ジョン・ケージ・ミーツ・サン・ラ John Cage Meets Sun Ra (Meltdown, 1987) Full Album : https://youtu.be/BGOrNuN5Tww
Recorded live at Sideshows by the Sea, Coney Island, June 8, 1986
Released by Meltdown MPA-1, 1987
All written and arranged by John Cage and Sun Ra
(Side one)
A1. John Cage Meets Sun Ra - 21:23
(Side two)
B1. John Cage Meets Sun Ra - 22:19
[ Personnel ]
John Cage - vocal
Sun Ra - Yamaha DX-7
前回ご紹介した『When Spaceships Appear』(Saturn, 1985)に続くアルバム『Cosmo Sun Connection』(Saturn / Recommended, 1985)がご紹介できるリンクが引けませんので、1作飛ぶと本作になります。'80年代作品ともなるとさすがに近年ですので著作権上の制約もあるでしょう、スタジオ録音を再開した1982年9月以降のアルバム(ライヴ盤含む)は、本作までに以下のようになります(サン・ラ歿後の発掘ライヴ盤除く)。●はこのシリーズでリンクつきでご紹介したもの、○はリンクが引けず言及に留まったアルバムです。
●A Fireside Chat with Lucifer (Saturn, 1984)*September 1982, Studio
●Celestial Love (Saturn, 1984)*September 1982, Studio
●Nuclear War (Saturn, 1984)*September 1982, Studio
●Ra to the Recue (Saturn, 1983)*Recorded live, 1982
○Just Friends (Saturn, 1983)*Compilation with Side B Recorded live, 1982 (2 tracks)
○The Sun Ra Arkestra Meets Salah Ragab in Egypt (Praxis,1983)*May 1983, Studio (Side A) & Recorded live, January 1984 (Side B)
●Hiroshima (Stars that Shine Darkly, vol. 1) (Saturn, 1985)*Recorded live, November 1983
●Outer Reach Intensity-Energy (Stars that Shine Darkly, vol. 2) (Saturn, 1985)*Recorded live, in Montreux 1983
○Love in Outer Space: Live in Utrecht (Leo, 1988)*Recorded live, December 1983
○Live at Praxis 84 Vol. I (Praxis, 1984)*Recorded live, February 1984
○Live at Praxis 84 Vol. II (Praxis, 1985)*Recorded live, February 1984
○Live at Praxis 84 Vol. III (Praxis, 1986)*Recorded live, February 1984
●When Spaceships Appear (Saturn, 1985)*5 tracks from "Ra to the Recue" & 3 tracks Recorded live, 1984 to 1985
○Cosmo Sun Connection (Saturn / Recommended, 1985)*Recorded live, 1984
●John Cage Meets Sun Ra (Meltdown, 1987)*Recorded live, 1986
こうして見ると1982年~1984年に旺盛に録音が残され、1985年度には公式録音はなく、本作はほとんど2年ぶりの録音作品だったことがわかります。しかもアーケストラとしてではなくサン・ラ個人として外部ミュージシャンと共演ライヴを行った記録として稀少な録音になりました。
ジョン・ケージ(1912-1992)はカリフォルニア出身の戦後アメリカ現代音楽作曲家、白人ミュージシャンですがサン・ラ(1914-1993)とは生歿年ともに近い同世代人です。ケージの発想は当初は従来の現代音楽理論を踏まえたものでしたが、次第に楽器に細工をして本来の音程や音色を変えてしまう(プリペアード・ピアノ)、弦楽器をチューニングしないで四重奏する、演奏時間の指定だけで奏者は何も演奏しない、など東洋思想や神秘主義に基づいた「不確定性の音楽」や「偶然性の音楽」に移行していきました。これらはサン・ラもアーケストラの音楽で実践していた(隙間だらけのサウンドの『The Heliocentric Worlds』1965、メンバー全員がにわか仕込みの弦楽器で合奏する『Strange Strings』1967などの)方法で、逆に共演となると相性が良いとも相殺しあいかねないとも言えるものです。実験音楽家とはいえケージの音楽はアカデミックなものではなく、長い貧乏生活はアルバイトで生計を立てており、スーツも着ない作曲家でした。この会場もカジュアルなパーティー形式で行われたもので、かしこまったコンサートではなかったそうです。
