クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - ロイヤル・フェスティヴァル・ホールVol.1 Royal Festival Hall Vol.1 (Virgin, 1992) Full Album : https://youtu.be/hV6c06BmO2U
Track 1 was digitally recorded live during Klaus Schulze's performance at London's Royal Festival Hall on 10th September 1991, Track 2 recorded 1992 at Moldau Musikstudio.
Released by Virgin Records Venture CDVE916, November 9, 1992
Produced and all Composed by Klaus Schulze
(Tracklist)
1. Yen - 44:32
>>1. Out Of Limbo - 7:35
>>2. Pastorale: Awakening - 4:52
>>3. Lull Before The Storm - 1:21
>>4. Tempest - 2:42
>>5. Pastorale Too - 2:42
>>6. Pastorale And Departure - 5:23
>>7. Yearning - 7:27
>>8. Placid Yen - 5:31
>>9. The Breath Of Life - 2:51
>>10. Back To Limbo - 4:08
2. Silence And Sequence - 24:57
>>1. Perigee - 6:57
>>2. Gentle Wind - 4:57
>>3. Fire-Riser - 7:22
>>4. Clear Water - 5:41
[ Personnel ]
Klaus Schulze - electronics
*
(US. Virgin/Caroline "Royal Festival Hall Vol.1" CD Liner Label)
クラウス・シュルツェ24作目のアルバムは前々作『The Dresden Performance』'90に続くライヴ録音とスタジオ録音のカップリング作で、旧東ドイツの都市ドレスデンでの'89年のライヴに最新のスタジオ録音を併せた『The Dresden Performance』はCD2枚組でしたが、今回のアルバムは同日録音のイギリスのライヴと最新スタジオ録音をVol.1とVol.2に分けてリリースされました。Vol.2も発売日は同日のリリースですが、2枚組にせず2作に分けたのはそれぞれが異なるムードを持ったアルバムになっているからだと思われます。『Royal Festival Hall Vol.2』に続いては'92年のライヴと最新スタジオ録音を併せた『The Dome Event』'93が発表されるので(同作も1CDアルバムです)、『The Dresden Performance』と『Royal Festival Hall Vol.1』『Royal Festival Hall Vol.2』、『The Dome Event』は三部作とも四部作とも言える、'90年前後のシュルツェの爆発的な創作力を記録したものになっています。それにはシュルツェが本格的にCDメディアでのアルバム制作に転換したこともあり、'88年の『En=Trance』まではアナログLPでの2枚組を意識した、全4曲の各曲がLPの片面に収まる収録時間で制作されていました。『The Dresden Performance』でもスタジオ録音曲のみを収録してLPリリースも行っていたので、'70年代にアナログLPの収録時間ぎりぎりの片面30分まで使ってスタジオ録音アルバムを制作していたシュルツェですから、LPフォームを限界まで使った制作姿勢への固執がこの時期まで続いていたのでしょう。'80年の『...Live...』で自筆ライナーノーツに最初で最後のライヴ・アルバムと宣言していたのは、'75年から本格的にライヴ活動を行っていたシュルツェのライヴはスタジオ録音のLPとは違う、1曲40分~60分にもおよぶものだったので、『...Live...』でもスタジオ編集でLP2枚組の各面を30分以内に収めていたのが実際のシュルツェのライヴとは違うもので、ライヴ演奏とアルバム制作は異なるものであり、『...Live...』はあくまで例外的な企画のアルバムであることを強調したかったのだと思われます。'93年の10枚組ボックス・セット『Silver Edition』に続く『Historic Edition』'95(10枚組)、『Jubilee Edition』'97(25枚組)、それら3セットを集成・増補した2000年の『The Ultimate Edition』(50枚組)では、'70年代から'80年代の膨大な未発表曲のスタジオ録音、未発表曲のライヴ録音が収録され、LP収録時間には収まらない長さの演奏がほとんどを占めていました。
