Sun Ra and his Solar Arkestra Visits Planet Earth (El Saturn, 1966) Full Album : http://www.youtube.com/playlist?list=PLm4w7C3_vBpiggYQgWYGymQG8eucVGyiB
Recorded at the Balkan Studio, Chicago, November 1, 1956 (a), and recorded at Rehearsals, late 1957 or 1958 (b)
Released by El Saturn Records (22) ?- LP No. 9956-11, 1966
All songs by Sun Ra unless otherwise noted;
(Side A)
A1. Planet Earth (b) - 4:54
A2. Eve (b) - 5:35
A3. Overtones of China (b) - 4:21
(Side B)
B1. Reflections in Blue (a) - 5:55
B2. Two Tones (Patrick, Davis) (a) - 3:36
B3. El Viktor (a) - 2:28
B4. Saturn (a) - 3:55
[ Sun Ra and his Solar Arkestra ]
Sun Ra - Wurlitzer Electric Piano, Piano, Percussion (a) (b)
Art Hoyle - Trumpet (a)
Lucious Randolph - Trumpet (b)
John Avant or Julian Priester - Trombone (a)
Nate Pryor - Trombone (b)
James Spaulding - Alto Sax (b)
Marshall Allen - Alto Sax, Flute (b)
Pat Patrick - Baritone Sax, Tenor Sax, Alto Sax, 'Space Lute', Percussion (a) (b)
John Gilmore - Tenor sax (a) (b)
Charles Davis - Baritone sax (a) (b)
Victor Sproles - Bass (a)
Ronnie Boykins - Bass (b)
William Cochran - Drums (a)
Robert Barry - Drums (b)
Jim Herndon - Tympani, timbales (a) (b)
芸名サン・ラー(太陽神)ことソニー・ブロウント(1914-1993)がいつから自分が地球に生まれた土星人だと気づいたか、自分のやっている音楽は地球ではたまたまジャズだと言われているが、実は宇宙の音楽だと気づいてそれを宣言するようになったかは、新興宗教の起こりのように冗談半分、真剣半分で語り継がれているが、レコード(アルバム、CD)の上で知ることのできるサン・ラは42歳のデビュー・アルバム時にはすでにサン・ラであり、フレッチャー・ヘンダーソン楽団でピアニストと音楽監督を任されていたジャズマンのソニー・ブロウントはサン・ラにとっては地球人(だったと思っていた)時代の過去だった。平均寿命37歳(!)という統計が出ていた1950年代半ば、サン・ラが42歳でようやくデビュー・アルバムにこぎつけたのは歴史的必然を感じる。もしサン・ラが20代で頭角を現すタイプのジャズマンだったら、LP時代の到来前に同世代の多くのジャズマンのように過労死していたかもしれない。
サン・ラがシカゴをホームグラウンドに(実際シカゴからはほとんど出なかったらしい)、通算第13作の、
13. The Futuristic Sounds of Sun Ra (Savoy, rec.1961/rel.1961)
でニューヨーク進出を果たすまで、サン・ラ&ヒズ・アーケストラは12枚のアルバムを制作していた。
1. Jazz by Sun Ra (Sun Song) (Transition, rec.& rel.1956)
2. Super-Sonic Jazz (El Saturn, rec.1956/rel.1957)
3. Sound of Joy (Delmark, rec.1956/rel.1968)
4. Visits Planet Earth (El Saturn, rec.1956-58/rel.1966)
5. The Nubians of Plutonia (El Saturn, rec.1958-59/rel.1966)
6. Jazz in Silhouette (El Saturn, rec.& rel.1959)
