from Andrew Hill - Judgement! (Blue Note, 1964)
Side A1. Siete Ocho : https://youtu.be/ISL-tvlyS4s - 8:58
Side A2. Flea Flop : https://youtu.be/1CVvsIm7I0A - 7:21
Side B1. Alfred : https://youtu.be/wYrmM1WsAYE - 7:04
Recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, 8 January, 1964
Released; Blue Note Records BST 84159, September 1964
[ Personnel ]
Andrew Hill - piano
Bobby Hutcherson - vibraphone
Richard Davis - bass
Elvin Jones - drums
from Andrew Hill - Andrew!!! (Blue Note, 1968)
Recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, June 25, 1964
Released; Blue Note Records BST 84203, April 1968
Side A2. Black Monday : https://youtu.be/4FJritoqyMk - 8:55
[ Personnel ]
Andrew Hill - piano
John Gilmore - tenor saxophone
Bobby Hutcherson - vibraphone
Richard Davis - bass
Joe Chambers - drums
from Andrew Hill - Pax (Blue Note, 2006)
Recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, February 10, 1965
Released; Blue Note Records Blue Note 58297, June 2006 (First appears including ?2xLP Comp."One For One" Blue Note BN-LA459-H2 US, 1975)
Side D2 ("One For All" Edition). Calliope : https://youtu.be/K8Hec5xE6iQ - 10:10
[ Personnel ]
Andrew Hill - piano
Freddie Hubbard - cornet
Joe Henderson - tenor saxophone
Richard Davis - bass
Joe Chambers - drums
*
All composed by Andrew Hill
アンドリュー・ヒル(ピアノ/1931~2007)のアルバム紹介も前回は傑作『Smoke Stack』を掲載することができた。ここで繁をいとわずヒル1960年代のブルー・ノート作品リストを再掲載させていただく。
1963.11: Black Fire (issued 1964.3)
1963.12: Smokestack (issued 1966.8)
1964.1: Judgment! (issued 1964.9)
1964.3: Point of Departure (issued 1965.4)
1964.6: Andrew!!! (issued 1968.4)
1965.2: Pax (issued 2006.6)
1965.10: Compulsion!!!!! (issued 1967.2)
1966.3: Change (issued 2007.6)
1968.4: Grass Roots (issued 1969)
1968.10: Dance with Death (issued 1980)
1969.5: Lift Every Voice (issued 1970)
1969.11: Passing Ships (issued 2003.10)
1965-70: One for One (issued 1975, 2LP including "Pax")
1967-70: Mosaic Select 16: Andrew Hill (issued 2005, 3CD)
本当は『Black Fire』から1枚ずつ全作品をご紹介したいのだが、無料試聴サイトにアップされているのにロックされていて限られたものしかリンクを引けない。ヒル初期の名盤と名高い『Black Fire』と『Point of Departure』のリンクが引けず無念だが、この2枚は60年代のブルー・ノート作品でも屈指の名盤で、ブルー・ノートというレーベルに興味があれば絶対落とせない。それに50年前の旧作なので輸入盤CDなら1枚1000円を切る値段で買える。
