アイアン・バタフライ Iron Butterfly with Mike Pinera and El Rhino - 変身 Metamorphosis (Atco, 1970) Full Album : https://youtu.be/LXbau4caNyY
Recorded at American Recording Company, Studio City, Los Angeles in May-July 1970
Released by ATCO Records SD33-339, August 13, 1970 / US#16(Billboard)
Produced by Richard Podolor
All tracks written by the 5 men in the band, except where noted.
(Side One)
1. Free Flight - 0:40
2. New Day - 3:08
3. Shady Lady (lyrics - Robert Woods Edmonson) - 3:50
4. Best Years of Our Life - 3:55
5. Slower Than Guns" (lyrics - Robert Woods Edmonson) - 3:37
6. Stone Believer - 5:20
(Side Two)
1. Soldier in Our Town (lyrics - Robert Woods Edmonson) - 3:10
2. Easy Rider (Let the Wind Pay the Way) (lyrics - Robert Woods Edmonson) - 3:06
3. Butterfly Bleu - 14:03
[ Iron Butterfly ]
Doug Ingle - organ, lead vocals (A2, A3, A5, A6, B1, B2)
Lee Dorman - bass
Ron Bushy - drums
[ Additional musicians ]
Mike Pinera - guitar, lead vocals (A2, A4, A6, B3)
Larry "Rhino" Reinhardt - guitar
Richard Podolor - sitar, twelve-string guitar
Bill Cooper - twelve-string guitar
*
(Original ATCO "Metamorphosis" LP Liner Cover)
バタフライ黄金時代というべき『In-A-Gada-Da-Vida』'68.6(全米4位、年間アルバム・チャート1位)、『Ball』'69.1(全米3位)、『Live』'70.4('69年5月収録・全米20位)の時期にメンバーだったギタリストのエリック・ブラン(1950-2003)がハード・ロック指向のために'69年12月に脱退し、オーディションの結果ギターにマイク・ピネラ(1948-)とライノ・ラインハルト(1948-2012)が加入したバタフライのラスト・アルバム。この2ギター・5人編成のバタフライは発掘ライヴCD2点、発掘ライヴ映像2点で視聴することができますが、全米4位のヒット曲「Ride Captain Ride」を持つ元ブルース・イメージのリーダーでギター&ヴォーカルだったピネラ(後に女性スーパー・ギタリストのエイプリル・ロートン、元ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのミッチ・ミッチェルとラマタムを結成、ニュー・カクタス・バンドのリーダーになり再結成カクタスにも参加)、オールマン・ブラザース・バンド参加前のディッキー・ベッツのバンド、セカンド・カミングのベーシストからベッツ脱退後ギタリストに転向して頭角を現し、バタフライ解散後の'71年には元バタフライのリー・ドーマン、元ディープ・パープル(初代ヴォーカル)のロッド・エヴァンズ、元ジョニー・ウィンター・グループの強力ドラマー、ボビー・コールドウェル(後に元ヤードバーズのキース・レルフが結成した伝説的バンドのアルマゲドン、リンゴ・スター、ジョージ・ハリソン、エリック・クラプトンのツアー・バンド、アルバムに参加)とキャプテン・ビヨンドを結成することになるライノの2人があまりに凄腕だったためにバタフライが乗っ取られたアルバムになっています。
