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映画日記2016年10月26日~31日

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 前回はアメリカ映画(30年代後半~50年代前半)の前編で、10月21日~26日分には、
・アルフレッド・ヒッチコック(1899-1980)
・ラオール・ウォルシュ(1887-1980)
・ジョン・フォード(1894-1973)
・ハワード・ホークス(1896-1977)
・ヘンリー・キング(1886-1982)
・ヘンリー・ハサウェイ(1898-1985)
 の各監督作品から3作ずつ観た感想を書きました。今回は後編で、
・フランク・キャプラ(1897-1991)
・ジョージ・マーシャル(1891-1975)
・ウィリアム・A・ウェルマン(1896-1975)
・キング・ヴィダー(1894-1981)
・ウィリアム・ワイラー(1902-1981)
・ジョン・ヒューストン(1906-1987)
・アンソニー・マン(1906-1967)
・ビリー・ワイルダー(1906-2002)
 の各監督作品です。このうちキャプラとワイルダーは3作ずつ、マーシャルからマンまでの6監督は今回は2作ずつ楽しみました。監督の序列はほぼ年齢順・傾向別です。ヒッチコックがいるのにルビッチやラングはどうした、デミルとオーソン・ウェルズの両極端は、エドガー・ウルマーはと足りない名前を上げればきりがありませんが、11日で観られる限度の36本で30年代後半~50年代前半にかかる20年前後のアメリカ映画を展望するにはこれが精一杯でした。戦争映画と西部劇の比率が高いのはど真ん中に第二次世界大戦を挟む20年間だった象徴(スパイ映画、軍隊映画を含む戦争映画はそのものずばり、西部劇は建国神話として)を示す現象で、アメリカ国内外最大の商業文化製品といえるハリウッド映画の安定した撮影所システムは50年代半ばから変質していきます。その意味でこの時代の映画を鑑みるのは恐竜博覧会を見るような、再現すべくもない過去に目を凝らすようなものなのでしょう。


10月27日(木)

フランク・キャプラ『或る夜の出来事』(アメリカ'34)*105mins, B/W
・アカデミー賞主要5部門の記録を40年あまり破られなかったラブコメ映画の古典。その後ラブコメのテンプレートとなる要素満載で画期的だったのだろうが、今観てそれほど面白いと思えないのはパクられすぎたせいか?

フランク・キャプラ『我が家の楽園』(アメリカ'38)*127mins, B/W
・30年代はキャプラ独走時代とも言えて本作もアカデミー賞受賞作。好みなら『トップ・ハット』1936の方が好きだが、ぶっ飛んだ変人一家を描いてホームドラマの怪作になったスケールでは本作の破壊力も相当なもの。

フランク・キャプラ『毒薬と老嬢』(アメリカ'44)*118mins, B/W
・1941年完成だが公開は1944年に延びたもの。『我が家の楽園』より登場人物を絞ったが破壊力倍増したホームドラマで犯罪コメディで、ハートウォーミングなヒューマニズム監督キャプラは表の顔にすぎないと痛感する。


10月28日(金)

ジョージ・マーシャル『砂塵』(アメリカ'39)*95mins, B/W
・マレーネ・ディートリッヒとジェームズ・スチュワート共演のコメディ西部劇だけでも異色だが、コメディにとどまらない正統西部劇でもあって、観ている間はこれほど面白い映画はないんじゃないかとまで思えてくる。

ジョージ・マーシャル『殴り込み一家』(アメリカ'40)*81mins, B/W
・タイトルの一家は強盗団のダルトン一家だが、まるでマキノ雅弘の『次郎長三国志』みたいなノリ。前回B級と書いてしまったが撤回せねば。マーシャルは映画の粋が詰まったアメリカのマキノ雅弘みたいな存在です。

ウィリアム・A・ウェルマン『ボー・ジェスト』(アメリカ'39)*112mins, B/W
・脇役がほとんどマーシャル作品と重なる。ウェルマンは掛け値なしに一流なので、この伝奇冒険軍隊スリラーは次々意外な展開をきっちり伏線を回収して見事の一言に尽きる。内容の割には長い112分を長く感じさせない。

