Rahsaan Roland Kirk & The Vibration Society - June 24, 1972 Montreux Jazz Festival "I Eye Aye" : http://youtu.be/uHhPmXqts3M
1. Improvisation -0:00
2. Balm In Gilead - 2:00
3. Seasons - 6:38
4. Misty~I Want to Talk About You - 13:00
5. Blue Rol No. 2 - 19:40
6. Volunteered Slavery - 29:30
7. Serenade To A Cuckoo - 41:30
8. Never Can't Say Goodbye - 44:48
Rahsaan Roland Kirk - ts,reeds
Ron Burton - p
Henry "Pete" Pearson - b
Robert Shy - ds
Joe "Habao" Texidor - per
ラサーン・ローランド・カーク(1936~1977)は盲目のマルチリード(木管楽器)奏者で、出自はリズム&ブルースとハード・バップだった人だがインディーズ・レーベルからの3作を経てメジャーのマーキュリー・レーベルと契約した1962年には早くも『ウィ・フリー・キングス』と『ドミノ』で独自の作風を確立する。同年にはチャールズ・ミンガス『オー・ヤー』やロイ・ヘインズ『アウト・オブ・ジ・アフターヌーン』で実質的にフィーチャリング・ソロイストとしての名演もあり、カークは異色の実力派新人として注目される。
カークの転機になったのは1967年の、親交もあり尊敬していた10歳年上の先輩ジョン・コルトレーンの急逝で、以後のカークはコルトレーンの主張していたジャズの黒人の民族意識の発揚としての使命感を強めるようになる。それはチャールズ・ミンガスや、カークのデビュー時にフリー・ジャズを提唱してもっとも注目されていたオーネット・コールマン、さかのぼってはビバップ最大のジャズマンでモダン・ジャズの生みの親であるチャーリー・パーカーとの系譜の確認でもあった。傑作『溢れ出る涙』『ヴォランティアード・スレイヴリー』(奴隷志願!)はカーク30代始まりを飾る里程標的作品で、吹奏の肉声化が一気に進み、コルトレーンへのオマージュであるとともにオーネット・コールマン、アルバート・アイラーらの音楽的試みとの親近性も高まる。
だがカークの音楽は一聴するとポップス的な馴染みの良さがあり、そこがオーネットやアイラーとの相違でもあれば、シリアスな評価の妨げになっている側面もあった。70年代にカークのアルバムは晩年まで徐々に見かけは同時代のクロスオーヴァー/フュージョンに近づいて行ったので、やはり同時期のマイルス・デイヴィスのジャズ・ファンクのようにアーティストの真価が即座には理解されなかった。マイルスは一時的に引退し、カークの逝去は燃焼し尽くした観があるものだった。
70年代マイルスの諸作の再評価が91年のマイルス没後になったように、カークの再評価もようやく80年代末から始まったが、長らくアルバムは廃盤になったままでカーク20年の楽歴の全容はつかめなかった。一気に再評価の気運が上がったのは、72年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルへの出演を収録したヴィデオ『The One Man Twins』とそのCD版『ライヴ・アット・モントルー1972』(原題『(I,Eye,,Aye)』)で、ともにワーナー傘下の復刻専門レーベル・ライノーから1996年にリリースされ、入手できる数少ない代表アルバムだけからは想像できなかった途方もないカークの音楽スケールに、ヴィデオを観た誰もが圧倒された。
近年カークはようやくほぼ全作品のCD化も叶い、未発表スタジオ録音やライヴも次々と発掘されている。没後発掘の音源が生前発売の音源の倍あったのはパーカーやコルトレーンだが、生前発売音源と同量の没後発掘音源が発表されたのはエリック・ドルフィー、アイラーに次ぐ。発掘発売当時の衝撃を抜きにしても、この72年のモントルー・ライヴはカーク生涯のライヴ中最高峰と名高い。
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Rahsaan Roland Kirk - July 18, 1975 Montreux Jazz Festival : http://youtu.be/Yk7S1wiad58
1. High Heel Sneakers - 0:00
2. Portrait of Those Beautiful Ladies - 6:06
3. Kirk Talks and Plays His Taped Jazz - 14:36
4. Bright Moments - 17:16
Rahsaan Roland Kirk - ts,reeds
Hilton Luiz - p
Mattathias Pearson - b
Sonny Brown - ds
Todd Barkan - per
カークのモントルー・ジャズ・フェスティヴァル出演では1975年の映像も残っているが、1アーティストの持ち時間が約1時間あるとすれば75年の映像は短い。おそらく30分番組の枠に合わせて4曲のみがまとめられたと思われる。複数のセッションから成るアルバム『カーカトロン』Kirkatron(画像)には同じステージからのライヴが"Serenade To A Cuckoo"、"Bagpipe Medley"、"J. Griff's Blues"の3曲収められている。この75年のモントルー・ライヴも名演のほまれ高く、おそらくライヴ全編をシューティングしているはずのテレビ用無編集映像が発掘されるのを望みたい。
このライヴで面白いのはあの『ハイヒール・スニーカーズ』のジャズ・ファンク・アレンジ(!)と後半が『子象の行進』になるところ、2.の原曲は『ラヴァー・マン』なのがよくわかる情感溢れる演奏、3.のカセット・テープとの対話、堂々とした新曲4.と、少ない曲数からでもカークの手札が次々と繰り広げられていることだろう。さすがに72年の6.のように客席をのし歩いた挙げ句に椅子を壊したりはしていないし、お客さんに配ったりしてはいないが(このシーンのために90年代のヴィデオは日本発売されなかったのではないか、と推察される)。