チョコレート・ウォッチバンド Chocolate Watchband - ジ・インナー・ミスティーク The Inner Mystique (Tower, 1968) Full Album + 2 : http://www.youtube.com/playlist?list=PL3IfvYSK4XMPbCR5cyZY1s87XZ6qCx7xh
Recorded at American Recording Studios, Los Angeles, California, January 1968
Released by Capitol / Tower Records ST 5106, February 1968
Produced by Ed Cobb
(Side 1)
A1. Voyage of the Trieste (Ed Cobb) - 3:41*The Yo-Yoz
A2. In the Past (Wayne Proctor) - 3:08*The Yo-Yoz
A3. Inner Mystique (Cobb) - 5:37*The Yo-Yoz
(Side 2)
B1. I'm Not Like Everybody Else (Ray Davies) - 3:42
B2. Medication (Ben Di Tosti, Minette Alton) - 2:08*Don Bennett, vocal
B3. Let's Go, Let's Go, Let's Go (Hank Ballard) - 2:18*The Inmates
B4. Baby Blue (Bob Dylan) - 3:14
B5. I Ain't No Miracle Worker (Annette Tucker, Nancie Mantz) - 2:53
(CD Bonus Tracks)
tr1. She Weaves A Tender Trap (Cobb) - 3:29*Originally Released as Uptown 749, 1967
tr2. Misty Lane (Martin Siegel) - 3:16*Originally Released as Uptown 749, 1967
[ Personnel ]
< Chocolate Watchband >
David Aguilar - lead vocals, harmonica, percussion
Sean Tolby - lead guitar
Mark Loomis - rhythm guitar, backing vocals
Bill Flores - bass guitar
Gary Andrijasevich - drums, backing vocals
Danny Phay - lead vocals (Bonus Track 1,2)
< The Yo-Yoz >
Ed Cob - producer
Bill Cooper - engineer
Richard Podolor - engineer
Don Bennett - lead vocals (A2)
with Studio Musicians
< The Inmates >
Don Bennett - lead vocals
with Studio Musicians
(Original Tower "The Inner Mystique" LP Liner Cover & Side 1/2 Label)
このバンドのデビュー作『ノー・ウェイ・アウト』'67は先週ご紹介して、そこで活動歴全般まで触れてしまいましたから、つけ足すことはほとんどありません。バンド名について触れておくとこのバンド名は紛らわしいので「The」がついたりつかなかったり、「Chocolate Watchband」ではなくて「Chocolate Watch Band」と切り離して表記されてきました。一見同じに見えて前者と後者では違ってくるので、前者なら「チョコレート腕時計」、後者なら「チョコレート時計バンド」ということになります。バンドは再結成後の'60年代音源全集(といってもCD2枚組)でバンド名を「The Chocolate Watchband」と定め、その後はザが取れたり戻ったりしますが2枚組全集のタイトルが『Melts in Your Brain...Not On Your Wrist!』(「手首ではなくて……お前の脳の中で溶かせ!」)ですから、チョコレート腕時計(Chocolate Watchband)という名称がバンドの意図なのです。実にサイケデリックです。だいたいこのバンドは音はださいのにバンド名やアルバム・タイトル、アルバム・ジャケットはかっこいい。デビュー作が『出口なし』なら第2作の本作は『内なる神秘』、第3作でラスト作は『一歩後退 (One Step Beyond)』で、なかなか気が効いている。そして再結成後の2005年の全集で明かされたことですが、デビュー作も28分半全10曲中チョコレート・ウォッチバンドのメンバー全員による演奏が2曲しかなかったように、やはり27分半全8曲しかない本作もバンド自身による演奏は4曲、そのうちメンバーが歌っているのは3曲というありさまで、LPのA面に当たる3曲はプロデューサーがスタジオ・ミュージシャンと即席で作ったザ・ヨーヨーズ(The Yo-Yoz)の作・演奏、LPのB面5曲は全部カヴァー曲でバンド自身の演奏はB1,B2,B4,B5しかなく、うちB2はデビュー作に引き続いてプロデューサーのエド・コブが連れてきた黒人シンガー(ヨーヨーズにも参加)ドン・ベネットが歌っており、B3は本来バンド自身のレパートリーだったのにベネットの歌う即席バンドのザ・インメイツ(The Inmates)が演奏している。つまり全8曲中チョコレート・ウォッチバンドのメンバー自身の歌・演奏はB1,B4,B5の3曲しかないのです。