ヒルの音楽は調性音楽の枠にとどまりながら、ジャズの即興性とビート感覚を失わずに、メロディとリズムの構成を一聴して判別しがたいまでに混濁させたものだった。ヒルのジャズがオブスキュアな存在になったのは、そのようにポピュラー性を拒絶する発想が本質にあったからで、ジャズの主流とつかず離れずでいながら、ヒルの音楽には主流ジャズに対して常に挑発的な異質さがあった。今回リンクを引けた曲をアルバム毎に見てみたい。
(Original Blue Note "Judgement!" LP Liner Notes)
まず『Siete Ocho』だが、イントロは5/8のベース・オスティナートに4/4を基本にルバートしたヴィブラフォン、ピアノが絡み、小節の拍頭が揃うまで続く。このイントロだけでもリズム構成をつかめない上に、A8小節+B8小節+A'4小節の20小節のテーマになる。カウントしてもまず1度では小節構成が把握できない。先発ソロはヴィブラフォンで、ピアノは明快にコードを刻むのも、ピアノ・ソロが先発だと演奏がばらばらになってしまうからだろう。
小節構成の分節トリックは『Flea Flop』にもあり、構成はAA'AA'だが、Aは8小節、A'は10小節からなる36小節構成なので、リスナーは今聴いている箇所が何小節目にさしかかっているのかわからなくなる。この曲は演奏自体は構成にズレが生じても辻褄は合わせられるので、ソロは先にヴィブラフォンとベースをフィーチャーし、ピアノは最後にソロを取る。
一聴して平易なブルース・バラードの『Alfred』もよく聴くとA12小節+B8小節+A'8小節の変型ブルースで(通常は8小節×3)、BはAの2度上に移調するモード(音階)手法の曲でもある。ヴィブラフォンが空間を作り、進行はピアノが主導する。『Judgement!』はヴィブラフォン+ピアノ・トリオという編成だが、モダン・ジャズ・カルテットどころかヒルも参加したウォルト・ディッカーソンの『To My Queen』1962とも何という違いだろうか。
(Original Blue Note "Andrew!!!" LP Liner Notes)
このアルバムからは『Black Monday』しかリンクに引けないが、6/8でA7小節+B4小節+A'12小節、ワンコーラス23小節の変態バラードになる。7小節+4小節+12小節(A'なので正確には7+5小節)=23小節なんていう曲は他に知らない。とんでもない小節構成で、テーマ・メロディと小節構成の分節がここでも意図的にズレる(テーマ中のどのモチーフもシンコペーションから始まる)難曲だが、テーマにソロに、サン・ラ・アーケストラのジョン・ギルモアのテナーが冴える。その分ヴィブラフォンの比重は後退した感もある。ピアノ・ソロのバックでベースがとんでもない動きをしているのも聴き逃せない。今回取り上げるアルバム3作は『Black Fire』『Smoke Stack』『Point of Departure』に続くものだが、すべてリチャード・デイヴィスがベースで、ドラムス以上にリズムの核となっている。次作『Compulsion!!!!!』からは毎回ベーシストは変わっている。
ここまでの曲、特に『Siete Ocho』と『Black Monday』が過激だが、偶数小節単位でテーマ・メロディが分節されないため、メロディを追うと小節構成に混乱をきたすし、小節構成からテーマ・メロディの分節を判別することもできない。曲を覚えて手拍子を打ちながらハミングする程度のことも、楽理的理解とリズム練習なしには無理だろうと思われる。
(Original Blue Note 2LP "One For One" including "Pax" First Appearanced)
このアルバムはバップ的2ホーン・クインテットの基本編成で『Calliope』も2管ユニゾンのテーマ・メロディを聴くとこれまでの曲よりはわかりやすく感じるが、AAA48小節(16小節×3)で、16小節ブルースの変型になっており、シンコペーションの連続でテーマ自体が実は分節困難な上、アドリブに入ると小節構成も把握困難に陥る(この曲と良く似た曲想にジョー・ヘンダーソン作『If』がある。ヘンダーソン参加のラリー・ヤング『Unity』1965収録曲)。ハバードとヘンダーソンもハード・バップからアヴァンギャルドまで幅広いが、ホーン入りでは珍しくピアノ・ソロから始まるが、これはリーダーによる構成の提示のためで、テナー→コルネットと続くホーンのソロはハード・バップ的に聴こえる。ベース・ソロで一気にアヴァンギャルド・ジャズになる印象があるが、これはホーンがこなれた演奏に成功しているためで、実際は変型ブルースの極限に近い実験だろう。
以上ヒルのブルー・ノート第3作、第5作、第6作からアルバム1枚分相当の曲をご紹介したが、ヒルの音楽は小節構成、リズム構成、和声とテーマ・メロディ分節など構成要素の相互関係を判別するのにミュージシャン・レヴェルの理解力(演奏力とは言わないが)をリスナーの前提条件にしているのがわかる。音楽をミュージシャンと一部のリスナーにしか理解できないポイントに設定している。
しかもヒルのジャズは、クラシックや民族音楽、現代音楽など既成音楽の楽理を取り入れて複雑化したものでは一切ない。ジャズ自体に含まれている手法をヒルならではのやり方で発展させた純粋なジャズで、しかもこれほど煮ても焼いても食えない音楽は滅多にないが、ヒルはそれに全身全霊を込めていた。だがこのように容易に理解されない音楽は、常に危険と隣りあわせでいた。大半が録音当時未発表に終わったのもそれを物語っている。
