作家は処女作にすべてがあるとよく言われますが、フリッツ・ラングの監督第1作『混血児 (Halbblut)』1919は散佚作品で現在では観ることができません。しかし同年には早くも長編第3作で翌年の第5作と二部作をなす『蜘蛛』があり、今日でも観られる最古のラング作品でもあり最初の大作でもありますからこれを処女作と見做してもいいですし、ラングならではの最初の傑作になった長編第8作『死滅の谷』1919こそ処女作としても、また作風確立後の最初の野心的大作『ドクトル・マブゼ』二部作(1921-1922)を本格的な処女作としてもいいでしょう。さらに大傑作となったトーキー第1作『M』1931を第2または第3の処女作とも言えますし、今回から順次観ていく1936年~1956年のハリウッドでの監督作品22作の皮切りになった『激怒』『暗黒街の弾痕』『真人間』の3作もいずれもアメリカ映画の監督としてのフリッツ・ラングの処女作といえるものです。ラングはMGMの招きでアメリカに渡ったのですが、同社との作品は『激怒』きりになり、次の『暗黒街~』も1作きりでユナイト、次の『真人間』もパラマウントで単発と製作環境は一定しませんでした。しかし今では同一主演女優(シルヴィア・シドニー、1910-1999)を起用したこの渡米直後の3作は三部作と見做されており、ドイツとは製作システムのまったく異なるハリウッドでラングがいかに柔軟に個性を発揮できたかを示すものとなっています。製作会社が異なる3作なのに同じ女優を起用したのも当時の契約システムでは異例で、フリーランスの単発契約の立場を逆手に取ったからこそシルヴィア・シドニー三部作は成り立ったものと言え、ハリウッドのメジャー映画企業の中でインディペンデンス的な製作から始まったのはまだしも、ほとんど1作ごとに映画会社を渡り歩くのがアメリカ時代のラングの特異なキャリアを築くことになります。多くの映画人がスタッフ、キャストともに基本的には長期の一社専属制だった時代に、20年もの間フリーランスで順調に監督作品を送り出した例はラングの他そう多くは見られないのです。そしてフリッツ・ラングのハリウッド映画作品は格づけとしては低予算のB級のジャンル映画(企画もの)として製作され、それも最初の三部作から始まっていたことでした。
●5月17日(水)
『激怒』Fury (米MGM'36)*92mins, B/W
(French Poster)
●5月18日(木)
『暗黒街の弾痕』You Only Live Once (米ユナイト'37)*86mins, B/W
●5月19日(金)
『真人間』You and Me (米パラマウント'38)*93mins, B/W
●5月17日(水)
『激怒』Fury (米MGM'36)*92mins, B/W
(French Poster)
●5月18日(木)
『暗黒街の弾痕』You Only Live Once (米ユナイト'37)*86mins, B/W
●5月19日(金)
『真人間』You and Me (米パラマウント'38)*93mins, B/W