、そんなの自分で勝手に決めればいいじゃないか、と思うのですが、食パンが言うには立ち位置を決めてひとりますま決めポーズと名乗りを上げる、それから3人で組み合わせたポーズを決めて全員で声をそろえる。シルエットだけでも芸術的に美しくなければならない、たとえば?中央のひとりが片膝を着いて片腕を突き出し、向かって右側が左腕を斜めに上げたポーズで右手を中央の肩にかけ、向かって左側は多少アシンメトリーにからだ全体を外側にのけぞらせるようなポーズで、イメージとしては3人組で翼型のポーズになるような感じで……。それで?イメージカラーに基づいた名乗りを決めます。どんなだよ?……赤いハートはあんこの印し、甘さたっぷりアンパンマン!とか、白いマントは正義の証し、さわやかハンサムしょくぱんまん!とか……。おれは?……黄色いスーツはウコンの香り、スパイスどっさりカレーパンマン!なんてどうでしょう?カレーパンマンはよほどこの食パンには虫が湧いてるぞと違反報告してやろうかと思いましたが、こいつはもともとこういうやつなんだ、と大人の態度で、そんなことよりパトロールの時間だぞ、あっそうですねえ、とその話題はそれきりでした。
そんなことよりジャムおじさんにはなぜこんなことになったのか、わかっているのだろうか?どうもそうではなさそうだ。ならば夜のアンパンマンに何が起こったんだろうか?
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夜のアンパンマンに何があったのかって?とジャムおじさんは呵々大笑しながら答えました、そんなの私だってわからん。カレーパンマンはあまりの無責任さにあきれましたが、しょくぱんまんは素直というか、良くも悪くも白いだけあって順応主義的な面があるので、そうなんですか、とすんなり受け止めている様子でした。頼りにならないなこいつら、とカレーパンマンが落胆するのも当然なくらいパン工場の誰もがこの異常事態に直面して、あまりにのんびりした反応しか示していなかったのです。唯一事態の深刻さを真面目にとらえているのはめいけんチーズだけのようでした。問題は、カレーパンマンとチーズは仲は良いのですが、カレーパンマンのコミュニケーション能力の低さではチーズと正確な対話ができないことで、チーズの側に責任はなくカレーパンマンの頭が悪いからなのですが、各種スパイスのミックスで作られたカレーパンマンはいわば万年スパイス漬けの中毒症なので論理的な思考が苦手なのは仕方がないことでした。
とりあえずおれたちはどうしたらいいんでしょうか、とカレーパンマンは訊きました、朝のパトロールだけでも済ませてきますか?うむ、そうだなあ、とジャムおじさん、今日はあいにくの悪天候でもある。しょくぱんまんはしょくぱんまん号で他のふたりの受け持ち地域も回ってきてくれないか。カレーパンマンは私とバタコを手伝っておくれ。まあ順当だろうな、とカレーパンマンは思いました。
しょくぱんまんは乳頭になったアンパンマンが気がかりでしたが、食パンの配達とパトロールも大事な仕事です。それにこんな巨大な乳頭は持ち上げるだけでも数人がかりでしょう。はい、としょくぱんまんはジャムおじさんに答え、カレーパンマンとよろしく頼むよ、おお、とやりとりして出て行きました。しょくぱんまん号が快調なエンジン音をたてて走り去るまで、カレーパンマンはジャムおじさんとバタコさんが黙っているので自分も黙って、さてどうするのかな、と考えていました。
カレーパンマン、ちょっとそいつを持ち上げて立ててみてくれんかね?こうですか、とカレーパンマンは天地に気をつけて巨大乳頭を床から抱き上げました。
するとすかさずカレーパンマンは輪にしたロープで乳頭に縛りつけられ、さらに厳重に縛り上げられると床に転がされました。やったあ、戦力分断!とジャムおじさんの変装を解いたばいきんまんが叫びました。
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なんでばいきんまんなんだよ!とカレーパンマンは縛り上げられたまま、無駄に地団駄を踏みました。ドキンちゃんもいまーす、とバタコさんの仮装を解いてドキンちゃんも正体を現しました。まさかチーズも?ハヒヒのヒー、とばいきんまんはチーズの耳をつかんで引っ張ると、現れたのはかびるんるんでした。なら本物のジャムおじさんたちをどこに隠したんだ!とカレーパンマンは叫びましたが、最初から入れ替わっていたんなら、アンパンマンがこんな具合になってしまったというのもばいきんまんたちの作り話なんだな、とようやく納得がいったように思いました。ジャムおじさんたちはどこにいるんだ!?それに、アンパンマンをいったいどこにやったんだ!?
