2016年は平成28年でしたよね、と姉のロリーナが訊きました。……
2016年は平成28年ですよ、とドジソン先生は答えました。……
平成28年は2016年なの?と妹のエディスは訊きました。……
平成28年は2016年よ、と10歳のアリスは答えました。……
玄関のドアポストには宅急便の不在配達票が入っていました。ずっと部屋にいたはずなのにどうして気づかなかったんだろう、とドジソン先生は思いました。ドジソン先生は不在配達票を手に取り、発送元・海外、内容・成人映画と記載されていましたが思い当たる節がないので、自分が注文したのではないからには誰かが自分に配達されるよう手配したのに違いない、と考えました。ならば誰が何の意図で、ということの方が重要なはずですが、ドジソン先生にとってはそれよりも、成人映画とはいったいどんな成人映画なのだろうかと気になって、気持が動揺したのでした。
成人映画ってなあに?とエディス(8歳)。お話は黙って聞きなさい、とロリーナ(13歳)。きっとおとなの観る映画よ、とアリス。ドジソン先生、どんな映画だったの?
先生は不在配達票の裏からバーコードをスマホで読み取り、在宅だからいつでも再配達してほしいと連絡しようとしましたが、サーバーがダウンしているとしか思われないエラー表示しか出ません。時間を置いて再接続するしかないか、とドジソン先生は思いましたが、その時ドアに硬いノックの音がしました。宅急便の再配達かな、とドジソン先生は、はーい今行きます、と三文判を台所の引き出しから取り出しました。どうしてチャイムを鳴らさないのだろう、たぶんさっきも今みたいにノックして、ノックの音は部屋の中には実はあまり響かないから気がつかなかったのだ。三文判を探しながらドジソン先生は再び大声で、今出ます、ハンコは要りますよね、と訊きました。宅急便ではなく認め印不要の普通郵便で、ポストに入らない大きさのものを郵便配達員が手渡しで届けに来る場合があるのです。しかしドアの向こうからは返答はありませんでした。
聞こえなかったのかしら、とエディス。気持悪いわ、とロリーナ、私だったら居留守を使います。私は平気よ、とアリス、先生はどうしたんですか?
ドジソン先生はドアの向こうにはもうノックの主はいない、と感じました。だが訪ねてきたのが何者だとしても、それはきっとその成人映画に関わることなのです。
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新・NAGISAの国のアリス(2)
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