ピネラのヴォーカルはダグ・イングルの唱法に似せてあり、またイングルもピネラを意識した歌い方をしているので2リード・ヴォーカル違和感がなくライヴ映像を観ないと1曲の中で交互に歌い分けているのがわからないほどです。ピネラとライノの2ギターの絡みも完璧でこれ以上のものはデヴィッド・ボウイの『Station To Station』'76のカルロス・アロマーとアール・スリック、マイルス・デイヴィスの『Agharta』『Pangaea』'75のピート・コージーとレジー・ルーカス、オールマン・ブラザース・バンドのデュアン・オールマンとディッキー・ベッツの2ギター・アンサンブルくらいしか思いつきませんが、ゴーハム&ロバートソン時代のシン・リジィ、ムーディー&マースデン時代のホワイトスネイク、またグレイトフル・デッドやウィッシュボーン・アッシュ、テレヴィジョンらに匹敵するものでしょう。時代的にも人脈的にもピネラ&ライノが意識していたのはオールマン・ブラザース・バンドだと思いますが、オールマンは夭逝のギタリスト、デュアンばかりが伝説化しているもののバンドの総合力の高さ自体が卓越しているので、デュアンの弟のヴォーカル&キーボードのグレッグ作の代表曲「Dreams」「Whipping Post」に劣らない人気曲で名曲「In Memory of Elizabeth Reed」はベッツ作曲ですし、デュアンとベッツが一糸乱れないギター・アンサンブルを披露していた当時のオールマンはデッドやザッパすら凌ぎ、ストーンズと並んでロック史上最高の高い音楽性と実力を誇るバンドでした。オールマンに較べればツェッペリンやパープル、イエスやクリムゾンなど大人と子供の差があります。
*
(Original ATCO "Metamorphosis" LP Gatefold Inner Cover & Side One Label)
そういう事情でもともと音楽的な骨格が弱かったバタフライは、一気にリズム&ブルースがベースの骨太な'70年代型ハード・ロック・バンドになりました。脱退したブランは悔しかったと思いますが、ブランの場合は黒人音楽の素養は乏しかったのでハード路線でも『Ball』のようなプログレッシヴ・ロック系のハード・ロックになってしまったのです。ベースのドーマンの指向でモータウン系黒人ポップスのリズム・アレンジが入ってきたのは『In-A-Gada-Da-Vida』LPではA面の5曲で萌芽がありました。しかし大曲「In-A-Gada-Da-Vida」はサイケデリックなオルガン・ロックのプログレッシヴ・ロックだったため同曲の路線でほぼ全編を通した『Ball』は力作ながらやや平坦な出来になりました。結局それはギタリストがブランだったからでもありますが、ピネラとライノというブルース・ロックをたっぷりやってきた凄腕ギタリストががっぷり組んだ本作ではアーシーなブルース系ハード・ロックにサイケデリックなプログレッシヴ・ロック路線も組み込んだ、もうバタフライだか何だかわからないような、プログレッシヴ・ハード・ロックの秘宝ラマタムやキャプテン・ビヨンドのプロトタイプのようなサウンドに一気に行ってしまいました。A1の短いギター・インスト曲に続くA2は4/4+2/4の変拍子によるソウル系リズムのプログレッシヴ・ハード・ロックですし、フォーキーなバラードB1以外の曲はほとんどそうです。そしてアルバム最終曲B3はピネラの独壇場で、オーソドックスなスロウなブルース・ロック風にヴォーカル・パートが終わると端正でテクニカルかつ情感溢れるライノのソロになり、ベースとドラムをフィーチャーしたパートを挟んで6分目からは2ギターが妖しく絡みあってジャーマン・ロック(アモン・デュールIIとか)のようになり、9分目~12分目まではピネラのギターとヴォーカリゼーションによる無伴奏ソロになります。この曲はアルバムでは14分ですがライヴでは24分(ブラン在籍時に17分だった「In-A-Gada-Da-Vida」もこの5人編成のライヴでは24分を越えます)になるように、開発されたばかりのギター・ヴォイス・モジュレーターの使用が聴かれます。11分台がそうで、これはギターアンプから延びたチューブを口腔に咥えて、ギターのサウンドを口腔内に反射させ人声のように変化させるためのエフェクターで(音声はギタリストがヴォーカル・マイクに向かって拾います)、シンセサイザーによるヴォイス・モジュレーターの開発によって'70年代末には廃れました。使用法が難しすぎる(奏者が口腔を操作しなければならない)ばかりか確実性に欠け、しかもライヴで使うとヴィジュアル的にかっこ悪い欠陥エフェクターだったのですが(アルバムでもジェフ・ベックの『ギター殺人者の凱旋』'75、コスモス・ファクトリーの『ブラック・ホール』'76など僅かな成功例しかありません)、アルバムでは短いですがライヴ映像を観るとピネラのギター・ヴォイス・モジュレーター奏法の巧みさはベック・ボガート&アピス時代のジェフ・ベックを凌いでこの欠陥エフェクターを使いこなしたトップ・クラスのギタリストでしょう。もうひとりのギタリスト、ライノ・ラインハルトも驚異の変拍子プログレッシヴ・ハード・ロック・バンドのキャプテン・ビヨンドの創設メンバーになるだけあり、しかもピネラがベック系のアイディア豊富でトリッキーなテクニシャンとすればライノはクラプトン系のメカニカルな正確さとギターに歌わせる表現力の両方に長けたテクニシャンです。
