今回の2作でアボット&コステロ主演のパロディ映画の第6作で最終作『凸凹ミイラ男の巻』'55以外のミイラ男のシリーズは、ホラー映画としての最後の第5作までご紹介することになりますが、前回のおさらいをしておくと、ユニヴァーサルのミイラ男映画は'32年に第1作『ミイラ再生』が公開されたあと、第2作が'40年と間が開いており、第1作と第2作~第5作は設定もやや異なり、第2作~第5作では『ミイラの復活』'40、『ミイラの墓場』'42が前後編、『執念のミイラ』'44と『ミイラの呪い』'44が前2作を引き継いだ姉妹編と見なせることから、『ミイラ再生』'32を単発作品として『ミイラ復活』からをミイラ男シリーズ作品第1作とする見解も多いそうです。また前回の感想文で提出していたミイラ男シリーズの設定の疑問点「なぜ禁断の(不死の)呪術を使った罪で処刑した罪人の棺に呪術のタネ(第1作ではトトの書、第2~5作ではタナの葉)を入れておくのか古代エジプト人の考えはわかりませんが(それがあったからミイラ蘇生ができたのですが)」の説明がようやく明かされるのも第5作『ミイラの呪い』で、そのあたりも前回の感想文では「罪人ともども悪の源を封印しておくという呪術的なものなのか、掘り起こすと絶対危険というリスクを高めて厳重注意するためか、それとも後世の人間が掘り出して災厄を引き起こすのを想像して楽しむ悪趣味のためか(だったら古代エジプト人もやってくれるものです)」と推測していましたが、第5作で説明があったわけです。これは第1作で「神話だから」と作中の教授にかたづけられていましたし、今回連続して観直すまでそもそも疑問に思わなかったので、当時の観客からも第4作まで疑問が起こらなかったのでしょう。基本的設定の変な点に映画会社と観客両方が気づかず、第5作で初めて一応説明がなされるというのもホラー映画ならではの呑気なところで、ホラーのシリーズとしてはそれが最終作になったのもいかにも純粋お化け映画のミイラ男らしさを感じてチャーミングですらあります。――なお今回も作品解説文はボックスセットのケース裏面の簡略な作品紹介を引き、映画原題と製作会社、アメリカ本国公開年月日を添えました。
●10月18日(木)
『執念のミイラ』The Mummy's Ghost (Universal Pictures'44)*60min, B/W; アメリカ公開'44年7月7日
監督 : レジナルド・ル・ボーグ
主演 : ロン・チェイニー・Jr、ジョン・キャラダイン、ラムゼイ・エイムス、ロバート・ローリー
・美術館に展示されているアナンカ王女のミイラを取り戻し、エジプトへ帰すべくアドベブは、手下とミイラ男=カリスをアメリカへ向かわせる……。王女の魂が乗り移った女とミイラ男が沼に沈んでいくラストシーンは印象的。
前書きの通り本作はエジプトを舞台にした前々作『ミイラの復活』と、同作の登場人物たちがアメリカに帰国し30年後に次々と殺されていく前作『ミイラの墓場』の前後編のさらに続編をなしており、次作『ミイラの呪い』と姉妹編になっています。舞台も前作を引き継いで同じマサチューセッツ州メープルトン市で事件が起こります。映画はアルカム宗カルナック神殿の老高僧アドベブ(Andoheb)(ジョージ・ズッコ)が前作『ミイラの墓場』に続いて新たにユセフ・ベイ(ジョン・キャラダイン!)を高僧の後任者に命じる場面から始まります。本作では「アブドル・ベイの息子ユセフ・ベイよ」と言っていますから、アブドルとは前作のムハマット・ベイのことになるようです。老高僧アドベブがミイラのカリスについて説明し始めると、場面は前作の登場人物のノーマン教授(フランク・ライヒャー)がマサチューセッツ州メープルトンの大学でアルカム宗のカリス伝説について、ミイラの包帯をサンプルに講義しています。講義が終わり、学生の一人のトム・ハーヴェイ(ロバート・ローリー)はエジプト系の恋人、アミーナ・マンソーリ(ラムゼイ・エイムス)とデートします。しかしトムが古代エジプト文化の授業に触れると、アミーナの表情は曇ります。場面はエジプトに戻り、ユセフ・ベイはアドベブからカリス王子のミイラとアナンカ王女の遺体をエジプトに連れ戻す任務を与えられます。ユセフ・ベイはアドベブからカリスを引き寄せるには、ミイラの生命源である9枚のタナの葉を満月の夜に焚く方法を教えます。その頃、満月のメープルトンの町では、古文書からノーマン教授がミイラの引き寄せ方を解明してタナの葉を焚く実験をします。ミイラ男のカリスはすぐにタナの葉が焚かれるのを感知し、町外れからノーマン教授邸に向かって歩き出します(映画10分目)。