ようやくレオ・マッケリーの時代がやってきた、と思わせられるのが今回ご紹介するアイリーン・ダン(1898-1990)主演の3作です。うち『邂逅(めぐりあい)』はシャルル・ボワイエとの共演したすれ違いメロドラマですが『新婚道中記』と『ママのご帰還』はケイリー・グラントと共演したスクリューボール・コメディで、当時もっとも斬新なハリウッド映画のサブジャンルでした。簡単にスクリューボール・コメディを定義すれば主演カップルが意地の張り合いをしながら繰り広げる恋愛どたばたコメディといったところで、サイレント時代のエルンスト・ルビッチ作品(『結婚哲学』'24など)やホークス、キャプラの作品にプロトタイプを見ることもできますが、最初の決定的なスクリューボール・コメディはハワード・ホークスの『特急二十世紀』Twentieth Century (コロムビア'34)と言われます。ホークスのスクリューボール・コメディは『赤ちゃん教育』'38、『ヒズ・ガール・フライデー』'40と続き、ホークス以外の監督作品ではキューカーの『フィラデルフィア物語』'40やヒッチコックの『スミス夫妻』'41、プレストン・スタージェスの諸作がありますが、同時期に大流行したフィルム・ノワールや西部劇ほど多産されなかったのは企画やキャスティング、演出にシビアなセンスを問われるのと、ロマンス作品としての側面からスター俳優とゴージャスなムードが求められるためフィルム・ノワールや西部劇のような低予算作品が作れなかったからでもあります。マッケリーは自身のプロダクションを設立して製作した新作をメジャー会社に配給を委託するようになり、作品内容の自由を確保すると共にハイリスク・ハイリターンの道を選び全米長者番付第1位の映画監督という空前絶後の記録を残しました。ハワード・ホークスが影響を受けた映画にムルナウの『サンライズ』'27を上げ、また「ぼくに感銘を与えた演出家としては、ほかにジョン・フォードとルビッチとレオ・マッケリーをあげることができる。ぼくの考えでは、この人たちは最高の演出家だった人たちだ」(カイエ・デュ・シネマ編『作家主義』)と語ったのは1956年のインタヴューですが、この讃辞も『人生は四十二から』'35と『ロイドの牛乳屋』'36のヒットを受けてレオ・マッケリー・プロダクション作品が設立された1937年の『明日は来らず』『新婚道中記』2作の大ヒット以降のマッケリーにスクリューボール・コメディの元祖ホークスですら舌を巻いたということでしょう。ムルナウ、フォードとルビッチと並ぶとまでホークスに賞賛されたとは凄いことで、作風の多彩さではマッケリーはさすがにフォードやルビッチ、ホークスほど広くはありませんが、『邂逅(めぐりあい)』のようなベタなメロドラマを軽やかに仕上げる上質な大衆性も備えた強みがありました。ホークスの『赤ちゃん教育』『ヒズ・ガール・フライデー』はやりすぎの面白さに満ちていますが『新婚道中記』や『ママのご帰還』のさじ加減は絶妙で、つい数年前にマルクス兄弟最強の怪作『我輩はカモである』を撮った監督ならばこそ隅々まで計算の行き届いた作風にたどり着いた、とも思えます。アイリーン・ダンはホークス作品には出演作のない女優で、ホークスとマッケリーの好み(女優によるコメディの狙い)の違いがわかります。また、ケイリー・グラントのコメディ起用はホークスよりマッケリー(ジョージ・キューカーもいますが)の方が早かったのは意外でもあり、ホークスの賞賛はそうしたキャスティングの慧眼にもよるものでしょう。なお今回も作品紹介は「キネマ旬報」近着外国映画紹介、またはDVD解説書から引用させていただきました。
●9月18日(月)
『新婚道中記』The Awful Truth (コロムビア'37)*91min, B/W; アカデミー賞作品賞、主演女優賞アイリーン・ダン、助演男優賞(ラルフ・ベラミー)、脚色賞(ヴィナ・デルマー )、編集賞(アル・クラーク)ノミネート、監督賞(レオ・マッケリー)受賞・アメリカ国立フィルム登録簿1996年新規登録作品。
コロムビア映画(レオ・マッケリー・プロ)
日本公開昭和13年4月(キネマ旬報年間ベストテン8位)・ドラマ
