ヴェルヴェット・アンダーグラウンド The Velvet Underground - Live at The Boston Tea Party (Jan.10, 1969) : https://youtu.be/O7XqY7IhJrk
Recorded live at Boston Tea Party, January 10, 1969
Unofficially Released by Spyglass Records (2CD) SPY2CD0003001, April 1, 2017
All Songs written by Lou Reed expect noted.
(Disc 1)
1-1. Heroin - 8:26
1-2. I'm Gonna Move Right In - 4:46
1-3. I'm Set Free - 4:37
1-4. Run Run Run - 7:49
1-5. Waiting For The Man - 8:57
1-6. What Goes On - 4:30
1-7. I Can't Stand It - 6:18
1-8. Candy Says - 4:47
(Disc 2)
2-1. Beginning To See The Light - 5:49
2-2. White Light White Heat - 5:42
2-3. Pale Blue Eyes - 6:28
2-4. Sister Ray (Velvet Underground) - 21:24
[ The Velvet Underground ]
Lou Reed - vocal, lead guitar, ostrich guitar
Sterling Morrison - rhythm guitar, lead guitar, bass guitar, vocal
Doug Yule - bass guitar, organ, vocal
Maureen Tucker - drums, percussion
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのボストン・ティー・パーティー公演音源は1968年12月12日、1969年1月10日の本作、3月13日の「Guitar Amp Tapes」と呼ばれる音源、7月5日公演の音源が知られており、前回の1968年12月12日音源のご紹介で概要は解説させていただきました。今回まず演奏曲目の出典から記すと、1-1、1-4、1-5はデビュー・アルバム『The Velvet Underground & Nico』1967.3、2-2、2-4は第2作『White Light/White Heat』1968.1、1-3、1-6、1-8、2-1、2-3はレコーディング中の新作『The Velvet Underground』1969.3から演奏され、『The Velvet Underground』に続いて発売されるはずだったもののコティリオンに移籍して『Loaded』1970.11を制作したため未完成アルバムになった幻の本来の第4作(後年『VU』1985.2、『Another View』1986.9の2枚に分けて発売)から1-2(『Another View』収録)、1-7(『VU』収録)が演奏されています。つまり全12曲の演奏曲目中7曲が当時まだ未発表曲です。1968年12月12日のセット・リストから第3作収録の「Jesus」と『VU』収録の「Foggy Notion」が外れ、デビュー作から「Run Run Run」、第3作から「What Goes On」が加わり、『VU』の「Foggy Notion」に替わって「I Can't Stand It」が演奏されています。1-1~1-3、1-5、1-8、2-1~2-4の9曲は1968年12月12日の同会場でのライヴと重なっています。
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは1968年9月にルー・リードと並ぶバンドの中心人物だったオリジナル・メンバーのジョン・ケイル(ヴィオラ、ピアノ、オルガン、ベース、ヴォーカル)が脱退したことでケイルの担っていたノイズ演奏をリードとスターリング・モリソンのギター演奏が肩替わりすることになり、ケイルのヴィオラ演奏は後任のダグ・ユールのオルガンが担うことになりました。ケイルの脱退は早い段階からバンド内部では表明されていたことで、第3作のためのデモテープや後に『VU』と『Another View』で発掘発売される第4作のための未完成セッションにはケイル在籍時のものが多く含まれます。ケイルはエレクトリック・ヴィオラとともにピアノのクラスター奏法も熟知した現代音楽出身のミュージシャンでしたから真っ当なロック・ミュージシャンであるユールの加入はヴェルヴェットの音楽性を普通のロックに近づけるものでしたが、逆にオリジナル・メンバーの3人のプレイをアグレッシヴなものにする要因にもなりました。デビュー作からの「Heroin」「Waiting For The Man」「Run Run Run」をユール加入後のライヴ・ヴァージョンで聴くとケイル在籍時のスタジオ録音よりぐっとテンポを落としたダウナーなリズムで演奏しているのがわかります。
*
(Unofficial "Live at Boston Tea Party (Jan.10, 1969)" CD Liner Cover)