アミーナの家の横を過ぎたカリスに、夢遊状態のアミーナがついていきます。ノーマン教授邸に着いたカリスはすぐに教授を絞め殺し、タナの蒸留液を飲みます。アミーナはカリスに追いつくと、カリスに手首をつかまれ夢遊状態が解けて失神します。倒れたアミーナの手首にはカリスの指痕がはっきり残っています。翌朝、通報を受けて駆けつけたエルウッド保安官(ハリー・シャノン)と検死官(エメット・ヴォーガン)は、教授の遺体の喉に奇妙な指痕を見つけます。保安官と検死官はかつてのミイラ男の事件が再び起こったとにらみ、保安官はアミーナを尋問しようとしますが、トムが到着して昨晩はアミーナと一緒だったと嘘をついてかばいます。その夜、メープルトンに着いたユセフ・ベイは森の中でアルカム宗の太陽神(Amon-Ra)に祈りを捧げ、タナの葉を焚きます。カリスは通りかかった農夫を殺し、ユセフの元に着きます。保安官はすぐに現場に到着し、捜索を始めますが、ユセフとカリスは行方をくらまします。翌日、スクリップス博物館で、ユセフは展示されているアナンカ王女のミイラを確かめると、博物館の閉館後にカリスを伴って現れます。カリスはアナンカ王女のミイラに触れようとしますが、カリスが手を近づけるとアナンカ王女のミイラは包衣だけ残して消えてしまいます。ユセフはアナンカ王女の魂が別の肉体に移ったと直感します。カリスは激怒して展示室を壊し始め、駆けつけた警備員を虐殺します。博物館の警備隊長ウォルグリーン(バートン・マクレイン)とアヤド博士(レスター・シャープ)は、包帯を乱さずに消えたアナンカ王女のミイラの謎を調査し、博士は墓の紋章がタナ葉の樽の紋章と一致するのを発見し、警備隊長はタナ葉を使ってカリスの誘導と捕獲を計画します。計画はカリスを捕獲する檻の罠が完成したら実行される予定です。アミーナは不安定な精神状態が続き、トムはしばらくニューヨークで過ごそうとアミーナを誘います。翌朝、二人は出発することに決めます。一方ユセフは、太陽神にアナンカ王女の魂の新たな宿り主の指示を祈り、アナンカ王女を見つけるためにカリスを送ります。ウォルグリーン警備隊長の計画は実行に移され、隊長はタナの葉を焚きます。しかしカリスはアミーナがいるノーマン教授未亡人(クレア・ホイットニー)の家に向かい、夢遊状態になったアミーナはカリスにさらわれます。カリスはアミーナをユセフのもとに連れて行きますが、警官を筆頭に町の人々がミイラの行方を追います。ユセフはアミーナをアナンカ王女の魂の宿り主と認めますが、アミーナの美しさに魅了されてしまいます。ユセフはアミーナに禁断の不死術のタナの葉を使うことを決めますが、アルカム宗の禁を破ろうとするユセフにカリスは激怒し、ミイラはタナの葉の溶液のコップを叩き落とし、町の人々が押し寄せた館の窓からユセフを投げ殺します。トムを先頭に人々は館に押し入りますが、トムはミイラに押し倒され、カリスはアミーナを抱いたまま館から逃げ出します。群集はミイラを追って近くの湿地帯に追い詰めます。カリスに抱かれたアミーナの肉体は次第に老化していきます。ミイラのカリスは湿地に深く深く追い込まれ、沼地に沈み始めます。トムがアミーナを最後に見た時、沈んで行くアミーナの顔は3,000年前のエジプトのアナンカ王女で、カリスのミイラはミイラ化したアナンカ王女に変化したアミーナを抱いて完全に泥沼に沈みます。
――と、このラストシーンの沼が、泥沼というより草村の中の池に見えるのが難(水面に波紋が波打っていて、泥沼ではなく単なる淡水に見える)ですが、本作ではメイン・ヒロインがミイラ男に抱かれてミイラ化して沼に沈んでしまう、という、娯楽映画としてはとんでもない終わり方をします。ヒロインが複数いて、サブ・ヒロインの方が非業の死を遂げるのならまだしも、本作のヒロインは一人でしかも主人公の大学生青年トムの恋人です。娯楽映画としてはこのバッドエンドは相当大胆な終わり方です。また『ミイラの墓場』の設定を継ぐ本作と姉妹編『ミイラの呪い』はミイラが暴れまわるシーンが格段に増えて、ロン・チェイニー・Jr.も全身布巻きメイクでほとんど着ぐるみ状態で、布巻きメイクでも着脱式スーツに変更されたのかもしれませんが、ミイラ男大暴れホラーとしては『執念のミイラ』『ミイラの呪い』はエンターテインメント性がますます高く、しかも各1時間のコンパクトなサイズの映画にミイラの犯行シーンが盛りだくさんというサーヴィス精神にあふれた好作です。ちなみに前回の感想文でアルカムとカルナックを混同して「アルカムの地のカルナック宗」と書いていたのは取り違えで、アルカム宗のカルナック神殿、というのが正確な解釈になるようです。