しかもこの、ピネラ大活躍のアルバム最大のハイライト曲「Butterfly Bleu」にはバタフライの本来のリーダー、ダグ・イングルの見せ場はまったくなく、本作ではこれまでのように単一のオルガン(ファルファッサ社かヴォックス社の電気オルガンで、ハモンド社の電気オルガンではないでしょう)だけではなく数社の電気オルガン、電気ピアノを同時使用していますが、Atco時代のオリジナル・バタフライのアルバム5作でイングルがもっとも生彩に欠けるのも本作なのです。イングルはバタフライ解散後、リーダーだったにもかかわらずメンバーのうち唯一ほとんど音楽活動から身を退いてしまい、本作直後のバタフライのラスト・ツアーがヨーロッパ諸国で好評だったことから10年後の1979年~1981年に『Metamorphosis』のメンバー(ただしツアー直前ドーマンの尊父が急逝して喪主を務めたためベースは新メンバー)でヨーロッパ巡業の再結成ツアーが行われた折に参加した程度でした。バタフライがブランとビュッシーによって'75年に再結成、アルバム2作を制作した時もドーマンはキャプテン・ビヨンドがあり不参加でしたが、特に音楽活動をしていなかったイングルもブランとビュッシーの再結成バタフライには参加しなかったのです。イングルはカリスマはおろかオリジナリティ、テクニック、イマジネーションのいずれにも限界のあるミュージシャンでしたが、イングルのぎこちない不器用さこそがバタフライの個性でした。それはピネラとライノというスーパー・ギタリストを迎えて優れたロック・アルバムの制作には成功しましたが、バタフライの個性は霧消してしまったことにも表れているのです。
Recorded at American Recording Company, Studio City, Los Angeles in May-July 1970
Released by ATCO Records SD33-339, August 13, 1970 / US#16(Billboard)
Produced by Richard Podolor
All tracks written by the 5 men in the band, except where noted.
(Side One)
1. Free Flight - 0:40
2. New Day - 3:08
3. Shady Lady (lyrics - Robert Woods Edmonson) - 3:50
4. Best Years of Our Life - 3:55
5. Slower Than Guns" (lyrics - Robert Woods Edmonson) - 3:37
6. Stone Believer - 5:20
(Side Two)
1. Soldier in Our Town (lyrics - Robert Woods Edmonson) - 3:10
2. Easy Rider (Let the Wind Pay the Way) (lyrics - Robert Woods Edmonson) - 3:06
3. Butterfly Bleu - 14:03
[ Iron Butterfly ]
Doug Ingle - organ, lead vocals (A2, A3, A5, A6, B1, B2)
Lee Dorman - bass
Ron Bushy - drums
[ Additional musicians ]
Mike Pinera - guitar, lead vocals (A2, A4, A6, B3)
Larry "Rhino" Reinhardt - guitar
Richard Podolor - sitar, twelve-string guitar
Bill Cooper - twelve-string guitar