シュルツェが初めてライヴでソロ演奏を披露したのはアシュ・ラ・テンペルのメンバーとしてステージに立った'73年2月のパリでのコンサートで、アシュ・ラ・テンペルでの演奏とともにシュルツェのソロ演奏のコーナーが設けられ、50分におよぶ演奏で観客の大喝采を浴びたのが、まだシュルツェの個人名義のアルバムは『Irrlicht』'72だけしか発表されていなかったので、それまでのタンジェリン・ドリーム~アシュ・ラ・テンペルでのバンド・メンバーとしての活動からソロ活動に専念する自信に結びついたと、シュルツェ自身が発言しています。'96年に発売されたマニュエル・ゲッチング(アシュ・ラ・テンペル~アシュ・ラ)の発掘音源集『The Private Tapes』全6枚にもシュルツェ在籍時のアシュ・ラ・テンペルの未発表ライヴが収録され、最短でも1曲25分~最長55分にもおよぶ、多くは40分前後にも渡って演奏されている即興性の高い未発表曲で、シュルツェ自身のソロ演奏もライヴではLPフォームのアルバムには収まりきらない長さのものでした。スタジオ録音ではシュルツェはもっと凝縮した表現をアルバムに収めていたのですが、LP片面で収録時間限界の片面30分1曲を一貫して行っていたアーティストとしてシュルツェはロック系ミュージシャンでも例外的存在でしたし、後のボックス・セットや再発CDの未発表ボーナス・トラックでLPフォームの片面30分以内には収まらないスタジオ録音を'70年代の早くから行っていたのも明らかになりました。また、クラフトワークとは異なる方向性ながら、エレクトロニクス音楽として機材の発展がシュルツェの音楽をライヴでもより精緻なコントロールの利く、従来シュルツェが行ってきたスタジオ・ライヴ的な録音よりもさらに精度の高い演奏を可能にしたことが本作のライヴ・トラック「Yen」を聴いてもうかがわれます。本作はスタジオ録音の「Silence And Sequence」ともども'70年代の名作『Timewind』を思わせる暗鬱で静的なムードの音楽ですが、一聴して抽象性が高いように見えて実際はサンプリングされた男女の肉声や現実音が効果的に使用されており、また非常に細分化されたビートのリズム・トラックが用いられているのがドローン手法を主にした『Cyborg』'73や『Timewind』とは異なる発想の音楽にしており、全体のムードがサブリミナル的に'70年代シュルツェの音楽を想起させる仕上がりです。革新性ではロック系音楽にまったく前例のない作風を打ち立てた『Cyborg』や『Timewind』にはおよばないとも言えますが、'90年代の新作アルバムでそれら初期の名作に引けを取らない内容を作り上げた本作は、『The Dresden Performance』に続いてシュルツェの本気の実力を示す名作であり、より躍動感に富んだサウンドが聴ける『Royal Festival Hall Vol.2』とともに非常に充実したシュルツェ作品が聴けるアルバムです。特に『Timewind』との親近性が感じられる点では、シュルツェのリスナーとしては胸に迫るものがあります。
Track 1 was digitally recorded live during Klaus Schulze's performance at London's Royal Festival Hall on 10th September 1991, Track 2 recorded 1992 at Moldau Musikstudio.
Released by Virgin Records Venture CDVE916, November 9, 1992
Produced and all Composed by Klaus Schulze
(Tracklist)
1. Yen - 44:32
>>1. Out Of Limbo - 7:35
>>2. Pastorale: Awakening - 4:52
>>3. Lull Before The Storm - 1:21
>>4. Tempest - 2:42
>>5. Pastorale Too - 2:42
>>6. Pastorale And Departure - 5:23
>>7. Yearning - 7:27
>>8. Placid Yen - 5:31
>>9. The Breath Of Life - 2:51
>>10. Back To Limbo - 4:08
2. Silence And Sequence - 24:57
>>1. Perigee - 6:57
>>2. Gentle Wind - 4:57
>>3. Fire-Riser - 7:22
>>4. Clear Water - 5:41
[ Personnel ]
Klaus Schulze - electronics
*
(US. Virgin/Caroline "Royal Festival Hall Vol.1" CD Liner Label)