これも「アルカムの掟に従い」とか「カルナックに誓いを立てよ」とか表現が曖昧だから混同を招くので、脚本家は一応区別して設定していたでしょうが、監督始めスタッフ、キャストもアルカム=カルナックと漠然と解釈していた(もちろん観客も)と思われ、神殿の名称が宗派の代名詞となるのはよくあることなので、実はこれもカリスのミイラの副葬品になぜカリス蘇生のためのタナの葉(第1作ではトトの書)が添えてあるかがシリーズで初めて明確に理由が説明される次作『ミイラの呪い』でようやくカルナックはあくまでアルカム宗の神殿(本願寺)の名称、とはっきりわかるのです。シリーズが後半になるにつれエッセンスの明確な作品になったのは、作品を重ねるごとに複雑化していき他のシリーズと合流してますますややこしくなったフランケンシュタイン、狼男、ドラキュラのシリーズとはミイラ男シリーズの違うところで、ユニヴァーサルは上記3シリーズを合流させたくらいですから当然ミイラ男シリーズとのクロスオーヴァー企画も俎上に上ったと思いますが、ミイラ男シリーズは(1)アナンカ王女のミイラ奪還がミイラ男出現の条件で、しかもミイラ男の活動維持には(2)不死薬「タナの葉」の摂取が条件なので、この2条件を満たした上でドラキュラ、フランケンシュタイン、狼男の3シリーズと合流させるのは非常に無理が生じるのがミイラ男シリーズと他のシリーズの合流作品(『凸凹ミイラ男の巻』はあくまでパロディ喜劇映画)が作られなかった理由なのも、強烈なラストシーンの本作まで観れば納得がいきます。本作でも前作の登場人物の教授が殺されて事件が始まりますが、次作『ミイラの呪い』は本作のラストシーンでミイラ男とヒロインが沈んだ沼地に干拓工事が始まる25年後の事件を描きます。本作が'44年7月公開の夏休み映画、次作が同年12月公開のクリスマス映画であることでも、本作と次作の姉妹編構想は当初からのプランでしょう。
●10月19日(金)
『ミイラの呪い』The Mummy's Curse (Universal Studios'44)*60min, B/W; アメリカ公開'44年12月22日
監督 : レスリー・グッドウィンズ
主演 : ロン・チェイニー・Jr、ヴァージニア・クリスティン、マーティン・コスレック、デニス・ムーア、ケイ・ハーディング
・干拓計画で沼が埋め立てられることになった。しかし、25年前にミイラが消えたこの沼に恐れをなした作業員たちは工事をためらう。ある日、作業員の一人が沼で殺され……。「執念のミイラ」の続編。
前作『執念のミイラ』の感想文文末で触れた通り、本作は引き続き前作から25年後のメープルトンで話は始まります。ケイジャン(フランス系南部人)のマダムのタント・ベルト(アン・コディー)の店では労働者たちが噂話を語らっています。地元の大会社のサウス・エンジニア社では沼地を公共施設のために干拓しようとしています。しかし住民や作業員の間にはまだ25年前のミイラとミイラの花嫁事件の伝承が残り、反対の声が上がっています。現場監督のパット・ウォルシュ(アディソン・リチャーズ)にスクリップス博物館の博士ジェームズ・ハルゼー(デニス・ムーア)とエジプト人学者イゾール・ザンダブ(ピーター・コー)が訪ねてきます。二人は沼地に埋まっているはずのミイラを求めに交渉に来ましたが、沼地で作業員が殺害されたと急報が入ります。現場の証拠から、ハルゼー博士は殺人犯がカリスのミイラを発見したと確信します。そのあと、ザンダブは沼地でラゲブ(マーティン・コスレック)と落ち合います。ザンダブは実はアルカム宗の高僧であり、ラゲブはカリスを発掘した作業員を殺し、ミイラを荒廃した修道院に隠しています。ザンダブは高僧だけが知ることを許されているアメンヘテプ王と夭逝したアナンカ王女、アナンカ王女をタナの葉の禁断の不死の呪術で蘇生させようとして生きながらミイラ処刑されたカリス王子の伝説を語り、カリス王子は処刑されたが、アナンカ王女の遺体を守るため高僧たちに太陽神の力でカリスのミイラはタナの葉による不死の力の力を得させられた(しかしアナンカ王女への愛は禁じられているので、カリスが触れるとアナンカ王女の遺骸は滅びる呪いがかけられている)、アナンカ王女の遺骸が盗掘された時に高僧がカリスを蘇らせるためにカリスの棺にはカリスを蘇生させりタナの葉が添えてある、と第1年依頼初めてカリスの棺に蘇生の鍵が副葬品として入っていた理由が説明されます。