『レッドボール作戦』Red Ball Express (ユニヴァーサル'52.May.24)*80min, B/W, Standard : 日本劇場未公開(映像ソフト発売)
○(メーカー・インフォメーションより) 主演 : ジェフ・チャンドラー (あらすじ) : バット・ベティカー監督が史実に忠実に描いた戦争アクション。1944年。フランス侵攻が進む中、パリに向かって前進していたパットンの第3軍は、備品不足に陥ってしまう。そこで連合軍司令部は急遽、特別に選ばれた軍用トラックルートを切り開く。ドイツ軍の執拗な妨害をものともせず、補給部隊の決死の輸送作戦が始まった……。
○解説(英語版ウィキペディアより)『レッドボール作戦』(「急行貨物部隊(Red Ball Express)」)は、シドニー・ポワチエとヒュー・オブライエンによる初期の映画出演をフィーチャーした、ジェフ・チャンドラーとアレックス・ニコルが主演するバッド・ベティカー監督による1952年の第二次世界大戦戦争映画です。この映画は、1944年6月にノルマンディー上陸作戦のDデイのあとに行われた実際の急行貨物部隊護送船に基づいています。本作に描かれる急行貨物部隊の運転手の約75%は、屈強な兵士であるアフリカ系アメリカ人が他の任務のためにさまざまな部隊に所属していた中から選抜されたという設定です。国防総省は本作の人種関係について「前向きな角度が強調される」ように修正すべきであるとユニヴァーサル映画社に要求しました。監督のベティカーは次のようにコメントしています。「政府は兵士を消耗品と考えていたので、軍隊は映画で黒人軍隊についての真実を描かせたくないのでしょう。アメリカ政府は兵士たちがパットン将軍とパットン戦車隊を救うための神風パイロットだったと認めたくなかったのです」。
○あらすじ(同上) 1944年8月、ドイツ占領下のフランスへの侵攻を進めながらも、パットン将軍の第3軍戦車隊はパリに侵攻できないままでした。侵攻を促進するために、連合軍本部はエリート軍用運輸ルートを確立します。この急行貨物部隊の1つの(さまざまな人種混合の)小隊は、民間ゲリラ、ドイツの抵抗、地雷原を越えて、ますます危険な任務に遭遇します。小隊の長であるチック・キャンベル中尉(ジェフ・チャンドラー)はカレック軍曹(アレックス・ニコル)と、カレック軍曹の兄を含む民間人の犠牲死事件をきっかけに衝突するようになります。ハワード・ペトリーが演じるゴードン将軍は、パットン将軍をモデルにしているようですが、パットン将軍も作中で特に言及されています。戦時中実際に急行貨物部隊を担当していたフランク・ロス少将は、本作で技術顧問を務めました。
――英語版ウィキペディアの解説にもある通り、本作は一兵卒役のシドニー・ポワチエやヒュー・オブライエンの方が今では有名なくらい地味なキャストで、主演のジェフ・チャンドラーの著名作はデルマー・デイヴィス監督の『折れた矢』'50の副主人公役くらいでしょうし、ジェフ・チャンドラーと対立する軍曹役のアレックス・ニコルもアンソニー・マン監督の『ララミーから来た男』'55の助演が代表作、と助演クラスの俳優を主演に起用したノン・スターのB級映画の典型みたいなキャスティングです。またベティカーは先に再評価が進んでいたニコラス・レイ(1911-1979)やサミュエル・フラー(1912-1997)とベティカーを同等の大家と見なすようになったのですが、ほぼ5歳あまり年長のレイ('48年監督デビュー)やフラー('49年監督デビュー)は監督デビューは'44年監督デビューのベティカーより遅いもののレイは演劇界からエリア・カザンの助監督、ジャーナリスト出身のフラーは'30年代後半から原作者・脚本家として映画界に関わっており、レイはハンフリー・ボガート設立独立プロ専任監督の諸作以降、フラーもリチャード・ウィドマーク主演の『拾った女』'53でヴェネツィア国際映画祭受賞(アメリカ国立フィルム登録簿2008年度登録)と早くからヨーロッパの批評家に注目され、デビュー初期のトリュフォーやゴダールらヌーヴェル・ヴァーグの監督たちから讃辞を捧げられていた戦後監督です。