[ 解説 ] 「花嫁凱旋」「たくましき男」のアイリーン・ダンと「天国漫歩」「間奏楽」のケーリー・グラントが主演する映画で、「明日は来らず」「ロイドの牛乳屋」のレオ・マッケリーが監督・製作したものである。原作はアーサー・リッチマン作の喜劇で「明日は来らず」のビニヤ・デルマーが脚色した。撮影は「失はれた地平線」「花嫁凱旋」のジョセフ・ウォーカーの担任。助演者は「結婚気象台」のラルフ・ベラミー、「スイング」のセシル・カニンガム、英仏映画界に活躍していたアレクサンダー・ダーシー、「二つの顔(1935)」のモリー・ラモント、エスター・デール、ロバート・アレン等である。
[ あらすじ ] ジェリイ・ウォリナー(ケイリー・グラント)は真面目な妻のルシイ(アイリーン・ダン)にフロリダへ行くと嘘を言って友人たちとポーカーを楽しみ、一晩家を家を空けて帰ってきた。すると妻のルシイも家にいなかった。間もなくルシイは若い美男子で声楽教師フランス人アルマン(アレクサンダー・ダーシー)と一緒に帰宅した。思わず彼が妻の不謹慎を責めると、ルシイは平気な顔で、二人の乗った自動車が故障を起こしたので止むなく安宿に泊まったのだと言う。すっかり腹を立てた彼は、かえって自分の嘘まで曝されたので、とうとう二人は口論の果てが別居ということになってしまった。夫婦の大事にしている愛犬スミスが、どちらの所有に属するかで一問題あったが、ルシイは策略を用いて所有権を獲得した。その代わりにジェリイは時々スミスに会いに来てもいいという条件がつけられる。ところがその最初の訪問日の夜、彼はルシイが田舎の若い富豪ダニエル(ラルフ・ベラミー)と交遊しているのを見た。かんしゃくを起こしたジェリイはナイトクラブの歌姫ディキシー(ジョイス・コンプトン)と熱くなり、互いに夫婦の擬似恋愛競争が始まった。ダニエルは妻を離婚してルシイと結婚したいと申し出るけれど、彼女が心から愛しているのはジェリイだけである。そこでアルマンを呼んで二人の間には何もなかったことをジェリイに話してくれと頼んでいるところへジェリイが訪れたものだから、驚いたルシイはアルマンを寝室に押し込んだ。これをジェリイに見つかったからたまらない。憤然として彼はそこを飛び出した。彼はついにルシイと離婚し社交界の花形バーバラ(モリー・ラモント)と婚約した。その披露会の夜ルシイがジェリイを訪ねているところへバーバラからかかってきた電話をルシイが取り次いだ。彼はルシイを妹だと言ってその場をごまかして老いたが、そのため彼女も披露会へつれて行かねばならなくなった。宴席でルシイは酔ったふりをして乱痴気を演じたので披露会は滅茶苦茶になりバーバラはジェリイとの婚約を解消した。ルシイはなおも酔態を装ってジェリイを車に乗せパシイ叔母さん(セシル・カニンガム)の山荘へ連れて行く。途中で彼女は故意に自動車事故を起こし、それにことよせて巧みに彼の誤解をとき、二人は改めて楽しい生活を始めることになった。
●9月19日(火)
『邂逅 (めぐりあい)』Love Affair (RKO'39)*87min, B/W; アカデミー賞作品賞、主演女優賞 (アイリーン・ダン)、助演女優賞(マリア・オースペンスカヤ)、原案賞(ミルドレッド・クラム、レオ・マッケリー)、歌曲賞 バディ・デ・シルヴァ作詞作曲「Wishing」、室内装置賞ノミネート。
RKO映画(レオ・マッケリー・プロ)
日本公開昭和16年6月・ラブロマンス
[ 解説 ] 主演シャルル・ボワイエ、アイリーン・ダン。レオ・マッケリーが製作監督した恋愛ドラマで、当時原題のLove Affairが風紀上よろしくないというので、わざわざ日本版の題名をSincerityに改題した。脚本はデルマー・デイヴィスとドナルド・オグデン・スチュワート、原作はレオ・マッケリーとミルドレッド・クラム、撮影ルドルフ・マテ、音楽ロイ・ウェッブ。なおマッケリーは戦後の1957年にケイリー・グラント、デボラ・カー主演で再映画化し、「めぐり逢い(1957)」の題名で日本でも公開した。