第5作、第1作から13年後にしてようやくミイラ蘇生の目的、ミイラの不死と呪いで禁じられたカリスがアナンカ王女に直接接触を禁じられた理由がはっきり説明されるというのは、それまであやふやに何となく「そういう話だから」で済ませていたのだけなのを映画会社も観客も気にせず、第5作で「そういやあれは変だよな」と説明を入れたとは、大らかな話という気がします。さて、ザンダブがラゲブに説明をおえタナの葉を焚いていると修道院の管理人(ウィリアム・ファーナム)が入ってきますが、蘇生したミイラはさっそく管理人を絞殺します。その間、工事途中の湿地から手が出て、アナンカ王女(ヴァージニア・クリスティン)は蘇り、池で泥だらけの身体を着衣のまま浴びて洗います。太陽神の力でアナンカ王女は若い女に戻ったようです。ケイジャン・ジョー(クルト・カッチ)はずぶ濡れの彼女を見つけ、ジョーに頼まれタント・ベルトは自分の店に泊めさせます。ベルトの店に向かう道すがら、アナンカは「カリス」と何度もつぶやきます。その晩さっそくカリスがアナンカをさらいにきて、ベルトを殺します。ハルゼー博士は現場監督パットの秘書で姪のベティ・ウォルシュ(ケイ・ハーディング)をドライヴに誘ってデート中、道に倒れているアナンカを見つけます。アナンカは記憶喪失ですが、ハルゼーの書類整理で専門家以上に古代エジプトの知識が豊富なのがわかり周囲を驚嘆させます。カリスの接近で知らずに再び精神不安定になったアナンカを世話していたクーパー医師(ホームズ・ハーバート)はカリスに殺され、姿を消したアナンカを世話ハルゼー博士たちは捜します。カリスに連れ去られたアナンカは、ばったり会ったケイジャン・ジョーをカリスが殺している隙にアナンカは逃げ出し、ベティに助けを求めに行きます。カリスはベティの部屋に来てベティはは襲われずに、ミイラはアナンカを連れ去ります。ベティはラゲブにハルゼー博士に応援を求める相談をします。ラゲブは直接ベティを修道院に連れて行きます。アナンカにすでにタナ葉溶液を施して(前作では禁断だったはずでは?)いたザンダブはラゲブが異教徒のベティに聖域に踏みこませたので激怒します。ザンダブはラゲブにベティを殺せと命令しますが、ラゲブはザンダブを刺殺します。ベティとアナンカ失踪を追ってきたハルゼー博士はラゲブが黒幕のザンダブを刺殺したのを知りますが、ラゲブは秘密を知ったハルゼー博士にも襲いかかります。そこにカリスが現れ、裏切り者ラゲブを角の監禁室に追い詰めます。カリスは部屋の壁を壊し、ラゲブとカリスは大量の瓦礫に完全に埋まります。ハルゼー博士、ベティと警官たちは、隣りの部屋にミイラ化したアナンカ王女の遺体を見つけます。
――本作はアメリカ人観客が観ると多少混乱するそうで、前作、前々作ではメープルトン市はマサチューセッツ州にあるとされていたのに、ケイジャン(フランス系アメリカ人)のタント・ベルトやケイジャン・ジョーが出て来て、ミイラ出現を報道する新聞が「バイヨー・タイムズ」となっていることから本作ではメープルトン市はケイジャンの住むルイジアナ州にあると推測できるので、確かに沼地の干拓工事というのもルイジアナ州の方が自然です。しかしスクリップス博物館は前作と同じ設定ですし、干拓工事がなされるのは前作でミイラ男とアナンカ王女になったアミーナが沈んだ沼なので、そこらへんはプログラム・ピクチャーらしい適当さというか、続編だけど少し変えてみようとメープルトン市をルイジアナ州に移してローカル・カラーを出そうとしたのでしょう。日本人観客が観るとケイジャン?バイヨー・タイムズ?とすぐには違和感を感じないのは得か損かわかりませんし、筆者もデータを調べていてその指摘に気づいたので前作の25年後なんだよな、というくらいで観て、本作のアナンカ王女は前作のアミーナとは別の女優なんだな、とか、本作はさすがにベティというヒロインを出して話を和らげたな、蘇ったアナンカ王女がまたミイラに戻るだけの話じゃあんまりだしな、と自然に観ていましたが、高僧を先輩のザンダブと後輩ラゲブの二人にして仲間割れ、さらにミイラが怒って仲間割れになる結末はやや唐突で、全体的には快調な作品だけに結末がばたばたして、しかもミイラがラゲブともども倒壊する建物の瓦礫に埋もれるのはモンスターの末期には物足りない感じがします。実際にはホラー映画としてのミイラ男シリーズは本作が終わりで、10年後にパロディ喜劇『凸凹ミイラ男の巻』'55が作られるだけですが、本作の結末ではすぐ続編が作られるんだろうな、と不完全燃焼感が強いのです。しかしあらすじ中にも書いたように、本作はミイラ男シリーズでもこれまであやふやだった設定を再確認する、ミイラ男シリーズの根幹のアイディアを明快に打ち出した作品で、その割には結末で仲間割れという身も蓋もないことになりますが、シリーズとしての一貫性がもっとも純一だったのはユニヴァーサル4大モンスター(ドラキュラ、フランケンシュタイン、ミイラ男、狼男)中ミイラ男が一番だったのを印象づける仕上がりになっています。