スカイ・サクソン・ブルース・バンド Sky Saxon Blues Band - ア・フル・スプーン・オブ・シーディ・ブルース A Full Spoon of Seedy Blues (GNP Crescendo, 1967) Full Album : https://youtu.be/_4JOGQTiPQM
Released by GNP Crescendo Records GNPS 2040, November 1967
Produced by Marcus Tybalt (Sky Saxon, The Seeds)
All tracks written by Sky Saxon, except where noted.
(Side One)
A1. Pretty Girl (Luther Johnson) - 1:58
A2. Moth and the Flame - 3:47
A3. I'll Help You (Carry Your Money to the Bank) - 3:27
A4. Cry Wolf - 6:04
A5. Plain Spoken (Muddy Waters) - 2:52
(Side Two)
B1. The Gardener - 4:57
B2. One More Time Blues (Luther Johnson) - 2:25
B3. Creepin' About - 2:43
B4. Buzzin' Around - 3:43
[ Sky Saxon Blues Band ]
Sky Saxon - lead vocals, bass guitar, harmonica
Daryl Hooper - organ, piano
Jan Savage - lead guitar, gong, backing vocals
Rick Andridge - drums, backing vocals
with Additional Musicians
Harvey Sharpe - bass guitar
Luther Johnson - guitar
Mark Arnold - guitar
George "Harmonica" Smith - harmonica
James Wells Gordon - saxophone
*
(Original GNP Crescendo "A Full Spoon of Seedy Blues" LP Sticker Sealed Front Cover, Liner Cover & Side One Label)
マディ・ウォーターズはライナーノーツで「アメリカは第二のローリング・ストーンズを生んだと確信する」とザ・シーズを讃え、プロデューサーのマーカス・ティボルト(実はスカイ・サクソン自身の変名)は「本作のサクソンのオリジナル・ブルースの作曲は力強く、ヴォーカルはジョー・ウィリアムズやマディ・ウォーターズ、ジョー・ターナーにも肉薄する」と自画自賛しています。しかし本作で聴かれる演奏はシカゴ派のモダン・ブルースというよりもロカビリー時代の初期白人ロックン・ローラーに近いので、イギリスのローリング・ストーンズのミック・ジャガー(1943-)やアニマルズのエリック・バードン(1941-)より本場アメリカ生まれ育ちだけあって古い感覚をそのまま引きずっている。スカイ・サクソン(1937-2009)は1948年生まれとサバを読みデビューしましたが、遅れてデビューしただけで世代的には初期の白人ロックン・ローラーに属するのです。エルヴィス・プレスリー(1935-1977)、カール・パーキンス(1932-1998)、ジェリー・リー・ルイス(1935-)、ロイ・オービソン(1936-1988)、ジーン・ヴィンセント(1935-1971)、バディ・ホリー(1936-1959)、エディ・コクラン(1938-1960)、ディオン(&・ザ・ベルモンツ、1939-)、ジョニー・バーネット(1934-1964)、リッキー・ネルソン(1940-)、デル・シャノン(1934-1990)、ワンダ・ジャクソン(1937-)と'50年代半ばからすでにヒットを飛ばしていた白人ロックン・ローラーを見渡してもスカイ・サクソンがいかに遅れてデビューしたか、また初期の白人ロックはティーンエイジャーによるティーンエイジャー向けの音楽だったかが痛感されます。
本作は「The Seeds」とステッカーが貼られたジャケットも存在しますが、先行シングルもシングル・カット曲も含まれず、GNPクレッシェンド・レコーズ自体がファン向けのコレクターズ・アイテムと割り切って発売した形跡があります。'91年のキング・レコードからの伊藤秀世氏監修の日本盤リリースでも本作は外され、1996年の英デーモン・レコーズ盤GNPクレッシェンド時代のザ・シーズのCD3枚組ボックス・セット、2001年の英エドセル・レコーズのザ・シーズ全集3枚のうちの『Future / A Full Spoon of Seedy Blues』に収められた他は英ビッグ・ビート・レコーズの拡張版CDリマスター盤『ア・ウェブ・オブ・サウンド』にモノラル・マスターが収録された他は、日本盤がインディーズのハヤブサ・ランディングから2010年に発売されたのが唯一の単品CD化となっています。