教えるもんか、とばいきんまんはせせら笑うと、最初からお前らはだまされていたのだ、と会心の破顔一笑で、さーてどう料理してやろうかな、と揉み手をして喜びを抑えきれない様子でした。カレーパンマンはいつからばいきんまんたちがジャムおじさんたちと入れ替わっていたのかわかりませんでしたが、自分が縛りつけられているこの乳頭がアンパンマンの変化などではなく、ばいきんまんの用意していたデコイならば簡単な脱出策があります。カレーパンマンの必殺技、相手には致命的なダメージを与えられるカレーファイヤーという全身炎上攻撃があり、これを使えばカレーパンマンを縛りつけているこの人間大乳頭などロープもろとも焼きつぶしてしまえるでしょう。
しかしうかつにこの技が使えないのは、カレーパンマン自身にもすさまじいダメージがあることです。相討ち覚悟の攻撃なので、拘束から自由になり、ばいきんまんをひるませることはできても、さらに自力でばいきんまんたちを撃破することは難しい。せいぜいサポートくらいの役にしかたてない。そうなると、しょくぱんまんがパンの配達とパトロールから帰ってくるまで待たなければなりません。
カレーパンマンは気が短いので、もどかしさのあまり抱きつくような格好で縛りつけられたこの乳頭にやつあたりするようにきつく抱きしめました。すると乳頭は、本物の乳首がつねり上げられるように悩ましげなうめき声をあげるのです。ばいきんまんはこんなもの作ってどういうつもりだ!?とカレーパンマンは再び怒りがこみ上げました。
しかしカレーパンマンは勘違いしていたのです。この乳頭は変化したアンパンマンそのものだったのですから。
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今カレーパンマンが陥っているジレンマは、自分がばいきんまんの罠にはめられた、これはまったく自分がうかつだったからに過ぎない(同じような手に何回も引っかかってきたような気がする)、この状況を冷静に考えれば考えるほど事態はカレーパンマンひとりで切り抜けなければならない、ということから始まりました。ジャムおじさんたちは当てにならない、しょくぱんまんが帰ってくるのも……おれがこんな目にあっているくらいだから、ばいきんまんはしょくぱんまんをだます手口も用意してあるはずだ。さらにカレーパンマンを縛りつけているのは、文字通り小柄な大人ほどのたけのある、そしてそのたけに見合うほどのたっぷりとしたスリーサイズをそなえた(スリーサイズと呼べればですが)、乳頭としか見えないものでした。これがアンパンマンだって?アンパンマンとは昨夜、おれはどういう会話をしただろう?明日の天気は崩れそうだね、雨の日のパトロールは難儀だよな、しょくぱんまんみたいにおれたちもアンパンマンカーとかカレーパンマンジェッターとか作ってもらえないかなあ。誰に作ってもらうの?とアンパンマンが言うので、ジャムおじさんの仕事じゃないだろ、ばいきんまんにでも作ってもらうか、とカレーパンマンは廊下の監視カメラに笑いかけながらウィンクしました。そう、ウィンクした。しまった、あれが挑発になっちまったのかな?
