ふむ、とジャムおじさんはひげをひねりました、おまえさんの発明の才は前々から承知しておったが、ここまで手広くやっておったとはシャッポを脱ぐよ、と本当に調理帽を脱いで禿げ頭を出しました。そうなのだ、とばいきんまんは注射針を慎重にバタコさんの腕から抜き、この薬が効いている間は心肺停止状態が続き、脳波も停止して医学的には完全に死亡したのと同じになる。しかし薬の効き目が切れるとすぐに完全に蘇生して、薬物の痕跡も残らないから、一定時間注射した相手を実質的に剥製も同然にしておくことができるのだ。そういう発明だがどうだろう、商品化できるだろうか?つまり、売れるかだが。
売れると思うよ、とジャムおじさん、コスト、つまり原価次第でもあるが、こういう悪用しがいのあるものは闇で売る方が高く売れる。供給過剰では末端価格が下がるから、大量生産してコストを下げるにしてもちまちま売ってがめつく儲けるのが良かろう。おまえさんなら、どうせ原料はタダみたいなものだろう?ジャムおじさんとばいきんまんは顔を見合わせ、企むような笑いを交わしました。
人類の歴史は毒薬の歴史とはよく言ったものだ、とジャムおじさんは注射器を手に取ると、これは要するにジュリエットが使ったという、アレだろ?そうそう、とばいきんまん、実はばいきん家先祖代々秘伝のやつをちょっとアレンジしてみたものなのだ。ほお、とジャムおじさんは感心した様子で、当時私の先祖もそこにおったよ、つまりわれわれは先祖代々からの縁があったのだな。
では手を組むか、つまり見逃してくれるか?もちろんだとも、上前次第だが。再び両者は哄笑するといそいそと変装して、町の盛り場に飲みに行きました。
誰もいませんね?入っていいよ、としょくぱんまんはいちごミルクちゃんと調理室に入ってきました。今日はパン工場はみんな出かけているみたいだな。しょくぱんまんも調理室でジャムおじさんがバタコさんとやっているようなことをやりたいと思っていたのです。これはきっといいものだぞ、としょくぱんまんはいちごミルクちゃんに置いてあった注射器を打ち込みました。いちごミルクちゃんは声も上げずにぐにゃりとなりました。
しょくぱんまんは冷静な性格でしたから、すぐに事態の深刻さを理解しました。これは効きすぎちゃったってことだな、としょくぱんまんは判断すると本人の手に注射器を握らせ、素早く現場を立ち去りました。
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魍猟綺譚・夜ノショクパンマン(77)
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