食べ物で遊ぶようなことは良くない、と小人のひとりがつぶやきました。ボソボソっと賛同の声が上がります。
何よ、とアリス、あんたたちイースターエッグを知らないの?あんたたちの文化にはキャラ弁ていうのがないわけ?家を建てたり結婚式の締めくくりでお米を撒くことだってあるし、トマトをぶつけあうお祭りのある国やロールチーズを丘から転がすお祭りをする国もあるわ。それのどこがおかしいの?
お前ら人類は頽廃している、とさっきとは別の小人がつぶやきました。それをおかしいとも思わないのが堕落の証拠じゃないか。
それなら何であんたたちには女体盛りに心当たりがあるのよ?
アリスが問うと、小人たちが返答に窮している様子がわかりました。アリスにしてみれば、してやったりでございます。結局あんたたちカマトトぶっているだけじゃない?と言外にアリスは当てこすっているのでした。こいつ何歳でしたっけ?確か10歳の自称美少女だったはずです。しかしこの物語の作者は32歳のチャールズ・ドジソン先生、筆名ルイス・キャロル氏ですから、責めを負わせるべきは故キャロル氏の方にある、と考えるべきでしょう。
私はね、とアリスはせいいっぱい虚勢を張りました、あんたたちとは生まれも育ちも違うのよ。あんたたちなんか、とアリスは小人たちの生まれの卑しさを嘲笑しようとしましたが、勢いづいてまくし立てようとして実はちっとも小人たちの生い立ちのことなど知りはしないのに気がつきました。でもアリスだって人は見かけで判断すべきではなく、階級や資産に値打ちがあることくらいはわかっています。一応このお話の時代設定は19世紀中葉ですから、医学的にクリトリスの機能が解明されてからほんのわずかしか経っておらず、女の子がオナニーしているところを母親にでも見つかろうものなら病気と思われ、缶詰の蓋でえぐり取られるのも珍しくはないのが帝国文化のドブの裏でした。そのドブの中から伝説の通り魔・切り裂きジャックが生まれてきたのも伊達ではないごとく、この大国はあと半世紀もすれば再び植民地の大半を失う斜陽国家になる運命でした。
しかしアリスにはそんな未来のことなどよりも、とにかく迫った危機をいかに回避するかが火急の課題でした。ガリバーは小人に大地に張りつけにされてどうしたんだっけ?なんか簡単だったような気もするわ、とアリスが身を起こすと、杭はあっけなく土から抜けました。
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真・NAGISAの国のアリス(64)
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