するとそれまで自分からは何も話す様子のなかったちびムーミンが…………、とつぶやきました。ん?今何を言ったのだ?とヘムル署長。どうも「…………」と言ったみたいですね、とスナフキン。
君のような不審者には訊いておらん、とヘムル署長は冷たく言うと、比較的スナフキンの近くに立っていたスノークが、この男の言うには、ムーミン族の子供は「…………」とつぶやいたらしいですね、と言いました。君にはそれが聞こえたのか?つまりスノーク君自身が子供がそうつぶやいたのが聞こえたのかね?
そう言われても、とスノーク、私は自分に都合の良いことしか言いません。それは法的にも守られた権利のはずで、もちろん偽証は言いませんよ。
スノーク君の言ったのは嘘ではないよ、とヘムレンさん。確かにあの男の言うには、ムーミン族の子供は「…………」とつぶやいたらしい。確かなことは言えないが、私の耳にもそう聞こえたように思う。親戚だからと無理に信じてもらう必要はないが、私の耳にもそう聞こえたのだからもっと男の近くにいたスノーク君からの伝聞にも信憑性は高いのではないかな。
伝聞どころか証言と呼ぶべきではないかと思うがね、とジャコウネズミ博士、つまり何と言うか、私とヘムレンさんはともに学者仲間でもある。つーかこのムーミン谷では学者はヘムレンさんと私しかいない。とすればヘムレンさんのご意見に異議を申し立てられる立場の者は私以外にはすべて学者ならざる者になるのだが……例えば冒険家とか。
冒険家と言ってもムーミンパパとその仲間のロッドユールとソースユールしかおらん、とヘムレンさん、フレデリクソンさんは専属バックアップだしな。ところが当面の問題はムーミンパパに関わることなのだから、彼らの証言は身内として客観性に欠ける。
では魔女ならばどんなものですか?とヘムル署長、何しろ魔女ってくらいなのだからわれわれ俗衆を超越した存在であるはずで、われわれだって普段から都合の良い時には尊重し、そうでない時には遠慮なく税金を取り立てている。ムーミン谷で現在魔女というとトゥーティッキ、モラン、フィリフヨンカさんの3者になりますな。やれやれ、ついに魔女の見立てを仰がなければらちがあかない事態になるとは困ったものだが、これを超法規的処置と言っていいんでしょうか?
するとそれまで自分からは何も話す様子のなかったちびムーミンが…………、とつぶやきました。
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偽ムーミン谷のレストラン・誡(49)
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