7. Sound Sun Pleasure!! (El Saturn, rec.1959/rel.1970)
8. Interstellar Low Ways (El Saturn, rec.1959-60/rel.1966)
9. Fate In A Pleasant Mood (El Saturn, rec.1960/rel.1965)
10. Holiday For Soul Dance (El Saturn, rec.1960/rel.1970)
11. Angels and Demons at Play (El Saturn, rec.1956-60/rel.1965)
12. We Travel The Space Ways (El Saturn, rec.1956-61/rel.1967)
ここまで12枚制作しながらすぐ発売されたのが1, 2, 6の3枚しかない。他のアルバムはすべて1965年以降の発売になっている。もっとも1956年~1959年にかけて3枚だからシカゴ以外に出なかったバンドとしてはそこそこで、発売未定のアルバム制作がこれほどあったことの方が尋常ではないと言える。
(Original El Saturn "Visit Planet Earth" Side A Red Label)
ここまでは前回のおさらいで、実は今回のアルバム4.『Visit Planet Earth』は1.『Jazz by Sun Ra(Sun Song)』に続いてトランジション・レーベルに録音した3.『Sound of Joy』がレーベル倒産によって発売未定になったため(1.は発売済みだった。また、1.と3.の2作は後にトランジションからデルマーク・レーベルに売却され、1968年に発売された。1.は『Sun Song』と改題された)、全7曲中6曲が1956年11月1日録音の『Sound of Joy』収録の9曲(ヴォーカル曲2曲は省く)から選曲が重複する。すなわち、
[ Sun Ra and His Arkestra - Sound of Joy ]
(Side A)
A1. El is a Sound of Joy - 4:04
●A2. Overtones of China - 3:25
◎A3. Two Tones - 3:41
A4. Paradise - 4:30
●A5. Planet Earth - 4:24
(Side B)
B1. Ankh - 6:31
◎B2. Saturn - 4:01
◎B3. Reflections in Blue - 6:21
◎B4. El Viktor - 2:33
このうち◎4曲は1956年11月1日の『Sound of Joy』収録テイクをそのまま流用し、『Visit Planet Earth』B面に収めた。厄介なのは『Visit Planet Earth』A面で、●の2曲と初出曲「Eve」の計3曲を収めるが、●の2曲は明らかに『Sound of Joy』とは別テイクで、A面3曲はメンバーの半数が入れ替わった1957年後半~1958年の録音らしい。サン・ラの場合他のジャズマンのように正確なデータが特定できないのは異例で、弱小インディーズの無名作品でもレーベルの記録が消滅していてもレコードやジャケットのプレス工場や録音スタジオに取引証明書が残っているからだが、サン・ラはでかい借家を社員寮にして思い立ったら録音し(きっと食堂にでもスタジオ設備があったのだろう)、後述するが業界に顔が利くのでテスト盤扱いや現金払いのグロスでドン、というか、『Visit Planet Earth』初回プレスにも赤レーベルと青レーベルが混在するように、外部記録が残っていないということは正規にプレスされたレコードではない可能性もある。ジャケットは当然アーケストラのメンバーと家族総出で手作りだろう。レコードは、日曜にプレス工場に材料にする廃品レコードを山ほど持って行き、話をつけてある工員に袖の下でこっそり作ってもらう。だから前回は赤レーベル、今回は青レーベルになったりする(どちらも初回プレスには違いない)。推測だが、そんなところだろう。
1956年11月1日セッションの版権はスポンサーだったトランジションにあるのだから問題はなかったのかと思うが、発売中止となると100%のギャラは払えないからギャラは半額、替わりにアルバム半分相当をサン・ラ側が使える、という口約束が成立したのだろう。版権譲渡が書面化されていたら『Visit Planet Earth』発売(1966年)に遅れたデルマークからの『Sound of Joy』発売(1968年)はややこしいことになっていただろうからだ。もっともエル・サターンのプレス枚数は当時の常識では300枚~500枚がせいぜいで、老舗インディーズのデルマークなら売れればその倍は出る。とはいえ600枚~1000枚なのだが、万単位で売れるものを目標にしてからレコード音楽文化はどうなったかを思えば当時の感覚の方が正常だったと思える。