(Original Meltdown "John Cage Meets Sun Ra" LP Liner Cover & Side one Label)
とはいえ観客の割合はインテリ白人中心でしょうから、サン・ラの気合いも相当入っていたと思われます。珍しくマルチ・キーボードではなくヤマハDX-71台でパフォーマンスをこなしたのは会場の制約と、ヴォーカル・パフォーマンスだけで臨んだケージとの公正さのためでもあったと思われます。催しにはアーケストラ側から番頭マーシャル・アレン(アルトサックス)とヴォーカルのジューン・タイソンも参加しましたが、オリジナル・アルバムにはジョン・ケージとサン・ラのパートのみが編集されて収められました。どんなものやら、と思って聴くとこれがいいアルバムなのです。まずサン・ラが自在なポータブル・シンセサイザーのソロ演奏で絶好調の演奏を披露し(観客も拍手しています)、続いて沈黙が続くといきなりジョン・ケージのじいさんヴォイスが単純なメロディーを唸りながら自作詩を朗読します。沈黙。シンセサイザー・ソロ。沈黙。じいさんの唸り声。サン・ラが目ざとくジョン・ケージの地声の音程から4度音程のドローンでヴォイスを彩り、ケージが引っ込むとシンセサイザーが引き継ぐ、というパターンのくり返しで、LP両面1曲扱いのこれをリピートで聴いていると異次元に連れて行かれます。確かにこれは実験的な音楽パフォーマンスには違いありませんが、サン・ラのシンセサイザーもジョン・ケージのヴォイスも素朴な情感を湛えているため温もりのある演奏になっているのです。こうしたパフォーマンスにつきものの観客の緊張もなく、この時ケージ74歳、サン・ラ72歳ですが、観客の敬意が自然に伝わってくる良い空気が音からにじみ出ています。サン・ラのシンセサイザー独奏はいつも優れたものですが、今回は格別にわかりやすく、かつ音楽的にも凝縮度の高いものではないでしょうか。それはやはり、ジョン・ケージとの共演の機会だったからこそ思われるのです。
*
さて、この時のパフォーマンスのノーカット版が2016年になってようやく発掘リリースされました。パフォーマンスのセクションごとにトラックが分けられ、LPでは割愛されていたマーシャル・アレンの演奏、ジューン・タイソンのヴォーカルも収録されています。実際の進行がどうだったかがこれでよくわかるようになり、収録時間もオリジナルLPの倍になりましたが、聴き較べるとオリジナルLPの編集の優れた作品性とコンプリート版の記録性が痛感されます。コンプリート版は有用な記録ですが、作品として聴き継がれる価値があるのはオリジナルLP編集(またはLP編集のままのストレートなCD)でしょう。コンプリートに戻した分演奏の密度が稀薄になってしまったとも言えるので、LPの編集は主にジョン・ケージによるものと思われますが、珍品ながら珍品以上に独立した意義のある良いアルバムと言えるものです。ひょっとしたらシンセサイザー奏者としてのサン・ラを聴くにはもっともコンパクトな完成度を誇るアルバムかもしれません。
*
John Cage, Sun Ra - John Cage Meets Sun Ra (The Complete Concert, June 8, 1986, Coney Island, NY)
Modern Harmonic Records; Modern Harmonic - MHCD-20, 2016
[ Performance Tracklist ]
1. Rick Russo - Rick Russo Introduction 1:11
2. Marshall Allen - Untitled Wind Synthesizer Intro 1:02
3. Sun Ra - Untitled Keyboard Solo 1 6:44
4. John Cage - Empty Words (Vocal Solo) 2:40
5. John Cage - Empty Words (Silent Solo) 3:03
6. John Cage - Empty Words (Vocal Solo) 4:46
7. Sun Ra - Untitled Keyboard Solo 2 2:54
8. Sun Ra - We Hold This Myth To Be Potential 2:41
9. Sun Ra - The Damned Air 2:51
10. John Cage - Empty Words (Vocal Solo) 1:30
11. John Cage - Empty Words (Silent Solo) 2:37
12. John Cage - Empty Words (Vocal Solo) 4:01
13. Sun Ra - The Living Parable 0:37
14. Sun Ra - This Is The Space Age 1:25
15. Sun Ra - Untitled Keyboard Solo 3 6:56
16. Sun Ra featuring June Tyson - Enlightenment 2:28
17. Sun Ra - Untitled Keyboard Solo 4 2:03
18. John Cage & Sun Ra - Silent Duet 2:14
19. John Cage & Sun Ra - Empty Words & Keyboard 5:24
20. John Cage & Sun Ra - Silent Duet 2 2:47
21. Sun Ra - Untitled Keyboard Solo 5 10:05