ザ・シーズのオリジナル曲は正味「プッシン・トゥ・ハード」「恋しい君よ(独り占めしたいのに)」「ミスター・ファーマー」の3パターンくらいしかなく、オリジナル・アルバムは全部そうなのですが、唯一本作だけがブルースのコード進行の曲で占められているのでいつものザ・シーズ節が相変わらずのスカイ・サクソンのヴォーカルと同じリフしか弾かないキーボード、手数の少ないメトロノーム的なドラムスくらいにしか感じられない。ギターやサックス、ブルースハープにマディ・ウォーターズのバンドからゲスト参加しているので、ザ・シーズ名物の指のまわらない千鳥足ギターやサイケなだけのスライド・ギターが聴けない。いつものザ・シーズ節もワンパターンの曲想だからこそ活きるのですが、ザ・シーズのワンパターンは他のバンドにはちょっと聴けない、実はザ・シーズだけの魅力だったのが逆にわかる。ブルース・フォームの楽曲をやり、それだけでアルバムを作るとスカイ・サクソンのセンスは'50年代のティーンエイジ・ロックの次元に先祖帰りしてしまうのです。
ザ・シーズ結成以前にスカイ・サクソンは本名のリッチー・マーシュ名義で'62年~'63年にソロ・シングルが数枚あり、それらはフランスのエヴァ・レーベルからザ・シーズ名義でザ・シーズ末期のMGMからのシングル2枚・自主制作シングル1枚のAB面とともにコンピレーション盤『Bad Part of Town』'82にまとめられましたが、ザ・シーズ以前のリッチー・マーシュ名義のソロ・シングルはモロに'50年代ロック衰退後・ビートルズ登場以前のティーンエイジ・ポップスそのものでした。ジェファーソン・エアプレインのマーティ・ベイリン(1942-2018)にも同時期に似たようなソロ・シングルがあるのを思えば、ビートルズやストーンズ登場によって起こったバンド指向が音楽性ともどもどれだけ多くの変化をアメリカのロック・ミュージシャンたちにおよぼしたかがわかります。アメリカのロック研究家マーク・ノーブルスによるとビートルズが全米ブレイクした1964年からプロとアマチュアのバンドに明確に区分がついた1968年までにアメリカ合衆国に何らかの活動実績を残したバンドは18万組以上にも上がるそうで、それを思えばザ・シーズでさえも18万組以上のロック・バンド中のトップクラスということはできる。またセンスが古かろうと勘違いだろうとザ・シーズほど天衣無縫にサイケデリックなラヴ&ピース天国、セックス・ドラッグ&ロックン・ロール賛歌で一貫していたバンドはないので、本作は白人ブルースのアルバムとしては最低ですが、スカイ・サクソンがやればこういう中途半端な変なアルバム、'50年代ロカビリーのセンスのまま'60年代モダン・ブルースをやって真剣なのに冗談みたいなアルバムになってしまったのもヒッピーかぶれの30男らしい天然の底抜けさがあります。しかも大御所マディ・ウォーターズのお墨つきとあっては、マディ様も何と度量の広い、リップサーヴィスに惜しみないお方ではないでしょうか。
Released by GNP Crescendo Records GNPS 2040, November 1967
Produced by Marcus Tybalt (Sky Saxon, The Seeds)
All tracks written by Sky Saxon, except where noted.
(Side One)
A1. Pretty Girl (Luther Johnson) - 1:58
A2. Moth and the Flame - 3:47
A3. I'll Help You (Carry Your Money to the Bank) - 3:27
A4. Cry Wolf - 6:04
A5. Plain Spoken (Muddy Waters) - 2:52
(Side Two)
B1. The Gardener - 4:57
B2. One More Time Blues (Luther Johnson) - 2:25
B3. Creepin' About - 2:43
B4. Buzzin' Around - 3:43
[ Sky Saxon Blues Band ]
Sky Saxon - lead vocals, bass guitar, harmonica
Daryl Hooper - organ, piano
Jan Savage - lead guitar, gong, backing vocals
Rick Andridge - drums, backing vocals
with Additional Musicians
Harvey Sharpe - bass guitar
Luther Johnson - guitar
Mark Arnold - guitar
George "Harmonica" Smith - harmonica
James Wells Gordon - saxophone
*
(Original GNP Crescendo "A Full Spoon of Seedy Blues" LP Sticker Sealed Front Cover, Liner Cover & Side One Label)