しかし問題はこの気味の悪い物体の方だ。体温らしきものも確かにある。生き物らしく微妙に膨らんだり縮んだりしている様子もある。なにしろ縛りつけられているんだから間違いない。生き物、というか乳頭ならではのなんだか甘い体臭もする。これが乳頭ならこの乳頭をつけている生き物はどれだけでかいんだ?というより、肉体の一部だけが肥大してほとんどを占める生き物というのもないことはないらしいが、これもそれなのか?で、朝からアンパンマンがいなくて、乳頭が部屋に転がっていた。いや、それはばいきんまんがジャムおじさんに化けておれに説明したことだ。
それでも一考すべきは、ばいきんまんでなくてもそうだが、有利な立場にいる時のばいきんまんが嘘をつく可能性はほとんどない、ということだ。本当にこの乳頭がアンパンマンのなれの果てで、監視カメラで見つけて好機とばかりにパン工場を荒らしに来た。ばいきんまんの性格からして、それより面倒な計画を立てていたとは思えないのだし。
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とんだことになったわい、とジャムおじさんはいつもの口調でつぶやきました。いつもの、というのは例の、他人事のような悠然迫らないのんびりした口ぶりということです。ここはどこなんでしょうか、とバタコさんがまるで答えを期待していない口調で訊きました。さあねえ、とジャムおじさん。こんなに真っ暗では、わしにもわからん。とすれば頼りになるのはめいけんチーズだけなのですが、後ろ手と両脚を縛られているだけのジャムおじさんとバタコさんと違って、チーズは全身をズタ袋に入れて縛られた上に顔面も厳重にふさがれているようで、嗅覚や聴覚どころか鳴き声すら封じられている様子でした。もちろん全身拘束ですからいつものミミック(身ぶり手ぶり)もできません。まるで八方ふさがりというものだな、とジャムおじさんはぼやきました。
すると、突然壁がぱあっと照らされました。メスらしき犬が発情期に入ったらしく、性器を自分で舐める仕草が大写しになりました。この時期からメスは性器からフェロモンを発して周囲のオスに発情期を察知させるようになります、とテロップが重なりました。他のオスを興奮させない意味でも、不特定多数のイヌがいる場所に発情期に入ったメスを連れ出す事は控えましょう。次いでメスは性器が充血して出血(生理)が始まる時期に移行します。この期間はおおむね10日前後で、この時期にパートナーとなるオスと同居させる事で交配が行われるのです(何だこれは、とジャムおじさん、犬とその飼い主向けの性教育映画かね?)。
映像は続きました。交尾の際は、他の多くのイヌ科の動物と同様に交尾結合が見られ、後背位で結合した後にオスがメスの尻をまたいで反対向きとなり、尻同士を向かい合わせた状態で長い時は30分以上交尾が継続します。交尾中はオスの陰茎は根元付近が特に大きく肥大してメスの膣から抜けなくなるため、射精が終了するまでは人の手でも引き離すことは難しいほどです。ブリーダーによる血統証明書の申請の際には、この交尾中の「尻を向かい合わせた姿勢」の写真を根拠として交配証明書を作成することが一般的となっています。
映写の間、めいけんチーズはたいした反応を示しませんでした。発情期でなければこんなことは犬自身には無関心なことでした。ですが、映写が進むにつれジャムおじさんがバタコさんを見る目は明らかに欲情を秘めたものになっていきました。一触即発寸前です。
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ふたりとも両脚と後ろ手を縛られたままで、ジャムおじさんがバタコさんを犯した手順。
まずバタコや、私は尿意がこらえきれないよ、とジャムおじさんがバタコさんの背後にまわり、後ろ手のバタコさんにズボンの前を開けてもらう。早くも怒張していきり立つジャムおじさんの逸物。