ウィリアム・A・ウェルマン『西部の王者』(アメリカ'44)*90mins, Technicolor
・バッファロー・ビルの半生を描いて90分で40年近い時間経過を濃密かつ簡潔に辿っていく。ウェルマンの時間操作の巧さには舌を巻く。この製作年で白人を先住民の権利への侵略者としてはっきり描いた先駆性も硬派。


10月29日(土)

キング・ヴィダー『麦秋』(アメリカ'34)*74mins, B/W
・ヴィダーの真面目な社会派的側面がモロに出た自主プロダクション作品で、経済恐慌直後のコミューン農園活動を描いたもの。ソヴィエト映画に較べれば手ぬるいとはいえ題材自体が冒険的。74分版はカットの痕跡あり。

キング・ヴィダー『白昼の決闘』(アメリカ'46)*129mins, Technicolor
・『風と共に去りぬ』を意識して製作されヒット作となったが、ストーリーは西部劇版『嵐が丘』みたいな壮絶なもの。ネタバレだが、当時のアメリカ映画(しかもカラー大作の西部劇)で無理心中なんて他にあるだろうか。

ウィリアム・ワイラー『ミニヴァー夫人』(アメリカ'42)*134mins, B/W
・ワイラーの真面目さはテーマはともかく話術にかけては吉と出る方が多いので、これも模範的ブルジョワ家庭のホームドラマを戦時生活と絡めてテキパキと描いているので抵抗感なくサラッと観てしまい、何となく悔しい。

ウィリアム・ワイラー『吾等の生涯の最良の年』(アメリカ'46)*170mins, B/W
・3時間近い大作、題材は3人の帰還兵の日常生活復帰の困難とうっとうしいものだが、ヴィダーならエモーショナルになるところを達人ワイラーは淡々と図式的に運んで、いつの間にか予定調和に落とし込んでしまうのがにくい。


10月30日(日)

ジョン・ヒューストン『勇者の赤いバッヂ』(アメリカ'51)*69mins, B/W
・この短さがいい。南北戦争を北軍の新兵の視点から描いた映画だが、イタリアのネオ・リアリズモ映画からの影響をここまではっきり感じさせるアメリカ映画は珍しい。それがヒューストン作品なのもなかなか面白い。

ジョン・ヒューストン『悪魔をやっつけろ』(イギリス'53)*89mins, B/W
・ヒューストンがイギリスに招かれて撮ったハンフリー・ボガートにポール・ムニにジェニファー・ジョーンズにジーナ・ロロブリジーダ共演の犯罪コメディの小品、これはマニア向け。残念ながら乗れませんでした。

アンソニー・マン『怒りの河』(アメリカ'51)*92mins, Technicolor
・前年の傑作『ウィンチェスター銃'73』に始まり『裸の拍車』に続くジェームズ・スチュワート主演の西部劇3部作。やや込み入った設定でドラマの運びが強引に過ぎた印象。色彩設計と個別のシーンは良いが、流れに難あり。

アンソニー・マン『裸の拍車』(アメリカ'53)*92mins, Technicolor
・タイトルは原題通りだが象徴的な意味だけではなくラスト10分のクライマックスで効いてくる。男3人がお尋ね者1人と連れの女1人をロッキー山脈からカンサスに連行する5人だけのドラマで、これは異色西部劇の強烈な傑作。


10月31日(月)

ビリー・ワイルダー『失われた週末』(アメリカ'45)*101mins, B/W
・ラストがいまいちあいまいだが、アルコール依存性を本格的に映画で描いた点で画期的作品。きちんとリサーチした上で主人公の症状を描いていると思われる。アカデミー賞受賞作というのもすごいが、その価値はある。

ビリー・ワイルダー『サンセット大通り(アメリカ'50)*111mins, B/W
・よく比較される同年の『イヴの総て』に及ばないのは、ワイルダーらしからぬ不手際というか、人物造型が類型というよりインパクトを求めるあまりカリカチュアになってしまっているからではないか。名作かは疑問。

ビリー・ワイルダー『第十七捕虜収容所』(アメリカ'53)*118mins, B/W
・キャプラやワイラーと並んで深みはないがめっぽう上手いワイルダーの演出がスパイの紛れ込んだ捕虜収容所というシチュエーションにばっちりはまった。実は陰惨な話だが観ているうちはそう感じさせないのもさすが。


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