時間経過からすると『ミイラの復活』から『ミイラの墓場』まで30年、その数年後の『執念のミイラ』から『ミイラの呪い』まで25年とほぼ60年が本作までに経過していることになり、すると『ミイラの復活』は1880年代後半の出来事で、ツタンカーメンの発掘(1921年)に先んじる考古学史上の矛盾も生じますが、娯楽映画ですから考古学者以外の方は目をつぶりましょう。最長8時間はかかったというロン・チェイニー・Jr.の全身布巻きメイクがたっぷり堪能できる点では『ミイラの墓場』より見せ場の多い『執念のミイラ』『ミイラの呪い』に分があり、ミイラ男のシリーズは1作ごとに特徴的な趣向もあって、なおかつ連続性もある好シリーズです。荒唐無稽すぎてちっとも怖くないのもユニヴァーサル・ホラーならではの愛嬌で、観客が悲鳴を上げ失神者まで出たという『オペラの怪人』'25の時代は今いずこ、の感もあります。
●10月18日(木)
『執念のミイラ』The Mummy's Ghost (Universal Pictures'44)*60min, B/W; アメリカ公開'44年7月7日
監督 : レジナルド・ル・ボーグ
主演 : ロン・チェイニー・Jr、ジョン・キャラダイン、ラムゼイ・エイムス、ロバート・ローリー
・美術館に展示されているアナンカ王女のミイラを取り戻し、エジプトへ帰すべくアドベブは、手下とミイラ男=カリスをアメリカへ向かわせる……。王女の魂が乗り移った女とミイラ男が沼に沈んでいくラストシーンは印象的。
前書きの通り本作はエジプトを舞台にした前々作『ミイラの復活』と、同作の登場人物たちがアメリカに帰国し30年後に次々と殺されていく前作『ミイラの墓場』の前後編のさらに続編をなしており、次作『ミイラの呪い』と姉妹編になっています。舞台も前作を引き継いで同じマサチューセッツ州メープルトン市で事件が起こります。映画はアルカム宗カルナック神殿の老高僧アドベブ(Andoheb)(ジョージ・ズッコ)が前作『ミイラの墓場』に続いて新たにユセフ・ベイ(ジョン・キャラダイン!)を高僧の後任者に命じる場面から始まります。本作では「アブドル・ベイの息子ユセフ・ベイよ」と言っていますから、アブドルとは前作のムハマット・ベイのことになるようです。老高僧アドベブがミイラのカリスについて説明し始めると、場面は前作の登場人物のノーマン教授(フランク・ライヒャー)がマサチューセッツ州メープルトンの大学でアルカム宗のカリス伝説について、ミイラの包帯をサンプルに講義しています。講義が終わり、学生の一人のトム・ハーヴェイ(ロバート・ローリー)はエジプト系の恋人、アミーナ・マンソーリ(ラムゼイ・エイムス)とデートします。しかしトムが古代エジプト文化の授業に触れると、アミーナの表情は曇ります。場面はエジプトに戻り、ユセフ・ベイはアドベブからカリス王子のミイラとアナンカ王女の遺体をエジプトに連れ戻す任務を与えられます。ユセフ・ベイはアドベブからカリスを引き寄せるには、ミイラの生命源である9枚のタナの葉を満月の夜に焚く方法を教えます。その頃、満月のメープルトンの町では、古文書からノーマン教授がミイラの引き寄せ方を解明してタナの葉を焚く実験をします。ミイラ男のカリスはすぐにタナの葉が焚かれるのを感知し、町外れからノーマン教授邸に向かって歩き出します(映画10分目)。アミーナの家の横を過ぎたカリスに、夢遊状態のアミーナがついていきます。ノーマン教授邸に着いたカリスはすぐに教授を絞め殺し、タナの蒸留液を飲みます。アミーナはカリスに追いつくと、カリスに手首をつかまれ夢遊状態が解けて失神します。倒れたアミーナの手首にはカリスの指痕がはっきり残っています。翌朝、通報を受けて駆けつけたエルウッド保安官(ハリー・シャノン)と検死官(エメット・ヴォーガン)は、教授の遺体の喉に奇妙な指痕を見つけます。保安官と検死官はかつてのミイラ男の事件が再び起こったとにらみ、保安官はアミーナを尋問しようとしますが、トムが到着して昨晩はアミーナと一緒だったと嘘をついてかばいます。その夜、メープルトンに着いたユセフ・ベイは森の中でアルカム宗の太陽神(Amon-Ra)に祈りを捧げ、タナの葉を焚きます。カリスは通りかかった農夫を殺し、ユセフの元に着きます。保安官はすぐに現場に到着し、捜索を始めますが、ユセフとカリスは行方をくらまします。翌日、スクリップス博物館で、ユセフは展示されているアナンカ王女のミイラを確かめると、博物館の閉館後にカリスを伴って現れます。