『ディシジョン・アット・サンダウン(日没の決断)』Decision at Sundown (プロデューサーズ&アクターズ・カンパニー=コロンビア'57.Nov.10)*77min, Technicolor, Widescreen : 日本劇場未公開(テレビ放映・映像ソフト発売) : https://youtu.be/bCFdacwdJ50 (Full Movie) : https://youtu.be/fp2PqAaSYo0 (Trailer)
○解説(メーカー・インフォメーションより) ランドルフ・スコットが凄みを見せる異色ウエスタン、本邦初公開!【スタッフ】 監督・脚本:バッド・ベティカー、製作:ハリー・ジョー・ブラウン、脚本:チャールズ・ラング、撮影:バーネット・ガフィ、音楽:ハインツ・ロームヘルド 【キャスト】 ランドルフ・スコット、ジョン・キャロル、カレン・スティール、ヴァレリー・フレンチ
○あらすじ(同上) 南北戦争後のサンダウンの町の教会で、町を牛耳る実力者テイト・キンブロウ(ジョン・キャロル)とルーシー(カレン・スティール)の結婚式が行われようとしていた。キンブロウの目当てはルーシーの父の財産で、愛人のルビー(ヴァレリー・フレンチ)を平気で式に参列させるような男だった。 祝宴に沸く町にバート・アリソン(ランドルフ・スコット)と相棒のサム(ノア・ビーリー・Jr)が現れた。バートは酒場でキンブロウの息のかかった保安官スウィード(アンドリュー・ドゥーガン)らに因縁をつけた。不穏な空気が漂う中で結婚式は始められたが、教会に乗りこんできたバートは、新郎のキンブロウに殺害予告をし、結婚式をぶち壊して馬屋に立てこもった。 町医者のドク(ジョン・アーチャー)はバートの行動にいわくがあると感じとる。バートは妻メリーを3年前に失い、その原因がキンブロウとの関係にあると信じ、復讐に来たのだった。だが、サムがスウィードの手下に背後から撃たれて死に、バートの怒りは頂点に達する。 いつものユーモアを封印し、アウトロー役に凄みを見せたスコットの演技。お決まりの対決は描かれず、曖昧な善と悪の対立、苦みの残る結末など西部劇の定番を覆した内容にスコット自身が製作を熱望したと言われ、正統派のヒーロー役から一転して新境地に挑戦した異色作。
――これでもよくまとめたもので、別に難しいことはない娯楽西部劇の小品でありながら、本作(また次作)を一見して家族や友人にどんな映画か簡単に筋を話せる観客はほとんどいないのではないかと思われ、それは何より主人公のスコットの行動の善悪がわからないからでもあれば、スコットと仇のキャロルの対決というかたちで決着がつかないからでもあります。スコットが殺害予告という形で行ったキャロルへの告発は町の雰囲気をキャロルに対する猜疑心に変え、相棒のビアリーは殺されてしまいますが町医者のジョン・アーチャーによってキャロルとスコットの過去の因縁、キャロルがスコットの妻を誘惑し自殺の原因を作ったのが明らかにされるので、ビアリーを殺されたスコットはキャロルの息のかかった保安官とその手下を撃退しキャロルと対決に向かいますが、すでに資産家とその娘の婚約者にも見限られて町の名士の座から失楽したヤケになっているキャロルはスコットの対決を進んで受けようとする。撃ち合いになるその寸前にキャロルは愛人のルビー(ヴァレリー・フレンチ)に脚を撃たれてしまい、愛人は待たせた馬車にキャロルとともに乗りこんで、町の人々の冷たいまなざしを浴びながら去っていきます。保安官たちとの銃撃戦で負傷したスコットも茫然とキャロルが出て行くのを見送ると、映画はそのままスコットが脚をひきずりながら町から歩み去る場面で終わります。キャロルが結婚しようとしていた資産家の娘のルーシー(カレン・スティール)はキャロルを見限りますが、この設定では土台無理ですがスコットと結ばれる展開にはならないのでヒロインの役割でもありません。仇の男を社会的に破滅させる具合にスコットの復讐は済んだと言えばいえますし、本当に殺害という手段で仇討ちしたら主人公もまた罪人になってしまうので、この話は原作からして主人公の極端な告発によって仇相手の過去の所業が露見し仇相手は社会的信用をすべて失い町から追放されてしまう、そんな筋立てのスモール・タウンものサスペンス・スリラーを西部劇で企てた作品と見るのが妥当でしょう。西部劇では普通こうした解決にはならずもっとばっさりと罪業は断罪されますから、本作も観客はそういうつもりで観始めて、それにしてもこれじゃランドルフ・スコットが言いがかりをつけに来たならず者みたいじゃないか、変な映画だなと思うと結局妙に陰湿な展開で停滞状態が続いて、婚約者が男に見切りをつけ情婦が決闘に割りこんで男と町から出て行く、と女が決着をつけることになります。一般的な西部劇なら何だこのグダグダの展開は、と突っ込みたくなるところですが、『七人の無頼漢』『反撃の銃弾』と並べて観てくるとこれもスコット西部劇のヴァリエーションとしてありかな、という気がしてくる。ハッピーエンドでもバッドエンドでもない反ドラマ的ななし崩しの結末で、つじつまだけは一応合っている皮肉なものです。プレス資料の「お決まりの対決は描かれず、曖昧な善と悪の対立、苦みの残る結末など西部劇の定番を覆した内容にスコット自身が製作を熱望したと言われ、正統派のヒーロー役から一転して新境地に挑戦した異色作」とはよくまとめたもので、連作の1編としても本作についての正当な評価はまだまだこれからと思われます。また今後も改めて本作が突出した評価を得ることはないかもしれません。
