Judas Priest - Sad Wings Of Destiny (Gull, 1976) [Full Album] : http://m.youtube.com/watch?v=ihYRk9R17js
Recorded November - December 1975, Rockfield Studios, Wales
Released 23 March 1976
(Side A)
1. "Victim of Changes" (Al Atkins, Glenn Tipton, Rob Halford, K. K. Downing) 7:47
2. "The Ripper" (Tipton) 2:50
3. "Dreamer Deceiver" (Atkins, Halford, Downing, Tipton) 5:51
4. "Deceiver" (Halford, Downing, Tipton) 2:40
(Side B)
5. "Prelude" (Tipton) 2:02
6. "Tyrant" (Halford, Tipton) 4:28
7. "Genocide" (Halford, Downing, Tipton) 5:51
8. "Epitaph" (Tipton) 3:08
9. "Island of Domination" (Halford, Downing, Tipton) 4:32
[Personnel]
Rob Halford - vocals
K. K. Downing - guitar
Glenn Tipton - guitar, piano
Ian Hill - bass guitar
Alan Moore - drums
Produced by Jeffrey Calvert, Max West, and Judas Priest
Engineered by Jeffrey Calvert, Max West, and Chris Tsangarides
アルバムの日本盤邦題は『運命の翼』、曲の邦題はA面が『生け贄』『切り裂きジャック』『夢想家I』『裏切り者の歌 (夢想家II)』、B面が『プレリュード』『独裁者』『虐殺』『墓碑銘 (エピタフ)』『暴虐の島』だった。ジューダス・プリーストはインディーズのガル・レーベルから74年11月にデビュー作『ロッカ・ローラ』を発表しており、これは1年半ぶりのセカンド・アルバムになる。デビュー作は全曲がK.K.ダウニングの作曲で、『運命の翼』からグレン・ティプトンの曲も増えてきたのがわかる。B面冒頭の壮大なプログレ的インスト曲『プレリュード』やクイーンを思わせる美しいピアノ・バラード『墓碑銘』が、シャープなリフの疾走メタル『独裁者』、ヘヴィなリフのミドル・テンポ曲『暴虐の島』と交互に構成されるB面はティプトン・サイドだろう。A面のヘヴィな楽曲群は『ロッカ・ローラ』からの発展だが、ダウニング単独ではなくティプトンとの共作が増えて切れ味が格段に増した。ロブ・ハルフォードの超高音ヴォーカルも冴えている。
ジューダスの代表作というとメジャーのCBSコロンビア移籍後の『ステンド・クラス』Stained Class (1978)、『ブリティッシュ・スティール』British Steel (1980)、『復讐の叫び』Screaming for Vengeance (1982)、『ペインキラー』Painkiller (1990)などが名高い。『ロッカ・ローラ』Rocka Rolla (1974)から『ブリティッシュ・スティール』British Steel (1980)までには『運命の翼』Sad Wings of Destiny (1976)、CBSコロンビアに移籍して『背信の門』Sin After Sin (1977)、『ステンド・クラス』Stained Class (1978)、『殺人機械』Killing Machine (1978)、日本公演のライヴ盤(LP+EP)『プリースト・イン・ジ・イースト』Unleashed in the East(1979)がありここまでが前期ジューダス・プリーストといえるだろう。『イン・ジ・イースト』は全英4位のヒット作になっている。『ロッカ・ローラ』から『ブリティッシュ・スティール』までのジューダス・プリーストは、やはり瑞々しく感じられる。真にヘヴィ・メタルを代表するバンドになったのは『ブリティッシュ・スティール』の達成によるものだが、バンドのスケール感が増してタフになった分、青臭い魅力は振り切ってしまった観がある。
