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Channel: 人生は野菜スープ(または毎晩午前0時更新の男)
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アイアン・バタフライ Iron Butterfly - Ball (Atco, 1969)

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アイアン・バタフライ Iron Butterfly - Ball (Atco, 1969) Full Album with Bonus Tracks : http://www.youtube.com/playlist?list=PLnEt4SHDoNSWQutekAbd6uLktQ_RzDj5g
Recorded at Gold Star Studios, Hollywood, CA & The Hit Factory, New York, NY in 1968
Released by ATCO Records , January 17, 1969 / US#3(Billboard)
Produced by Jim Hilton
(Side One)
A1. In the Time of Our Lives (Doug Ingle, Ron Bushy) - 4:46
A2. Soul Experience (Ingle, Bushy, Erik Brann, Lee Dorman) - 2:50
A3. Lonely Boy (Ingle) - 5:05
A4. Real Fright (Ingle, Bushy, Brann) - 2:40
A5. In the Crowds (Ingle, Dorman) - 2:12
(Side Two)
B1. It Must Be Love (Ingle) - 4:23
B2. Her Favorite Style (Ingle) - 3:11
B3. Filled with Fear (Ingle) - 3:23
B4. Belda-Beast (Brann) - 5:46
(1999 CD Bonus Tracks / Post Album Single)
10. I Can't Help but Deceive You Little Girl (Ingle) - 3:34
11. To Be Alone (Ingle, Robert Woods Edmondson) - 3:05
[ Iron Butterfly ]
Doug Ingle - organs, lead vocals (except on "Belda-Beast")
Erik Brann - guitars, backing vocals, lead vocal on "Belda-Beast"
Lee Dorman - bass, backing vocals
Ron Bushy - drums, percussion

(Original ATCO "Ball" LP Liner Cover)

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 アイアン・バタフライというとどうしてもセカンド・アルバム『In-a-Gadda-da-Vida』'68とLP時代にはB面全面を占めていた17分のタイトル曲ばかりが語り草になって、ATCOレコーズ時代('68年~'70年)の全5作のうち他の4作、MCAレコーズに残した'75年の再結成時の2作は等閑視されがちです。それどころかアルバム『In-a-Gadda-da-Vida』ですらLPではA面だったポップな5曲は大して聴かれていないのではないかというくらいタイトル曲「In-a-Gadda-da-Vida」が際立っていて、実際のバタフライはリスナーが同曲から期待するような作風は一面でしかありません。イーグルスと「Hotel California」みたいなもので、演奏力といい個性・オリジナリティといいバタフライとイーグルスは同程度の実力しかないバンドとも言えますが、一般的にはイーグルスの方がはるかに人気が高いのはヒット曲の多さによるものでしょう。「Hotel California」路線の曲ばかりではなくイーグルスには俗受けするポップ曲が豊富で、下積み時代の長いメンバーたちが売れ線狙いで結成したバンドですからマーケティングから弾き出したような流行りに乗った曲ばかり演っていたのがイーグルスでした。バタフライもその点では50歩百歩ですが、少なくとも姿勢には積極的な先進性があった分だけイーグルスよりはアーティスティックな創造性があります。これはどちらを良しとするのではなく、イーグルスは拙い演奏なりに聴き流すにはちょうどいい耳ざわりの良いポップスを生産したバンドで、バタフライはそれなりに高い理想を持っていたバンドと思えますがそれに見合うだけの曲づくりと演奏力がなかったというだけの違いでしょう。その上、流行のサイクルも速い時代だったのに時流に乗る才覚も乏しく、大ヒット作を1作出してあっという間に過去のバンドになってしまい、それがかえってバタフライを時代のあだ花と言える存在にしています。
 ジミ・ヘンドリックス(エクスペリエンス、バンド・オブ・ジプシーズ)からザ・ドアーズ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドまでバタフライと同時期に活動し今なお表現の水準が風化しない存在感を誇るロック・アーティストもいますが、バタフライは今日何の影響力も持たないので、イーグルスを引き合いに出すのはそういう意味でもあります。また、イーグルスのようなバンドはバタフライのような先例を見てきたので、轍を踏まない知恵をつけた上でデビューしたとも言えるでしょう。'70年代のアメリカン・ロックにもリトル・フィートやレイナード・スキナードのような風格の大きなバンドがいましたが、本質的な才能の点で優れていたのにそれがかえって仇になり、持続力には恵まれなかった不幸がありました。バタフライのように年間チャート1位の記念碑的アルバムを持ちながらデビューから3年目で解散してしまい、しかも在籍メンバーが第一線のミュージシャンとして活動を続けたわけでもないから発展的解散とはとても言えない。そういう例は珍しいですし、なろうとしてもなれません。そして大ヒット作『In-a-Gadda-da-Vida』だけがバンドの看板として残り、他のアルバムはそれにつられたひと握り(とはいえ相当数)のリスナーが買うだろうと金魚のフンのように再発売されているのが実情でしょう。

