Recorded at El Saturn Studio, Chicago, Illinois, May 7, 1972.
Mixed at Westlake Audio, Los Angeles, California.
Released by ABC Records Impulse! AS-9255, 1973
Produced by Alton Abraham & Ed Michel
Mixed by Baker Bigsby
All Songs Written & Arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. Astro Black - 10:59
A2. Discipline "99" - 4:47
A3. Hidden Spheres - 7:04
(Side B)
B. The Cosmo-Fire
Ba) Part 1 - 6:59
Bb) Part 2 - 7:04
Bc) Part 3 - 4:25
[ Sun Ra & His Arkestra ]
Sun Ra - Intergalactic Space Organ(Farfisa Organ), Space Age Instruments, Moog Synthesizers, Electro Vibraphone, Percussions
Akh Tal Ebah, Lamont McClamb - Trumpet
Charles Stephens - Trombone
Danny Davis, Marshall Allen - Alto Saxophone
John Gilmore - Tenor Saxophone, Percussion
Danny Thompson - Baritone Saxophone
Pat Patrick - Mistro Clarinet
Eloe Omoe - Bass Clarinet
Alzo Wright - Violin, Viola
Ronnie Boykins - Bass
Tommy Hunter - Percussions
Atakatun, Chiea, Odun - Congas
June Tyson - Word-melody Vocals
Ruth Wright - Space Ethnic Voice
前回まででサン・ラのアルバム紹介は42枚を数えました。13枚がシカゴ時代の1956年のファースト・アルバムから1961年のニューヨーク進出直前のアルバム、続く20枚がニューヨーク進出を決行した1961年のアルバムから1969年リリースの代表作『Atlantis』までで、海外ツアーも頻繁になった70年代は今回の1973年5月録音作品でひさしぶりのスタジオ・アルバム『Astro Black』でまだ10枚目にすぎません。しかも重要なライヴ作をいくつか音源リンクがないので割愛し、前回のエジプト3部作は全曲が揃わないので、一度に3部作のアルバムをまとめてご紹介しました。
まだ10枚目、というよりもう10枚目、と言うべきでしょうか。未紹介アルバムと発掘盤を数えれば『Astro Black』は70年代で22作目、サン・ラ生前発売でも14作目のアルバムになります。足かけ4年で14作は50年代、60年代以上のハイペースと言ってよく、ライヴ盤が多いとはいえほぼ全曲が新曲でもあります。リリース数が増えたのは、60年代までは大半の作品が自主レーベルのサターン盤だったのに対し、国内外のメジャーまたはインディー・レーベルからアルバム単位とはいえ依頼が増えてきたことにあるでしょう。それまでのサン・ラのアルバムはシカゴ時代には2枚、60年代には4枚が外注作品だった以外すべて自主制作だったのです。そして今回の『Astro Black』は、大手MCAレーベル系列ABCレコーズ傘下のジャズ・レーベルであり、1961年にジョン・コルトレーンを看板アーティストに発足したインパルス!レーベルとの契約第1弾アルバムです。
(Original Impulse! "Astro Black" LP Liner Cover)
サン・ラはファースト・アルバムが42歳だった人ですから遅咲きとも言えますが、プロ・ミュージシャンとしてのキャリアは19歳でバーミングハム~シカゴを拠点にしていた時期が長かったのが結果的にはその存在をユニークなものにした、とも言えます。ニューヨークやロサンゼルスのジャズマンはレコーディング音楽とライヴ音楽をさほど区別しなかったのに較べて、同等の大都市でもレコード産業の規模が小さいシカゴではシングルサイズのレコードのジャズとキャバレー音楽のライヴのジャズではほとんど別物でした。ファースト・アルバム以前にサン・ラが手がけてきたさまざまなアーティスト(主にヴォーカルものとダンス音楽)のシングルを集めた14枚組CDボックスという恐ろしいものまで出ているくらいです。
(Original Impulse! "Astro Black" LP Gatefold Inner Cover & Side A/B Label)
本作の成立事情は先に述べた通り、メジャーとの契約第1弾アルバムですから気合いの入った充実した秀作になっています。フリー・ジャズですがスペース・ジャズ・ファンクでもありビートが持続しているので、かつての60年代のフリー・ジャズ系作品のように難しい印象はありません。ジューン・タイソンのヴォーカルがクールなA1、都会的なムードで渋い4ビートの変型マイナー・ブルースA2、メドレーではないのにA2から一転して晴れたように溢れ出すアフロ・ビート・ファンクのA3と楽曲の出来が良い上に曲の配分も良く、快適に流し聴きできるのによく聴くと(特に4ビートのA2が巧妙ですが)曲の進行とともにリズムがグループ単位でズレてきてビートのモアレ現象が起こる手法を使っており、それを支えてまとめ上げているのがひさびさ復帰した黄金時代のベーシスト、ロニー・ボイキンスの太っといビッグビート・ベースです。ドラムスにはドラマーからサターン盤での専任録音エンジニアになっていたトミー・ハンターがこれまたひさびさスティックを握っており、その代わりミキシング・エンジニアの席はベイカー・ビグズビーに譲っています。B面全面を占めるフリー・ジャズ大曲も好調で70年代に入ってからのスタイルを感じさせ、リズム・パターンがコロコロ変わりながら聴きやすく、すっきり整理されたアンサンブルになっています。A2のマイナー・ブルースを聴いてチャールズ・ミンガスを思い出しましたが、この頃ミンガスはアトランティック・レーベルに復帰してキャリアの最晩年にいました。サン・ラの軽やかさに較べてミンガスが生涯漂わせていた重苦しさを思うと、どういうことなんだろうなと気詰まりになるのです。