『ライド・ロンサム(孤独に馬を走らせろ)』Ride Lonesome (ラナウン・ピクチャーズ=コロンビア'59.Feb.15)*73min, Eastmancolor, Widescreen : 日本劇場未公開(テレビ放映・映像ソフト発売) : https://youtu.be/yoryPfTMAqc (Trailer)
○解説(メーカー・インフォメーションより) 西部劇ファン待望の傑作ウエスタン、本邦初公開! 【スタッフ】監督・脚本:バッド・ベティカー、製作:ハリー・ジョー・ブラウン、脚本:バート・ケネディ、撮影:チャールズ・ロートン・Jr.、音楽:ハインツ・ロームヘルド 【キャスト】ランドルフ・スコット、カレン・スティール、リー・ヴァン・クリーフ、ジェームズ・コバーン
○あらすじ(同上) 賞金稼ぎのベン・ブリゲイド(ランドルフ・スコット)が、手配中の殺人犯ビリー・ジョン(ジェームズ・ベスト)を捕えた。サンタ・クルスへ連行する道中、ウェルズ駅に立ち寄るが管理人は逃げた馬を追って留守で、代わりにいたのは無法者の二人組ブーン(パーネル・ロバーツ)とウイット(ジェームズ・コバーン)、そして管理人の妻(カレン・スティール)だけだった。 そこへ先住民のメスカレロ族の攻撃を受けた馬車が飛び込んできた。馭者は殺されており、危険を感じたベンは朝まで駅舎で過ごすことを決めた。その夜ブーンは、ビリーの逮捕者に与えられる恩赦を受けたいことを伝え、そして先住民の攻撃に加えてビリーの仲間チャーリー(ダイク・ジョンソン)の報せで兄フランク(リー・ヴァン・クリーフ)も追ってくることから、行動を共にしようとベンに持ちかける。一方、ベンもある思いを胸に秘めていた。やがて朝を迎え、ベンたちのサンタ・クルスへの命がけの旅が始まった。「七人の無頼漢」(56)「反撃の銃弾」(57)「決闘コマンチ砦」(60)など、西部劇の傑作群を世に送り出した、製作ハリー・ジョー・ブラウン、監督バッド・ベティカー、主演ランドルフ・スコットというゴールデン・コンビに加え、脚本はバート・ケネディという傑作ウエスタン。本邦未公開ながら、無駄のない完成度の高さで西部劇ファンの間では話題となっていた。本作が劇場デビュー作のジェームズ・コバーンや、リー・ヴァン・クリーフも見逃せない。
――先にカレン・スティールの役割の重要性を書きましたが、映画は冒頭でスコットがお尋ね者のジェームズ・ベストを岩山地帯で見つけ、追いつめられたベストはどこへ連行されるのか訊くと岩山の向こうの仲間に兄のフランク(リー・ヴァン・クリーフ)の助けを呼んでくれ、と叫んで伝え、スコットに捕縛されます。スコットは馬に乗せたベストを引いて駅馬車宿駅に着くのですが、明らかに無法者の2人組(パーネル・ロバーツ、ジェームズ・コバーン)が寝城にしていて、駅長夫人のカレン・スティールは駅長はサンタ・クルスの町に出張中だという。駅馬車宿駅に無法者が陣取っているのは西部劇でよくある駅馬車強盗のために待機しているシチュエーションですが、駅長夫人がそれを黙認しているのはこの宿駅が先住民の襲撃の危機にさらされているからで、そのボディガードになっているからだとわかる。先住民の襲撃を避けてひとまず宿駅に泊まらせてもらうことにしたスコットは、スコットの捕縛した凶悪犯のベストには懸賞金だけでなく連行した者には恩赦がかけられる、おれたちは前科者の無法者だが更正したいのでボディガードを勤めるから手を組まないかと2人組から持ちかけられる。そのあと、宿駅に馬車が着くとともに先住民の襲撃があって主人公たちは自衛でせいいっぱい、馬車は全滅してしまうのですが、もう宿駅にはいられない、駅長夫人もサンタ・クルスの町の夫に駅馬車宿駅襲撃を伝えに行かねばならないと一同出発することになって、このあたりから視点人物はカレン・スティール演じる駅長夫人になるのです。というのも主人公スコットも無法者2人組もたがいに隠していることがあり、腹のさぐり合いになっていく。