動物たち(カッパも)はうまい棒の種別連呼中から目が泳ぎだしたアリスの表情に悪寒混じりの呪縛をかけられていましたが、
他に知りたいことはある?
というアリスの区切りはさすがにアリス本人も、動物たち(カッパも)も限界まで近づいてしまったタイミングを示していました。
あの……と、おずおずとカメが切り出しました、そもそもの始まりは何だったのですか?私は遅れて来たもので……。
たいへん良い質問です、とドジソン先生は言いました。ものごとには常に見せかけとでたらめがあります。たとえば私は立派な青年紳士に見えますが、心は少女なのです。つまり青年紳士というのは見せかけであり、心が少女というのはでたらめです。ですがご質問の主旨はそういうレトリカルなものではございませんようですね。敬語がれろれろですが私は敵性外国人ですから大目に見ていただきたい。
そもそもの始まりは、こんなふうでした、とドジソン先生は語り始めました。アリスはすっかり退屈していました。アリスは川の土手で姉の隣に座っていましたが、何もすることがありません。いち、に度お姉さんの読んでいる本に目をやりましたが、さし絵もなければせりふのフキダシもありません。つまんない、とアリスは思いました、さし絵もなくて、せりふのフキダシもない本なんて。
そこでアリスは考えごとをすることにしました。暑い日なのでとても眠いし、頭もぼんやりしていましたが、それでもがんばって考えたのです。ひな菊の花輪を作るのは楽しいけれど、ひな菊を集めに行くのは面倒くさい。楽しいのと面倒くさいのを計りにかければ……と思っていると、突然ピンク色の目の白ウサギがアリスのそばを駆けていったのです。
だからと言って仰天するほどでもありません。その上、ウサギが大変、たいへん!遅れてしまう!とひとり言のように言っているのを聞いてもアリスは不思議とは思いませんでした。後で考えればそれは驚くべきことのような気がしましたが、その時にはありふれたことにしか感じなかったのです。ですがウサギが燕尾服のそでをまくって、腕時計を見てまた急いで歩きだすと、アリスも思わず立ち上がってしまいました。アリスはウサギなら見なれていましたが、燕尾服を着てそでをまくるのは見たことがないし、さらに腕時計までしていたのです。アリスは急いでウサギを追うと、ウサギは生け垣の下のウサギ穴に飛び込みました。
第2章完。
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新・NAGISAの国のアリス(20)
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