またレイやフラーは必ずしもB級映画の監督ではなくスター俳優主演の大作も任されており、監督デビューが早かったベティカーへの注目がレイやフラーよりずっと遅れたのもベティカー作品の代表作がレイやフラーよりあとだった、しかも相変わらず低予算B級映画だったのもある。唯一大作と言えるのはアンソニー・クイン主演の『灼熱の王者』'55くらいです。さらにレイやフラーは名作からさかのぼって初期作品を観ても確かな風格が感じられる佳作があるのにベティカーの初期作品はまだまだの観があり、レイの第1作『夜の人々』'48はB級フィルム・ノワールながら個性の明確な名作なのにフィルム・ノワール時代のベティカー作品は特徴も乏しく出来もあんまりとか、さらにようやく本領発揮のはずの西部劇に取り組んでからも『七人の無頼漢』以前はレイやフラーの西部劇ほど冴えない、まだ作風の確立途上に見えるのが弱く、戦争映画の本作も150万ドルのヒットがへえ?というあまりパッとしない作品です。フラーの朝鮮戦争映画『鬼軍曹ザック』『折れた銃剣』はともに'51年作品ですがフラー監督作らしい厳しい個性が際立っている。較べてしまうと本作『レッドボール作戦』は呑気な実話映画で、先に引いた紹介では市民を巻きこむ戦況に際した隊長と軍曹の対立、作戦遂行の困難といかにもドラマティックな内容になっていそうなものですし、西部劇第1作『シマロン・キッド』に幾分見られる『七人の無頼漢』で確立されるアウトロー同士の対決から応用が効くはずの混沌状況の中の対立、前作『ロデオ・カントリー』の起承転結の効いたドラマ性が本来なら活かせるはずの本作ではちっとも効いていない。プロット上では英語版ウィキペディアの紹介にある通りの展開をするのですが見せ方が淡泊なのでぜんぜんドラマティックに見えず、兵士たちがフランス娘のアントワネット・デュボア(ジャクリーン・デュバル)をめぐっていちゃいちゃ恋のさやあてをしている天下太平ムードの方が強いのです。本作のヒットは従軍体験のある、または家族に従軍経験者を持つ観客に支えられたものと思われ、ヨーロッパ戦線の戦勝の決定打になったパットン戦車隊上陸作戦を讃える内容にとどまっている。戦後7年目にしてなお戦勝を景気良く喜ぶ気分で映画のムードが呑気なものになっており、現在進行形で泥仕合と化している朝鮮戦争を描いてヴェトナム戦争以降の戦争映画の先駆となっているフラーの『鬼軍曹ザック』『折れた銃剣』のジャーナリスティックな尖鋭さにはおよびもつかないのですが、国防総省に干渉されなかったらもっと黒人兵を描いた映画にしたかった、とベティカーが語っているとなると本作には偶像破壊的な要素は描きたくても描けない妥協が強いられたとも推定されるので、かえって何でもありの無法者世界が描ける西部劇より制約されることにもなったと思われ、ベティカーの西部劇指向をますます強めたのではないか、とも考えられます。本作の位置づけはそうしたものになるのではないでしょうか。
●5月19日(日)
『征服されざる西部』Horizons West (ユニヴァーサル'52.Oct.11)*78min, Technicolor, Standard : 昭和35年('60年)5月1日
○解説(キネマ旬報近着外国映画紹介より) テキサスを舞台に、義兄弟の抗争を描いた西部劇。ルイス・スティーヴンスの脚本を「レッグス・ダイヤモンド」のバッド・ボーティカーが監督した。撮影はチャールズ・P・ボイル、音楽はジョセフ・ガーシェンソン。出演は「拳銃の報酬」のロバート・ライアン、「夜を楽しく」のロック・ハドソンのほか、ジュリー・アダムス、ジョン・マッキンタイアら。製作アルバート・J・コーエン。
○あらすじ(同上) 南北戦争が終り、ダン・ハモンド少佐(ロバート・ライアン)、ニール・ハモンド中尉(ロック・ハドソン)、ティニー・ギルガン(ジェームス・アーメス)の3人はテキサス州のオースティンに戻って来た。ダンは附近の牧場主イラ(ジョン・マッキンタイア)の長男で、ニールは養子。ダンは牧場経営より一獲千金を狙っていた。彼はオースティンに行き、ボスのハルディン(レイモンド・バー)の妻ローナ(ジュリー・アダムス)と恋におちた。ダンにはサーリイ(ジュディス・ブラウン)という彼を慕う女性がいた。が、ダンは彼女を嫌った。やがてニールはサーリイの美しさにひかれ、愛しあうようになった。