興行収入に表れる観客動員数だけを映画の成功の指標にするのはあまり良くない見方で、初公開時に不評で不入りだった映画がのちに再評価され永く観続けられる例は評判の良かったヒット作が忘れ去られるよりも多いので、時流に乗った作品ほど風化しやすいとも言えます。しんちゃん映画でも永らく最大ヒット作はテレビ版が話題の高かった第1、2作目で3作目からは落ち着いたので、第9作『オトナ帝国の逆襲』、第10作『戦国大合戦』でしんちゃん映画の認知度を高めた原恵一監督時代もしんちゃん映画への注目度がもっとも低下していた時期の監督交代だったので観客動員数では不振なスタートでした。原監督の傑作2作からバトンタッチした水島努監督の2作、続くムトウユージ監督の3作は出来も快調なら好調な観客動員数を引き継いだのでタイミング的にも恵まれましたが、好調な時期も5年以上続くと観客の方でシリーズにやや飽きが出てくるという現象が起きる。ムトウ監督によるシリーズ第13作『3分ポッキリ大進撃』2005が興行収入13億円、第14作『踊れ!アミーゴ!』2006が14億円、第15作『歌うケツだけ爆弾!』2007が第1作、第2作に次ぐ15億5,000万円の大ヒット作を記録してから、初代監督の本郷みつる監督が12年ぶりに担当した第16作『ちょー嵐を呼ぶ金矛の勇者』2008は12億3,000万円、テレビ版監督の一人しぎのあきら監督による第17作『オタケベ!カスカベ野生王国』2009は10億円、『嵐を呼ぶオラの花嫁』2010は12億5,000万円と不安定になり、増井壮一監督による第19作『黄金のスパイ大作戦』2011は12億円、第20作『オラと宇宙のプリンセス』2012は劇場版シリーズ20周年記念作の大作となるも9億8,000万円と『オタケベ!カスカベ野生王国』より下がり、原監督時代の第7作『温泉わくわく大決戦』'99(9億4,000万円)に次ぐ動員不振になってしまいます。今回・次回ご紹介するのは観客動員数の不安定からしんちゃん映画のマンネリ化が囁かれた時期ですが、橋本昌和監督による第21作『B級グルメサバイバル!!』2013は「今度のしんちゃん映画はいいぞ」と話題作になり興行収入13億円の好調を取り戻し、続く高橋渉監督の第22作『逆襲のロボとーちゃん』2014は18億3,000万円と歴代3位を塗り替え、橋本・高橋監督が交替制になって第23作の橋本監督作品『オラの引越し物語~サボテン大襲撃~』2015は23億円と、シリーズ歴代興行収入トップ2だった初代の本郷監督の第1作『アクション仮面VSハイグレ魔王』'93(22億2,000万円)、第2作『ブリブリ王国の秘宝』'94(20億6,000万円)を塗り替える歴代1位の特大ヒット作になります。続く高橋監督の第24作『爆睡!ユメミーワールド大突撃』2016も21億1,000万円、とーちゃんのひろしが藤原啓治氏から森川智之氏に交代後の橋本監督の第25作『襲来!!宇宙人シリリ』2017が16億2,000万円、昨年の高橋監督の第26作『爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~』2018が18億3,000万円と好調が続いており、第26作公開後にテレビ版スタートから主人公しんのすけを演じてきた矢島晶子さんが降板し小林由美子さんに交代しましたから、2019年4月19日封切りの橋本監督による最新作で第27作『新婚旅行ハリケーン~失われたひろし』はしんのすけ役が小林由美子さんに交代した初めてのしんちゃん映画になります。ひろし役の交代、しんちゃん役の交代は主人公だけに大きいですが、それまでのレギュラー・キャラクターの交代同様イメージを崩さず行われておりファンからも交代を惜しむ声こそあれ批判的な意見は上がっておらず、この紹介は第24作までで一旦区切りますが、劇場版自体は今後も良い出来が期待できるので興行収入の推移は観客の興味の持続次第とも言えそうです。なお各作品内容の紹介文はDVDボックスの作品紹介を引用させていただきました。
●4月16日(火)
『映画クレヨンしんちゃん ちょー嵐を呼ぶ金矛の勇者』(監督=本郷みつる、シンエイ動画=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2008.4.19)*93min, Color Animation
◎しんのすけがうっかり開けてしまった不思議な扉。それは、地球と暗黒の世界"ドン・クラーイ"を繋ぐ闇の扉――侵略者たちの陰謀だった!ひょんなことから選ばれし勇者となったしんのすけに次々と迫る闇の魔の手。突然現れた謎の少年"マタ"とともに、伝説の金矛を手にした勇者しんのすけが立ち上がる!
