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クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - オーデンティティ Audentity (IC, 1983)

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クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - オーデンティティ Audentity (IC, 1983)
Recorded at Klaus Schulze Studio, Hambuhren, Winter 1982/83
Released by Innovative Communication ‎KS 80025-26, February 1, 1983
Produced and Composed by Klaus Schulze
(Side 1)
A1. Cellistica : https://youtu.be/QGfcPT5qdS8 - 24:30
(Side 2)
B1/2/3. Tango-Saty/Amourage/Opheylissem : https://youtu.be/yGCjl4r-hPs : https://youtu.be/v8TEJi0bgfE : https://youtu.be/YySsx_JEeqc - 21:31
(Side 3)
C1. Spielglocken : https://youtu.be/fcBs8qAPLfE - 21:00
(Side 4)
D1. Sebastian Im Traum : https://youtu.be/CLyQR8iOBOM - 31:54 (KSYMEnsemble Cover)
(SPV CD Bonus Track)
5. Gem : https://youtu.be/OaJZfetnFt0 - 58:10
[ Personnel ]
Klaus Schulze - electronics
Rainer Bloss - keyboards
Wolfgang Tiepold - cello
Michael Shrieve - percussion

(Original Innovative Communication "Audintity" LP Liner Cover)

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 アルバム全編の音源リンクを引けないのは残念ですが(各曲のタイム表記はオリジナルの2枚組LP時の分数で、A1のリンクは不完全版ですし、B1はCD化の際に3部に分割されたもので、D1はKSYME=クラウス・シュルツェ・ユース・ミュージック・アンサンブルによる室内楽版アレンジによりカヴァー・ヴァージョンです)、本作は前作『トランスファー』'81にも全面参加していたウォルフガング・ティーポルド(チェロ)、マイケル・シュリーヴ(パーカッション)に、本作からしばしば共作名義で共演することになるライナー・ブロス(キーボード)を迎えた4人編成で、2年ぶりのアルバムとなったのはシュルツェのソロ作品では初のインターヴァルですが、これほど非商業的な音楽でなかったらレギュラー・プロジェクトとしてもっと続けて欲しかったと惜しまれる一体感のあるアンサンブルが聴ける充実したアルバムです。シュルツェ作品の高い水準の中でも傑作と呼べるものですが、'70年代の数々の名作のような華よりぐっと渋い内容なので、特に『ムーンドーン』'76から2作の『ボディ・ラヴ』、『ミラージュ』'77や『X』'78にいたるアルバムの高揚感が『デューン』'79、『ライヴ』'80までで維持されていたのが、デジタル化を宣言した『ディグ・イット』'80で一気に冷たい感触になってしまった。完全な個人制作のアルバムだった同作からティーポルドとシュリーヴの参加を得て躍動感を取り戻したのが『トランスファー』で、機材の完全デジタル化によって陥りかけた閉鎖的な自己完結性に共演ミュージシャンから得た活力で良いアルバムになりましたが、即座に次のアルバムとはならなかったようです。オリジナルでは2枚組LPで各面1曲ずつ・全4曲だった本作は初回盤はシュルツェ自身の自主レーベル、ICで、'84年に古巣のブレイン・レーベルから再発売され、CD化の際はまずB1が3部構成から3曲に分割され、さらにSPV版決定版CD化の際にはディスク1が「Cellistica」「Spielglocken」「Sebastian im Traum」、ディスク2が3曲分割された「Tango-Saty」「Amourage」「Opheylissem」とボーナス・トラックの「Gem」という構成になりました。
 アルバム・タイトルの『Audentity』とはAudioとIdentityの合成語で、本作のテーマは20世紀初頭のドイツの象徴主義~表現主義詩人ゲオルグ・トラークル(1887-1914)の遺稿詩集『夢の中のセバスチャン (Sebastian im Traum)』'14の表題詩から採られています。サイド1はセバスチャンの幼年期の内面、サイド2はセバスチャンの精神的変転、サイド3は成年に達したセバスチャン、そしてサイド4で過去と未来、可能性と行き詰まりが一斉にセバスチャンの中で崩れ落ちる(融合する)様子が描かれる、とされています。A1はライナー・ブロスのピアノのシュルツェにはない感覚のモーダル・ジャズ由来のブロック・コードに、ティーポルドがこれまでシュルツェのアルバムでは試みていなかったチェロのピチカート奏法で絡んで始まり、シュルツェのシンセサイザーとシュリーヴのパーカッションが加わると16ビートのテクノ・ファンクになりますが脳波は踊るのに体は踊れないこの曲の16ビートは異様です。B面曲は本来3部構成の1曲ですがCD化の際分割されたように3曲に分けると、B1は表題通りのテクノ・タンゴ、B2はノン・ビートのラプソディー、B3はA面とは異なるコンパクトなテクノ・ファンクで、これは一種の循環気質を楽曲構成に反映させたものでしょう。C1はシュルツェの楽曲としてはもっとも平易な曲想を持つ8ビートのアンビエント・テクノですが、アルバム全体の総括と言えるD1は参加メンバーの多彩な音楽的背景を生かした、シュルツェの楽曲でもかつてないほど現代音楽的アンサンブルを聴ける曲になっています。こうした現代音楽的楽曲は『サイボーグ』以来と言えるもので、しかも本作のD1でのブロスとティーポルドはシュルツェの設定した枠組みにとどまらないほどのアカデミックな素養を見せつける演奏ですし、シュリーヴのパーカッションはグロッケン等の音階打楽器をも含む旋律・和声的アプローチを駆使したもので、アルバムの核心となる楽曲がこのD1であるため本作はシュルツェの傑作になってもいますし、従来路線の延長線上に『トランスファー』からさらに充実した快調な内容のサイド1~サイド3がサイド4で一転して難解・重厚になる印象も否めず、結果的に音楽性も高いが敷居の高い、渋いアルバムという位置づけになります。シュルツェのように一貫して高いレベルで音楽的キャリアを築いてきたアーティストはキャリア上の飽和状態に直面する場合が多々あり、その場合比較対象がかつての自分自身のキャリアであるという困難があります。本作は当然シュルツェがこれまで作り出してきた音楽の上に積み上げられたアルバムだけに音楽的な渋さが間口の狭さ、華の乏しさと見える側面があり、ファースト・チョイスには向かないアルバムとも言え、LP時代の日本盤もAB面のみのシングル・アルバムとしてニューエイジ・ミュージック扱いの発売でした。一応AB面だけでも『トランスファー』と並ぶ好作と聴くことはできますが、2枚組LP全4面にシュルツェが託したコンセプトは霧消してしまいます。'80年代とはシュルツェのような大作指向のアーティストがそうした困難に直面した時代でもありました。

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