[ あらすじ ] ニューヨーク航路の豪華船ナポリ号の美しき船客テリイ(アイリーン・ダン)は、置き忘れたシガレット・ケースが縁でミシェル(シャルル・ボワイエ)と知りあった。いつしか2人は一緒に食事をするほどの仲になったが、共に言い交した人のある身で、船内のゴシップになるのをさけて、別行動をとらねばならなかった。船がナポリに着いたとき、ニッキイはテリイを誘って彼の祖母(マリア・オースペンカヤ)の家をたずね忘れ難い旅情に1日をすごした。ここでテリイはミシェルが才能のある画家であることを知り、ミシェルもテリイが歌手であると知った。長い線路も2人には短かった。別れの曲に思い出深い1夜を、ニューヨーク港の船内ですごし、6ヵ月後の再会を約して2人は別れた。その時こそ2人の愛が真実であることを認められるのであろうと信じて……。やがて誓いの宵が来た。ナイトクラブに出演して成功したテリイは、約束の場所に急ぐ途中、走ってきた車にはねられて重傷を負ってしまった。それとは知らぬミシェルはそぼ降る雨にぬれながら、夜おそくまで待っていた。何ヵ月たったある日、ミシェルは画商から自動車事故で不具になった女性が、彼の描いたテリイの肖像画を欲しがっているが、金が無くて買えないという話をきき、今はすべてをあきらめて、その絵をその女性に贈った。その後とある劇場でミシェルはテリイにあったが、テリイがかつての婚約者連れだったため車椅子にも気づかずに別れてしまった。クリスマスの日、あの不幸な女性への贈物にと、ミシェルは祖母のショールをもって彼女をおとずれ、部屋にあの絵があるのをみて、総てを知った。ミシェルは変わり果てた、涙にうるむテリイをしっかり抱くのであった。外には真白な雪が音もなく降りつづいていた。
●9月20日(水)
ガーソン・ケニン(1912-1999)『ママのご帰還』My Favorite Wife (マッケリー製作・オリジナル脚本) (RKO'40)*88min, B/W; アカデミー賞原案賞(ベラ・スピワック、サミュエル・スピワック、レオ・マッケリー)、作曲賞(ロイ・ウェッブ)、室内装置賞ノミネート。
日本未公開・テレビ放映
(DVD解説リーフレットより)
スクリューボール・コメディの金字塔『新婚道中記』(37)に続いてケイリー・グラント、アイリーン・ダンがコンビを組んだ結婚喜劇である。ただし、本作では、監督のレオ・マッケリーは脚本・製作に回り、『アダム氏とマダム』(49)、『ボーン・イエスタデイ』(50)などの都会派風刺喜劇の脚本で知られるガーソン・ケニンがメガホンを執っている。裁判所で弁護士ニック・アーデン(ケイリー・グラント)とビアンカ(ゲイル・パトリック)の結婚が認められた日、七年間行方不明だった妻エレーン(アイリーン・ダン)が突然、現れる。二人がかつて新婚旅行で泊まったホテルに宿泊すると知ってエレーンが赴くと、ニックは驚喜する。しかし優柔不断なニックは、彼女に別の部屋を借りる一方、ビアンカに言い出せず、ぐずぐずと二つの部屋を右往左往し、あまりの不謹慎な態度にホテルの支配人は憤然となる。主人公の名前から容易に連想されるように、物語の骨子はアルフレッド・テニスンの長編叙事詩『イノック・アーデン』を借用している。(生命保険調査員から)船が難破し、エレーンが孤島でバーケット(ランドルフ・スコット)と二人だけで七年間過ごしたと知ったニックは疑心暗鬼になる。プールで偶然、筋骨隆々のバーケットを見かけた際に、通りかかったご婦人方がニックに「あの方、ジョニー・ワイズミュラー?」と訊ねるシーンがおかしい。その直後、空中ブランコのアクロバットな妙技を示したバーケットが飛び込み台からダイブするのを目撃したニックは猛然と嫉妬にかられるのだ。『新婚道中記』と同様に主人公カップルはつまらぬ意地の張り合いから、もつれにもつれ、果てはニックは重婚罪で訴えられる羽目に陥る。(中略)ハリウッドはこのアモラルなテーマを好んで変奏しており、ドリス・デイ、ジェームズ・ガーナー主演の『女房は生きていた』(63、マイケル・ゴードン)はそのリメイクである。
●9月18日(月)
『新婚道中記』The Awful Truth (コロムビア'37)*91min, B/W; アカデミー賞作品賞、主演女優賞アイリーン・ダン、助演男優賞(ラルフ・ベラミー)、脚色賞(ヴィナ・デルマー )、編集賞(アル・クラーク)ノミネート、監督賞(レオ・マッケリー)受賞・アメリカ国立フィルム登録簿1996年新規登録作品。