本作は監督・脚本・演出とも本郷みつる単独で、第4作の傑作『ヘンダーランドの大冒険』'96で最高の達成を見せた本郷監督らしいダーク・ファンタジー趣向やミュージカル場面の挿入がコミカルなしんちゃん世界とあいまって本作自体は十分面白く、水準をクリアする作品です。しかししんちゃん映画のシリーズの水準自体が原恵一、水島努、ムトウユージの歴代監督時代に大きく質的変化を遂げてしまったので、単独で観るならともかく連続で観直す、またはまだ近作の記憶が新しいうちに本作を観ると微妙なニュアンスや意外な展開に富んだ近作から突然内容が荒っぽくなった印象は否めず、また直前のムトウ監督の作風が本郷監督も含む歴代監督の美点を抽出してさらに洗練とダイナミズムを加えたものだったために、本郷みつる監督作品らしい骨の太い強引さやあっけらかんとしたコメディ感覚がシリーズ作品をリセットしたとは言えるものの、それが物足りなさを感じさせることにもなっている。アニメ版・劇場版とも初代監督の本郷監督の功績の大きさがあってこそその後のシリーズもありますし、同じ監督だから当然でもありますが、本作は『ヘンダーランド~』の前か直後に作風が逆戻りしている印象があるので、シロが活躍してひまわり(こおろぎさとみ)があまり出番がないのもひまわり登場は本郷監督から原監督にテレビ版メイン監督・劇場版監督が代わってからのキャラクターだからでしょう。男装(というより性別不詳)のヒロイン、マタ・タミとプリリンに挟まれたしんのすけはグラマーなおねいさんの悪党プリリンの色香にまんまと籠絡されてしまいますが、これも初期しんのすけのキャラクターでもっと純粋な子どもの直観で悪人を見分けられるようになっている近作のしんのすけには似あいません。本作は近作の評判もあって順調な興行収入を上げましたが、本作をいまいちと感じた観客が少なからずあったのは次作の観客動員数低下に現れてしまいます。
●4月17日(水)
『映画クレヨンしんちゃん オタケベ!カスカベ野生王国』(監督=しぎのあきら、シンエイ動画=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2009.4.18)*98min, Color Animation
◎しんのすけが拾った謎のドリンクを勝手に飲んだひろしとみさえ。すると突然二人は動物の姿に変わってしまった!そう、それは過激エコ組織"SKBE(スケッベ)"が秘密裏に進める"人類動物化計画"だったのだ!しんのすけは皆を元の姿に戻すことができるのか!?しんのすけの雄叫びが、今世界中に響き渡る!