(Original El Saturn "Visit Planet Earth" Side B Red Label)
サン・ラのアルバム・デビューは1956年(42歳)だったわけだが、それ以前のシングルを集めたアルバムも数枚あった。だが2011年にドンと出た未CD化音源集が『The Eternal Myth Revealed Vol.1』TRANSPARENCY 0316 (2011, 14CD)で(まだVol.2以降は出ていない)、この弁当箱みたいなボックス・セットは副題に1914-1958とあるように、サン・ラ生誕の1914年~少年時の参考音源から1933年の初レコーディング(19歳)、数々のアーティストへの参加音源を経て徐々にメンバーが揃い始め、アーケストラがデビューしてシカゴのシーンの重鎮となった1958年までCD収録時間目一杯を収めて14枚組、これが1933年の初録音からアルバム1.~12.の時期をカヴァーするが音源はまったくダブらない。つまりLP換算なら総計28枚のアレンジャー時代のサン・ラ関連音源とアーケストラ発足後の未発表音源があったことになる。これだけ仕事をしていればシカゴのレコード業界の裏のドンみたいなものだろう。
14枚組はうかつにお薦めできないが、それを濃縮した『A Space Odyssey; From Birmingham to the Big Apple-The Quest Begins』FANTASTIC VOYAGE FVTD154(2013, 3CD)も別会社から出ていて、ディスク1にデビュー・アルバム以前のサン・ラの参加シングル28曲、ディスク2は『Jazz by Sun Ra』『Super-Sonic Jazz』『Sound of Joy』『Visit Planet Earth』からのセレクト(17曲)、ディスク3は『Jazz in Silhouette』とエル・サターンからのシングル、『The Futuristic Sounds of Sun Ra』からのセレクト(15曲)。パブリック・ドメイン化に伴うリリースだろうが他のレーベルからもサン・ラ初期作のパブリック・ドメイン復刻はデータ記載やリサーチも行き届いていて、元のアルバムが雑な発売をされていたのをきちんとリプロしようという姿勢が見られる。この3枚組も特にディスク1は良く出来ているが、ディスク2、3は未発表音源の発掘の成果はあるものの、ベスト盤が必要なアーティストかは疑問がある。
(Original El Saturn "Visit Planet Earth" Side A Blue Label)
選曲が良くても、作風が多彩だから1枚聴いただけではよくわからないにしても、サン・ラはベスト盤から入るとかえって混乱する。1枚ごとなら統一感もあるから、オリジナル・アルバムとしてリリースされたアルバムを1枚ずつ聴いていく方が音楽に入っていきやすい。それはこの『Visit Planet Earth』の構成にもよく表れていて、一見『Sound of Joy』のために録音した全9曲はサン・ラ本来の意図ではヴォーカル曲2曲を合わせた全11曲だったようにトランジション・レーベル(本社はボストン)の販売網を見込んだアーケストラのショーケース的アルバムだった。自社のエル・サターンから直前に発売していた『Super-Sonic Jazz』からの代表曲「Eli is a Sound of Joy」を再演しているのもそのためだったろう。
一見して『Visit Planet Earth』は『Sound of Joy』の全9曲から6曲を選び、2曲を再録音して新曲1曲を加えただけのアルバムに見える。実際そうなのだが、実は選曲を再構成することでA面とB面ごとにコンセプトを持ったトータル・アルバムに仕上げている。この選曲が録音完了時に行われたのか、1965年~1966年にかけて一斉に行われた(一部は1970年まで持ち越された)1950年代の未発表音源のアルバム・リリース時に編集されたのかは判明していないのだが、収録曲自体は『Sound of Joy』に1曲以外全部含まれてしまうのに、『Visit Planet Earth』はまったく印象の異なる、トータリティの高いアルバムに聴こえてくる。現行CDではA面とB面が逆転しているが、各面の曲順はそのままなのでくり返し聴けば同じことになる。
(Original El Saturn "Visit Planet Earth" Side B Blue Label)
CDでAB面が逆転しているせいでなおさら気づかせられるのだが、オリジナル盤に従えば、
B1. Reflections in Blue (a)
B2. Two Tones (Patrick, Davis) (a)
B3. El Viktor (a)
B4. Saturn (a)
