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坂本遼自選小詩集(昭35年)4

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『春』

おかんはたった一人
峠田のてっぺんで鍬にもたれ
大きな空に
小っちゃいからだを
ぴょっくり浮かして
空いっぱいになく雲雀の声を
じっと聞いているやろで

里の方で牛がないたら
じっと余韻に耳をかたむけているやろで

大きい 美しい
春がまわってくるたんびに
おかんの年がよるのが
目に見えるようで かなしい
おかんがみたい



『たんぽぽ』(分載)

圭よ たっしゃか
つめとうなって あさ こおりをわってちょうずをつかうのがつろうてならん。
おみいを子もりにやろうとおもうが おまえはどう思うど。
こない大きいもんをあそばしといたらもったいない。
はよう返事をくれ。
*
先月の五日に おみいは子もりに行た
月八円のわりや。
これで うちのくらしもらくになった。
わしもげんきがでてまいちにはたらいとるど。
おまえも からだをたっしゃにしてよう働いてくれ
このごろのくらしむきはどうど
きものがほしかったら おくるから言うてよこせ
*
もうはやから大池へかいつぶりがわたってきたといやい こおりもとけつしもうたからひばりもじきにくるやろ
ひばりのこえきいたら せわしゅうなってむねがつまる。
わしは ひよりのよい日には むぎ田へでよる
おみいがおらんから とうげ田へ一人いくとさびしいわ
*
圭よ わしはおみいにはようよう あいそがついてしもうた
おみいはもどされてきた
おみいのあほうめが ごりょうにんさんのモスのおこしをぬすんで じぶんがしとったんやといやい
こんな どとぼけがどうなるど
らいげつのついたちに わしが行てあやまってこうとおもうとる
おまえはどないおもうのど
一ぺんぐらいてがみおこせ
わしがこない くろうするのも おまえがえんもゆかりもないこんな子をあずかってくるさかいじゃ

(以下次回)

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