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映画日記2016年11月16日~20日

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 ベタなハリウッド産クラシック映画のヒット作を集中して観るのも悪くないものです。今回はハリウッドが外国から招いた女優の出演作を観てみました。グレタ・ガルボとイングリッド・バーグマンはスウェーデン出身、ヴィヴィアン・リーとエリザベス・テイラーはイギリス出身です。この人たちの出演作品が興味深いのは、ハリウッド映画の大スター女優のイメージが強い人たち(特に子役時代から映画出演しているテイラー)だけに、たぶん役柄にも出身を考慮してあるんだろうと思われるところです。

11月16日(水)グレタ・ガルボ(1905-1990)二本立て

ジョージ・キューカー『椿姫』(アメリカ'37)*109mins, B/W
・相手役はロバート・テイラー。椿姫ほど俗な題材はないが、ガルボ作品で最高の1本とされるのもうなずける。純情青年にほだされてしまった海千山千の商売女の悲哀が女優ガルボに重なって説得力がある。ガルボ19歳のニューヨーク進出がサイレント時代の1925年、同年にサイレント版3回目でノーマ・タルマッジ主演の『椿姫』(フレッド・ニブロ監督)がヒットしていた以来の再映画化(ガルボ37歳)でもある。監督が女性映画ならこの人と定評あるキューカー(ゲイなのは公然の秘密だった)がとらえる男女の機敏は被虐的で鋭く、かゆい所までヒロイン像を描ききる。「椿姫」を手っ取り早く知るには小説やオペラよりもこれです。

エルンスト・ルビッチ『ニノチカ』(アメリカ'39)*111mins, B/W
・亡命貴族の私有財産没収のためパリに派遣された特命大使で元鬼軍曹ニノチカが唾棄すべきパリの享楽文化と対決する。シナリオはブラケット=ワイルダー、つまり後のワイルダー映画コンビでルビッチとしては風刺も運びも少々くどいが、楽しげに演じるガルボが良い。ソ連のスーダラ三人組にベラ・ルゴーシの名前を見つけてびっくり。ガルボは2年後の出演作で引退してしまうが、クール・ビューティばかりでなくコメディの名作を残しておいて良かった。


11月17日(木)ヴィヴィアン・リー(1913-1967)二本立て

ウィリアム・K・ハワード『無敵艦隊』(イギリス'37)*89mins, B/W
・初主演作(実際はヒロイン3人の内の1人)で主役のローレンス・オリヴィエとの初共演作。エリザベス女王朝のイギリスが国力を挙げてスペイン商船から海賊略奪していた16世紀のお話。イギリス映画は舞台演劇の俳優出演が多いからオリヴィエやエリザベス女王役女優の強烈な存在感にリーの印象はまるでない。ところがオリヴィエのハリウッド進出に連れられ翌年には『風と共に去りぬ』に抜擢されるのだった。

マーヴィン・ルロイ『哀愁』(アメリカ'40)*108mins, B/W
・これも相手役はロバート・テイラー。バレエ・ダンサーと上流階級の青年将校の恋。だが結納寸前で青年は召集され、戦時生活に困窮したヴィヴィアン・リーは街の女に身を落とすが、無事生還した青年に打ち明けられないまま結婚の手筈は進むのだった……と、もうベタベタの恋愛悲劇。スカーレット・オハラと同じ女優かというくらい儚い芝居もリーは上手い。108分という尺もちょうど良く、当時のハリウッドは何を作っても平均点を軽く超える製作体制を誇っていた証明みたいな作品。

11月18日(金)イングリッド・バーグマン(1915-1982)二本立て

グレゴリー・ラトフ『別離』(アメリカ'39)*70mins, B/W
・バーグマンのハリウッド進出第1作はスウェーデン時代の『間奏曲』'36のリメイク。20歳のピアノ教師(バーグマン)と妻子持ちの中年スター・ヴァイオリニストの不倫恋愛。普通はもう1、2回ひねる所をひねらず70分相応にまとめてしまった(スウェーデン版は88分ある)。ラストのバーグマンの台詞が映画をうまく落としているが元々のシナリオの功績にすぎないので、ハリウッド・デビューとしてはインパクトの弱い作品とせざるを得ない。