Recorded at the Balkan Studio, Chicago, November 1, 1956 (a)
のB面4曲は『Sound of Joy』収録の1956年11月1日録音をそのまま使っている。楽曲は中規模バンド・アレンジのビッグバンド・ジャズ、もしくは中規模編成のハードバップで、スウィンガー・サイドと言えるものになっている。新メンバーによる再録音を入れる必要がない、と判断されたのはアレンジ的に完成されているからだろう。もし新メンバーで再録音したらアレンジ面からの見直しが必要になる上、全曲再録音しないと統一感がとれない。せっかく(当時)未発表アルバム『Sound of Joy』で録音した音源に陽の目を見せられるのだから、1956年11月1日録音分からスウィング系のハイライト・ナンバーばかりで固めたい(「Eli is a Sound of Joy」はエル・サターンからの『Super-Sonic Jazz』既出なので含めない)。
うって変わってA面3曲は、メディテーション、トランス、エキゾチックな実験的選曲で、
A1. Planet Earth (b)
A2. Eve (b)
A3. Overtones of China (b)
Recorded at Rehearsals, late 1957 or 1958 (b)
このうち「Planet Earth」と「Overtones of China」は『Sound of Joy』セッションでも録音していたが、新曲「Eve」も合わせて1957年後半~1958年の新メンバーで再録音してA面3曲を統一した。この3曲はいわゆる4ビートのジャズではなく、当時流行したエキゾチック・ミュージックというジャンルがあるが、架空の楽園に流れる音楽をコンセプトにしたムード音楽というか、リゾート音楽に近いものだった。サン・ラの場合は地球上ではなく外宇宙だった。『Sound of Joy』セッションにはこの路線の曲は「Paradise」と「Ankh」もあるから「Planet Earth」「Overtones of China」の4曲とも『Sound of Joy』セッションから採る、という手もあっただろう。新曲「Eve」が先にあったので新曲に合わせて再録音したのか、全曲『Sound of Joy』からは使えない事情があったのか(後者だと思うが)、とにかく結果的にA面とB面がはっきりと異なる音楽性に統一されたことで、このアルバムは50年代のサン・ラの音楽を箱庭にしたような佳作になった。ベスト盤ではなくオリジナル・アルバム単位の方がサン・ラは聴きやすい、というのはそういう意味でもある。
Recorded at the Balkan Studio, Chicago, November 1, 1956 (a), and recorded at Rehearsals, late 1957 or 1958 (b)
Released by El Saturn Records (22) ?- LP No. 9956-11, 1966
All songs by Sun Ra unless otherwise noted;
(Side A)
A1. Planet Earth (b) - 4:54
A2. Eve (b) - 5:35
A3. Overtones of China (b) - 4:21
(Side B)
B1. Reflections in Blue (a) - 5:55
B2. Two Tones (Patrick, Davis) (a) - 3:36
B3. El Viktor (a) - 2:28
B4. Saturn (a) - 3:55
[ Sun Ra and his Solar Arkestra ]
Sun Ra - Wurlitzer Electric Piano, Piano, Percussion (a) (b)
Art Hoyle - Trumpet (a)
Lucious Randolph - Trumpet (b)
John Avant or Julian Priester - Trombone (a)
Nate Pryor - Trombone (b)
James Spaulding - Alto Sax (b)
Marshall Allen - Alto Sax, Flute (b)
Pat Patrick - Baritone Sax, Tenor Sax, Alto Sax, 'Space Lute', Percussion (a) (b)
John Gilmore - Tenor sax (a) (b)
Charles Davis - Baritone sax (a) (b)
Victor Sproles - Bass (a)
Ronnie Boykins - Bass (b)
William Cochran - Drums (a)