クラウス・シュルツェ24作目のアルバムは前々作『The Dresden Performance』'90に続くライヴ録音とスタジオ録音のカップリング作で、旧東ドイツの都市ドレスデンでの'89年のライヴに最新のスタジオ録音を併せた『The Dresden Performance』はCD2枚組でしたが、今回のアルバムは同日録音のイギリスのライヴと最新スタジオ録音をVol.1とVol.2に分けてリリースされました。Vol.2も発売日は同日のリリースですが、2枚組にせず2作に分けたのはそれぞれが異なるムードを持ったアルバムになっているからだと思われます。『Royal Festival Hall Vol.2』に続いては'92年のライヴと最新スタジオ録音を併せた『The Dome Event』'93が発表されるので(同作も1CDアルバムです)、『The Dresden Performance』と『Royal Festival Hall Vol.1』『Royal Festival Hall Vol.2』、『The Dome Event』は三部作とも四部作とも言える、'90年前後のシュルツェの爆発的な創作力を記録したものになっています。それにはシュルツェが本格的にCDメディアでのアルバム制作に転換したこともあり、'88年の『En=Trance』まではアナログLPでの2枚組を意識した、全4曲の各曲がLPの片面に収まる収録時間で制作されていました。『The Dresden Performance』でもスタジオ録音曲のみを収録してLPリリースも行っていたので、'70年代にアナログLPの収録時間ぎりぎりの片面30分まで使ってスタジオ録音アルバムを制作していたシュルツェですから、LPフォームを限界まで使った制作姿勢への固執がこの時期まで続いていたのでしょう。'80年の『...Live...』で自筆ライナーノーツに最初で最後のライヴ・アルバムと宣言していたのは、'75年から本格的にライヴ活動を行っていたシュルツェのライヴはスタジオ録音のLPとは違う、1曲40分~60分にもおよぶものだったので、『...Live...』でもスタジオ編集でLP2枚組の各面を30分以内に収めていたのが実際のシュルツェのライヴとは違うもので、ライヴ演奏とアルバム制作は異なるものであり、『...Live...』はあくまで例外的な企画のアルバムであることを強調したかったのだと思われます。'93年の10枚組ボックス・セット『Silver Edition』に続く『Historic Edition』'95(10枚組)、『Jubilee Edition』'97(25枚組)、それら3セットを集成・増補した2000年の『The Ultimate Edition』(50枚組)では、'70年代から'80年代の膨大な未発表曲のスタジオ録音、未発表曲のライヴ録音が収録され、LP収録時間には収まらない長さの演奏がほとんどを占めていました。
シュルツェが初めてライヴでソロ演奏を披露したのはアシュ・ラ・テンペルのメンバーとしてステージに立った'73年2月のパリでのコンサートで、アシュ・ラ・テンペルでの演奏とともにシュルツェのソロ演奏のコーナーが設けられ、50分におよぶ演奏で観客の大喝采を浴びたのが、まだシュルツェの個人名義のアルバムは『Irrlicht』'72だけしか発表されていなかったので、それまでのタンジェリン・ドリーム~アシュ・ラ・テンペルでのバンド・メンバーとしての活動からソロ活動に専念する自信に結びついたと、シュルツェ自身が発言しています。'96年に発売されたマニュエル・ゲッチング(アシュ・ラ・テンペル~アシュ・ラ)の発掘音源集『The Private Tapes』全6枚にもシュルツェ在籍時のアシュ・ラ・テンペルの未発表ライヴが収録され、最短でも1曲25分~最長55分にもおよぶ、多くは40分前後にも渡って演奏されている即興性の高い未発表曲で、シュルツェ自身のソロ演奏もライヴではLPフォームのアルバムには収まりきらない長さのものでした。スタジオ録音ではシュルツェはもっと凝縮した表現をアルバムに収めていたのですが、LP片面で収録時間限界の片面30分1曲を一貫して行っていたアーティストとしてシュルツェはロック系ミュージシャンでも例外的存在でしたし、後のボックス・セットや再発CDの未発表ボーナス・トラックでLPフォームの片面30分以内には収まらないスタジオ録音を'70年代の早くから行っていたのも明らかになりました。また、クラフトワークとは異なる方向性ながら、エレクトロニクス音楽として機材の発展がシュルツェの音楽をライヴでもより精緻なコントロールの利く、従来シュルツェが行ってきたスタジオ・ライヴ的な録音よりもさらに精度の高い演奏を可能にしたことが本作のライヴ・トラック「Yen」を聴いてもうかがわれます。本作はスタジオ録音の「Silence And Sequence」ともども'70年代の名作『Timewind』を思わせる暗鬱で静的なムードの音楽ですが、一聴して抽象性が高いように見えて実際はサンプリングされた男女の肉声や現実音が効果的に使用されており、また非常に細分化されたビートのリズム・トラックが用いられているのがドローン手法を主にした『Cyborg』'73や『Timewind』とは異なる発想の音楽にしており、全体のムードがサブリミナル的に'70年代シュルツェの音楽を想起させる仕上がりです。革新性ではロック系音楽にまったく前例のない作風を打ち立てた『Cyborg』や『Timewind』にはおよばないとも言えますが、'90年代の新作アルバムでそれら初期の名作に引けを取らない内容を作り上げた本作は、『The Dresden Performance』に続いてシュルツェの本気の実力を示す名作であり、より躍動感に富んだサウンドが聴ける『Royal Festival Hall Vol.2』とともに非常に充実したシュルツェ作品が聴けるアルバムです。特に『Timewind』との親近性が感じられる点では、シュルツェのリスナーとしては胸に迫るものがあります。