実は翌'69年に発表が持ち越された第3作『ワン・ステップ・ビヨンド』の方がデビュー作以前に録音されたことも現在では判明しており、AB面で23分全7曲しかないアルバムながらアシュフォード&シンプソンのカヴァー1曲を除く6曲がメンバー自作曲で、全曲チョコレート・ウォッチバンドの歌・演奏の唯一のアルバムになります。しかしその頃にはバンドの人気は凋落しており、なし崩し的に解散して30年後の1999年に突然再結成したしぶとい人たちがこのバンドで、CD2枚組全集にも曲が足りないのと昔は歌わせてもらえなかったのでベネットが歌う旧ヴァージョンと本来のヴォーカリストのデイヴ・アギラーが同じバック・トラックに新しくヴォーカルを入れたヴァージョンの2通り収録したりしている。しかも2005年に新録したアギラーのヴォーカルもベネットそっくり、となるとチョコレート・ウォッチバンドのアルバムとはいったい何だったんだ、ということになります。本作ではキンクス'66年のヒット曲「サニー・アフターヌーン」のシングルB面に隠れていた名曲「エヴリバディ・エルス」(近年iPhoneのCMにも使われました)をカヴァーする、という鋭いセンスも見せつけながら、デビュー作のジャケットまで真似たテキサスの13thフロア・エレヴェイターズのカヴァーしたボブ・ディランの「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ、ベイビー・ブルー」(ザ・バーズよりも先でした)をつたなくやっている(これはこれでGSにも通じる味がありますが)。ブローグスのマイナー・ヒット名曲「ミラクル・ワーカー」のカヴァーなど似たようなガレージ・バンド同士ですからなかなか良いのですが、ブローグスのヴァージョンは'65年末リリースです。つまるところチョコレート・ウォッチバンドの最大の強みと弱点は、サイケデリック全盛の時代になってもビート・グループ崩れのガレージ感覚から出なかったことでした。ザ・シーズにも通うこのだささはシーズの場合は間抜けな愛嬌に突き抜けたものでしたが、チョコレート・ウォッチバンドの場合はプロデューサーに操作されてサイケデリック然としてしまったことにあり、本作も裏ジャケットにはデビュー作同様ファン一覧の名簿を載せていますが(13thのデビュー作の真似です)、デビュー作より名簿の人数が膨大に増えているのは当然100枚単位でしかプレスされないこのバンドでは寄贈などはできないでしょうから、「お前らの名前が載せてあるから買え」作戦としか思えない。しかしバンドの人気は失速し次作はデビュー作前の録音を新作として出す、という切り札を切り、見事に不評と売れ行き不振でバンドは解散となります。こんなみっともない終わり方ができたバンドがどれだけあるかと思うと(しかも平然と30年後復活)、チョコレート・ウォッチバンド的な生き方(出口なし→内なる神秘→一歩後退)もありかな、という気がしてくるのです。
Recorded at American Recording Studios, Los Angeles, California, January 1968
Released by Capitol / Tower Records ST 5106, February 1968
Produced by Ed Cobb
(Side 1)
A1. Voyage of the Trieste (Ed Cobb) - 3:41*The Yo-Yoz
A2. In the Past (Wayne Proctor) - 3:08*The Yo-Yoz
A3. Inner Mystique (Cobb) - 5:37*The Yo-Yoz
(Side 2)
B1. I'm Not Like Everybody Else (Ray Davies) - 3:42
B2. Medication (Ben Di Tosti, Minette Alton) - 2:08*Don Bennett, vocal
B3. Let's Go, Let's Go, Let's Go (Hank Ballard) - 2:18*The Inmates
B4. Baby Blue (Bob Dylan) - 3:14
B5. I Ain't No Miracle Worker (Annette Tucker, Nancie Mantz) - 2:53
(CD Bonus Tracks)
tr1. She Weaves A Tender Trap (Cobb) - 3:29*Originally Released as Uptown 749, 1967
tr2. Misty Lane (Martin Siegel) - 3:16*Originally Released as Uptown 749, 1967
[ Personnel ]
< Chocolate Watchband >
David Aguilar - lead vocals, harmonica, percussion
Sean Tolby - lead guitar
Mark Loomis - rhythm guitar, backing vocals
Bill Flores - bass guitar
Gary Andrijasevich - drums, backing vocals
Danny Phay - lead vocals (Bonus Track 1,2)
< The Yo-Yoz >
Ed Cob - producer
Bill Cooper - engineer
Richard Podolor - engineer
