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映画日記2019年4月10日~12日/一気観!『映画クレヨンしんちゃん』シリーズ!(4)

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 しんちゃん映画の感想文も4回目で、このあたりからはテレビ版の「クレヨンしんちゃん」以外に劇場版独自の観客層もつき、子どものために親が連れて行く児童向けシリーズから全年齢向けのファミリー映画でもあればむしろ成人観客向けに従来作の再評価とともにレイトショー公開や特集上映が開かれる機会も増え、また比較的近年の作品ですので新作公開ごとの前年度作品のテレビ放映で観た、観逃したがタイトルはご存知の方も多い作品が増えていくと思います。原恵一監督時代の第6作(シリーズ通算第10作)で原監督の担当した最後のしんちゃん映画になった『嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』2002は大評判を呼んでヒットした前作『嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』2001に続く野心的な意欲作でしたが試写会で涙する観客の姿も交えたプロモーションも奏功し同様にヒット作となり、しんちゃん映画シリーズとしては初の公式な映画賞を多数受賞(文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞、日本インターネット映画大賞日本映画作品賞、第7回アニメーション神戸個人賞、毎日映画コンクールアニメーション映画賞、東京国際アニメフェア2003劇場部門優秀作品賞・個人賞部門監督賞、第22回藤本賞)する、原監督時代の有終の美を飾る名作になりました。同作は現在までに実写版リメイク(『BALLAD 名もなき恋のうた』2009、ただし「しんちゃん」映画としてのリメイクではありませんが)された唯一のしんちゃん映画でもあります。原恵一監督は原監督自身が初代監督・本郷みつるから受け継いだように劇場版の監督を原恵一監督時代に演出(チーフ助監督)の水島努監督(当時シンエイ動画在籍)に引き継ぎましたが(テレビ版は原監督からムトウユージ監督が3代目メイン監督になりました)、水島監督がフリー監督になったのち2010年代に『ガールズ&パンツァー』『SHIROBAKO』などを手がけ「日本で一番忙しいアニメ監督」と呼ばれるヒットメーカーとなったのは良く知られることで、続く水島努監督作品の『嵐を呼ぶ栄光のヤキニクロード』2003(文化庁メディア芸術祭アニメーション部門審査委員会推薦作品)、『嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ』2004はともに水島努・原恵一共同脚本ながら原恵一監督が本郷みつる監督時代の作風を一変させたように大胆な作風の転換があり、それも成功して好調なヒットが続きました。水島努監督時代は演出(チーフ助監督)時代が長かった分2年でムトウユージ監督に代替わりし、以降は本郷みつる監督、原恵一監督時代のように4~6年同じ監督が連続することはなくなりますが、それもしんちゃん映画ではシリーズの長期化に伴い1作ごとの趣向の変化を図るのにテレビ版監督陣の持ち回り制で工夫を凝らしている結果に現れているので、実際比較的観客動員数が伸びなかった作品の後には再び好調期の成績を取り戻し、シリーズの興行収入記録を塗り替える人気を最近数年でも記録しているのは記憶に新しいところです。今回の3作はいずれもシリーズ最上位に入る名作秀作佳作で、観直して飽きのこない現代アニメーション映画の達成とさらなる発展を期待させるものです。なお各作品内容の紹介文はDVDボックスの作品紹介を引用させていただきました。

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●4月10日(水)
『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』(監督=原恵一、シンエイ動画=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2002.4.20)*96min, Color Animation
◎突如、戦国時代へとタイムスリップしてしまったしんのすけは、ひょんなことから、歴史上討たれるはずだった侍を救い、歴史を変えてしまう。追いかけてきたひろしたちと再会するものの、歴史の荒波は一家を大きく変えていく……。果たしてしんのすけたちは、歴史はどうなってしまうのか!?

