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Channel: 人生は野菜スープ(または毎晩午前0時更新の男)
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アル中病棟入院記230

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(人名はすべて仮名です)
・5月14日(金)晴れ
(前回より続く)
「清水くんにとっては入院は統合失調症の奥さんの看護疲れ(それで鬱になった)からの解放だったのだが、清水くんの入院は残された奥さんの病状を悪化させてしまった、ということだろう。そして退院すると夫婦の関係は以前よりさらに危機的なものになった。入院中から彼は奥さんの行動や思考パターンを模倣すれば夫婦関係の一体化が成し遂げられる、と力説していたが、奥さんがヒステリックで支離滅裂になった時に彼までそうしたら、事態はむしろ悪化しかねない。奥さんがどうであれ安定し落ち着いた愛情で接する、というのが常識的だろう。統合失調症の配偶者は持ったことがないから意見の資格はないかもしれないが、人間関係の基本には柔軟かつ安定した親睦感があるはずなのに、彼にはそれがわからなくなっている」

「昨日からヤマト運輸の宅急便の箱詰めをしていた勝浦くんは、午後のうちに荷物を送ってしまっていた。日付指定、退院する17日の晩。こうして日記を書いていると隣のベッドの勝浦くんはすっかり眠りこんでいる。夕食が近づいてきたので喫煙室で食前の一服、やがてワゴンが来る。起き出してくる様子がないので呼びに行く。今夜の夕食は鮭の西京漬けで、入院食は量は物足りないが魚料理が多いしおいしい。夕食後に日記の続きを書いていると、勝浦くんが家の鍵がない、引き出しにあったはずだがと慌てだす。思い当るところは?宅急便の荷物の中なら最悪だな。そしたらマンションの管理人に開けてもらって一万五千円かかる。カバンのひとつは宅急便に入れたんだろ、持ち帰るつもりのカバンに入れてないか?勝浦くんはカバンのサイドポケットを探り、あった、ここまで探してなかった、何でわかるんだ?」

「それから彼は担当看護婦が退院祝いにくれた『ポジティブな生き方』という自己啓発書を取り出し、どう思う?そうだな…とりあえず彼にもすんなり了解できそうな箇所を探し、いいんじゃない、退院祝いに批判的な本をくれはしないよ。それに勝浦くんは本に書いてあるのは真実と思ってきたそうだが、本に書いてあるから真実だと鵜呑みにせず、これは真実か考えながら読むのが読書だよ。あ、それは東大生の読み方だって聞いたことがある。それほどのことじゃないよ。勝浦くんにはよほど買いかぶられているようだ」
(続く)

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