Don Bennett - lead vocals (A2)
with Studio Musicians
< The Inmates >
Don Bennett - lead vocals
with Studio Musicians
(Original Tower "The Inner Mystique" LP Liner Cover & Side 1/2 Label)
このバンドのデビュー作『ノー・ウェイ・アウト』'67は先週ご紹介して、そこで活動歴全般まで触れてしまいましたから、つけ足すことはほとんどありません。バンド名について触れておくとこのバンド名は紛らわしいので「The」がついたりつかなかったり、「Chocolate Watchband」ではなくて「Chocolate Watch Band」と切り離して表記されてきました。一見同じに見えて前者と後者では違ってくるので、前者なら「チョコレート腕時計」、後者なら「チョコレート時計バンド」ということになります。バンドは再結成後の'60年代音源全集(といってもCD2枚組)でバンド名を「The Chocolate Watchband」と定め、その後はザが取れたり戻ったりしますが2枚組全集のタイトルが『Melts in Your Brain...Not On Your Wrist!』(「手首ではなくて……お前の脳の中で溶かせ!」)ですから、チョコレート腕時計(Chocolate Watchband)という名称がバンドの意図なのです。実にサイケデリックです。だいたいこのバンドは音はださいのにバンド名やアルバム・タイトル、アルバム・ジャケットはかっこいい。デビュー作が『出口なし』なら第2作の本作は『内なる神秘』、第3作でラスト作は『一歩後退 (One Step Beyond)』で、なかなか気が効いている。そして再結成後の2005年の全集で明かされたことですが、デビュー作も28分半全10曲中チョコレート・ウォッチバンドのメンバー全員による演奏が2曲しかなかったように、やはり27分半全8曲しかない本作もバンド自身による演奏は4曲、そのうちメンバーが歌っているのは3曲というありさまで、LPのA面に当たる3曲はプロデューサーがスタジオ・ミュージシャンと即席で作ったザ・ヨーヨーズ(The Yo-Yoz)の作・演奏、LPのB面5曲は全部カヴァー曲でバンド自身の演奏はB1,B2,B4,B5しかなく、うちB2はデビュー作に引き続いてプロデューサーのエド・コブが連れてきた黒人シンガー(ヨーヨーズにも参加)ドン・ベネットが歌っており、B3は本来バンド自身のレパートリーだったのにベネットの歌う即席バンドのザ・インメイツ(The Inmates)が演奏している。つまり全8曲中チョコレート・ウォッチバンドのメンバー自身の歌・演奏はB1,B4,B5の3曲しかないのです。
実は翌'69年に発表が持ち越された第3作『ワン・ステップ・ビヨンド』の方がデビュー作以前に録音されたことも現在では判明しており、AB面で23分全7曲しかないアルバムながらアシュフォード&シンプソンのカヴァー1曲を除く6曲がメンバー自作曲で、全曲チョコレート・ウォッチバンドの歌・演奏の唯一のアルバムになります。しかしその頃にはバンドの人気は凋落しており、なし崩し的に解散して30年後の1999年に突然再結成したしぶとい人たちがこのバンドで、CD2枚組全集にも曲が足りないのと昔は歌わせてもらえなかったのでベネットが歌う旧ヴァージョンと本来のヴォーカリストのデイヴ・アギラーが同じバック・トラックに新しくヴォーカルを入れたヴァージョンの2通り収録したりしている。しかも2005年に新録したアギラーのヴォーカルもベネットそっくり、となるとチョコレート・ウォッチバンドのアルバムとはいったい何だったんだ、ということになります。本作ではキンクス'66年のヒット曲「サニー・アフターヌーン」のシングルB面に隠れていた名曲「エヴリバディ・エルス」(近年iPhoneのCMにも使われました)をカヴァーする、という鋭いセンスも見せつけながら、デビュー作のジャケットまで真似たテキサスの13thフロア・エレヴェイターズのカヴァーしたボブ・ディランの「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ、ベイビー・ブルー」(ザ・バーズよりも先でした)をつたなくやっている(これはこれでGSにも通じる味がありますが)。ブローグスのマイナー・ヒット名曲「ミラクル・ワーカー」のカヴァーなど似たようなガレージ・バンド同士ですからなかなか良いのですが、ブローグスのヴァージョンは'65年末リリースです。つまるところチョコレート・ウォッチバンドの最大の強みと弱点は、サイケデリック全盛の時代になってもビート・グループ崩れのガレージ感覚から出なかったことでした。ザ・シーズにも通うこのだささはシーズの場合は間抜けな愛嬌に突き抜けたものでしたが、チョコレート・ウォッチバンドの場合はプロデューサーに操作されてサイケデリック然としてしまったことにあり、本作も裏ジャケットにはデビュー作同様ファン一覧の名簿を載せていますが(13thのデビュー作の真似です)、デビュー作より名簿の人数が膨大に増えているのは当然100枚単位でしかプレスされないこのバンドでは寄贈などはできないでしょうから、「お前らの名前が載せてあるから買え」作戦としか思えない。しかしバンドの人気は失速し次作はデビュー作前の録音を新作として出す、という切り札を切り、見事に不評と売れ行き不振でバンドは解散となります。こんなみっともない終わり方ができたバンドがどれだけあるかと思うと(しかも平然と30年後復活)、チョコレート・ウォッチバンド的な生き方(出口なし→内なる神秘→一歩後退)もありかな、という気がしてくるのです。