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(Original ATCO "Metamorphosis" LP Liner Cover)
バタフライ黄金時代というべき『In-A-Gada-Da-Vida』'68.6(全米4位、年間アルバム・チャート1位)、『Ball』'69.1(全米3位)、『Live』'70.4('69年5月収録・全米20位)の時期にメンバーだったギタリストのエリック・ブラン(1950-2003)がハード・ロック指向のために'69年12月に脱退し、オーディションの結果ギターにマイク・ピネラ(1948-)とライノ・ラインハルト(1948-2012)が加入したバタフライのラスト・アルバム。この2ギター・5人編成のバタフライは発掘ライヴCD2点、発掘ライヴ映像2点で視聴することができますが、全米4位のヒット曲「Ride Captain Ride」を持つ元ブルース・イメージのリーダーでギター&ヴォーカルだったピネラ(後に女性スーパー・ギタリストのエイプリル・ロートン、元ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのミッチ・ミッチェルとラマタムを結成、ニュー・カクタス・バンドのリーダーになり再結成カクタスにも参加)、オールマン・ブラザース・バンド参加前のディッキー・ベッツのバンド、セカンド・カミングのベーシストからベッツ脱退後ギタリストに転向して頭角を現し、バタフライ解散後の'71年には元バタフライのリー・ドーマン、元ディープ・パープル(初代ヴォーカル)のロッド・エヴァンズ、元ジョニー・ウィンター・グループの強力ドラマー、ボビー・コールドウェル(後に元ヤードバーズのキース・レルフが結成した伝説的バンドのアルマゲドン、リンゴ・スター、ジョージ・ハリソン、エリック・クラプトンのツアー・バンド、アルバムに参加)とキャプテン・ビヨンドを結成することになるライノの2人があまりに凄腕だったためにバタフライが乗っ取られたアルバムになっています。
ピネラのヴォーカルはダグ・イングルの唱法に似せてあり、またイングルもピネラを意識した歌い方をしているので2リード・ヴォーカル違和感がなくライヴ映像を観ないと1曲の中で交互に歌い分けているのがわからないほどです。ピネラとライノの2ギターの絡みも完璧でこれ以上のものはデヴィッド・ボウイの『Station To Station』'76のカルロス・アロマーとアール・スリック、マイルス・デイヴィスの『Agharta』『Pangaea』'75のピート・コージーとレジー・ルーカス、オールマン・ブラザース・バンドのデュアン・オールマンとディッキー・ベッツの2ギター・アンサンブルくらいしか思いつきませんが、ゴーハム&ロバートソン時代のシン・リジィ、ムーディー&マースデン時代のホワイトスネイク、またグレイトフル・デッドやウィッシュボーン・アッシュ、テレヴィジョンらに匹敵するものでしょう。時代的にも人脈的にもピネラ&ライノが意識していたのはオールマン・ブラザース・バンドだと思いますが、オールマンは夭逝のギタリスト、デュアンばかりが伝説化しているもののバンドの総合力の高さ自体が卓越しているので、デュアンの弟のヴォーカル&キーボードのグレッグ作の代表曲「Dreams」「Whipping Post」に劣らない人気曲で名曲「In Memory of Elizabeth Reed」はベッツ作曲ですし、デュアンとベッツが一糸乱れないギター・アンサンブルを披露していた当時のオールマンはデッドやザッパすら凌ぎ、ストーンズと並んでロック史上最高の高い音楽性と実力を誇るバンドでした。オールマンに較べればツェッペリンやパープル、イエスやクリムゾンなど大人と子供の差があります。
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(Original ATCO "Metamorphosis" LP Gatefold Inner Cover & Side One Label)