Side A1. Siete Ocho : https://youtu.be/ISL-tvlyS4s - 8:58
Side A2. Flea Flop : https://youtu.be/1CVvsIm7I0A - 7:21
Side B1. Alfred : https://youtu.be/wYrmM1WsAYE - 7:04
Recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, 8 January, 1964
Released; Blue Note Records BST 84159, September 1964
[ Personnel ]
Andrew Hill - piano
Bobby Hutcherson - vibraphone
Richard Davis - bass
Elvin Jones - drums
from Andrew Hill - Andrew!!! (Blue Note, 1968)
Recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, June 25, 1964
Released; Blue Note Records BST 84203, April 1968
Side A2. Black Monday : https://youtu.be/4FJritoqyMk - 8:55
[ Personnel ]
Andrew Hill - piano
John Gilmore - tenor saxophone
Bobby Hutcherson - vibraphone
Richard Davis - bass
Joe Chambers - drums
from Andrew Hill - Pax (Blue Note, 2006)
Recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, February 10, 1965
Released; Blue Note Records Blue Note 58297, June 2006 (First appears including ?2xLP Comp."One For One" Blue Note BN-LA459-H2 US, 1975)
Side D2 ("One For All" Edition). Calliope : https://youtu.be/K8Hec5xE6iQ - 10:10
[ Personnel ]
Andrew Hill - piano
Freddie Hubbard - cornet
Joe Henderson - tenor saxophone
Richard Davis - bass
Joe Chambers - drums
*
All composed by Andrew Hill
アンドリュー・ヒル(ピアノ/1931~2007)のアルバム紹介も前回は傑作『Smoke Stack』を掲載することができた。ここで繁をいとわずヒル1960年代のブルー・ノート作品リストを再掲載させていただく。
1963.11: Black Fire (issued 1964.3)
1963.12: Smokestack (issued 1966.8)
1964.1: Judgment! (issued 1964.9)
1964.3: Point of Departure (issued 1965.4)
1964.6: Andrew!!! (issued 1968.4)
1965.2: Pax (issued 2006.6)
1965.10: Compulsion!!!!! (issued 1967.2)
1966.3: Change (issued 2007.6)
1968.4: Grass Roots (issued 1969)
1968.10: Dance with Death (issued 1980)
1969.5: Lift Every Voice (issued 1970)
1969.11: Passing Ships (issued 2003.10)
1965-70: One for One (issued 1975, 2LP including "Pax")
1967-70: Mosaic Select 16: Andrew Hill (issued 2005, 3CD)
本当は『Black Fire』から1枚ずつ全作品をご紹介したいのだが、無料試聴サイトにアップされているのにロックされていて限られたものしかリンクを引けない。ヒル初期の名盤と名高い『Black Fire』と『Point of Departure』のリンクが引けず無念だが、この2枚は60年代のブルー・ノート作品でも屈指の名盤で、ブルー・ノートというレーベルに興味があれば絶対落とせない。それに50年前の旧作なので輸入盤CDなら1枚1000円を切る値段で買える。
ヒルの音楽は調性音楽の枠にとどまりながら、ジャズの即興性とビート感覚を失わずに、メロディとリズムの構成を一聴して判別しがたいまでに混濁させたものだった。ヒルのジャズがオブスキュアな存在になったのは、そのようにポピュラー性を拒絶する発想が本質にあったからで、ジャズの主流とつかず離れずでいながら、ヒルの音楽には主流ジャズに対して常に挑発的な異質さがあった。今回リンクを引けた曲をアルバム毎に見てみたい。