無法者2人組、主人公スコットとも訊かれて素直に打ち明けるのは駅長夫人なので、カレン・スティールが事態の全体を知る視点人物になっていく。無法者たちはサンタ・クルスに着く前にスコットを始末して恩赦ばかりか懸賞金も独占しようという腹ですし、スコットに対してもベストの兄のリー・ヴァン・クリーフが追跡してくるボディガードの役目が終わったら自分たちを殺すか懸賞金目当てに突き出すか(この2人組にも少額ながら懸賞金がかかっています)と疑念を抱いている。スティールはスコットをそんな人じゃないと思う、とかばいながら、スコット本人に訊いてみる。そしてスコットの本当の狙いはベストの懸賞金などではなくて、かつて保安官時代に逮捕したベストの兄のリー・ヴァン・クリーフが、釈放後スコットの留守宅に押し入ってスコットの妻の首を吊した、という話を聞き出す。スティールから話を聞いた2人組はベストの兄との対決の援護をしようと買って出、もうすぐサンタ・クルスの町でベストを助けに仲間たちが来る頃に、荒野で絞首用に恰好の裸木を見つけたスコットはベストを馬に乗せて首を縊り、ロバーツとコバーンに小物を迎え撃ちさせながら兄のリー・ヴァン・クリーフと対決して倒します。馬が暴れてベストは木から吊されますがスコットは銃弾一発で縄を切ってベストを落とし、ロバーツたちに俺の用は済んだ、やるよとベストを渡します。ロバーツはスコットと握手し、スコットは彼女を頼む、とスティールのボディガードを委ね、スティールはあなたはサンタ・クルスには来ないの、ああ、それじゃまたいつか(Soon)、いつか、と別れを交わし、ロバーツ、スティール、コバーン、ベストを乗せた4匹の馬は去っていきます。先ほどベストを吊した首吊りの裸木が燃え上がる背後にスコットが立ち尽くし、燃える裸木に沿って構図が上昇するショットで映画は終わります。本気を出した時のベティカーの監督、ケネディの脚本、スコットの主演ががっちり組みあい、少数の主要人物だけの緊密なドラマに無駄も隙もなく意外性にも富み、『七人の無頼漢』『反撃の銃弾』にもひけをとらない本作は今後もっと注目されていい作品でしょう。
●5月29日(水)
『決斗ウエストバウンド』Westbound (ワーナー'59.Apr.25)*72min, Technicolor, Widescreen : 日本公開昭和33年('58年)11月7日 : https://youtu.be/CtZ2sdQfQso (Slide Scenes)
○解説(キネマ旬報新着外国映画紹介より)「暴力部落の対決」のランドルフ・スコットが「死の砦」のヴァージニア・メイヨと共演する西部劇。監督は「七人の無頼漢」のバッド・ボーティカー。バーン・ギラーとアルバート・シェルビー・ル・ヴィノの共作の原作をバーン・ギラーが脚色、「翼よ!あれが巴里の灯だ」のJ・ベヴァーレル・マーレイが撮影を監督した。音楽はデイヴィッド・バトルフ。他の出演者は「ロケットパイロット」のカレン・スティール、マイケル・ダンテ等。製作ヘンリー・ブランク。
○あらすじ(同上) 南北戦争中の1864年、北軍は軍資源の金塊を運ぶため大陸横断駅馬車会社の支配人に騎兵大尉ジョン・ヘイス(ランドルフ・スコット)を任命、彼は戦いで片腕を失ったロッド・ミラー(マイケル・ダンテ)とともにミラーの妻ジーニイ(カレン・スティール)の待っているジュールスバーグの町へ旅立った。町には会社を経営するクレイ・パトナム(アンドリュー・デュガン)がいた。彼はかつてのヘイスの女友達ノーマ(ヴァージニア・メイヨ)を妻にしていたが、ことごとに挑戦的態度を示した。馬車の駅は彼等の手でことごとく破壊された。ヘイスが片腕のロッドの農場を駅にして、強硬に駅馬車運行を計ったので、パトナムは配下の殺し屋メイス(マイケル・ペイト)とラス(ジョン・デイ)をさしむけた。町を立ち去ろうとしていた配下の口から、駅を破壊し、馬を奪った犯人がラスであり、馬は彼の手で南軍に渡されることを知ったヘイスとロッドは、急行して馬をとり返すことに成功した。しかしその夜、ロッドは襲撃をうけて重傷を負い、応戦したヘイスはラスを倒した。翌日には、御者を撃たれた駅馬車が転覆し、全乗客が死亡する事件が起こった。ロッドは傷が元で死んだ。ノーマが来て、一味の企みを説いたが、ヘイスは単身ジュールスバーグの町に乗りこんだ。まずヘイスとメイスが対決した。しかし仲裁に入ったパトナムが、最初にメイスの凶弾によってうち殺された。これを機会に決闘の火ぶたは切られ、メイスはヘイスの一弾に眉間をうち抜かれて死んだ。こうして大陸横断駅馬車は、無事に運行出来ることとなった。