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 前作『オトナ帝国の逆襲』の大ヒットと大評判で本作は公開時から好評をもって迎えられましたが、実はしんちゃん映画シリーズ中でもテレビ版からはもっとも大胆に飛躍した内容で、アヴァンからすでにこれまでのシリーズとは(前作までの原恵一監督作品からも)違うただならない雰囲気が漂いますが、しんのすけの日常場面は続く家族での朝食と幼稚園での時代劇ごっこだけで、映画はすぐにシロが庭に掘った穴から出てきた過去からのしんのすけ自身が書いた手紙の発見とともに戦国時代(天正2年=1574年の春日部城下、という設定です)にタイムスリップしてしまいます。実は現行DVD裏の短いあらすじはタネを割っており、実際にはしんちゃんが過去を変えたというよりもしんのすけと野原一家のタイムスリップ自体が歴史の一部であり、野原一家はある一定の役割を果たし終えると現代に帰還できる、という運命を担った存在として戦国時代の城家同士の戦争に巻きこまれることになる。タイムスリップした現代人の一家が見た、という特殊な設定はありますが映画の内容は非常にリアルに徹底した文献・歴史考証に基づいて描写された、16世紀初頭の日本のローカルな領家戦争映画と言っていいもので、いわゆる(主に江戸時代を舞台とした)時代劇というよりも歴史映画としての戦争ロマンスを真正面から描いた長編アニメーション映画なので、本作のしんちゃんや野原一家は役どころではドラマのための狂言回しであり、ヒロインと主人公は幼なじみに育ち慕いあっている春日城の姫・春日廉(小林愛)であり、春日城一番の勇士で「青空侍」こと井尻又兵衛由俊(屋良有作)です。二人は自分たちの身分の違いから結ばれるのは許されないことに耐えながら小国の姫として振るまい、小国の軍将として仕官しており、一見戦国時代タイムスリップのファンタジー設定と見せかけておいて結末まで観ると慕いあう小国の姫と青空侍の哀切な願いが5世紀後の春日部に済む一家を天正2年に招き寄せたのがわかる。この物語はしんちゃん一家ではなくても成り立つので、本作の実写版リメイク『BALLAD 名もなき恋のうた』では小学生男子の一人っ子の一家が戦国時代にタイムスリップする話に変えられています。もっとも実写版では明確に姫と侍の恋物語を恋人たち自身を視点人物として描いてしまったので、突然の珍客である未来人の一家はあくまで脇役になり、原作であるしんちゃん映画のように原因もわからずタイムスリップしてしまった現代人一家が表向きは主役で観客と同様に視点人物であり、それが映画のクライマックスで実は本当の主役は廉姫と青空侍だったとわかる意外性や痛切感は生まれてこないので、実写版映画は一般映画としての封切りで興行収入18億円に乗りましたが製作費も20億円以上の実写映画ですから何をか言わんやということになる。本作は前作同様プログラム・ピクチャー・アニメの枠を越えて名高い作品ですので、公開時のキネマ旬報の紹介を引いておきましょう。
[ 解説 ] お馴染みしんちゃんが、戦国時代を舞台に大暴れする長篇ギャグ・アニメーションのシリーズ第10作。監督・脚本は「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」の原恵一。撮影監督に「ドラえもん のび太とロボット王国」の梅田俊之があたっている。声の出演に「~嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」の矢島晶子、「エルマーの冒険 MY FATHER'S DRAGON」の屋良有作、「∀ガンダムII 月光蝶」の小林愛ら。