(Original ATCO "Ball" LP Gatefold Left/Right Inner Cover & Side One Label)

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 ところが今『Ball』を聴くとイギリスのヴァーティゴ・レーベルのアルバムのように聴けるのは面白いことです。ヴァーティゴはハード・ロックとジャズ・ロック、プログレッシヴ・ロックが未分化で混沌としていた時代を反映していた、大半はアルバム1、2枚で消えて行った幻のバンドを多くリリースしたレーベルでした。ヴァーティゴの第1弾アルバムは1969年5月発売(同年初頭録音)のコロシアムの『Those About to Die Salute You』(レコード番号上は同年11月発売の同バンドの第2作『Valentyne Suite』がヴァーティゴ第1弾扱い)ですから、コロシアムがヴァーティゴの後続バンドの指針になっていたとしても、実際はイギリスの新人バンドはロックの本場アメリカの最新バンドから学び、それぞれのバンドなりの個性を添えようとしていたと思われます。ヴァーティゴの新人バンドはオルガンをフィーチャーした編成が多く、漠然とヴァーティゴのバンドを並べていくと公約数的に見えてくるのがアメリカのオルガン・バンドのザ・ドアーズやヴァニラ・ファッジ、とりわけアイアン・バタフライになるのです。ドアーズやファッジよりもバタフライに比重が傾くとすら言えるのは、バタフライが個性が稀薄で応用の利きやすい音楽性のバンドだったからでしょう。また、ヘヴィな8ビート中心だったデビュー・アルバム『Heavy』とギター、ベースを一新したセカンドの『In-a-Gadda-da-Vida』を較べると、タイトル曲は前作のヘヴィ路線の発展ですしヴォーカルがダグ・イングルの潰れた声なので仕上がりはちっとも似ていませんが、A面のポップな5曲はモータウンの黒人ポップスのリズム・アレンジが取り入れられている違いがあります。これはベースのリー・ドーマンのセンスでしょう。
 前作の大ヒットからジャケットがバタフライのアルバム中もっとも豪華で、チャート順位も前作の最高位4位を上回る(それでもロングセラーで年間チャート1位になりましたが)の最高位3位を記録した本作は、イギリスのプレ・プログレッシヴ・ロックのバンドのようなA1から始まります。つまりヘヴィ路線がまた戻ってきており、A4、B2、B3、B4もそうです。A2、A3がホワイト・ソウル路線、AB面をまたがってA5、B1がモータウン系と、プレ・プログレッシヴ・ロック的なヘヴィ路線の曲でソウル系リズム・アレンジの曲を挟む構成なのでまるでヴァーティゴのアルバムのような気がしてきます。アルバム最終曲B4はギタリストのエリック・ブランの力作でヴォーカルもブランが取り、インストルメンタル・パートのリズム・チェンジとトーンを変えた多重録音のリード・ギターのソロの掛け合いが聴きもので、'75年の再結成バタフライがブランとドラムスのロン・ビュッシーの2人で行われたのも納得のいく曲です。アルバム発表後発売された新曲シングルがボーナス・トラックの2曲で、これはAB面とも完全にプログレッシヴ路線のヘヴィ・ロックの力作になっており、バタフライの読み違いはリスナーはこの路線は「In-a-Gadda-da-Vida」で満腹しており、それ以上凝ったサウンドに向かっても食傷するばかりだったことでしょう。しかし一周回って本作(ボーナス・トラック含む)をアイアン・バタフライというバンド名を取り外して聴くと、これが無名のローカル・バンドの幻の一作だったりしたらマニアの間で(のみ)評判の高いコテコテのプレミア廃盤の座は堅いぞと思われます。それに、次作のライヴ盤を除くと(発掘アルバムを含めて)、イングル、ブラン、ドーマン、ビュッシーの黄金メンバーのバタフライのアルバムは『In-a-Gadda-da-Vida』と本作『Ball』の2作しかないのです。

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