Robert Barry - Drums (b)
Jim Herndon - Tympani, timbales (a) (b)
芸名サン・ラー(太陽神)ことソニー・ブロウント(1914-1993)がいつから自分が地球に生まれた土星人だと気づいたか、自分のやっている音楽は地球ではたまたまジャズだと言われているが、実は宇宙の音楽だと気づいてそれを宣言するようになったかは、新興宗教の起こりのように冗談半分、真剣半分で語り継がれているが、レコード(アルバム、CD)の上で知ることのできるサン・ラは42歳のデビュー・アルバム時にはすでにサン・ラであり、フレッチャー・ヘンダーソン楽団でピアニストと音楽監督を任されていたジャズマンのソニー・ブロウントはサン・ラにとっては地球人(だったと思っていた)時代の過去だった。平均寿命37歳(!)という統計が出ていた1950年代半ば、サン・ラが42歳でようやくデビュー・アルバムにこぎつけたのは歴史的必然を感じる。もしサン・ラが20代で頭角を現すタイプのジャズマンだったら、LP時代の到来前に同世代の多くのジャズマンのように過労死していたかもしれない。
サン・ラがシカゴをホームグラウンドに(実際シカゴからはほとんど出なかったらしい)、通算第13作の、
13. The Futuristic Sounds of Sun Ra (Savoy, rec.1961/rel.1961)
でニューヨーク進出を果たすまで、サン・ラ&ヒズ・アーケストラは12枚のアルバムを制作していた。
1. Jazz by Sun Ra (Sun Song) (Transition, rec.& rel.1956)
2. Super-Sonic Jazz (El Saturn, rec.1956/rel.1957)
3. Sound of Joy (Delmark, rec.1956/rel.1968)
4. Visits Planet Earth (El Saturn, rec.1956-58/rel.1966)
5. The Nubians of Plutonia (El Saturn, rec.1958-59/rel.1966)
6. Jazz in Silhouette (El Saturn, rec.& rel.1959)
7. Sound Sun Pleasure!! (El Saturn, rec.1959/rel.1970)
8. Interstellar Low Ways (El Saturn, rec.1959-60/rel.1966)
9. Fate In A Pleasant Mood (El Saturn, rec.1960/rel.1965)
10. Holiday For Soul Dance (El Saturn, rec.1960/rel.1970)
11. Angels and Demons at Play (El Saturn, rec.1956-60/rel.1965)
12. We Travel The Space Ways (El Saturn, rec.1956-61/rel.1967)
ここまで12枚制作しながらすぐ発売されたのが1, 2, 6の3枚しかない。他のアルバムはすべて1965年以降の発売になっている。もっとも1956年~1959年にかけて3枚だからシカゴ以外に出なかったバンドとしてはそこそこで、発売未定のアルバム制作がこれほどあったことの方が尋常ではないと言える。
(Original El Saturn "Visit Planet Earth" Side A Red Label)
ここまでは前回のおさらいで、実は今回のアルバム4.『Visit Planet Earth』は1.『Jazz by Sun Ra(Sun Song)』に続いてトランジション・レーベルに録音した3.『Sound of Joy』がレーベル倒産によって発売未定になったため(1.は発売済みだった。また、1.と3.の2作は後にトランジションからデルマーク・レーベルに売却され、1968年に発売された。1.は『Sun Song』と改題された)、全7曲中6曲が1956年11月1日録音の『Sound of Joy』収録の9曲(ヴォーカル曲2曲は省く)から選曲が重複する。すなわち、
[ Sun Ra and His Arkestra - Sound of Joy ]
(Side A)
A1. El is a Sound of Joy - 4:04
●A2. Overtones of China - 3:25
◎A3. Two Tones - 3:41
A4. Paradise - 4:30
●A5. Planet Earth - 4:24
(Side B)
B1. Ankh - 6:31
◎B2. Saturn - 4:01
◎B3. Reflections in Blue - 6:21
◎B4. El Viktor - 2:33