ジョージ・キューカー『ガス燈』(アメリカ'44)*114mins, B/W
・アヴァン・タイトルでシャルル・ボワイエ、バーグマンに並んでジョセフ・コットンと出る。見始めて伏線らしき描写があるのにどういう映画かまったく見当のつかない状態がしばらく続く。途中からいきなりそれまでの伏線が生きてとんでもなく遠回りな展開になり、どうやって終わらせるのか予想もつかない異常な堂々巡りが続き、あるきっかけであっという間に後味の良いのか悪いのかわからない大団円を迎える。ここでもキューカーのヒロイン視点の演出が上手く、1本の映画でバーグマンの演技の幅がこれほど広いのは演出と女優がうまくかみ合ったのだろう。単純に言えばチャールズ・ロートンの『狩人の夜』'55に匹敵するサスペンス映画の怪作で異色の傑作だが、それだけでは済まされないマジックがある。

11月19日(土)ヴィヴィアン・リー(1913-1967)二本立て

ジュリアン・デュヴィヴィエ『アンナ・カレニナ』(イギリス'48)*111mins, B/W
・帝政ロシア時代。高級官僚の妻アンナはとある出会いから貴族の青年士官と道ならぬ恋に、だがやがて青年との逃避行も頽廃生活に埋没していき……と、女優映画を選んでいくとこんなのばっかり。原作はもちろん大トルストイの同名の大長編。先立ってグレタ・ガルボ版もあるが、世評はヴィヴィアン・リー版の方が良い。監督がフランス映画の名人、製作はイギリスなので地味だが重心が低い風格があり「映画で観る名作文学」の典型みたいな佳作。

エリア・カザン『欲望という名の電車』(アメリカ'51)*122mins, B/W
・ヴィヴィアン・リーの実像(体調衰弱まで招く重篤な双極性障害)ともっとも近かったというキャリア後期の代表作。いつもは几帳面な演出と平凡な画面構成のカザンも本作ではリーとマーロン・ブランドの破壊的で表現力抜群の演技にカメラがなりふり構わなくなっている。とにかくカメラが立ち止まらない。上流階級映画なら大広間の階段を使う上下の人物移動を、貧民街の棟割り長屋の外階段に置き換えて演出する。リーがそうだったように、女性の重篤な躁鬱症状を原作のテネシー・ウィリアムズ(ゲイ)は上手く創作し、映画は演出よりもリーとブランドの存在感の説得力で成功した感じがする。

11月20日(日)エリザベス・テイラー(1932-2011)二本立て

ジョージ・スティーヴンス『陽のあたる場所』(アメリカ'51)*122mins, B/W
・子役時代の『若草物語』や『名犬ラッシー』でも好かったが、せっかく観直すんだからとこれにした。原作はドライサーの重い重い『アメリカの悲劇』。中盤まで見て、これはあくまで視点人物で主人公モンゴメリー・クリフトの映画であって、エリザベス・テイラーの映画とは言えないな、と反省。テイラーに若々しい魅力はあるが、あくまで未必の故意で殺人加害者になってしまったクリフトの罪の意味が映画のテーマなのでテイラーの役は健康的な美人なら誰でもいい。つまりまだ子役の延長のキャスティングでしかない。テイラーの役の性格を深めると原作から逸脱しテーマの分裂を招くので本作で存在感が薄いのは仕方ない。

リチャード・ブルックス『雨の朝パリに死す』(アメリカ'54)*116mins, Technicolor
・これも代表作だが、昔テレビ放映で観た印象とまるで違う。視点人物で主人公の中年男(現在)があくまで主人公で、キャスティングではヒロインのテイラーは回想シーンで失敗した結婚生活の挙げ句、一人娘を残して……という役柄で、主人公が一人娘と再会するまでを描く現在形のドラマには登場しない。22歳のテイラーの美貌は素晴らしいが映画の本質には関わってこないので同年輩の華のある美人女優なら(一応「華のある」という条件はつく)代役が利く。これ(フィッツジェラルドの短編「バビロン再訪」が原作)もヒロイン視点には変更できない原作なので『陽のあたる場所』同様主人公の恋人(本命または愛妻)役の次元でヒロインというにすぎない。エリザベス・テイラーは戦後世代らしく開放的な存在感があるのにガルボ、リー、バーグマンよりも年齢なりの自我の確立がむしろ遅く見えるのは面白い。



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