ひろしがニワトリ、みさえがヒョウ、風間くんがペンギン、ネネちゃんがウサギ、マサオくんがコウモリ、ボーちゃんがオオセンザンコウ(「……アリクイ?」「オオセンザンコウ……絶滅危惧種」)、しんのすけがゾウ、ひまわりがシロクマで、さらに動物化した春日部市民も園長先生(納谷六朗)がヒツジ、よしなが先生(高田由美)がイヌ、まつざか先生(富沢美智恵)がキツネ、あげお先生(三石琴乃)がハムスター、となりのおばさん(鈴木れい子)がカバ、風間ママ(玉川紗己子)がペンギン、ニュースキャスター団羅座也(茶風林)がオランウータン、さいたま紅さそり隊の女子高生ふかづめ竜子(伊倉一恵)、魚の目お銀(星野千寿子)、ふきでものマリー(むたあきこ)がナマケモノ、とレギュラー・キャラクターの動物化で楽しませてくれるのは単純明快に面白いですし、過激エコロジー団体の陰謀というのもしんのすけの住む春日部市というのは次から次へと町ぐるみの騒ぎに巻きこまれる町だなあと本作の工夫がうかがえますが、SKEBの陰謀を阻止するヒロインが首謀者の奥さんでそもそもこの奥さんが浪費やゴミ分別にまるで頓着ないのが首謀者の過激エコロジー思想のきっかけで、夫婦喧嘩の決着と仲直りが「愛は地球を救う」で事件解決になる、というのはいささか尻すぼみの観があります。脚本の静谷伊佐夫氏はしぎのあきら監督のスタジオぴえろ時代からの盟友だそうですが、本作は春日部市民動物化や半動物化したしんのすけやかすかべ防衛隊の幼稚園児の活躍に着想がとどまっていて、ハッピーエンドに着地するまでの展開や曲折に意外と見所がありそうで少ない、という不満が出てきます。ヒョウに動物化してから長く経ってしまったみさえがしんのすけを忘れて襲いかかり、しんのすけの尻で記憶を取り戻して泣いて抱きしめる場面は『オトナ帝国~』の幼児化したひろしがしんのすけに嗅がされた自分の靴の蒸れた臭いですすり泣きながら記憶を取り戻す場面の再現ですが、これも演出や意外性ともに『オトナ帝国~』の場面ほどの感動にはおよばない。本作はもっと面白くなりそうな着想が十分に生かされないままこぢんまりとまとまってしまったような作品ですが、しぎの監督も次作ではまったく趣向を変えてシリーズ上位に位置づけられる秀作を放って興行収入も回復するので、ヴェテランらしい手腕が本作では良くもわるくも小粒に、次作では意欲的に作品に結実したと言えそうです。
●4月18日(木)
『映画クレヨンしんちゃん 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁』(監督=しぎのあきら、シンエイ動画=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2010.4.17)*100min, Color Animation
◎ある日、タイムマシンでしんのすけの未来の花嫁タミコがやって来た。大人になったしんのすけが、未来都市"オオトキオ"の支配者"金有増蔵"に捕まってしまい、5歳のしんのすけの力が必要だという。お互い、本当に未来のケッコン相手なのかと疑いつつも、とりあえずネオトキオへ向かう二人だが……。
便宜上ざっくりしたあらすじになりましたが、実はタミコは金有増蔵の娘でありながら春日部に太陽の光を取り戻そうとする大人のしんのすけと恋仲になっており、「大人になったらどうなってるだろう」と雑談しながら遊んでいるしんのすけたちの前に約20数年後の未来からやってきたタミコとしんのすけたちがかわすとんちんかんな会話、雑談で話した「未来の自分」が皮肉なかたちで実現したり頓挫したりしている未来の自分と出会う幼稚園児たち(未来の春日部はスラムと化しており、大人マサオくんはコンビニのバイトをしながら売れないマンガ家、大人ネネちゃんはネネちゃんママそっくりの容貌のふたば幼稚園のやさぐれた先生、大人ボーちゃんは夢が実現してみんなを助ける発明家になっており、大人風間くんは金有電機のエリート社員で子ども風間くんは裏切り者と責められます)の大人の自分との出会い方も工夫が凝らされ、禿頭になった初老のひろしとぶくぶくのメタボになったみさえはあっさり5歳のしんのすけたちを受け入れて助太刀します。結婚式場に子どものかすかべ防衛隊と大人の本人たちが団結して乗りこみ、大人の風間くんも石化させられた大人しんのすけの救出に協力することになり、絶体絶命かと思われた状況が大人ボーちゃんの発明から打開され、さらに国際警察官になった大人ひまわり(黄色いコスチュームに身をつつみ、顔はみさえ似で、ひろしとみさえを「パパ、ママ」、しんのすけは「にーちゃん」と呼びます)がかっこ良く駆けつける、と見せ場もギャグも意外性やサスペンスもたっぷりある作りで、2度は使えないおいしい設定を十分に盛り上げています。