用をたしたいから後ろを向いていてくれんかね。はい、と素直に後ろを向いたバタコさんの作業ズボンに後ろ手をかけて一気に引きずり下ろし、その勢いで前傾姿勢になり床に手をついたバタコさんが動けないうちにすぐに向きなおり、歯でバタコさんのパンティを倒れこむように引き下ろす。
バタコさんのお尻のわれ目から膨らんだヴィーナスの丘。むむむむむむっ、と(手で押さえられないので)顔面を左右に振り唾液をたっぷり塗りたくるジャムおじさん。ああっ、と吐息めく悲鳴をあげるバタコさん。ジャムおじさんの逸物の先端たっぷりのガマン汁。
手を使えないので、逸物の怒張だけに成否を任せてバタコさんの尻に腰を押しつけるジャムおじさん。そうしないと倒れるので、床に手をついて結果的に立位後背位に最適なポーズで硬直しているバタコさん。
少しずつ角度を修正しながら、ようやく小陰唇の内側に亀頭がぬめる感触をとらえたジャムおじさん、もといその逸物。うっ、と声にならない気合を入れて一気に腰ごとバタコさんのぬめる陰唇を突く。
あッ、とバタコさんの吐息とともに、バタコさんの膣に深々と挿入されたジャムおじさんの逸物。あッ、あッ、あーッ、と突かれるごとに徐々にバタコさんも腰をくねらせ、バタコや、具合はどうだい?はい、大丈夫です。
ではもっとやりやすい場所に移ろうか、とジャムおじさんは抜けないように注意しながらバタコさんと歩調をあわせて調理台の前に進み、これなら床に手をつかなくてもよかろう。バタコさんがはい、と答えると、ジャムおじさんはまた猛然とバタコさんの尻を突いて突いて突きまくりました。あッ、あッ、あーッとさらにバタコさんのあえぎ声が高まります。ううっ、バタコや、出していいかね?はい、ジャムおじさん。出すよバタコ、うっ、うっ、出た。
バタコさんの膣内で痙攣しながら射精するジャムおじさんの逸物。
はぁーっ、とジャムおじさんは勃起がほぼおさまり、べとべとになった逸物を引き抜きながら大きく息をつきました。バタコさんの陰唇からは腺液と精液の混じった液体が大腿をつたっていました。
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全部お前の仕業だったんだな、本物のアンパンマンをどこへやった!?とカレーパンマンはいちるの期待を込めて詰問しましたが、さあねえ、これじゃないの?とばいきんまんは棒の先でカレーパンマンと一緒に縛られている巨大乳頭を突つきました。あン、と情けない悲鳴をあげる乳頭。とぼけるな、これのどこがアンパンマンなんだよ!?とカレーパンマンも食い下がりましたが、おれたちだってこんなことになっているからやって来たんだもんね、とばいきんまんはちら、と監視カメラの方を見ました。パン工場の中には、あらゆるところにばいきんまんの監視カメラが仕掛けてあるのは、仲間の誰もが知っています。私たちには隠すことなどないからね、かえってこちらの様子がつつぬけの方がばいきんまんの出方も予想ができるというものだ。というのがジャムおじさんの意見であり、ジャムおじさんがこうと決めたらもう、誰もそれには逆らえません。
その頃別室では監視カメラが、せっせと後背位でバタコさんをいそいそ犯すジャムおじさんを録画しておりました。ほーらバタコや、こんないやらしい姿が隠しカメラで撮られているんだよ、と鼻息も荒いジャムおじさん、どうだい、恥ずかしいだろう?いやッ!……と期待通りの反応を返すバタコさん。こうした状況でいっそう興奮するのも、ジャムおじさんとバタコさんが露出症の性癖のある変態気味の性的嗜好を共有しているからであって、あながちばいきんまんが悪いとはいえません。ただしジャムおじさんたちから思わぬ変態性癖を発現させてしまったとはいえますが、こんな隠し撮りをしておきながら大して悪用もしないのがばいきんまんの悪の器量の小ささではありました。もっともジャムおじさんはこの世界では神聖にして不可侵な存在ともいえ、スキャンダル映像が出回ろうが本人に何の反省もなかろうが、誰ひとり心配しないことでした。
