Recorded at Regent Sound Studios, NYC, July 23 , 1969
Released by Atlantic Records
[ Personnel ]
Roland Kirk - tenor saxophone, manzello, stritch, clarinet, flute, nose flute, whistle, voice, Stylophone
Dick Griffin - trombone
Ron Burton - piano
Vernon Martin - bass
Sonny Brown - drums
Joseph "Habao" Texidor - tambourine
The Roland Kirk Spirit Choir - vocals
前作『The Inflated Tears (邦題『溢れ出る涙』)』'68('67年11月録音)で'67年7月に逝去したジョン・コルトレーンを筆頭に亡きジャズの先人たちを深く追悼したローランド・カークの、ローランド・カーク名義最後のアルバム(次作『Rahsaan Rahsaan』'70からラサーン・ローランド・カーク名義に改名、「わしの名前を盗みおって」とサン・ラを憤慨させます)。旧LPのA面はスタジオ録音、B面は'68年ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルでの熱狂的ライヴですが、スティーヴィー・ワンダーの最新ヒット曲「My Cherie Amour」、ディオンヌ・ワーウィックが'67年に全米No.4、アレサ・フランクリンが'68年に全米No.10にチャート・インさせたバート・バカラック作の名曲「小さな願い」とポップ・ヒットを2曲もジャズ・カヴァーしているのがA面のスタジオ・サイドの特色で、B面のライヴ・サイドでは「A Tribute To John Coltrane」としてコルトレーンのレパートリー3曲のメドレーがあるばかりか「小さな願い」でも中盤以降のソロではコルトレーンの『A Love Supreme (『至上の愛』)』'65(録音'64年12月)から「Part 1」「Part 2」のテーマを織り込みコルトレーン・フレーズ連発のコルトレーン大会がカークの意気込みを感じさせるカーク史上の重要作ですが、10年後にはカークも故人になってしまうのでした。
バカラックのこの曲はカークのアレンジ以前にもともと変拍子で、ディオンヌとアレサのヴァージョンを聴いてもわかります。ヴァース部は10/4拍子(4/4小節+2/4小節+4/4小節)を2回に4/4を2小節、コーラス(サビ)は倍テンポで11/4拍子(4/4小節+3/4小節+4/4小節)が2回、とポップな歌メロとキャッチーなコード進行なのにやたら凝っていて、'30年代にコール・ポーターがいたなら'60年代にはヘンリー・マンシーニとバカラックがいた、と白人アメリカン・ポップスの底力を見る思いがします。まったく黒人らしくない唱法のディオンヌがバカラックのオリジナル歌手なのも興味深く、真っ黒けのアレサのヴァージョンを聴くと歌手の格、深みではアレサの前ではディオンヌはまるで小娘なのですが、かといって優劣は決めがたいのが歌の世界の面白いところ。カークがカヴァーしたのはアレサがカヴァーしてアトランティックが版権を取得できたからでしょうが、カークのヴァージョンがあえてアレサのヴァージョンよりディオンヌのオリジナルに基づいているのも、ディオンヌのヴァージョンが「白い」ポップスだったからこそジャズ化のやりがいがあったのだろうと思われるのです。