このうち◎4曲は1956年11月1日の『Sound of Joy』収録テイクをそのまま流用し、『Visit Planet Earth』B面に収めた。厄介なのは『Visit Planet Earth』A面で、●の2曲と初出曲「Eve」の計3曲を収めるが、●の2曲は明らかに『Sound of Joy』とは別テイクで、A面3曲はメンバーの半数が入れ替わった1957年後半~1958年の録音らしい。サン・ラの場合他のジャズマンのように正確なデータが特定できないのは異例で、弱小インディーズの無名作品でもレーベルの記録が消滅していてもレコードやジャケットのプレス工場や録音スタジオに取引証明書が残っているからだが、サン・ラはでかい借家を社員寮にして思い立ったら録音し(きっと食堂にでもスタジオ設備があったのだろう)、後述するが業界に顔が利くのでテスト盤扱いや現金払いのグロスでドン、というか、『Visit Planet Earth』初回プレスにも赤レーベルと青レーベルが混在するように、外部記録が残っていないということは正規にプレスされたレコードではない可能性もある。ジャケットは当然アーケストラのメンバーと家族総出で手作りだろう。レコードは、日曜にプレス工場に材料にする廃品レコードを山ほど持って行き、話をつけてある工員に袖の下でこっそり作ってもらう。だから前回は赤レーベル、今回は青レーベルになったりする(どちらも初回プレスには違いない)。推測だが、そんなところだろう。
1956年11月1日セッションの版権はスポンサーだったトランジションにあるのだから問題はなかったのかと思うが、発売中止となると100%のギャラは払えないからギャラは半額、替わりにアルバム半分相当をサン・ラ側が使える、という口約束が成立したのだろう。版権譲渡が書面化されていたら『Visit Planet Earth』発売(1966年)に遅れたデルマークからの『Sound of Joy』発売(1968年)はややこしいことになっていただろうからだ。もっともエル・サターンのプレス枚数は当時の常識では300枚~500枚がせいぜいで、老舗インディーズのデルマークなら売れればその倍は出る。とはいえ600枚~1000枚なのだが、万単位で売れるものを目標にしてからレコード音楽文化はどうなったかを思えば当時の感覚の方が正常だったと思える。
(Original El Saturn "Visit Planet Earth" Side B Red Label)
サン・ラのアルバム・デビューは1956年(42歳)だったわけだが、それ以前のシングルを集めたアルバムも数枚あった。だが2011年にドンと出た未CD化音源集が『The Eternal Myth Revealed Vol.1』TRANSPARENCY 0316 (2011, 14CD)で(まだVol.2以降は出ていない)、この弁当箱みたいなボックス・セットは副題に1914-1958とあるように、サン・ラ生誕の1914年~少年時の参考音源から1933年の初レコーディング(19歳)、数々のアーティストへの参加音源を経て徐々にメンバーが揃い始め、アーケストラがデビューしてシカゴのシーンの重鎮となった1958年までCD収録時間目一杯を収めて14枚組、これが1933年の初録音からアルバム1.~12.の時期をカヴァーするが音源はまったくダブらない。つまりLP換算なら総計28枚のアレンジャー時代のサン・ラ関連音源とアーケストラ発足後の未発表音源があったことになる。これだけ仕事をしていればシカゴのレコード業界の裏のドンみたいなものだろう。
14枚組はうかつにお薦めできないが、それを濃縮した『A Space Odyssey; From Birmingham to the Big Apple-The Quest Begins』FANTASTIC VOYAGE FVTD154(2013, 3CD)も別会社から出ていて、ディスク1にデビュー・アルバム以前のサン・ラの参加シングル28曲、ディスク2は『Jazz by Sun Ra』『Super-Sonic Jazz』『Sound of Joy』『Visit Planet Earth』からのセレクト(17曲)、ディスク3は『Jazz in Silhouette』とエル・サターンからのシングル、『The Futuristic Sounds of Sun Ra』からのセレクト(15曲)。パブリック・ドメイン化に伴うリリースだろうが他のレーベルからもサン・ラ初期作のパブリック・ドメイン復刻はデータ記載やリサーチも行き届いていて、元のアルバムが雑な発売をされていたのをきちんとリプロしようという姿勢が見られる。この3枚組も特にディスク1は良く出来ているが、ディスク2、3は未発表音源の発掘の成果はあるものの、ベスト盤が必要なアーティストかは疑問がある。
(Original El Saturn "Visit Planet Earth" Side A Blue Label)