ジューダスはアナクロニズムのバンドだった。この『運命の翼』の頃には、プリーストに先立つハード・ロックのバンドは旧来のスタイルを一新させようとしており、レッド・ツェッペリンの『プレゼンス』、ディープ・パープルの『カム・テイスト・ザ・バンド』などはスタイルの純化、変化が見られる。ジューダスはブラック・サバスの発展型ともいえるスタイリッシュなバンドだが、本家サバスもこの頃は、おそらくモントローズを先駆とする新しいアメリカのハード・ロック・スタイルから刺戟されて軽快な『テクニカル・エクスタシー』へと路線変更している。キッス、エアロスミスなど同世代のアメリカのハード・ロックのバンドは60年代末的な重さからは切れているが、ジューダスは初期クイーンと共に60年代末のハード・ロックの重さを引きずっており、本家ツェッペリンやサバスらがリズム構造の変革に移っていた頃でも、アナクロニズムになりかけていたヘヴィさに固執していた。クイーンと似た素質は、やや遅ればせながら『クイーンII』と『運命の翼』を比較すればわかる。おなじ血が流れている。だがクイーンが『世界に捧ぐ』1977で60年代的な重さを振り切った時でも、ジューダスはCBSコロンビア移籍後の諸作でもまだ古いリズム構造のままBPMだけを調整していく、という域にとどまっていた。
前期の作風をライヴ盤『イン・ジ・イースト』で集大成することに成功したバンドは、このライヴ盤のヒットで作風の変革にも自信を深めたと思う。インディーズのガル・レーベルでも『運命の翼』の楽曲にはバンドは自信があり、バラード系以外の収録曲はほとんどライヴ・テイクでリメイクしている。アレンジはほとんど変わらないが、ドラマーの交代と録音技術の向上でここまで一新するかな、と感心するくらいにソリッドな質感に変化している。『ステンド・クラス』の代表曲『エキサイター』なども、『イン・ジ・イースト』を聴いてしまうとスタジオ録音が薄っぺらく聞こえる。ボトムのしっかりした録音に初めて成功したのがプリーストの場合、ライヴ盤だったということだ。
また、『イン・ジ・イースト』はアルバム・ジャケットでもジューダスのパブリック・イメージを決定した作品になった。特にヴォーカリストのロブ・ハルフォードのコスチュームの固定化による貢献が大きい。初期バンド写真では長髪時代のロブも見ることができるが、視覚的インパクトに欠けるのだ。
ライヴ盤制作の機会からしっかりした音色を手に入れたバンドの強みで、60年代的重さをアレンジから一掃し、それでも十分なヘヴィ・メタルが成り立つと打ち出して見せたのが『ブリティッシュ・スティール』だった。同作と、ブラック・サバスがロニー・ジェイムズ・ディオをヴォーカリストに迎えて制作した『ヘヴン・アンド・ヘル』は、中堅と大御所が新世代のハード・ロック/ヘヴィ・メタル・バンドと互角か、それ以上に革新的なスタイルを打ち出せることの証明にもなった。なので『ブリティッシュ・スティール』を傑作としたら、以降のジューダスについてはアルバム毎の趣向の好み次第でいいと思う。ただし、『ロッカ・ローラ』から『ブリティッシュ・スティール』までの7枚の重要性はもっと認識されてよい。同時期にジューダス同様、ハード・ロック自体の存亡がかかっていたようなバンドはマイケル・シェンカー在籍中のUFO、ウリ・ロート在籍中のスコーピオンズだろう。ジューダスはUFOやスコーピオンズのようにはスマートでもポップでもなかった。本質的には80年代以降のジューダスにも『運命の翼』のエッセンスは生きていた、とおもう。名曲『Victim of Changes』『The Ripper』『Tyrant』などはメタル・クラシックであるばかりか、楽曲的にも興味深い。『Victim of Changes』はよく聴けば小節構造は変型ブルースなのだが、楽想的にはこれほどブルース離れしたブルースは思いつかない。そこにジューダスがツェッペリンらの世代と一線を引く、サバスから始まったメタル・イディオムのオリジネーターたるゆえんがある。