カリスはアナンカ王女のミイラに触れようとしますが、カリスが手を近づけるとアナンカ王女のミイラは包衣だけ残して消えてしまいます。ユセフはアナンカ王女の魂が別の肉体に移ったと直感します。カリスは激怒して展示室を壊し始め、駆けつけた警備員を虐殺します。博物館の警備隊長ウォルグリーン(バートン・マクレイン)とアヤド博士(レスター・シャープ)は、包帯を乱さずに消えたアナンカ王女のミイラの謎を調査し、博士は墓の紋章がタナ葉の樽の紋章と一致するのを発見し、警備隊長はタナ葉を使ってカリスの誘導と捕獲を計画します。計画はカリスを捕獲する檻の罠が完成したら実行される予定です。アミーナは不安定な精神状態が続き、トムはしばらくニューヨークで過ごそうとアミーナを誘います。翌朝、二人は出発することに決めます。一方ユセフは、太陽神にアナンカ王女の魂の新たな宿り主の指示を祈り、アナンカ王女を見つけるためにカリスを送ります。ウォルグリーン警備隊長の計画は実行に移され、隊長はタナの葉を焚きます。しかしカリスはアミーナがいるノーマン教授未亡人(クレア・ホイットニー)の家に向かい、夢遊状態になったアミーナはカリスにさらわれます。カリスはアミーナをユセフのもとに連れて行きますが、警官を筆頭に町の人々がミイラの行方を追います。ユセフはアミーナをアナンカ王女の魂の宿り主と認めますが、アミーナの美しさに魅了されてしまいます。ユセフはアミーナに禁断の不死術のタナの葉を使うことを決めますが、アルカム宗の禁を破ろうとするユセフにカリスは激怒し、ミイラはタナの葉の溶液のコップを叩き落とし、町の人々が押し寄せた館の窓からユセフを投げ殺します。トムを先頭に人々は館に押し入りますが、トムはミイラに押し倒され、カリスはアミーナを抱いたまま館から逃げ出します。群集はミイラを追って近くの湿地帯に追い詰めます。カリスに抱かれたアミーナの肉体は次第に老化していきます。ミイラのカリスは湿地に深く深く追い込まれ、沼地に沈み始めます。トムがアミーナを最後に見た時、沈んで行くアミーナの顔は3,000年前のエジプトのアナンカ王女で、カリスのミイラはミイラ化したアナンカ王女に変化したアミーナを抱いて完全に泥沼に沈みます。
――と、このラストシーンの沼が、泥沼というより草村の中の池に見えるのが難(水面に波紋が波打っていて、泥沼ではなく単なる淡水に見える)ですが、本作ではメイン・ヒロインがミイラ男に抱かれてミイラ化して沼に沈んでしまう、という、娯楽映画としてはとんでもない終わり方をします。ヒロインが複数いて、サブ・ヒロインの方が非業の死を遂げるのならまだしも、本作のヒロインは一人でしかも主人公の大学生青年トムの恋人です。娯楽映画としてはこのバッドエンドは相当大胆な終わり方です。また『ミイラの墓場』の設定を継ぐ本作と姉妹編『ミイラの呪い』はミイラが暴れまわるシーンが格段に増えて、ロン・チェイニー・Jr.も全身布巻きメイクでほとんど着ぐるみ状態で、布巻きメイクでも着脱式スーツに変更されたのかもしれませんが、ミイラ男大暴れホラーとしては『執念のミイラ』『ミイラの呪い』はエンターテインメント性がますます高く、しかも各1時間のコンパクトなサイズの映画にミイラの犯行シーンが盛りだくさんというサーヴィス精神にあふれた好作です。ちなみに前回の感想文でアルカムとカルナックを混同して「アルカムの地のカルナック宗」と書いていたのは取り違えで、アルカム宗のカルナック神殿、というのが正確な解釈になるようです。これも「アルカムの掟に従い」とか「カルナックに誓いを立てよ」とか表現が曖昧だから混同を招くので、脚本家は一応区別して設定していたでしょうが、監督始めスタッフ、キャストもアルカム=カルナックと漠然と解釈していた(もちろん観客も)と思われ、神殿の名称が宗派の代名詞となるのはよくあることなので、実はこれもカリスのミイラの副葬品になぜカリス蘇生のためのタナの葉(第1作ではトトの書)が添えてあるかがシリーズで初めて明確に理由が説明される次作『ミイラの呪い』でようやくカルナックはあくまでアルカム宗の神殿(本願寺)の名称、とはっきりわかるのです。シリーズが後半になるにつれエッセンスの明確な作品になったのは、作品を重ねるごとに複雑化していき他のシリーズと合流してますますややこしくなったフランケンシュタイン、狼男、ドラキュラのシリーズとはミイラ男シリーズの違うところで、ユニヴァーサルは上記3シリーズを合流させたくらいですから当然ミイラ男シリーズとのクロスオーヴァー企画も俎上に上ったと思いますが、ミイラ男シリーズは(1)アナンカ王女のミイラ奪還がミイラ男出現の条件で、しかもミイラ男の活動維持には(2)不死薬「タナの葉」の摂取が条件なので、この2条件を満たした上でドラキュラ、フランケンシュタイン、狼男の3シリーズと合流させるのは非常に無理が生じるのがミイラ男シリーズと他のシリーズの合流作品(『凸凹ミイラ男の巻』はあくまでパロディ喜劇映画)が作られなかった理由なのも、強烈なラストシーンの本作まで観れば納得がいきます。