マディ・ウォーターズはライナーノーツで「アメリカは第二のローリング・ストーンズを生んだと確信する」とザ・シーズを讃え、プロデューサーのマーカス・ティボルト(実はスカイ・サクソン自身の変名)は「本作のサクソンのオリジナル・ブルースの作曲は力強く、ヴォーカルはジョー・ウィリアムズやマディ・ウォーターズ、ジョー・ターナーにも肉薄する」と自画自賛しています。しかし本作で聴かれる演奏はシカゴ派のモダン・ブルースというよりもロカビリー時代の初期白人ロックン・ローラーに近いので、イギリスのローリング・ストーンズのミック・ジャガー(1943-)やアニマルズのエリック・バードン(1941-)より本場アメリカ生まれ育ちだけあって古い感覚をそのまま引きずっている。スカイ・サクソン(1937-2009)は1948年生まれとサバを読みデビューしましたが、遅れてデビューしただけで世代的には初期の白人ロックン・ローラーに属するのです。エルヴィス・プレスリー(1935-1977)、カール・パーキンス(1932-1998)、ジェリー・リー・ルイス(1935-)、ロイ・オービソン(1936-1988)、ジーン・ヴィンセント(1935-1971)、バディ・ホリー(1936-1959)、エディ・コクラン(1938-1960)、ディオン(&・ザ・ベルモンツ、1939-)、ジョニー・バーネット(1934-1964)、リッキー・ネルソン(1940-)、デル・シャノン(1934-1990)、ワンダ・ジャクソン(1937-)と'50年代半ばからすでにヒットを飛ばしていた白人ロックン・ローラーを見渡してもスカイ・サクソンがいかに遅れてデビューしたか、また初期の白人ロックはティーンエイジャーによるティーンエイジャー向けの音楽だったかが痛感されます。
本作は「The Seeds」とステッカーが貼られたジャケットも存在しますが、先行シングルもシングル・カット曲も含まれず、GNPクレッシェンド・レコーズ自体がファン向けのコレクターズ・アイテムと割り切って発売した形跡があります。'91年のキング・レコードからの伊藤秀世氏監修の日本盤リリースでも本作は外され、1996年の英デーモン・レコーズ盤GNPクレッシェンド時代のザ・シーズのCD3枚組ボックス・セット、2001年の英エドセル・レコーズのザ・シーズ全集3枚のうちの『Future / A Full Spoon of Seedy Blues』に収められた他は英ビッグ・ビート・レコーズの拡張版CDリマスター盤『ア・ウェブ・オブ・サウンド』にモノラル・マスターが収録された他は、日本盤がインディーズのハヤブサ・ランディングから2010年に発売されたのが唯一の単品CD化となっています。ザ・シーズのオリジナル曲は正味「プッシン・トゥ・ハード」「恋しい君よ(独り占めしたいのに)」「ミスター・ファーマー」の3パターンくらいしかなく、オリジナル・アルバムは全部そうなのですが、唯一本作だけがブルースのコード進行の曲で占められているのでいつものザ・シーズ節が相変わらずのスカイ・サクソンのヴォーカルと同じリフしか弾かないキーボード、手数の少ないメトロノーム的なドラムスくらいにしか感じられない。ギターやサックス、ブルースハープにマディ・ウォーターズのバンドからゲスト参加しているので、ザ・シーズ名物の指のまわらない千鳥足ギターやサイケなだけのスライド・ギターが聴けない。いつものザ・シーズ節もワンパターンの曲想だからこそ活きるのですが、ザ・シーズのワンパターンは他のバンドにはちょっと聴けない、実はザ・シーズだけの魅力だったのが逆にわかる。ブルース・フォームの楽曲をやり、それだけでアルバムを作るとスカイ・サクソンのセンスは'50年代のティーンエイジ・ロックの次元に先祖帰りしてしまうのです。
ザ・シーズ結成以前にスカイ・サクソンは本名のリッチー・マーシュ名義で'62年~'63年にソロ・シングルが数枚あり、それらはフランスのエヴァ・レーベルからザ・シーズ名義でザ・シーズ末期のMGMからのシングル2枚・自主制作シングル1枚のAB面とともにコンピレーション盤『Bad Part of Town』'82にまとめられましたが、ザ・シーズ以前のリッチー・マーシュ名義のソロ・シングルはモロに'50年代ロック衰退後・ビートルズ登場以前のティーンエイジ・ポップスそのものでした。ジェファーソン・エアプレインのマーティ・ベイリン(1942-2018)にも同時期に似たようなソロ・シングルがあるのを思えば、ビートルズやストーンズ登場によって起こったバンド指向が音楽性ともどもどれだけ多くの変化をアメリカのロック・ミュージシャンたちにおよぼしたかがわかります。アメリカのロック研究家マーク・ノーブルスによるとビートルズが全米ブレイクした1964年からプロとアマチュアのバンドに明確に区分がついた1968年までにアメリカ合衆国に何らかの活動実績を残したバンドは18万組以上にも上がるそうで、それを思えばザ・シーズでさえも18万組以上のロック・バンド中のトップクラスということはできる。またセンスが古かろうと勘違いだろうとザ・シーズほど天衣無縫にサイケデリックなラヴ&ピース天国、セックス・ドラッグ&ロックン・ロール賛歌で一貫していたバンドはないので、本作は白人ブルースのアルバムとしては最低ですが、スカイ・サクソンがやればこういう中途半端な変なアルバム、'50年代ロカビリーのセンスのまま'60年代モダン・ブルースをやって真剣なのに冗談みたいなアルバムになってしまったのもヒッピーかぶれの30男らしい天然の底抜けさがあります。しかも大御所マディ・ウォーターズのお墨つきとあっては、マディ様も何と度量の広い、リップサーヴィスに惜しみないお方ではないでしょうか。