テレビ版の番外編的なエピソード(空想のかたちで描かれます)を除けば劇場版では大人になって言葉を話すひまわりは本作きりであり、大人ひまわりを演じるこおろぎさとみさんもおいしい役ですが、タミコ役の釘宮理恵さんも「しんちゃんの未来の花嫁」役を演じてチャーミングで、石化が解けた大人しんのすけ(口元以外の顔は映らない演出になっています)と5歳のしんのすけが「おバカ(Oh Bikkuri Aggressive Kanarisugoi Amazing)パワー」の増幅で春日部上空の隕石群の日傘状態を解決して春日部に太陽の光を取り戻し、現代に戻ったしんのすけにひろしがさりげなく地球に衝突する可能性のあった流星群が逸れた、と告げるまで本作はアニメ作品ならでは可能な荒唐無稽(スティック型タイムマシンがピンポイントで時間移動できないのも「みらい」「いま」「むかし」の三つのボタンしかないから、というギャグもあります)でご都合主義な部分は存分に利用しながらも組み立てが巧妙で作品世界の中のリアリティに一貫性があるので説得力があり、いくつかの危機脱出シーンは『歌うケツだけ爆弾!』と同じアイディアがありますが二番煎じを感じさせないアレンジの工夫がある。内容も『歌うケツだけ爆弾!』以来の優れた出来になっており、前作『オタケベ!カスカベ野生王国』がやや低迷したかと思われたのを十分に挽回する会心の秀作になっています。しんちゃん映画は同じ趣向が2度は使えないものが大半ですが、中でも未来へのタイムトラベルものは今のところ本作きりで、「未来の自分たちと出会って協力する」趣向は2度は使えないものであり、そういう意味でも本作が本作きりの達成を示してくれたのはシリーズ中でも珍重すべき逸品と言えます。シリーズへの注目度によっては公開時期次第ではもっと大ヒットしても良かったと思える作品です。
●4月16日(火)
『映画クレヨンしんちゃん ちょー嵐を呼ぶ金矛の勇者』(監督=本郷みつる、シンエイ動画=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2008.4.19)*93min, Color Animation
◎しんのすけがうっかり開けてしまった不思議な扉。それは、地球と暗黒の世界"ドン・クラーイ"を繋ぐ闇の扉――侵略者たちの陰謀だった!ひょんなことから選ばれし勇者となったしんのすけに次々と迫る闇の魔の手。突然現れた謎の少年"マタ"とともに、伝説の金矛を手にした勇者しんのすけが立ち上がる!
本作は監督・脚本・演出とも本郷みつる単独で、第4作の傑作『ヘンダーランドの大冒険』'96で最高の達成を見せた本郷監督らしいダーク・ファンタジー趣向やミュージカル場面の挿入がコミカルなしんちゃん世界とあいまって本作自体は十分面白く、水準をクリアする作品です。しかししんちゃん映画のシリーズの水準自体が原恵一、水島努、ムトウユージの歴代監督時代に大きく質的変化を遂げてしまったので、単独で観るならともかく連続で観直す、またはまだ近作の記憶が新しいうちに本作を観ると微妙なニュアンスや意外な展開に富んだ近作から突然内容が荒っぽくなった印象は否めず、また直前のムトウ監督の作風が本郷監督も含む歴代監督の美点を抽出してさらに洗練とダイナミズムを加えたものだったために、本郷みつる監督作品らしい骨の太い強引さやあっけらかんとしたコメディ感覚がシリーズ作品をリセットしたとは言えるものの、それが物足りなさを感じさせることにもなっている。アニメ版・劇場版とも初代監督の本郷監督の功績の大きさがあってこそその後のシリーズもありますし、同じ監督だから当然でもありますが、本作は『ヘンダーランド~』の前か直後に作風が逆戻りしている印象があるので、シロが活躍してひまわり(こおろぎさとみ)があまり出番がないのもひまわり登場は本郷監督から原監督にテレビ版メイン監督・劇場版監督が代わってからのキャラクターだからでしょう。男装(というより性別不詳)のヒロイン、マタ・タミとプリリンに挟まれたしんのすけはグラマーなおねいさんの悪党プリリンの色香にまんまと籠絡されてしまいますが、これも初期しんのすけのキャラクターでもっと純粋な子どもの直観で悪人を見分けられるようになっている近作のしんのすけには似あいません。本作は近作の評判もあって順調な興行収入を上げましたが、本作をいまいちと感じた観客が少なからずあったのは次作の観客動員数低下に現れてしまいます。
●4月17日(水)
『映画クレヨンしんちゃん オタケベ!カスカベ野生王国』(監督=しぎのあきら、シンエイ動画=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2009.4.18)*98min, Color Animation
◎しんのすけが拾った謎のドリンクを勝手に飲んだひろしとみさえ。すると突然二人は動物の姿に変わってしまった!そう、それは過激エコ組織"SKBE(スケッベ)"が秘密裏に進める"人類動物化計画"だったのだ!しんのすけは皆を元の姿に戻すことができるのか!?しんのすけの雄叫びが、今世界中に響き渡る!