ダンは友人の役人フランク(トム・パワーズ)と賭博場に行った。そこでハルディンに5千ドル負けた。借金を申しこんだダンはハルディンに罵倒され、夫の非情な仕打ちを見たローナはダンに好意を持った。ダンは戦友ダンディ(デニス・ウィーヴァー)と家畜泥棒の仲間に入った。盗んだ家畜はメキシコ領で売った。ハルディンはダンの勢力が強くなるのを恐れ、ニールを捕らえ彼からダンの情報を取ろうとした。ローナはダンにニールのことを知らせた。ダンはハルディンを襲い射殺した。盗賊団の首領になったダンは州内の牧場を荒しまわった。ニールは正義のために立ちあがった。保安官になって群集のリンチからダンを救い留置した。が、ダンディがダンを救い出した。ダンの父イラは牧場主の代表クラブ(ジョン・ハバード)と共にダン逮捕に向かった。しかし、イラはダンのためにニールと共に逆に一身に捕った。クラブはローナをみつけて彼女をタテにしてダンを追いつめた。ダンは誤ってローナを射ってしまった。しかし、自らもクラブの弾丸に当たって死んだ。ニールは牧場へ帰り、サーリイと結婚した。
――キネマ旬報の紹介は歴史的文献として興味深いもので、まず昭和35年にはまだ監督名はベティカーが定着せずボーティカーと呼ばれていたのがわかる。また役名も現行映像ソフトで原音表記に直っているのと違い、タイニーとすべき名前がティニー、アイラがイラ、ハーディンがハルディン、サリーがサーリイだったのがわかる。ライアン演じる主人公は豪農の跡取りなのですが、テキサス州はもともとスペインからの植民領なのでスペイン貴族の末裔の富裕階級が非常に威張っており、農業だけでなく実業界に進出したいというライアンはレイモンド・バー演じる富裕階級のボスに公然と侮辱されてしまう。それを見たバーの妻のジュリー・アダムスは夫にかねてからの反感をいよいよ募らせライアンに惹かれていき、ライアンも帰郷した時街で見かけたアダムスに惹かれていて婚約者のジュディス・ブラウンから心が離れてしまう。ライアンはバーへの復讐もあって脱走兵や南軍・北軍の脱落者たち無法者のキャンプを見つけて強盗団のボスとなり、バーを筆頭に富裕階級の所有牧場から夜間に大量牛泥棒をしてメキシコ国境で売りさばきます。バーはライアンに目星をつけライアンの義弟のロック・ハドソンを監禁・暴行しますが、アダムスから知らされたライアンはハドソンを救出に向かい、バーを正当防衛で射殺することになる。バーの妻のアダムスの証言もあってライアンは無罪で不起訴となりますが、これをきっかけにライアンの強盗団はますます牧場荒らしを続けて、遂には市民もライアンをリンチにかけようとする。保安官補になったハドソンは兄の身柄を守るために入獄させますが、ライアンは脱走してしまい、ここから先は破滅への一直線で、ともに服役しようという老父アイラ(ジョン・マッキンタイア)の懇願も振りきり、逃走がてらライアンを制止しようとする妻子持ちの戦友のタイニー(ジェームス・アーメス)をも射殺せざるを得なくなる。映画冒頭で敗戦により兵役を終えて帰郷したライアン、ハドソンを穏和な老父アイラが迎え、タイニーをいかにも仲むつまじい妻子が迎えるのが印象的だっただけに、ここまで来ると観客もライアンの窮地と内面的崩壊がひしひしと迫り、守るべきものも味方してくれる者も何もかもを捨ててしまった孤独な無法者になってしまった主人公が前面に押し出されてくる。ヒロインを人質におびき出されたライアンは実際には誤射とはいえアダムスとの心中覚悟で現れるので、アンチ・ヒーロー型アウトロー映画として感覚的には'60年代映画を先取りしている作品です。映像文体の面では『シマロン・キッド』や『ロデオ・カントリー』の方が躍動感に富んだ映像なのですが、本作では逆に映像の方はぐっと抑制した落ち着いたショットに抑えて破滅へと向かう主人公をじっくり描いており、小品感はぬぐえませんしギャング映画(『民衆の敵』'30など)の西部劇版の型からもっとさらにより飛躍の余地がある分名作・傑作とまではいかずまだ秀作・佳作の域にとどまる作品ですが、本作の枠ではこれは十分充実し、高い完成度の感じられる好作です。本作のハドソンは引き立て役ですが、ライアン主演作としては隠れた逸品ではないでしょうか。