コロムビア映画(レオ・マッケリー・プロ)
日本公開昭和13年4月(キネマ旬報年間ベストテン8位)・ドラマ
[ 解説 ] 「花嫁凱旋」「たくましき男」のアイリーン・ダンと「天国漫歩」「間奏楽」のケーリー・グラントが主演する映画で、「明日は来らず」「ロイドの牛乳屋」のレオ・マッケリーが監督・製作したものである。原作はアーサー・リッチマン作の喜劇で「明日は来らず」のビニヤ・デルマーが脚色した。撮影は「失はれた地平線」「花嫁凱旋」のジョセフ・ウォーカーの担任。助演者は「結婚気象台」のラルフ・ベラミー、「スイング」のセシル・カニンガム、英仏映画界に活躍していたアレクサンダー・ダーシー、「二つの顔(1935)」のモリー・ラモント、エスター・デール、ロバート・アレン等である。
[ あらすじ ] ジェリイ・ウォリナー(ケイリー・グラント)は真面目な妻のルシイ(アイリーン・ダン)にフロリダへ行くと嘘を言って友人たちとポーカーを楽しみ、一晩家を家を空けて帰ってきた。すると妻のルシイも家にいなかった。間もなくルシイは若い美男子で声楽教師フランス人アルマン(アレクサンダー・ダーシー)と一緒に帰宅した。思わず彼が妻の不謹慎を責めると、ルシイは平気な顔で、二人の乗った自動車が故障を起こしたので止むなく安宿に泊まったのだと言う。すっかり腹を立てた彼は、かえって自分の嘘まで曝されたので、とうとう二人は口論の果てが別居ということになってしまった。夫婦の大事にしている愛犬スミスが、どちらの所有に属するかで一問題あったが、ルシイは策略を用いて所有権を獲得した。その代わりにジェリイは時々スミスに会いに来てもいいという条件がつけられる。ところがその最初の訪問日の夜、彼はルシイが田舎の若い富豪ダニエル(ラルフ・ベラミー)と交遊しているのを見た。かんしゃくを起こしたジェリイはナイトクラブの歌姫ディキシー(ジョイス・コンプトン)と熱くなり、互いに夫婦の擬似恋愛競争が始まった。ダニエルは妻を離婚してルシイと結婚したいと申し出るけれど、彼女が心から愛しているのはジェリイだけである。そこでアルマンを呼んで二人の間には何もなかったことをジェリイに話してくれと頼んでいるところへジェリイが訪れたものだから、驚いたルシイはアルマンを寝室に押し込んだ。これをジェリイに見つかったからたまらない。憤然として彼はそこを飛び出した。彼はついにルシイと離婚し社交界の花形バーバラ(モリー・ラモント)と婚約した。その披露会の夜ルシイがジェリイを訪ねているところへバーバラからかかってきた電話をルシイが取り次いだ。彼はルシイを妹だと言ってその場をごまかして老いたが、そのため彼女も披露会へつれて行かねばならなくなった。宴席でルシイは酔ったふりをして乱痴気を演じたので披露会は滅茶苦茶になりバーバラはジェリイとの婚約を解消した。ルシイはなおも酔態を装ってジェリイを車に乗せパシイ叔母さん(セシル・カニンガム)の山荘へ連れて行く。途中で彼女は故意に自動車事故を起こし、それにことよせて巧みに彼の誤解をとき、二人は改めて楽しい生活を始めることになった。
●9月19日(火)
『邂逅 (めぐりあい)』Love Affair (RKO'39)*87min, B/W; アカデミー賞作品賞、主演女優賞 (アイリーン・ダン)、助演女優賞(マリア・オースペンスカヤ)、原案賞(ミルドレッド・クラム、レオ・マッケリー)、歌曲賞 バディ・デ・シルヴァ作詞作曲「Wishing」、室内装置賞ノミネート。
RKO映画(レオ・マッケリー・プロ)
日本公開昭和16年6月・ラブロマンス
[ 解説 ] 主演シャルル・ボワイエ、アイリーン・ダン。レオ・マッケリーが製作監督した恋愛ドラマで、当時原題のLove Affairが風紀上よろしくないというので、わざわざ日本版の題名をSincerityに改題した。脚本はデルマー・デイヴィスとドナルド・オグデン・スチュワート、原作はレオ・マッケリーとミルドレッド・クラム、撮影ルドルフ・マテ、音楽ロイ・ウェッブ。なおマッケリーは戦後の1957年にケイリー・グラント、デボラ・カー主演で再映画化し、「めぐり逢い(1957)」の題名で日本でも公開した。