ひろしがニワトリ、みさえがヒョウ、風間くんがペンギン、ネネちゃんがウサギ、マサオくんがコウモリ、ボーちゃんがオオセンザンコウ(「……アリクイ?」「オオセンザンコウ……絶滅危惧種」)、しんのすけがゾウ、ひまわりがシロクマで、さらに動物化した春日部市民も園長先生(納谷六朗)がヒツジ、よしなが先生(高田由美)がイヌ、まつざか先生(富沢美智恵)がキツネ、あげお先生(三石琴乃)がハムスター、となりのおばさん(鈴木れい子)がカバ、風間ママ(玉川紗己子)がペンギン、ニュースキャスター団羅座也(茶風林)がオランウータン、さいたま紅さそり隊の女子高生ふかづめ竜子(伊倉一恵)、魚の目お銀(星野千寿子)、ふきでものマリー(むたあきこ)がナマケモノ、とレギュラー・キャラクターの動物化で楽しませてくれるのは単純明快に面白いですし、過激エコロジー団体の陰謀というのもしんのすけの住む春日部市というのは次から次へと町ぐるみの騒ぎに巻きこまれる町だなあと本作の工夫がうかがえますが、SKEBの陰謀を阻止するヒロインが首謀者の奥さんでそもそもこの奥さんが浪費やゴミ分別にまるで頓着ないのが首謀者の過激エコロジー思想のきっかけで、夫婦喧嘩の決着と仲直りが「愛は地球を救う」で事件解決になる、というのはいささか尻すぼみの観があります。脚本の静谷伊佐夫氏はしぎのあきら監督のスタジオぴえろ時代からの盟友だそうですが、本作は春日部市民動物化や半動物化したしんのすけやかすかべ防衛隊の幼稚園児の活躍に着想がとどまっていて、ハッピーエンドに着地するまでの展開や曲折に意外と見所がありそうで少ない、という不満が出てきます。ヒョウに動物化してから長く経ってしまったみさえがしんのすけを忘れて襲いかかり、しんのすけの尻で記憶を取り戻して泣いて抱きしめる場面は『オトナ帝国~』の幼児化したひろしがしんのすけに嗅がされた自分の靴の蒸れた臭いですすり泣きながら記憶を取り戻す場面の再現ですが、これも演出や意外性ともに『オトナ帝国~』の場面ほどの感動にはおよばない。本作はもっと面白くなりそうな着想が十分に生かされないままこぢんまりとまとまってしまったような作品ですが、しぎの監督も次作ではまったく趣向を変えてシリーズ上位に位置づけられる秀作を放って興行収入も回復するので、ヴェテランらしい手腕が本作では良くもわるくも小粒に、次作では意欲的に作品に結実したと言えそうです。
●4月18日(木)
『映画クレヨンしんちゃん 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁』(監督=しぎのあきら、シンエイ動画=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2010.4.17)*100min, Color Animation
◎ある日、タイムマシンでしんのすけの未来の花嫁タミコがやって来た。大人になったしんのすけが、未来都市"オオトキオ"の支配者"金有増蔵"に捕まってしまい、5歳のしんのすけの力が必要だという。お互い、本当に未来のケッコン相手なのかと疑いつつも、とりあえずネオトキオへ向かう二人だが……。