また、ケイルの脱退の理由になったのはリードの新曲がアコースティック色の強いポップなものだったからとも言われ、確かに第3作からの「Candy Says」(スタジオ録音ではダグ・ユールのリード・ヴォーカル、ここで聴けるライヴ・ヴァージョンではルー・リードのリード・ヴォーカル)や「Jesus」「I'm Set Free」「Pale Blue Eyes」などのバラードでもうかがわれ、「What Goes On」や「Beginning To See The Light」はロック曲ですがケイル在籍時のヴェルヴェットの楽曲よりポップな曲調になっています。ケイル在籍時でもルー・リードの曲はデモテープ段階ではポップでしたが、アルバム録音時にはケイルの貢献のうかがえる異様なリズム・アレンジで完成されていました。ケイル在籍時であれば「What Goes On」や「Beginning To See The Light」は相当異なったアレンジになったはずで、これもソングライターであるリードがケイルのアレンジを拒否するようになった経緯が推察されます。リードとしてはケイルにいじられたくない曲が増えてきてそれがリードとケイルの対立を生み、ケイル脱退につながったということでしょう。モリソンのつてでユールが加入したのがケイル脱退の1週間後だったといいますから、第2作『White Light/White Heat』1968.1から同年9月のケイル脱退までかなり長い期間リードとケイルの対立は続き、後任者の決定を待っていたことになります。ヴェルヴェットのアルバムはケイル在籍時の2作とユール加入後の2作に大別されますが、後期2作は事実上リードのワンマン・バンドである上にリードがユールを優遇しユールにヴォーカルを任せた曲が増えたので評価はやや微妙になってきます。しかしスタジオ録音でユールが歌っていた曲もライヴではリード自身が歌っており、しかもリード本人が歌うヴァージョンではほとんどの場合歌詞も違い曲の構成も違っているので、後期ヴェルヴェットに関してはスタジオ録音よりライヴ・ヴァージョンの方が良いとする評者も少なくありません。
確かに後期ヴェルヴェットはスタジオ盤とライヴ・ヴァージョンの違いが大きいのですが、スタジオ盤ではリードのデリケートな面や意外にストレートなロックン・ローラーぶりを聴くことができて初期2作にはない魅力もあります。ヴェルヴェットの良好な発掘ライヴ音源が定着しつつあるのは嬉しいことですが、これもスタジオ盤の評価が先に定まったからであり、初期と後期にあと1、2作ずつでも公式スタジオ・アルバムが多かったらなあ、と惜しまれます。しかしこのバンドの場合4作きりでもアルバムを残せたことの方が瞠目すべきでしょう。当時ヴェルヴェットに似た音楽をやっていたバンドはほとんどおらず、アルバムは売れずチャートとも無縁のまま後生絶大な評価と影響力を獲得し、しかも観客が録音していたライヴ・テープが今なお発掘され続けているのです。以て瞑すべし(R.I.P.)とはこのことでしょう。
Recorded live at Boston Tea Party, January 10, 1969
Unofficially Released by Spyglass Records (2CD) SPY2CD0003001, April 1, 2017
All Songs written by Lou Reed expect noted.
(Disc 1)
1-1. Heroin - 8:26
1-2. I'm Gonna Move Right In - 4:46
1-3. I'm Set Free - 4:37
1-4. Run Run Run - 7:49
1-5. Waiting For The Man - 8:57
1-6. What Goes On - 4:30
1-7. I Can't Stand It - 6:18
1-8. Candy Says - 4:47
(Disc 2)
2-1. Beginning To See The Light - 5:49
2-2. White Light White Heat - 5:42
2-3. Pale Blue Eyes - 6:28
2-4. Sister Ray (Velvet Underground) - 21:24
[ The Velvet Underground ]
Lou Reed - vocal, lead guitar, ostrich guitar
Sterling Morrison - rhythm guitar, lead guitar, bass guitar, vocal
Doug Yule - bass guitar, organ, vocal
Maureen Tucker - drums, percussion
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのボストン・ティー・パーティー公演音源は1968年12月12日、1969年1月10日の本作、3月13日の「Guitar Amp Tapes」と呼ばれる音源、7月5日公演の音源が知られており、前回の1968年12月12日音源のご紹介で概要は解説させていただきました。今回まず演奏曲目の出典から記すと、1-1、1-4、1-5はデビュー・アルバム『The Velvet Underground & Nico』1967.3、2-2、2-4は第2作『White Light/White Heat』1968.1、1-3、1-6、1-8、2-1、2-3はレコーディング中の新作『The Velvet Underground』1969.3から演奏され、『The Velvet Underground』に続いて発売されるはずだったもののコティリオンに移籍して『Loaded』1970.11を制作したため未完成アルバムになった幻の本来の第4作(後年『VU』1985.2、『Another View』1986.9の2枚に分けて発売)から1-2(『Another View』収録)、1-7(『VU』収録)が演奏されています。