Recorded live at Sideshows by the Sea, Coney Island, June 8, 1986
Released by Meltdown MPA-1, 1987
All written and arranged by John Cage and Sun Ra
(Side one)
A1. John Cage Meets Sun Ra - 21:23
(Side two)
B1. John Cage Meets Sun Ra - 22:19
[ Personnel ]
John Cage - vocal
Sun Ra - Yamaha DX-7
前回ご紹介した『When Spaceships Appear』(Saturn, 1985)に続くアルバム『Cosmo Sun Connection』(Saturn / Recommended, 1985)がご紹介できるリンクが引けませんので、1作飛ぶと本作になります。'80年代作品ともなるとさすがに近年ですので著作権上の制約もあるでしょう、スタジオ録音を再開した1982年9月以降のアルバム(ライヴ盤含む)は、本作までに以下のようになります(サン・ラ歿後の発掘ライヴ盤除く)。●はこのシリーズでリンクつきでご紹介したもの、○はリンクが引けず言及に留まったアルバムです。
●A Fireside Chat with Lucifer (Saturn, 1984)*September 1982, Studio
●Celestial Love (Saturn, 1984)*September 1982, Studio
●Nuclear War (Saturn, 1984)*September 1982, Studio
●Ra to the Recue (Saturn, 1983)*Recorded live, 1982
○Just Friends (Saturn, 1983)*Compilation with Side B Recorded live, 1982 (2 tracks)
○The Sun Ra Arkestra Meets Salah Ragab in Egypt (Praxis,1983)*May 1983, Studio (Side A) & Recorded live, January 1984 (Side B)
●Hiroshima (Stars that Shine Darkly, vol. 1) (Saturn, 1985)*Recorded live, November 1983
●Outer Reach Intensity-Energy (Stars that Shine Darkly, vol. 2) (Saturn, 1985)*Recorded live, in Montreux 1983
○Love in Outer Space: Live in Utrecht (Leo, 1988)*Recorded live, December 1983
○Live at Praxis 84 Vol. I (Praxis, 1984)*Recorded live, February 1984
○Live at Praxis 84 Vol. II (Praxis, 1985)*Recorded live, February 1984
○Live at Praxis 84 Vol. III (Praxis, 1986)*Recorded live, February 1984
●When Spaceships Appear (Saturn, 1985)*5 tracks from "Ra to the Recue" & 3 tracks Recorded live, 1984 to 1985
○Cosmo Sun Connection (Saturn / Recommended, 1985)*Recorded live, 1984
●John Cage Meets Sun Ra (Meltdown, 1987)*Recorded live, 1986
こうして見ると1982年~1984年に旺盛に録音が残され、1985年度には公式録音はなく、本作はほとんど2年ぶりの録音作品だったことがわかります。しかもアーケストラとしてではなくサン・ラ個人として外部ミュージシャンと共演ライヴを行った記録として稀少な録音になりました。
ジョン・ケージ(1912-1992)はカリフォルニア出身の戦後アメリカ現代音楽作曲家、白人ミュージシャンですがサン・ラ(1914-1993)とは生歿年ともに近い同世代人です。ケージの発想は当初は従来の現代音楽理論を踏まえたものでしたが、次第に楽器に細工をして本来の音程や音色を変えてしまう(プリペアード・ピアノ)、弦楽器をチューニングしないで四重奏する、演奏時間の指定だけで奏者は何も演奏しない、など東洋思想や神秘主義に基づいた「不確定性の音楽」や「偶然性の音楽」に移行していきました。これらはサン・ラもアーケストラの音楽で実践していた(隙間だらけのサウンドの『The Heliocentric Worlds』1965、メンバー全員がにわか仕込みの弦楽器で合奏する『Strange Strings』1967などの)方法で、逆に共演となると相性が良いとも相殺しあいかねないとも言えるものです。実験音楽家とはいえケージの音楽はアカデミックなものではなく、長い貧乏生活はアルバイトで生計を立てており、スーツも着ない作曲家でした。この会場もカジュアルなパーティー形式で行われたもので、かしこまったコンサートではなかったそうです。
(Original Meltdown "John Cage Meets Sun Ra" LP Liner Cover & Side one Label)
