彼女はスノークの姿を探しましたが、兄の方が先にフローレンを見つけました。よおフローレン、とスノーク、やはり女のトイレは長いな。フローレンは顔をしかめました。彼女が似合わないと言ったのにスノークは自慢のネクタイをしてきましたが、しぶしぶ出掛けに結び目を整えてやったのに(自分では結べないので)今ではそれは誇示するように酔っぱらい結びになり、両端を背中に垂らしています。へへへ、とわざと好色めいて笑うそぶりは、彼女がもっとも忌み嫌うものでした。妹が客の袖を引く過去を持つことへのあてつけのつもりなのです。
どうしたの、とフローレンは冷たく訊ねました、私がいない間に何があったの、と言葉を継ぐより早く、シルクハットを前傾45度にかぶったムーミンパパがものすごい足音とともに、やあフローレン!と突進してきました。しかも隣にスナフキンがとっさのダッシュでゼエゼエというあり得ない光景。よく見れば二人は手錠でつながれ、ムーミンパパが得意気に胸元に握りしめた縄はヘムル署長を先頭に男性客の腰を一列に結びつけていました。なるほど足音がものすごかったわけです。とフローレンが感心するわけはなく、ムーミンパパを無視し、ついでに助けを求めるスナフキンの眼差しも無視すると、どうやら女性たちは数人ずつレストランの隅に避難している様子からたぶんそれほど普段よりいかれてはいないと見当をつけました。
しかしどこのグループなら頼りになるか。ミムラとミイはあまりに無力だし、ムーミンママは強力だが未来の宿敵、フィリフヨンカさんたちはびくびくしながらどうせ婦人議席の拡充とか無駄な正論を話しているだけに違いない。すると、フローレンはようやく事態を収拾できる唯一の存在に気づきました。
ねえムーミン、とフローレンは呼びかけました、こっち向いて。