つまり全12曲の演奏曲目中7曲が当時まだ未発表曲です。1968年12月12日のセット・リストから第3作収録の「Jesus」と『VU』収録の「Foggy Notion」が外れ、デビュー作から「Run Run Run」、第3作から「What Goes On」が加わり、『VU』の「Foggy Notion」に替わって「I Can't Stand It」が演奏されています。1-1~1-3、1-5、1-8、2-1~2-4の9曲は1968年12月12日の同会場でのライヴと重なっています。
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは1968年9月にルー・リードと並ぶバンドの中心人物だったオリジナル・メンバーのジョン・ケイル(ヴィオラ、ピアノ、オルガン、ベース、ヴォーカル)が脱退したことでケイルの担っていたノイズ演奏をリードとスターリング・モリソンのギター演奏が肩替わりすることになり、ケイルのヴィオラ演奏は後任のダグ・ユールのオルガンが担うことになりました。ケイルの脱退は早い段階からバンド内部では表明されていたことで、第3作のためのデモテープや後に『VU』と『Another View』で発掘発売される第4作のための未完成セッションにはケイル在籍時のものが多く含まれます。ケイルはエレクトリック・ヴィオラとともにピアノのクラスター奏法も熟知した現代音楽出身のミュージシャンでしたから真っ当なロック・ミュージシャンであるユールの加入はヴェルヴェットの音楽性を普通のロックに近づけるものでしたが、逆にオリジナル・メンバーの3人のプレイをアグレッシヴなものにする要因にもなりました。デビュー作からの「Heroin」「Waiting For The Man」「Run Run Run」をユール加入後のライヴ・ヴァージョンで聴くとケイル在籍時のスタジオ録音よりぐっとテンポを落としたダウナーなリズムで演奏しているのがわかります。
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(Unofficial "Live at Boston Tea Party (Jan.10, 1969)" CD Liner Cover)
また、ケイルの脱退の理由になったのはリードの新曲がアコースティック色の強いポップなものだったからとも言われ、確かに第3作からの「Candy Says」(スタジオ録音ではダグ・ユールのリード・ヴォーカル、ここで聴けるライヴ・ヴァージョンではルー・リードのリード・ヴォーカル)や「Jesus」「I'm Set Free」「Pale Blue Eyes」などのバラードでもうかがわれ、「What Goes On」や「Beginning To See The Light」はロック曲ですがケイル在籍時のヴェルヴェットの楽曲よりポップな曲調になっています。ケイル在籍時でもルー・リードの曲はデモテープ段階ではポップでしたが、アルバム録音時にはケイルの貢献のうかがえる異様なリズム・アレンジで完成されていました。ケイル在籍時であれば「What Goes On」や「Beginning To See The Light」は相当異なったアレンジになったはずで、これもソングライターであるリードがケイルのアレンジを拒否するようになった経緯が推察されます。リードとしてはケイルにいじられたくない曲が増えてきてそれがリードとケイルの対立を生み、ケイル脱退につながったということでしょう。モリソンのつてでユールが加入したのがケイル脱退の1週間後だったといいますから、第2作『White Light/White Heat』1968.1から同年9月のケイル脱退までかなり長い期間リードとケイルの対立は続き、後任者の決定を待っていたことになります。ヴェルヴェットのアルバムはケイル在籍時の2作とユール加入後の2作に大別されますが、後期2作は事実上リードのワンマン・バンドである上にリードがユールを優遇しユールにヴォーカルを任せた曲が増えたので評価はやや微妙になってきます。しかしスタジオ録音でユールが歌っていた曲もライヴではリード自身が歌っており、しかもリード本人が歌うヴァージョンではほとんどの場合歌詞も違い曲の構成も違っているので、後期ヴェルヴェットに関してはスタジオ録音よりライヴ・ヴァージョンの方が良いとする評者も少なくありません。
確かに後期ヴェルヴェットはスタジオ盤とライヴ・ヴァージョンの違いが大きいのですが、スタジオ盤ではリードのデリケートな面や意外にストレートなロックン・ローラーぶりを聴くことができて初期2作にはない魅力もあります。ヴェルヴェットの良好な発掘ライヴ音源が定着しつつあるのは嬉しいことですが、これもスタジオ盤の評価が先に定まったからであり、初期と後期にあと1、2作ずつでも公式スタジオ・アルバムが多かったらなあ、と惜しまれます。しかしこのバンドの場合4作きりでもアルバムを残せたことの方が瞠目すべきでしょう。当時ヴェルヴェットに似た音楽をやっていたバンドはほとんどおらず、アルバムは売れずチャートとも無縁のまま後生絶大な評価と影響力を獲得し、しかも観客が録音していたライヴ・テープが今なお発掘され続けているのです。以て瞑すべし(R.I.P.)とはこのことでしょう。