(Original Blue Note "Judgement!" LP Liner Notes)
まず『Siete Ocho』だが、イントロは5/8のベース・オスティナートに4/4を基本にルバートしたヴィブラフォン、ピアノが絡み、小節の拍頭が揃うまで続く。このイントロだけでもリズム構成をつかめない上に、A8小節+B8小節+A'4小節の20小節のテーマになる。カウントしてもまず1度では小節構成が把握できない。先発ソロはヴィブラフォンで、ピアノは明快にコードを刻むのも、ピアノ・ソロが先発だと演奏がばらばらになってしまうからだろう。
小節構成の分節トリックは『Flea Flop』にもあり、構成はAA'AA'だが、Aは8小節、A'は10小節からなる36小節構成なので、リスナーは今聴いている箇所が何小節目にさしかかっているのかわからなくなる。この曲は演奏自体は構成にズレが生じても辻褄は合わせられるので、ソロは先にヴィブラフォンとベースをフィーチャーし、ピアノは最後にソロを取る。
一聴して平易なブルース・バラードの『Alfred』もよく聴くとA12小節+B8小節+A'8小節の変型ブルースで(通常は8小節×3)、BはAの2度上に移調するモード(音階)手法の曲でもある。ヴィブラフォンが空間を作り、進行はピアノが主導する。『Judgement!』はヴィブラフォン+ピアノ・トリオという編成だが、モダン・ジャズ・カルテットどころかヒルも参加したウォルト・ディッカーソンの『To My Queen』1962とも何という違いだろうか。
(Original Blue Note "Andrew!!!" LP Liner Notes)
このアルバムからは『Black Monday』しかリンクに引けないが、6/8でA7小節+B4小節+A'12小節、ワンコーラス23小節の変態バラードになる。7小節+4小節+12小節(A'なので正確には7+5小節)=23小節なんていう曲は他に知らない。とんでもない小節構成で、テーマ・メロディと小節構成の分節がここでも意図的にズレる(テーマ中のどのモチーフもシンコペーションから始まる)難曲だが、テーマにソロに、サン・ラ・アーケストラのジョン・ギルモアのテナーが冴える。その分ヴィブラフォンの比重は後退した感もある。ピアノ・ソロのバックでベースがとんでもない動きをしているのも聴き逃せない。今回取り上げるアルバム3作は『Black Fire』『Smoke Stack』『Point of Departure』に続くものだが、すべてリチャード・デイヴィスがベースで、ドラムス以上にリズムの核となっている。次作『Compulsion!!!!!』からは毎回ベーシストは変わっている。
ここまでの曲、特に『Siete Ocho』と『Black Monday』が過激だが、偶数小節単位でテーマ・メロディが分節されないため、メロディを追うと小節構成に混乱をきたすし、小節構成からテーマ・メロディの分節を判別することもできない。曲を覚えて手拍子を打ちながらハミングする程度のことも、楽理的理解とリズム練習なしには無理だろうと思われる。
(Original Blue Note 2LP "One For One" including "Pax" First Appearanced)
このアルバムはバップ的2ホーン・クインテットの基本編成で『Calliope』も2管ユニゾンのテーマ・メロディを聴くとこれまでの曲よりはわかりやすく感じるが、AAA48小節(16小節×3)で、16小節ブルースの変型になっており、シンコペーションの連続でテーマ自体が実は分節困難な上、アドリブに入ると小節構成も把握困難に陥る(この曲と良く似た曲想にジョー・ヘンダーソン作『If』がある。ヘンダーソン参加のラリー・ヤング『Unity』1965収録曲)。ハバードとヘンダーソンもハード・バップからアヴァンギャルドまで幅広いが、ホーン入りでは珍しくピアノ・ソロから始まるが、これはリーダーによる構成の提示のためで、テナー→コルネットと続くホーンのソロはハード・バップ的に聴こえる。ベース・ソロで一気にアヴァンギャルド・ジャズになる印象があるが、これはホーンがこなれた演奏に成功しているためで、実際は変型ブルースの極限に近い実験だろう。
以上ヒルのブルー・ノート第3作、第5作、第6作からアルバム1枚分相当の曲をご紹介したが、ヒルの音楽は小節構成、リズム構成、和声とテーマ・メロディ分節など構成要素の相互関係を判別するのにミュージシャン・レヴェルの理解力(演奏力とは言わないが)をリスナーの前提条件にしているのがわかる。音楽をミュージシャンと一部のリスナーにしか理解できないポイントに設定している。
しかもヒルのジャズは、クラシックや民族音楽、現代音楽など既成音楽の楽理を取り入れて複雑化したものでは一切ない。ジャズ自体に含まれている手法をヒルならではのやり方で発展させた純粋なジャズで、しかもこれほど煮ても焼いても食えない音楽は滅多にないが、ヒルはそれに全身全霊を込めていた。だがこのように容易に理解されない音楽は、常に危険と隣りあわせでいた。大半が録音当時未発表に終わったのもそれを物語っている。