選曲が良くても、作風が多彩だから1枚聴いただけではよくわからないにしても、サン・ラはベスト盤から入るとかえって混乱する。1枚ごとなら統一感もあるから、オリジナル・アルバムとしてリリースされたアルバムを1枚ずつ聴いていく方が音楽に入っていきやすい。それはこの『Visit Planet Earth』の構成にもよく表れていて、一見『Sound of Joy』のために録音した全9曲はサン・ラ本来の意図ではヴォーカル曲2曲を合わせた全11曲だったようにトランジション・レーベル(本社はボストン)の販売網を見込んだアーケストラのショーケース的アルバムだった。自社のエル・サターンから直前に発売していた『Super-Sonic Jazz』からの代表曲「Eli is a Sound of Joy」を再演しているのもそのためだったろう。
一見して『Visit Planet Earth』は『Sound of Joy』の全9曲から6曲を選び、2曲を再録音して新曲1曲を加えただけのアルバムに見える。実際そうなのだが、実は選曲を再構成することでA面とB面ごとにコンセプトを持ったトータル・アルバムに仕上げている。この選曲が録音完了時に行われたのか、1965年~1966年にかけて一斉に行われた(一部は1970年まで持ち越された)1950年代の未発表音源のアルバム・リリース時に編集されたのかは判明していないのだが、収録曲自体は『Sound of Joy』に1曲以外全部含まれてしまうのに、『Visit Planet Earth』はまったく印象の異なる、トータリティの高いアルバムに聴こえてくる。現行CDではA面とB面が逆転しているが、各面の曲順はそのままなのでくり返し聴けば同じことになる。
(Original El Saturn "Visit Planet Earth" Side B Blue Label)
CDでAB面が逆転しているせいでなおさら気づかせられるのだが、オリジナル盤に従えば、
B1. Reflections in Blue (a)
B2. Two Tones (Patrick, Davis) (a)
B3. El Viktor (a)
B4. Saturn (a)
Recorded at the Balkan Studio, Chicago, November 1, 1956 (a)
のB面4曲は『Sound of Joy』収録の1956年11月1日録音をそのまま使っている。楽曲は中規模バンド・アレンジのビッグバンド・ジャズ、もしくは中規模編成のハードバップで、スウィンガー・サイドと言えるものになっている。新メンバーによる再録音を入れる必要がない、と判断されたのはアレンジ的に完成されているからだろう。もし新メンバーで再録音したらアレンジ面からの見直しが必要になる上、全曲再録音しないと統一感がとれない。せっかく(当時)未発表アルバム『Sound of Joy』で録音した音源に陽の目を見せられるのだから、1956年11月1日録音分からスウィング系のハイライト・ナンバーばかりで固めたい(「Eli is a Sound of Joy」はエル・サターンからの『Super-Sonic Jazz』既出なので含めない)。
うって変わってA面3曲は、メディテーション、トランス、エキゾチックな実験的選曲で、
A1. Planet Earth (b)
A2. Eve (b)
A3. Overtones of China (b)
Recorded at Rehearsals, late 1957 or 1958 (b)
このうち「Planet Earth」と「Overtones of China」は『Sound of Joy』セッションでも録音していたが、新曲「Eve」も合わせて1957年後半~1958年の新メンバーで再録音してA面3曲を統一した。この3曲はいわゆる4ビートのジャズではなく、当時流行したエキゾチック・ミュージックというジャンルがあるが、架空の楽園に流れる音楽をコンセプトにしたムード音楽というか、リゾート音楽に近いものだった。サン・ラの場合は地球上ではなく外宇宙だった。『Sound of Joy』セッションにはこの路線の曲は「Paradise」と「Ankh」もあるから「Planet Earth」「Overtones of China」の4曲とも『Sound of Joy』セッションから採る、という手もあっただろう。新曲「Eve」が先にあったので新曲に合わせて再録音したのか、全曲『Sound of Joy』からは使えない事情があったのか(後者だと思うが)、とにかく結果的にA面とB面がはっきりと異なる音楽性に統一されたことで、このアルバムは50年代のサン・ラの音楽を箱庭にしたような佳作になった。ベスト盤ではなくオリジナル・アルバム単位の方がサン・ラは聴きやすい、というのはそういう意味でもある。