本作でも前作の登場人物の教授が殺されて事件が始まりますが、次作『ミイラの呪い』は本作のラストシーンでミイラ男とヒロインが沈んだ沼地に干拓工事が始まる25年後の事件を描きます。本作が'44年7月公開の夏休み映画、次作が同年12月公開のクリスマス映画であることでも、本作と次作の姉妹編構想は当初からのプランでしょう。
●10月19日(金)
『ミイラの呪い』The Mummy's Curse (Universal Studios'44)*60min, B/W; アメリカ公開'44年12月22日
監督 : レスリー・グッドウィンズ
主演 : ロン・チェイニー・Jr、ヴァージニア・クリスティン、マーティン・コスレック、デニス・ムーア、ケイ・ハーディング
・干拓計画で沼が埋め立てられることになった。しかし、25年前にミイラが消えたこの沼に恐れをなした作業員たちは工事をためらう。ある日、作業員の一人が沼で殺され……。「執念のミイラ」の続編。
前作『執念のミイラ』の感想文文末で触れた通り、本作は引き続き前作から25年後のメープルトンで話は始まります。ケイジャン(フランス系南部人)のマダムのタント・ベルト(アン・コディー)の店では労働者たちが噂話を語らっています。地元の大会社のサウス・エンジニア社では沼地を公共施設のために干拓しようとしています。しかし住民や作業員の間にはまだ25年前のミイラとミイラの花嫁事件の伝承が残り、反対の声が上がっています。現場監督のパット・ウォルシュ(アディソン・リチャーズ)にスクリップス博物館の博士ジェームズ・ハルゼー(デニス・ムーア)とエジプト人学者イゾール・ザンダブ(ピーター・コー)が訪ねてきます。二人は沼地に埋まっているはずのミイラを求めに交渉に来ましたが、沼地で作業員が殺害されたと急報が入ります。現場の証拠から、ハルゼー博士は殺人犯がカリスのミイラを発見したと確信します。そのあと、ザンダブは沼地でラゲブ(マーティン・コスレック)と落ち合います。ザンダブは実はアルカム宗の高僧であり、ラゲブはカリスを発掘した作業員を殺し、ミイラを荒廃した修道院に隠しています。ザンダブは高僧だけが知ることを許されているアメンヘテプ王と夭逝したアナンカ王女、アナンカ王女をタナの葉の禁断の不死の呪術で蘇生させようとして生きながらミイラ処刑されたカリス王子の伝説を語り、カリス王子は処刑されたが、アナンカ王女の遺体を守るため高僧たちに太陽神の力でカリスのミイラはタナの葉による不死の力の力を得させられた(しかしアナンカ王女への愛は禁じられているので、カリスが触れるとアナンカ王女の遺骸は滅びる呪いがかけられている)、アナンカ王女の遺骸が盗掘された時に高僧がカリスを蘇らせるためにカリスの棺にはカリスを蘇生させりタナの葉が添えてある、と第1年依頼初めてカリスの棺に蘇生の鍵が副葬品として入っていた理由が説明されます。第5作、第1作から13年後にしてようやくミイラ蘇生の目的、ミイラの不死と呪いで禁じられたカリスがアナンカ王女に直接接触を禁じられた理由がはっきり説明されるというのは、それまであやふやに何となく「そういう話だから」で済ませていたのだけなのを映画会社も観客も気にせず、第5作で「そういやあれは変だよな」と説明を入れたとは、大らかな話という気がします。さて、ザンダブがラゲブに説明をおえタナの葉を焚いていると修道院の管理人(ウィリアム・ファーナム)が入ってきますが、蘇生したミイラはさっそく管理人を絞殺します。その間、工事途中の湿地から手が出て、アナンカ王女(ヴァージニア・クリスティン)は蘇り、池で泥だらけの身体を着衣のまま浴びて洗います。太陽神の力でアナンカ王女は若い女に戻ったようです。ケイジャン・ジョー(クルト・カッチ)はずぶ濡れの彼女を見つけ、ジョーに頼まれタント・ベルトは自分の店に泊めさせます。ベルトの店に向かう道すがら、アナンカは「カリス」と何度もつぶやきます。その晩さっそくカリスがアナンカをさらいにきて、ベルトを殺します。ハルゼー博士は現場監督パットの秘書で姪のベティ・ウォルシュ(ケイ・ハーディング)をドライヴに誘ってデート中、道に倒れているアナンカを見つけます。