Recorded in NYC, March 13, 1961
[ Personnel ]
Julian "Cannonball" Adderley - alto saxophone
Bill Evans - piano
Percy Heath - bass
Connie Kay - drums
ビル・エヴァンスのオリジナル名曲「Waltz For Debby」はピアノ・ヴァージョンか歌詞のつけられたヴォーカル・カヴァーが多いジャズマン・オリジナル・スタンダードになりましたが、元はと言えばビル・エヴァンス(1929-1980)、27歳のデビュー・アルバムで1分50秒のソロ・ピアノ小品として発表された曲でした。20代のエヴァンスは地味な御用ピアニストとしてちまちまとセッション・ミュージシャンをしていた下積み時代が続き、脚光を浴びたのはマイルス・デイヴィスのバンドにレッド・ガーランドの後任者として初の白人ピアニストとして迎えられた'58年春からです。エヴァンスの加入はマイルスを黒人ジャズのリーダーと崇めていたジャズのマニアから黒人白人問わずバッシングされ、在籍は半年しか続かず黒人ピアニストのウィントン・ケリーに交代しました。エヴァンスはライヴでは実力の一端しか発揮できず在籍中にアルバム制作はなく「あのバンドは超人集団だった」と脱退後に洩らしています。メンバーはマイルスにアルトサックスがキャノンボール・アダレイ、テナーサックスがジョン・コルトレーン、ベースがポール・チェンバース、ドラムスがフィリー・ジョー・ジョーンズでした。最年長で大ヴェテランのガーランドですら着いて行けず辞めたので、白人のエヴァンスとは口もきいてくれないメンバーすらいたそうです。リーダーのマイルスには「実力で雇ったんだから気にするな」と言われ、フィリー・ジョーとは最晩年まで共演する友人になり、ソロ契約先のリヴァーサイドでもチェンバースとフィリー・ジョーとのトリオでよく組んで、アダレイとは一緒にアルバムを作っていますから口をきいてくれなかったのは誰かすぐにわかりますが、コルトレーンの伝記によるとエヴァンスが楽屋で東洋思想の本を読んでいてコルトレーンもちょうど同じ本を読んでいたので語りあったとありますからわかりません。ただしコルトレーンはこのマイルスのバンドのメンバー中唯一自分のアルバムでは黒人以外のジャズマンとは共演しなかった人でした。
エヴァンスが「Waltz For Debby」をバンド編成で初めてレコーディングしたのは有名なライヴ盤よりもキャノンボール・アダレイとの共演アルバムが先になります。すでにエヴァンスはラファロとモティアンとのレギュラー・トリオで活動していましたが、アダレイとの録音ではベースとドラムスはエヴァンスを可愛がっていたジョン・ルイス(ピアノ)率いるMJQの名手パーシー・ヒースとコニー・ケイでした。アダレイはパーカーの急逝と入れ替わるようにデビューしたアルトサックスの麒麟児で、マイルスのバンドでも強烈にスウィングしてコルトレーンをたじろがせるほどでしたが、この共演アルバムでは艶やかなトーンはそのままに繊細で歌心にあふれた優しい演奏を聴かせてくれます。「大砲(Cannonball)」というニックネームにしてこの演奏です。本人も照れていたらしく、アルバム・タイトルで「わかるかなあ?(Know What I Mean ?)」ととぼけています。せっかくですからエヴァンス最初のソロ・ピアノ版、有名なライヴのトリオ演奏版、ヨーロッパ・ツアー時にスウェーデンの美人歌手と共演したヴォーカル版も上げておきましょう。