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Channel: 人生は野菜スープ(または毎晩午前0時更新の男)
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#3.ドルフィー「ラスト・デイト」

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ぼくがジャズに開眼したのは相当遅く、社会人になって職場の同僚がカセット・テープをかけていたのだ。エリック・ドルフィーの遺作「ラスト・デイト」がそのアルバムだった。冒頭のセロニアス・モンクの古典『エピストロフィー』で、無伴奏ソロから鋭いスネアの一発!ぼくは慌てて赤星くんに「これ誰のなんて言うアルバム?」と問い詰めたくらいだ。テープを借りてバンドそのものも気に入り、どういうメンバーか赤星くんに訊いたが彼は知らなかった。ミッシャ・メンゲルベルグ(ピアノ)、そしてハン・ベニンク(ドラムス)は後にヨーロッパのフリー・ジャズ界を牽引することになるジャズマンだから、赤星くんには失礼だが彼はマニアというほど詳しくはなかった。90年代初頭の時点で「今いいのはアダムス=プーレン・カルテットとポール・モチアン・トリオですね」と、実にまともな評価をしていたから、真っ当な日本のジャズ好きの、ごく平均的感覚の持ち主だったのだ。

「ラスト・デイト」はぼくにとっては啓示のようなアルバムだった。ぼくはそれまでもロック・バンドでギターを弾いたり、聴いてきたアルバムのほとんどのギター・パートをコピーして楽しんだりしてきた。だがぼくが求めている自由、殺気、緊張と寛ぎ、諧謔、それらを同時に鮮烈に表現してくれるものはロックの分野にはなかった。なんだ、そんなことはとっくにジャズがやっていたんじゃないか。それに初めて気づいたアルバムが「ラスト・デイト」だった。

さらにツイていたのは別の同僚が「姉の旦那さんからもらったんだけど、LPプレイヤー持ってないから」とロリンズ「サキソフォン・コロッサス」、ウェス・モンゴメリー「インクレディブル・ジャズ・ギター」、ジョン・コルトレーン「コルトレイノロジー」、そしてチャールズ・ミンガスの「プレゼンツ・ミンガス」と、まるで冗談みたいに名盤揃い踏みを譲ってくれたことで、ロリンズとコルトレーンはテナーの二大巨匠だし、ロリンズ盤とウェス盤はピアノがトミー・フラナガンだし、コルトレーン盤とミンガス盤は言うまでもなくドルフィー参加の名作だった。
ミンガスやコルトレーンがロックではビート・グループがより複雑な音楽性に変化した時期の直接の手本になったのはすぐわかった。変革期のロック・ミュージシャンはロックからスタートしたのではない。ジャズからスタートしたのだ。

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