そういう事情でもともと音楽的な骨格が弱かったバタフライは、一気にリズム&ブルースがベースの骨太な'70年代型ハード・ロック・バンドになりました。脱退したブランは悔しかったと思いますが、ブランの場合は黒人音楽の素養は乏しかったのでハード路線でも『Ball』のようなプログレッシヴ・ロック系のハード・ロックになってしまったのです。ベースのドーマンの指向でモータウン系黒人ポップスのリズム・アレンジが入ってきたのは『In-A-Gada-Da-Vida』LPではA面の5曲で萌芽がありました。しかし大曲「In-A-Gada-Da-Vida」はサイケデリックなオルガン・ロックのプログレッシヴ・ロックだったため同曲の路線でほぼ全編を通した『Ball』は力作ながらやや平坦な出来になりました。結局それはギタリストがブランだったからでもありますが、ピネラとライノというブルース・ロックをたっぷりやってきた凄腕ギタリストががっぷり組んだ本作ではアーシーなブルース系ハード・ロックにサイケデリックなプログレッシヴ・ロック路線も組み込んだ、もうバタフライだか何だかわからないような、プログレッシヴ・ハード・ロックの秘宝ラマタムやキャプテン・ビヨンドのプロトタイプのようなサウンドに一気に行ってしまいました。A1の短いギター・インスト曲に続くA2は4/4+2/4の変拍子によるソウル系リズムのプログレッシヴ・ハード・ロックですし、フォーキーなバラードB1以外の曲はほとんどそうです。そしてアルバム最終曲B3はピネラの独壇場で、オーソドックスなスロウなブルース・ロック風にヴォーカル・パートが終わると端正でテクニカルかつ情感溢れるライノのソロになり、ベースとドラムをフィーチャーしたパートを挟んで6分目からは2ギターが妖しく絡みあってジャーマン・ロック(アモン・デュールIIとか)のようになり、9分目~12分目まではピネラのギターとヴォーカリゼーションによる無伴奏ソロになります。この曲はアルバムでは14分ですがライヴでは24分(ブラン在籍時に17分だった「In-A-Gada-Da-Vida」もこの5人編成のライヴでは24分を越えます)になるように、開発されたばかりのギター・ヴォイス・モジュレーターの使用が聴かれます。11分台がそうで、これはギターアンプから延びたチューブを口腔に咥えて、ギターのサウンドを口腔内に反射させ人声のように変化させるためのエフェクターで(音声はギタリストがヴォーカル・マイクに向かって拾います)、シンセサイザーによるヴォイス・モジュレーターの開発によって'70年代末には廃れました。使用法が難しすぎる(奏者が口腔を操作しなければならない)ばかりか確実性に欠け、しかもライヴで使うとヴィジュアル的にかっこ悪い欠陥エフェクターだったのですが(アルバムでもジェフ・ベックの『ギター殺人者の凱旋』'75、コスモス・ファクトリーの『ブラック・ホール』'76など僅かな成功例しかありません)、アルバムでは短いですがライヴ映像を観るとピネラのギター・ヴォイス・モジュレーター奏法の巧みさはベック・ボガート&アピス時代のジェフ・ベックを凌いでこの欠陥エフェクターを使いこなしたトップ・クラスのギタリストでしょう。もうひとりのギタリスト、ライノ・ラインハルトも驚異の変拍子プログレッシヴ・ハード・ロック・バンドのキャプテン・ビヨンドの創設メンバーになるだけあり、しかもピネラがベック系のアイディア豊富でトリッキーなテクニシャンとすればライノはクラプトン系のメカニカルな正確さとギターに歌わせる表現力の両方に長けたテクニシャンです。
しかもこの、ピネラ大活躍のアルバム最大のハイライト曲「Butterfly Bleu」にはバタフライの本来のリーダー、ダグ・イングルの見せ場はまったくなく、本作ではこれまでのように単一のオルガン(ファルファッサ社かヴォックス社の電気オルガンで、ハモンド社の電気オルガンではないでしょう)だけではなく数社の電気オルガン、電気ピアノを同時使用していますが、Atco時代のオリジナル・バタフライのアルバム5作でイングルがもっとも生彩に欠けるのも本作なのです。イングルはバタフライ解散後、リーダーだったにもかかわらずメンバーのうち唯一ほとんど音楽活動から身を退いてしまい、本作直後のバタフライのラスト・ツアーがヨーロッパ諸国で好評だったことから10年後の1979年~1981年に『Metamorphosis』のメンバー(ただしツアー直前ドーマンの尊父が急逝して喪主を務めたためベースは新メンバー)でヨーロッパ巡業の再結成ツアーが行われた折に参加した程度でした。バタフライがブランとビュッシーによって'75年に再結成、アルバム2作を制作した時もドーマンはキャプテン・ビヨンドがあり不参加でしたが、特に音楽活動をしていなかったイングルもブランとビュッシーの再結成バタフライには参加しなかったのです。イングルはカリスマはおろかオリジナリティ、テクニック、イマジネーションのいずれにも限界のあるミュージシャンでしたが、イングルのぎこちない不器用さこそがバタフライの個性でした。それはピネラとライノというスーパー・ギタリストを迎えて優れたロック・アルバムの制作には成功しましたが、バタフライの個性は霧消してしまったことにも表れているのです。