アナンカは記憶喪失ですが、ハルゼーの書類整理で専門家以上に古代エジプトの知識が豊富なのがわかり周囲を驚嘆させます。カリスの接近で知らずに再び精神不安定になったアナンカを世話していたクーパー医師(ホームズ・ハーバート)はカリスに殺され、姿を消したアナンカを世話ハルゼー博士たちは捜します。カリスに連れ去られたアナンカは、ばったり会ったケイジャン・ジョーをカリスが殺している隙にアナンカは逃げ出し、ベティに助けを求めに行きます。カリスはベティの部屋に来てベティはは襲われずに、ミイラはアナンカを連れ去ります。ベティはラゲブにハルゼー博士に応援を求める相談をします。ラゲブは直接ベティを修道院に連れて行きます。アナンカにすでにタナ葉溶液を施して(前作では禁断だったはずでは?)いたザンダブはラゲブが異教徒のベティに聖域に踏みこませたので激怒します。ザンダブはラゲブにベティを殺せと命令しますが、ラゲブはザンダブを刺殺します。ベティとアナンカ失踪を追ってきたハルゼー博士はラゲブが黒幕のザンダブを刺殺したのを知りますが、ラゲブは秘密を知ったハルゼー博士にも襲いかかります。そこにカリスが現れ、裏切り者ラゲブを角の監禁室に追い詰めます。カリスは部屋の壁を壊し、ラゲブとカリスは大量の瓦礫に完全に埋まります。ハルゼー博士、ベティと警官たちは、隣りの部屋にミイラ化したアナンカ王女の遺体を見つけます。
――本作はアメリカ人観客が観ると多少混乱するそうで、前作、前々作ではメープルトン市はマサチューセッツ州にあるとされていたのに、ケイジャン(フランス系アメリカ人)のタント・ベルトやケイジャン・ジョーが出て来て、ミイラ出現を報道する新聞が「バイヨー・タイムズ」となっていることから本作ではメープルトン市はケイジャンの住むルイジアナ州にあると推測できるので、確かに沼地の干拓工事というのもルイジアナ州の方が自然です。しかしスクリップス博物館は前作と同じ設定ですし、干拓工事がなされるのは前作でミイラ男とアナンカ王女になったアミーナが沈んだ沼なので、そこらへんはプログラム・ピクチャーらしい適当さというか、続編だけど少し変えてみようとメープルトン市をルイジアナ州に移してローカル・カラーを出そうとしたのでしょう。日本人観客が観るとケイジャン?バイヨー・タイムズ?とすぐには違和感を感じないのは得か損かわかりませんし、筆者もデータを調べていてその指摘に気づいたので前作の25年後なんだよな、というくらいで観て、本作のアナンカ王女は前作のアミーナとは別の女優なんだな、とか、本作はさすがにベティというヒロインを出して話を和らげたな、蘇ったアナンカ王女がまたミイラに戻るだけの話じゃあんまりだしな、と自然に観ていましたが、高僧を先輩のザンダブと後輩ラゲブの二人にして仲間割れ、さらにミイラが怒って仲間割れになる結末はやや唐突で、全体的には快調な作品だけに結末がばたばたして、しかもミイラがラゲブともども倒壊する建物の瓦礫に埋もれるのはモンスターの末期には物足りない感じがします。実際にはホラー映画としてのミイラ男シリーズは本作が終わりで、10年後にパロディ喜劇『凸凹ミイラ男の巻』'55が作られるだけですが、本作の結末ではすぐ続編が作られるんだろうな、と不完全燃焼感が強いのです。しかしあらすじ中にも書いたように、本作はミイラ男シリーズでもこれまであやふやだった設定を再確認する、ミイラ男シリーズの根幹のアイディアを明快に打ち出した作品で、その割には結末で仲間割れという身も蓋もないことになりますが、シリーズとしての一貫性がもっとも純一だったのはユニヴァーサル4大モンスター(ドラキュラ、フランケンシュタイン、ミイラ男、狼男)中ミイラ男が一番だったのを印象づける仕上がりになっています。時間経過からすると『ミイラの復活』から『ミイラの墓場』まで30年、その数年後の『執念のミイラ』から『ミイラの呪い』まで25年とほぼ60年が本作までに経過していることになり、すると『ミイラの復活』は1880年代後半の出来事で、ツタンカーメンの発掘(1921年)に先んじる考古学史上の矛盾も生じますが、娯楽映画ですから考古学者以外の方は目をつぶりましょう。最長8時間はかかったというロン・チェイニー・Jr.の全身布巻きメイクがたっぷり堪能できる点では『ミイラの墓場』より見せ場の多い『執念のミイラ』『ミイラの呪い』に分があり、ミイラ男のシリーズは1作ごとに特徴的な趣向もあって、なおかつ連続性もある好シリーズです。荒唐無稽すぎてちっとも怖くないのもユニヴァーサル・ホラーならではの愛嬌で、観客が悲鳴を上げ失神者まで出たという『オペラの怪人』'25の時代は今いずこ、の感もあります。