とはいえ観客の割合はインテリ白人中心でしょうから、サン・ラの気合いも相当入っていたと思われます。珍しくマルチ・キーボードではなくヤマハDX-71台でパフォーマンスをこなしたのは会場の制約と、ヴォーカル・パフォーマンスだけで臨んだケージとの公正さのためでもあったと思われます。催しにはアーケストラ側から番頭マーシャル・アレン(アルトサックス)とヴォーカルのジューン・タイソンも参加しましたが、オリジナル・アルバムにはジョン・ケージとサン・ラのパートのみが編集されて収められました。どんなものやら、と思って聴くとこれがいいアルバムなのです。まずサン・ラが自在なポータブル・シンセサイザーのソロ演奏で絶好調の演奏を披露し(観客も拍手しています)、続いて沈黙が続くといきなりジョン・ケージのじいさんヴォイスが単純なメロディーを唸りながら自作詩を朗読します。沈黙。シンセサイザー・ソロ。沈黙。じいさんの唸り声。サン・ラが目ざとくジョン・ケージの地声の音程から4度音程のドローンでヴォイスを彩り、ケージが引っ込むとシンセサイザーが引き継ぐ、というパターンのくり返しで、LP両面1曲扱いのこれをリピートで聴いていると異次元に連れて行かれます。確かにこれは実験的な音楽パフォーマンスには違いありませんが、サン・ラのシンセサイザーもジョン・ケージのヴォイスも素朴な情感を湛えているため温もりのある演奏になっているのです。こうしたパフォーマンスにつきものの観客の緊張もなく、この時ケージ74歳、サン・ラ72歳ですが、観客の敬意が自然に伝わってくる良い空気が音からにじみ出ています。サン・ラのシンセサイザー独奏はいつも優れたものですが、今回は格別にわかりやすく、かつ音楽的にも凝縮度の高いものではないでしょうか。それはやはり、ジョン・ケージとの共演の機会だったからこそ思われるのです。
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さて、この時のパフォーマンスのノーカット版が2016年になってようやく発掘リリースされました。パフォーマンスのセクションごとにトラックが分けられ、LPでは割愛されていたマーシャル・アレンの演奏、ジューン・タイソンのヴォーカルも収録されています。実際の進行がどうだったかがこれでよくわかるようになり、収録時間もオリジナルLPの倍になりましたが、聴き較べるとオリジナルLPの編集の優れた作品性とコンプリート版の記録性が痛感されます。コンプリート版は有用な記録ですが、作品として聴き継がれる価値があるのはオリジナルLP編集(またはLP編集のままのストレートなCD)でしょう。コンプリートに戻した分演奏の密度が稀薄になってしまったとも言えるので、LPの編集は主にジョン・ケージによるものと思われますが、珍品ながら珍品以上に独立した意義のある良いアルバムと言えるものです。ひょっとしたらシンセサイザー奏者としてのサン・ラを聴くにはもっともコンパクトな完成度を誇るアルバムかもしれません。
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John Cage, Sun Ra - John Cage Meets Sun Ra (The Complete Concert, June 8, 1986, Coney Island, NY)
Modern Harmonic Records; Modern Harmonic - MHCD-20, 2016
[ Performance Tracklist ]
1. Rick Russo - Rick Russo Introduction 1:11
2. Marshall Allen - Untitled Wind Synthesizer Intro 1:02
3. Sun Ra - Untitled Keyboard Solo 1 6:44
4. John Cage - Empty Words (Vocal Solo) 2:40
5. John Cage - Empty Words (Silent Solo) 3:03
6. John Cage - Empty Words (Vocal Solo) 4:46
7. Sun Ra - Untitled Keyboard Solo 2 2:54
8. Sun Ra - We Hold This Myth To Be Potential 2:41
9. Sun Ra - The Damned Air 2:51
10. John Cage - Empty Words (Vocal Solo) 1:30
11. John Cage - Empty Words (Silent Solo) 2:37
12. John Cage - Empty Words (Vocal Solo) 4:01
13. Sun Ra - The Living Parable 0:37
14. Sun Ra - This Is The Space Age 1:25
15. Sun Ra - Untitled Keyboard Solo 3 6:56
16. Sun Ra featuring June Tyson - Enlightenment 2:28
17. Sun Ra - Untitled Keyboard Solo 4 2:03
18. John Cage & Sun Ra - Silent Duet 2:14
19. John Cage & Sun Ra - Empty Words & Keyboard 5:24
20. John Cage & Sun Ra - Silent Duet 2 2:47
21. Sun Ra - Untitled Keyboard Solo 5 10:05