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Channel: 人生は野菜スープ(または毎晩午前0時更新の男)
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偽ムーミン谷のレストラン・改(28)

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 もとよりレストランがどういうものかなど私もロッドユールもフレドリクソンさんも知るものか、とムーミンパパ(当時ムーミン)は開き直りました。披露宴ならレストランねと言い出したのは花嫁たちではないか。ムーミン谷にはレストランなどないから私とロッドユールは慌ててフレドリクソンさんにお願いしたのだ。フレドリクソンさんは発明家だからこれはフレドリクソンさん仕様のレストランということでいいではないか。
 ゴキブリがいるわ、とムーミンママ(当時フローレン)はソースユールと花嫁どうし手をつないだまま床を凝視しました。
 当然だ、ここはレストランなんだから、とムーミンパパは素足でゴキブリを踏みつぶすと(ムーミン族は特別な場合しか靴を履かないのです)、私とロッドユールは歴戦の冒険家だということを忘れてはいまいな。われわれが食い逃げしてきた店への踏み倒し金額だけでもムーミン谷の年度予算の何年分になるだろうか。フレドリクソンさんは発明家ではあってもレストランとは何かを知らないので、私とロッドユールは大体自分たちの経験からレストランとおぼしき施設をフレドリクソンさんに伝えて作っていただいたのだ。
 でも、と花嫁たちはブーブー文句を垂れました、こんなのがレストランだというの?本当に見てきたことは確かなの?
 ロッドユールがムーミンパパと目を合わせて肩をすくめました。言ってるじゃないか、冒険家だって。われわれが冒険する時それがどういう冒険か知って冒険するのではない。冒険して初めてそれがどんな冒険か知るのだ。すでにあるものを作るのが発明ではなく、発明家が作ったものが発明になるのと原理は同じことだな。フレドリクソンさんはレストランをご存知なかったが、それは遺憾なことではなく知らなかったからこそ発明できたのだ。
 なんならムーミン谷で決をとってもいいぞ、とムーミンパパはムキになって言い張りました、たとえ豚小屋や公衆便所のようであろうと、ゴキブリがいようと、これがレストランだと認めてしまえばレストランなのだ。いや認める認めないということすら関係ないと言える。なぜならこれがレストランか否かをゴネ始めた時点でそれは少なくともレストランである可能性を俎上に乗せているのであり、疑わしきは罰せずの論理であれば誰も本物のレストランとは何かを知らないわれわれに何を断じることができるだろうか?
 ふん!あんたたちが無能ってことよ。



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