――メイヨは夫のデュガンが手下たちに指示したり報告を受けたりする様子を見聞きしていたので、ついにダンテが狙撃され、相棒をスコットに射殺されたペイトがデュガンの命令など訊かず勝手にカタをつけると息巻いて、ペイトが去ったあと収拾のつかなくなった状況にデュガンがやけ酒を飲んでいるのをなじります。メイヨは出ていき、デュガンはグラスと酒瓶を叩き割ります。72分の尺ではやむを得ませんが、デュガンの演技もあってこの町の顔役・有力者役は深みのあるキャラクターで、利権のために北軍のこれ以上の進出は妨害したいが町の秩序も安定させていなければならない、という立場が手下の暴走によって危機にさらされるので、自業自得ではありますが決して悪役一辺倒のキャラクターではありません。メイヨは事態を報せにカレン・スティールの家を訪ね、スティールとスコットはメイヨに感謝します。翌日またしてもペイト率いる無法者集団による馬車の襲撃事件が起き(「女子供もいるぜ」「いいからやるんだ」)、御者の爺さんはスコットと親しい様子が描かれていましたが射殺されていまいますし、この阿鼻叫喚の馬車襲撃の丘からの壊れながらの転覆は派手に撮影されています(後半から馬車の中が無人なのがはっきりわかりますが)。駆けつけたスコットは全員死亡を確認し、家に戻ると重態だった戦友ダンテの死をスティールから知らされます。再びメイヨが訪ねてきますがスコットはジュールスバーグ町に向かってペイトとの対決に望みます。街中で対峙したスコットとペイトの間に馬車を駆ったデュガンが割って入りますが、デュガンはペイトに狙撃されます。スコットはペイトを射殺し、デュガンは抱き起こしたスコットに「止めようとした、と妻に伝えてくれ」と言ってスコットから伝えると聞いて息を引き取ります。映画の最終シーンは復旧した大陸横断駅馬車に乗って去っていくスコットとスティールが手を振りあい、スティールが遠くまで視線を向けながら微笑んで振った手を上げるショットで終わります。本作の真のヒロインはカレン・スティールなのはこの最終ショットでも明らかで、さすがに未亡人になったばかりなので亡夫の戦友とのロマンスまでは描かれませんが、ムードとしてはロマンスです。本作のマイケル・ダンテは左手を失った隻腕ながら雨の中の銃撃戦で片手でライフルを回転させ薬莢を払いながら次々と撃つ、とアクションもかっこ良ければ実年齢もスコットの息子ほど若いでしょうし短髪黒髪で凛々しいなかなかの存在感ですし、凶悪な無法者役のマイケル・ペイトもふてぶていしい悪役が見事で、当時のB級西部劇の悪役専門の俳優だそうですが、スコットやベティカーが本らしく「ラナウン・サイクル」連作ではないとしているにもかかわらず批評家にも観客にも好評でこれも連作中の佳作ではないかと人気が高いのはスティール、デュガン、ダンテ、ペイト、デイ(先に射殺される無法者)、ウォリー・ブラウン(御者の爺さん)など助演の俳優たちも好演で、ペイトなどは本作の無法者役がベスト・アクトではないかと賞賛されています。うつ伏せに倒れたペイトをスコットがブーツの足であお向けにすると鯰のような顔で死んでいるのですが、こういう短いショットだけでも強烈な印象を残すのは俳優の好漢はもちろん、美術やメイク、カメラマンや監督の腕前もばっちり冴えていたからこそで、本作のような小品をきっちり仕上げるのも大作映画とは違った手腕でしょう。ヴァージニア・メイヨのキャスティングは、これも華を添えたことにはなるでしょう。