ガレージでは、しょくぱんまんがまた車庫入れにしくじってケッ、っと悪態を吐き捨てていました。しょくぱんまんはひとりきりの時までエレガントではないのです。今朝の事態を考えるとパン工場に戻ってくるのは憂鬱でしたが、パン配達とパトロール中に何か好転しているかもしれません。カレーパンマンに見張りをさせて、ジャムおじさんがバタコさんを犯しているかもしれないな、としょくぱんまんは考え、くすりと笑いました。それも特に珍しくはない。ただしあの乳頭は別です。
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つまりおれのカレーファイヤーを使ったらロープは焼き落とせるが、この乳頭がアンパンマンだというのなら大やけどをさせてしまうということか。もしおれがばいきんまんにだまされているならこの乳頭はアンパンマンではないということになるから、カレーファイヤーを使うのに遠慮はいらない、ただし自分にもダメージが大きいことを除けば。だからしょくぱんまんの帰り待ちなのだが、ジャムおじさんに化けていたばいきんまんの言っていた通り、これがアンパンマンの変態した姿ならうかつなことはできない。ちぇっ、おれは学校行かなかったからなあ。幼虫→サナギ→成虫、たしかこれが完全変態で、蝶々や蛾がそれだ。不完全変態は幼虫からサナギを経ずに成虫に変態するもので、セミとか甲虫がそうだった。変態せずに幼虫がそのまま成虫に成長するものもある。アンパンマンのこれ(アンパンマンだとするなら)はどうなるのか?いままでのアンパンマンは幼虫とすると、この姿はまさか成虫ではあるまいから、サナギに相当する状態なのだろうか?
考えるほどに悩ましいばかりでした。部屋のドア付近では、ばいきんまんがフフフのフー、しょくぱんまんが戻ってきたらコレだもんね、とばかでかい光線銃を構えています。しょくぱんまんさまに何するつもりよ!とスコーン!と宙に水平線を描いてとび蹴りを食らわすドキンちゃん。いや違うのだ、とほうほうの体で、ばいきんまん。見た目はいつもと同じだが(そういやいつもそうだよな、とカレーパンマンも思いました)、こんどのやつはからだの動きを止めてしまうだけだからドキンちゃんが心配するようなことはないのだ。ホント?じゃあ私に貸してみてよ、とドキンちゃん。ひったくるようにばいきんまんから光線銃をうばい取ると、ちょっと待ってよドキンちゃん、と前のめりになったばいきんまんにドキンちゃんは光線銃を発射しました。ハヒ~、と全身を硬直させてばたん、と倒れるばいきんまん。
けっこう面白いわねえ、それでこれ、どうやって元に戻すの?それは、とばいきんまんは息もたえだえに、自然に戻るまで待つしかないのだ。じゃあそれまでばいきんまんはどうするのよ。うむ、だからしょくぱんまんが来たら光線銃はドキンちゃんにお願いするしかないのだ。そんなの私イヤよ!とドキンちゃんはふくれっつらをすると、ドキンちゃん用のばいきんUFOに乗って飛びさってしまいました。
気まずい沈黙。
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ふう、とジャムおじさんは性交の後の充足感と倦怠感の入り混じった息をつき、後ろ手と脚を縛られていても何とかなるものだな、もっとも猿ぐつわまでされていたら下着を引き下ろせなかったな、とばいきんまんのはからいに感謝しないでもない気分でした。そうだバタコや、私のをきれいにしておくれ、とジャムおじさんはバタコさんをひざまづかせ、放出直後で敏感になっている逸物が舌技でなぶられる余韻のような快感を味わいました。バタコさんはひとしきりしゃぶりつくすと、口の中に陰毛が入って困っている様子でしたが、ジャムおじさんはヒゲが邪魔してキスは不得意なので、バタコや、私の服で口をぬぐって構わないよ、と申し出ました。どうせ作業着だからね。