●5月27日(月)
『ブキャナン・ライズ・アローン(ブキャナン 馬に乗る)』Buchanan Rides Alone (プロデューサーズ&アクターズ・カンパニー=コロンビア'58.Aug.1)*79min, Technicolor, Widescreen : 日本劇場未公開(テレビ放映・映像ソフト発売) : https://youtu.be/rHFFO3qe4Ic (Trailer)
○解説(メーカー・インフォメーションより) 二転三転する面白さ!バッド・ベティカー監督×ランドルフ・スコット主演の秀作アクション・ウエスタン!【スタッフ】監督・脚本:バッド・ベティカー、製作:ハリー・ジョー・ブラウン、脚本:チャールズ・ラング/バート・ケネディ、撮影:ルシアン・バラード【キャスト】ランドルフ・スコット、クレイグ・スティーブンス、バリー・ケリー、ピーター・ホイットニー
○あらすじ(同上) トム・ブキャナン(ランドルフ・スコット)は、傭兵で稼いだ報酬を手にして西テキサスの故郷への道すがら、メキシコとの国境の町アグリータウンに入った。宿を取り、食事のために酒場に出向くが、そこで若いメキシコ人青年ホアン(マニュエル・ロハス)がロイ・アグリー(ウィリアム・レスリー)という若者を突然撃つという事件が起きた。 取り押さえられ袋叩きに合うホアンを助けようとしたブキャナンも共に捕らえられ、ロイの叔父で保安官のルー・アグリー(バリー・ケリー)によって、裁判もなく絞首刑にかけられることになってしまう。あわやという時、ロイの父でルーの兄の判事サイモン・アグリー(トル・アベリー)が現れ、公正な裁判を受けさせると言って私刑を止めさせた。 一人息子が殺されたのにサイモンがそうしたのは、州議会選を控え、法と秩序を守る人物像をアピールする絶好の機会だったからだ。しかし、サイモンによる裁判の結果ブキャナンは釈放されるが、弁明を一切しなかったホアンは死刑の宣告を受けてしまう。保安官はブキャナンから金を没収した上に、二人の手下に命じ、町はずれで殺害しようとするが……。 ハリー・ジョー・ブラウンとランドルフ・スコットの共同プロダクション製作によるウエスタンの秀作。「ラナウン・サイクル」と呼ばれる傑作群の中でも特に起伏に富んだストーリーで、二転三転する展開に目が離せない一本。未公開ながら西部劇ファン必見の娯楽作である。
――先に書いた通り本作後半はメキシコ系保安官助手のエイブ・カルボ(クレイグ・スティーヴンス)がスコットの危機を救う相棒になり、アグリー一族への復讐を図った同朋ホアンを救出する手助けをします。アグリー一族はメキシコ系アメリカ人を弾圧・搾取する権力者として描かれており、これがユニヴァーサル時代の'53年作品『平原の待伏せ』『黄金の大地』から持ち越してきた親メキシコ派アメリカ人監督ベティカーのテーマなのは、本作で十分に活かされていて頼もしい感じがします。本作はメキシコ人青年死刑囚ホアンの救出、さらにアグリー一族の青年ロイ(ウィリアム・レスリー)を人質に捕ったスコットの金貨袋(相当な金額、数年分の年収以上なのが暗示されています)との交換がクライマックスになっていますが、ロイの父の判事と保安官はアグリー一族の兄弟ながらたがいに強欲で仲も良くないのもこのクライマックスの伏線だったのか、と舌を巻くくらい活きていて、スコットは受動的な巻きこまれ型主人公がもともと似合いますが、スコットが防御と牽制だけしているうちに悪党同士が同士討ちで自滅していくパターンが本作では見事に決まっています。連作中例外的にヒロインに当たる女性が皆無という男ばかりの西部劇ですが、同性愛的な意味ではなく(カトリックのメキシコでは同性愛者はもっとも嫌悪・侮蔑の対象です)健康なメキシコ人青年ホアンが救うべき相手になっているので、本作にヒロイン登場の余地はなかったのでしょう。異色作という点では前作『ディシジョン~』と対をなし、また副人物が意外な役割を担うなど展開にも共通点があり、また全体としては連作中色艶の不足した作品ながら、『ディシジョン~』より積極的に良い所を見つけようという気にさせるのは、やはりバート・ケネディの脚本参加が要所要所をきっちり引き締めているのが作品に表れているからだと思います。そしてケネディが正式に脚本に復帰した次作『ライド・ロンサム(孤独に馬を走らせろ)』は新たにプロダクション名も「ラナウン・ピクチャーズ」となるのです。