[ あらすじ ] ニューヨーク航路の豪華船ナポリ号の美しき船客テリイ(アイリーン・ダン)は、置き忘れたシガレット・ケースが縁でミシェル(シャルル・ボワイエ)と知りあった。いつしか2人は一緒に食事をするほどの仲になったが、共に言い交した人のある身で、船内のゴシップになるのをさけて、別行動をとらねばならなかった。船がナポリに着いたとき、ニッキイはテリイを誘って彼の祖母(マリア・オースペンカヤ)の家をたずね忘れ難い旅情に1日をすごした。ここでテリイはミシェルが才能のある画家であることを知り、ミシェルもテリイが歌手であると知った。長い線路も2人には短かった。別れの曲に思い出深い1夜を、ニューヨーク港の船内ですごし、6ヵ月後の再会を約して2人は別れた。その時こそ2人の愛が真実であることを認められるのであろうと信じて……。やがて誓いの宵が来た。ナイトクラブに出演して成功したテリイは、約束の場所に急ぐ途中、走ってきた車にはねられて重傷を負ってしまった。それとは知らぬミシェルはそぼ降る雨にぬれながら、夜おそくまで待っていた。何ヵ月たったある日、ミシェルは画商から自動車事故で不具になった女性が、彼の描いたテリイの肖像画を欲しがっているが、金が無くて買えないという話をきき、今はすべてをあきらめて、その絵をその女性に贈った。その後とある劇場でミシェルはテリイにあったが、テリイがかつての婚約者連れだったため車椅子にも気づかずに別れてしまった。クリスマスの日、あの不幸な女性への贈物にと、ミシェルは祖母のショールをもって彼女をおとずれ、部屋にあの絵があるのをみて、総てを知った。ミシェルは変わり果てた、涙にうるむテリイをしっかり抱くのであった。外には真白な雪が音もなく降りつづいていた。
●9月20日(水)
ガーソン・ケニン(1912-1999)『ママのご帰還』My Favorite Wife (マッケリー製作・オリジナル脚本) (RKO'40)*88min, B/W; アカデミー賞原案賞(ベラ・スピワック、サミュエル・スピワック、レオ・マッケリー)、作曲賞(ロイ・ウェッブ)、室内装置賞ノミネート。
日本未公開・テレビ放映
(DVD解説リーフレットより)
スクリューボール・コメディの金字塔『新婚道中記』(37)に続いてケイリー・グラント、アイリーン・ダンがコンビを組んだ結婚喜劇である。ただし、本作では、監督のレオ・マッケリーは脚本・製作に回り、『アダム氏とマダム』(49)、『ボーン・イエスタデイ』(50)などの都会派風刺喜劇の脚本で知られるガーソン・ケニンがメガホンを執っている。裁判所で弁護士ニック・アーデン(ケイリー・グラント)とビアンカ(ゲイル・パトリック)の結婚が認められた日、七年間行方不明だった妻エレーン(アイリーン・ダン)が突然、現れる。二人がかつて新婚旅行で泊まったホテルに宿泊すると知ってエレーンが赴くと、ニックは驚喜する。しかし優柔不断なニックは、彼女に別の部屋を借りる一方、ビアンカに言い出せず、ぐずぐずと二つの部屋を右往左往し、あまりの不謹慎な態度にホテルの支配人は憤然となる。主人公の名前から容易に連想されるように、物語の骨子はアルフレッド・テニスンの長編叙事詩『イノック・アーデン』を借用している。(生命保険調査員から)船が難破し、エレーンが孤島でバーケット(ランドルフ・スコット)と二人だけで七年間過ごしたと知ったニックは疑心暗鬼になる。プールで偶然、筋骨隆々のバーケットを見かけた際に、通りかかったご婦人方がニックに「あの方、ジョニー・ワイズミュラー?」と訊ねるシーンがおかしい。その直後、空中ブランコのアクロバットな妙技を示したバーケットが飛び込み台からダイブするのを目撃したニックは猛然と嫉妬にかられるのだ。『新婚道中記』と同様に主人公カップルはつまらぬ意地の張り合いから、もつれにもつれ、果てはニックは重婚罪で訴えられる羽目に陥る。(中略)ハリウッドはこのアモラルなテーマを好んで変奏しており、ドリス・デイ、ジェームズ・ガーナー主演の『女房は生きていた』(63、マイケル・ゴードン)はそのリメイクである。