Image may be NSFW.
Clik here to view.
◎第1集『望郷』'37,『どん底』'36,『陽は昇る』'39,『獣人』'38,『愛情の瞬間』'52,『港のマリィ』'50,『夜霧の港』'42,『ラインの処女号』'53,『逃亡者』'44,『面の皮をはげ』'47
◎第2集『大いなる幻影』'37,『我等の仲間』'36,『霧の波止場』'38,『夜は我がもの』'51,『地の果てを行く』'35,『曳き船』'41,『鉄格子の彼方』'49,『狂恋』'46,『珊瑚礁』'39,『ゴルゴダの丘』'35
◎第3集『快楽』'52,『愛慾』'37,『白き処女地』'34,『メッセンジャー』'37,『彼らの最後の夜』'53,『ベベ・ドンジュについての真実』'52,『ヴィクトル』'51,『リラの心』'32,『トンネル』'33,『はだかの女王』'34
Image may be NSFW.
Clik here to view.
『リラの心』Coeur de lilas
84分 モノクロ 1932年3月(仏)/日本未公開
監督 : アナトール・リトヴァク
出演 : マルセル・ロメ、アンドレ・リュゲ
中年男の他殺体が発見され、警察は現場に落ちていた手がかりから犯人はリラという娼婦と断定した。捜査をしていた刑事はやがてリラと愛し合うようになるが…。J・ギャバンは情夫役として存在感を示している。
Image may be NSFW.
Clik here to view.
殺人現場に有名な美人娼婦リラ(マルセル・ロメ)の手袋が落ちていたこと以外に手がかりはなく、映画はその後リラの側から愛人のやくざマルトゥス(ジャン・ギャバン)と暮らすリラの日常と、カフェで出会った男(アンドレ・リュゲ)との恋を描いて行きますが、この男は意図的に近づいてきた刑事で次第にリラを愛するようになってしまう。映画は真犯人の判明・逮捕で幕切れになりますが切ない余韻を残す映画で、実はギャバン主演とは言えない映画ですが「ゴムみたいな女」という歌を溜まり場でフルコーラス歌うシーンがあり、後年もギャバンの歌は定評がありましたがこんな初期から歌っていたのかと感心します。ジョン・ウェイン(1907-1979)もB級西部劇役者だった'30年代には映画で歌っていましたがウェインは後年ほとんど歌わなくなったのを思いあわせ、歌える俳優というのもトーキー初期には重宝だったでしょう。本作のパリは外景はほとんどロケなのもあってか同時期のルネ・クレールの完全セットのパリ連作とはまるで質感が異なり、クレール映画のレトロ・モダンなパリは本当にセット美術と撮影による虚構のパリだったんだなあと痛感しました。本作のパリの下町は言われなければ、いや言われてもクレール作品と同じパリとは思えないほどで、殺人現場の野次馬やギャバンが出入りする溜まり場や盛り場の人々も演技の質感、存在感がまるで違う。ルネ・クレールはあれでいいのですがクレールの映画は古びやすい、飽きがくる人工性がどうしてもあって、映画全体がクレールの個人的なファンタジーにとどまる限界も感じます。対して観るまでまったく予想もしませんでしたがリトヴァクの本作は現実に向かって開けていて、映画の中の人物たちが配役された演技以上に実在感があり、映画という虚構のものだけれど現実の世界から切り取ってきた生々しい感触があって、'32年のパリの下町というのはその後のことです。リトヴァクの映画は偶然でもないと観る機会がないので、こういう佳作があるとは意外でもあり、またしみじみ観て良かったと思える作品です。本作の主演女優マルセル・ロメは病気を苦に'32年の年末、セーヌ川に入水自殺したそうですが、本作のロメのはかない、疲れたような娼婦役は私生活上の苦しみが反映していたとしたら痛々しさを感じないではいられません。
●4月2日(月)
『トンネル』Le Tunnel
72分 モノクロ 1933年11月(仏)/日本未公開
監督 : カーティス・バーンハート
出演 : マドレーヌ・ルノー
ヨーロッパとアメリカを海底トンネルで結ぶ計画が実行に移された。エンジニアのマック・アランは現場の監督として陣頭指揮に立つが、浸水事故や仲間のサボタージュで工事は難航してしまう……。
Image may be NSFW.
Clik here to view.
