そこは私もちゃんと考えてあってだ、とジャムおじさん、乳頭とは言っても本物の母乳が出るわけではない。だいたい天然の母乳など作れるものではない。あくまでアンパンマン仕様にしてある。つまりミルク状のあんパンだな、チューブ状にパン粥の芯の部分にこしあんが入っているという、流動食にアレンジしたあんパンが仕込んである。残念なのは粒あんにすると詰まるのでこしあんでしか作れなかったことじゃが、これで全天候対応あんパンを遭難したり飢えたりした人びとに供給することができる。
これは医療用エンシュアリキッドにヒントを獲た摂食困難者用栄養食でもある。具体的にはたとえばの話だ、
とジャムおじさんはもったいぶってひと息つき、心因性で摂食障害に陥り、いわゆる固形物を食べられない人や、さらにはいわゆる植物人間と言うような状態の人じゃな。自分で飲めない場合は鼻孔からチューブで摂食させるわけじゃ。エンシュアリキッドは完全栄養流動食なので、さすがにあんパンでは糖分一辺倒ではあるが、甘食に特化しているだけに即効性はある。疲労や衰弱には甘いものに勝るものはない。だからして、今後荒天の日は乳頭をつけてパトロールしてもアンパンマンがアンパンマンであることには変わりはないのだぞ。
でもジャムおじさん、とカレーパンマン、アンパンマンはそれでいいかもしれないけれど、おいらたちはどうしたらいいんですか。なあしょくぱんまん、どうだよ。とつぜん名前を呼ばれてしょくぱんまんはギクッとしました。しょくぱんまんはジャムおじさんの話を聞きながら、それじゃぼくもパン粥まんにされてしまうのだろうか、具も味つけもないよ、とろくに感謝もされないただのパン粥になってしまうのだろうかと、ハンサムなだけの食パンの身を呪いたくなっていたからです。
うん、きみたちの場合はちょっと難しいねえ、とジャムおじさんはエプロンで手を拭うと、たとえばスープカレーという手もある。だがスープカレーはそれだけで食べものと呼べるものではなかろう。そこで私が考えているのはしょくぱんまんはパン粥、カレーパンマンはスープカレーを分担して、ふたりでコンビを組めば良い、と思うがどうだろうか。
それも乳頭の頭でやらなきゃならないんですか?当然じゃよ。なあに町の人たちもきみたちの衣装なら見間違えるようなことはないさ。だから余計恥ずかしいのだ、とは、通用しそうにはありませんでした。
↧
魍猟綺譚・夜ノアンパンマン(6)
↧