便宜上ざっくりしたあらすじになりましたが、実はタミコは金有増蔵の娘でありながら春日部に太陽の光を取り戻そうとする大人のしんのすけと恋仲になっており、「大人になったらどうなってるだろう」と雑談しながら遊んでいるしんのすけたちの前に約20数年後の未来からやってきたタミコとしんのすけたちがかわすとんちんかんな会話、雑談で話した「未来の自分」が皮肉なかたちで実現したり頓挫したりしている未来の自分と出会う幼稚園児たち(未来の春日部はスラムと化しており、大人マサオくんはコンビニのバイトをしながら売れないマンガ家、大人ネネちゃんはネネちゃんママそっくりの容貌のふたば幼稚園のやさぐれた先生、大人ボーちゃんは夢が実現してみんなを助ける発明家になっており、大人風間くんは金有電機のエリート社員で子ども風間くんは裏切り者と責められます)の大人の自分との出会い方も工夫が凝らされ、禿頭になった初老のひろしとぶくぶくのメタボになったみさえはあっさり5歳のしんのすけたちを受け入れて助太刀します。結婚式場に子どものかすかべ防衛隊と大人の本人たちが団結して乗りこみ、大人の風間くんも石化させられた大人しんのすけの救出に協力することになり、絶体絶命かと思われた状況が大人ボーちゃんの発明から打開され、さらに国際警察官になった大人ひまわり(黄色いコスチュームに身をつつみ、顔はみさえ似で、ひろしとみさえを「パパ、ママ」、しんのすけは「にーちゃん」と呼びます)がかっこ良く駆けつける、と見せ場もギャグも意外性やサスペンスもたっぷりある作りで、2度は使えないおいしい設定を十分に盛り上げています。テレビ版の番外編的なエピソード(空想のかたちで描かれます)を除けば劇場版では大人になって言葉を話すひまわりは本作きりであり、大人ひまわりを演じるこおろぎさとみさんもおいしい役ですが、タミコ役の釘宮理恵さんも「しんちゃんの未来の花嫁」役を演じてチャーミングで、石化が解けた大人しんのすけ(口元以外の顔は映らない演出になっています)と5歳のしんのすけが「おバカ(Oh Bikkuri Aggressive Kanarisugoi Amazing)パワー」の増幅で春日部上空の隕石群の日傘状態を解決して春日部に太陽の光を取り戻し、現代に戻ったしんのすけにひろしがさりげなく地球に衝突する可能性のあった流星群が逸れた、と告げるまで本作はアニメ作品ならでは可能な荒唐無稽(スティック型タイムマシンがピンポイントで時間移動できないのも「みらい」「いま」「むかし」の三つのボタンしかないから、というギャグもあります)でご都合主義な部分は存分に利用しながらも組み立てが巧妙で作品世界の中のリアリティに一貫性があるので説得力があり、いくつかの危機脱出シーンは『歌うケツだけ爆弾!』と同じアイディアがありますが二番煎じを感じさせないアレンジの工夫がある。内容も『歌うケツだけ爆弾!』以来の優れた出来になっており、前作『オタケベ!カスカベ野生王国』がやや低迷したかと思われたのを十分に挽回する会心の秀作になっています。しんちゃん映画は同じ趣向が2度は使えないものが大半ですが、中でも未来へのタイムトラベルものは今のところ本作きりで、「未来の自分たちと出会って協力する」趣向は2度は使えないものであり、そういう意味でも本作が本作きりの達成を示してくれたのはシリーズ中でも珍重すべき逸品と言えます。シリーズへの注目度によっては公開時期次第ではもっと大ヒットしても良かったと思える作品です。