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坂本遼自選小詩集(昭35年)3

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『時雨』(続き)

きのう 先生におまえがおいていた花さしとおまえのしゃしんをあげた。たいへんよろこんでやった。
それで きょう そのおれいやというて おまえに毛糸のじばんをあんでやろうといてやった。そして身のだけは何尺かとたずねてやった。
「五尺八寸です」
というとびっくりしてやった。そしてりっぱなからだやというて にこにこして おまえのしゃしんをみとってやった。
圭よ よろこんでくれ。
*
きょう はじめてひこうきが あおぞらをとおった。
あれみいというて ゆびでおせてやるのに おみいはおとだけで ひこうきはみえへんのや。どうやら かたわのちかめらしい。
おまえもまつりの日だけはわすれはすまい。まい年もどりよったのに今年はなぜもどらんのど。
わしはごちそうをして まちぼけにおうてしもうた。
先生もこのあいだ花さしをだしてきて きくの花をさしとってやった。そしてきれいにかざっとってやった。
ほんまに みなで 心まちにどれほどまっとったかわからんど。
なんでてがみを一ぺんもおこさんのど。
*
おまえにも なんべんも てがみでいうたあの女の先生がくにへいんでしもうてやった。くにからてがみがきたので。
よめいりしてのらしい。
「もう一日でもおって下さい」
というてなくと 先生も なんにもいわないで ないてばかりいてやった。
たった二タ月かそこらやったけんど。二人いっしょにねおきしておったのやから情がうつるはずや。
そら いんでやったことについては わけがあるねやろ。けれども そんなことをかんがえてもなににもならん。
わしはまた おみいと二人でさびしゅうなる。
おみいは このごろ ひよりがよいもんでまいにちまいにち たんぼで とやまのくすりやからもろうたかみふうせんばかりあげて しごとをちっともせん。
わしは もう あかんとおもう。
ひどい霜が菜をくてしもうた。
*
お母さん
もう 度々時雨が渡るでしょう。
座敷の北の隅から二つ目の畳をあげておいて下さい。すぐあげないと、雨がよく漏っていましたからすぐ腐ってしまいますよ。
時雨にぬれて風邪をひかぬように気をつけて下さい。

(角川文庫「現代日本詩人全集第5巻・現代1」より)

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