バタコさんの作業ズボンと下着を引き下ろすのは比較的簡単に勢い任せでしたが、逆に履かせるとなると両手両脚を縛られていては、バタコさん本人もジャムおじさんにも困難きわまりないことでした。それでもジャムおじさんは後ろ手でなんとかやってみようとしましたが、無理なものは無理とわかっただけです。普通こんな状況でまぐわってみせたことも大したものですが、普通はそんな気にならなそうなものですが、そこはジャムおじさんだけあってそのビッグ・ハートには限度というものがございませんでした。人の3大欲求は睡眠、食欲、そして正義だとずっとジャムおじさんは考えておりましたが、実は正義とは欲求ではなくて理念なのではないか、とすれば眠りや食事と並ぶものは何なのだろうか、とピシャピシャとバタコさんのお尻を責めているうちに(ジャムおじさんにとって性行為は背位以外に念頭にありませんでした)、そうだ、性欲もとい性感なしに人は人と言えるだろうか、とオナニー盛りの青少年のような結論にたどり着いたのです。それというのもジャムおじさんは第二次性徴期なしにいきなりジャムぼうやからジャムおじさんに不完全変態する種族だったからですが、この話は長くなるのでまた今度にします。
バタコさんがいつの間にかもじもじし始めました。どうしたのかね?スースーします。そりゃそうだろう、ズボンも下着も大腿までずり落ちているんだから。ジャムおじさんはふと気づいて、欣喜雀躍しました。まさかおしっこを我慢しているんじゃないだろうね。……。ガマンは良くない、とジャムおじさんはこれから始まる光景に胸を踊らせました。縛られて開脚できないままの放尿!
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ごめんなさいジャムおじさん、とバタコさんは申し訳なさそうに言いました、でもスースーするんです。そりゃそうだ、私が下着を脱がしてしまったからな、と思いながら、でも後ろ手で縛られていては改めて下着を履かせようもないので、バタコや、スースーするならガマンは泌尿器によくないよ、とジャムおじさんは愛想良くうながしました。後で床を拭けばいいんだから、そのまま出してしまいなさい。でもしゃがんで脚を開けないんです。まあなあ、縛られてしまっているからなあ。
立ったまますればよい、とジャムおじさんは断言しました、膀胱を傷めるより少しばかり恥ずかしいことに耐えた方が良い。それに、とジャムおじさんは内心わくわくしていました、女が立ったまま脚を閉じて放尿すると、前後どちらに尿が吹き出るのか興味もある。
少しじゃないです、とバタコさんは心許ないような声で訴えました、どうか堪忍してください。バタコさんは思わず口にしただけですが、この「堪忍して」がジャムおじさんの脳内興奮物質を一気に放出させました。堪忍だって!?何を堪忍するというんだね……!?バタコさんは無言ですが、明らかに息は荒くなり、腰から膝までがこらえた尿意でクネクネとしています。ええ?バタコや、何を堪忍してほしいというんだね?……ぉしっこ……。堪忍したいならするが良かろう。だがスースーしていたら遅かれ早かれだよ。いや、とバタコさんは喘ぎました。すかさずバタコ!とジャムおじさんの一喝。あああ、とバタコさんの全身の緊張が解け、聖水は前にも後ろにも飛ばずだらだらと大腿をつたって足元に水たまりになりました。
その様子を見ているうちに、ジャムおじさんの逸物はもう一戦可能な怒脹を回復しましたので、バタコさんは再び作業台に押し倒され、今度は漏らしたばかりの聖水で下肢をびしょびしょにしながら肉壺の奥までジャムおじさんの放出を浴びたのです。それからジャムおじさんは当然のようにバタコさんにふたり分の潤滑液でぬるぬるの、まだ火照っている逸物を袋の裏まで舐め清めさせました。
その頃カレーパンマンは冷静に、ばいきんまんたちはいつジャムおじさんたちと入れ替わったのだろう、と考えていました。それはアンパンマンがこの姿になってしまったのと切っても切り離せない因果関係があるはずです。昨夜のうち?では昨夜のアンパンマンには、何か変わったことはあっただろうか?
第四章完。
(五部作『偽ムーミン谷のレストラン』第四部・初出2015年8月~12月、全八章・80回完結)
(お借りした画像と本文は全然関係ありません)