先の『リラの心』'32.3はジャン・ギャバン出演の長編映画7作目、'33年11月公開の本作は14作目で、喜劇映画ではなく助演や準主演でもなくシリアス映画の主演作ですからギャバンも認められてきたということですが、いかんせん本作は何をやりたいんだかわからないような映画の主演を引き受けてしまった観があります。本作も日本未公開、世界初DVD化の珍しい作品ですが、佳作『リラの心』と違って珍品にとどまる内容の映画で、10枚組廉価版DVDボックス『ジャン・ギャバンの世界』第3集収録作品だからこそというか、本作単品で映像ソフト化はまずあり得ないだろうと思われます。映画はアメリカとフランスの大企業が提携して立ち上げた大西洋(中略)トンネル建設プロジェクトの話から壮大に始まりますが、それが建築技師ギャバンに視点が移ると長期間のプロジェクトに参加したら家庭はどうなるのという奥さん役のルノーとの家庭問題の話が延々続き、そのうち浸水事故や落盤事故ではかどらない工事から現場の工夫たちが一斉ストライキを起こしてにっちもさっちもいかなくなりプロジェクト主任の企業家の自殺、意を決して陣頭指揮を執るギャバン……といううちに15年が過ぎ、ようやく腕一本通る穴がフランス側とアメリカ側の間に開いてアメリカ側のギャバンがフランス側のリーダーと握手を交わします。工夫たち拍手喝采。感想を訊かれて「あれほどの多くの犠牲を出していなければもっと素直に喜べるのだが……」とギャバン。何だかうんうん、その通りだと思えるのは、70分あまりに渡って本作を観てきたこちらの心境も結局この映画って何だったんだとすっかり匙を投げる思いなので、ギャバンの台詞は「もうちょっとましな映画だったら素直に喜べるのだが……」と聞こえてくるわけです。結構セットも凝ってるしエキストラも多いのに、何でしょうかこの映画は。何だか年度末調整という言葉まで浮かんでくるようです。
●4月3日(火)
『はだかの女王』(戦後改題『琥珀の舞姫』)Zouzou
92分 モノクロ 1934年12月(仏)/日本公開1935年12月(戦後再公開年月不明)
監督:マルク・アレグレ
出演:ジョセフィン・ベイカー
ジャンとズーズーは孤児で、旅芸人に兄妹のように育てられた。ズーズーはジャンを恋人のように慕うが、ジャンは彼女を妹扱いだ。ある日主役の代役としてズーズーはステージに立つが……。フランス流ミュージカルの傑作。
Image may be NSFW.
Clik here to view.
Image may be NSFW.
Clik here to view.
で、ここまではまるごと序盤ですからミュージック・ホールの踊り子兼歌手ベーカーが出てきてからは典型的なアイドル映画です。仲間の踊り子たちからも人気者のベーカー、愛称ズズ(字幕スーパーはズーズーとしていますしZouzouの綴りだとそうしたくなりますが、映画の中では誰もが長音をつけず「ズズ」と呼んでいます)はひさしぶりのジャンとの再会を喜び、ジャンが次の出航までホールの照明係を勤める世話をします。ズズはジャンが自慢で、自分では兄妹として育って今では恋人の感情になっているジャンにとっても自分を恋人と思ってくれているに違いない、と思いこんで仲間の踊り子たちとはしゃぎ、特に親友の踊り子には恋の成就を祝福されます。張りきった気分から芸に磨きがかかってズズを主役にしたショーが組まれ、一方照明係になったジャンはモテモテで、ベーカーのショー・チューンが何度も挟まれながら人気の上昇が描かれ、公演が100回目を迎えた時ミュージック・ホールの入口に立っているジャンにズズが駆け寄ろうとするとジャンの隣に親友の踊り子の姿が現れてジャンと踊り子は抱擁しあい熱いキスをします。足を止めて自分の特大ポスターが壁ぞいにずっと貼られた道を引き返すベーカーの姿で映画は終わります。本作は美術がラザール・メールソン(1900-1938)とアレクサンドル・トローネル(1906-1993)共同で、メールソンは『イタリア麦の帽子』'28から『巴里の屋根の下』'30を経て『自由を我等に』'32に至るまでルネ・クレール映画の美術監督で、『自由を我等に』ではトローネルが助手につき、以後トローネルはメールソンに師事し、ジャック・フェデーの『女だけの都』'35を経てメールソン没後も『霧の波止場』'38以降『天井桟敷の人々』'44、『愛人ジュリエット』'50までのほとんどのマルセル・カルネ作品の美術監督を勤め、ハリウッド進出後にはビリー・ワイルダーの『昼下がりの情事』'56、『アパートの鍵貸します』'60から『悲愁』'77までほとんどのワイルダー作品、フランスに戻ってはリュック・ベッソンの『サブウェイ』'84、ベルトラン・タヴェルニエの『ラウンド・ミッドナイト』'85まで美術監督を勤めた人です。本作のギャバンも十分魅力的なのですが、まあギャバンでなくてもいいような役であるのは確かで、ギャバンにとっては本作の次に日本公開された『白き処女地』'34.12(日本公開1936年2月)で注目される新人俳優になりました。ちなみにベーカーの歌は非常に白人的で、ベーカーは'37年にフランスに帰化しますが、当時のアメリカの白人リスナー・黒人リスナーの好みを思うと何となくわかるような気がします。ミュージカル映画というよりもアイドル歌手ベーカーの音楽映画として楽しむべき作品でしょう。それにギャバンの相手役、メールソン=トローネルの美術と贅を凝らした分を思えばこれはこれで儲けものというものです。