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60年代のアメリカ小説(3)

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筆者は前回まででアメリカ小説の古典的価値はなかなか評価の定まらない、いわば世界文学のエアポケットであると解説した。ガートルード・スタインの「アメリカ人の成り立ち」は、プルーストやジョイスよりも早く、分量的にも「失われた時を求めて」よりは短いが「ユリシーズ」よりも長い前衛小説だし、ジョイスを主にプルーストからの影響も消化したトマス・ウルフ「天使よ、故郷を見よ」から始まる未完の自伝的五部作は分量でも「失われた時を求めて」に迫る。両者とも専門家、作家志願者からは熱心に支持されているが、一般の読者を持たない作家の代表格でもある。

そこで、レイモンド・オールダマン選の60年代アメリカ小説ベスト8(「荒地の彼方」より、複数選出あり)をポピュラリティで分けてみよう。○は大衆的に読まれ、●は専門家にしか読まれず、△は中間。◎は大衆性抜群、とする。すべて翻訳があるから話題性や評価はいずれも高い。

◎ケン・キージー「カッコーの巣の上で」62
●スタンリー・エルキン「悪い男」67
△ジョン・バース「やぎ少年ジャイルズ」66
○ジョーゼフ・ヘラー「キャッチ-22」61
●トマス・ピンチョン「V.」63/「競売ナンバー49の叫び」66
●ジョン・ホークス「罠」61
◎カート・ヴォネガットJr.「タイタンの妖女」59/「母なる夜」61/「猫のゆりかご」63/「ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを」65/「スローターハウス5」69
○ピーター・S・ビーグル「最後のユニコーン」68

これに、トニー・タナーの「言語の都市」で同格の評価をされている六人の60年代の代表作を加える。これらもすべて翻訳がある。

△ウィリアム・バロウズ「ソフトマシーン」61
●ジェイムズ・パーディ「キャボット・ライト・びぎんず」64
△ウォーカー・パーシィ「最後の紳士」66
△ドナルド・バーセルミ「雪白姫」67
○リチャード・ブローティガン「アメリカの鱒釣り」67
●ウィリアム・ギャス「アメリカの果ての果て」68

これらは60年代アメリカ小説の必読書だろう。だが主流文学にはまだリアリズムの系譜があり、大衆性はそちらの方にあったのだ。

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