そこまでだ、動かないでいただきましょうか、と自称スナフキンは両手にコルトを構えて一堂をにらみつけました。あんたたちから好き放題に指図されるようなおれじゃない。結局あなたがたは事件のすべてを私の仕業に押しつけて一見落着させるつもりだ。違いますか?スナフキンは詰問しました。
大きくは違わん、とヘムル署長が落ち着きはらって答えました。厳密に言えばわれわれだってここで起こった事件のことは目鼻もついていないようなものだが、適当な被疑者を選ぶとすれば突然現れた君こそ飛んで火に入る馬の脚だ。だからこそ、たぶん君の要求はここで起こったことはすべて水に流して見逃すか、さもなければ----
さもなければ、の方ですよ、とスナフキン、なかなか署長さんもお察しがいい。皆さん全員口封じに始末させてもらいます。私だってもちろん気が進みはしないが、この状況ではそうせざるを得ないですからね。
あっしには皆目見当もつきませんが、とスティンキー。もし困ったことになっているのなら、手遅れのザマになる前に手錠を外してくれやしませんか?
早まった決断はいけない、とヘムレンさん。ただでさえ真っ白なきみの経歴に傷をつけることはない。何も君が有罪と決まったわけではないのだ。現時点ではこれはまだ謎の失踪で、確かに相当の負傷らさい血痕が残されているが、死ぬと生きると本人の姿がないのではどうしようもないからな。
コイン投げなんかいかがです?とスティンキー。表が出た方の言い分の勝ち。
その前にコインが見たいな、とスナフキン。どうせ両面とも表か、両面とも裏のコインを用意しているに違いない。
その手があったか!とヘムル署長。通りでこいつのコイン投げには誰にも勝てないわけだ。悪党めが!
悪党です、とスティンキー。
いや待てよ、とジャコウネズミ博士。これはコインを薄く削って張りあわせてある作りだが、間に何かはさまっているぞ。
紙切れみたいだ、とヘムレンさん。取り出してみよう。破れないように頼みますよ、署長。
いかさまコインの中から出てきたのはどこか外国の切手を折りたたんだものでした。切手には消印が捺してあり、裏側にはムーミンパパの署名とともに、
Wish You Are Here.
と書いてあったのです。しかしおかしいぞ、と誰もが首をひねりました。ムーミンパパは読み書きのふりならできますが、本当の読み書きはできなかったからです。
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偽ムーミン谷のレストラン・誡(46)
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