[ あらすじ ] きれいなお姉さんの夢を見た翌日、突然、天正2年(1574年)にタイムスリップしてしまったしんちゃん(矢島晶子)。そこで、青空侍と呼ばれる又兵衛(屋良有作)という侍の命を助けたしんちゃんは、春日城へ案内され、夢で見たお姉さんと会うことが叶う。お姉さんは、春日城の当主・康綱(羽佐間道夫)の娘で、大蔵井高虎(山路和弘)なる大名と政略結婚させられることになっている廉姫(小林愛)。いつもの調子で又兵衛や姫と仲良くなったしんちゃんは、ふたりが秘かに互いを好き合っていることを察し、恋を成就させてやろうとするのだが、又兵衛は身分が違うとその想いを胸に封印しようとするばかり。自由恋愛の時代のしんちゃんには、全然理解出来ないのであった。やがて、しんちゃんを心配したひろし(藤原啓治)やみさえ(ならはしみき)たちが春日城にやって来た。再会を喜び合う野原一家。しかし、どうしたら元の世界に戻れるかは分からない。そうこうするうち、康綱の心変わりで政略結婚を断られた高虎が隣国と共に戦を仕掛けて来た。城を、人民を、土地を、そして愛する人を守る為、応戦する又兵衛たち。果たして、戦いは熾烈を極めるも、野原一家の助太刀で高虎の髻をゲット。見事、春日軍は勝利を収める。ところが凱旋途中、又兵衛は何者かの弾に当たり倒れてしまう。やりきれない思いのしんちゃんは、しかし廉姫と別れ、元の時代へと帰って行く。
 ――しんのすけは偶然(しかし実際は廉姫と「青空侍」又兵衛の思いに引き寄せられて)又兵衛が死客の鉄砲兵に撃たれる寸前に現れて鉄砲を逸らせる役目になったので、又兵衛は合戦の勝利で春日城を守ったと同時に未知からの銃弾に撃たれ、しんのすけたち一家を自分の時代に招き寄せたのが姫と自分の思いの力によるもので、姫と城を守り抜く役割を終えた今あの時死ぬはずだった自分の死が訪れたのだ、そして野原一家を未来に帰すことができるのだと悟ります。本作がよくあるタイムスリップもの、異世界トリップものに終わっていないのは、姫が又兵衛の無事を祈る子どもの頃から遊んだ憩いと祈りの場である泉のほとりが5世紀後の野原家の庭で、泉を通して5世紀後の野原一家の夢枕に廉姫が立つ、という映画の冒頭から一貫しており、ガジェット的な趣向ではないので、これはSF的な発想というよりも『源氏物語』から『雨月物語』にいたる前近代的な心霊信仰につながります。『オトナ帝国の逆襲』も人々への侵略手段がノスタルジアであり「古き良き時代の匂い」という意外性のある、かつアニメでこれをいかにテーマにし得るか自体が冒険的な企画でしたが、本作はしんちゃん映画では初めて真正面から作中人物の「死」を描いた作品でもあり、前作の実績をもってしても製作サイドからは難色が示されたそうです。「クレヨンしんちゃん」原作者の臼井儀人氏が原恵一監督のオリジナル脚本を読んで「これで行ってください」と推したので実現にこぎつけたそうですから、人気シリーズのテレビアニメ版原作者の後押しがなかったら現在観られるような名作になる条件が通らなかったと思うと、本作はシリーズでももっとも原作コミック離れした作品だけに臼井氏の勇断やシンエイ動画スタッフへの信任が可能にした作品とも言えます。また、しんちゃん映画の枠組の中で最大の挑戦に成功したのが前作『オトナ帝国~』なら、本作はタイムスリップ型歴史映画がたまたましんちゃん映画のシリーズで作られたものとも言え、原恵一監督も普通映画の長編アニメーション作品を作る意識だったのが出来上がりにそのまま現れています。原監督自身は『青空侍』という脚本原題へのこだわりが最後まであり、地味なので公開題には生かせなかったのですが、長編アニメーション『青空侍』と思って観ると感動が増大します。原監督自身はフリーになってその後もしんちゃんアニメに関わりますが、本作で劇場版監督を降りるとともにテレビ版メイン監督・劇場版監督ともムトウユージ監督・水島努監督に譲るのはやり尽くした感があったからこそでしょう。本作は『オトナ帝国~』と並んで長編アニメーション映画史上に名を残す作品で、観直すたびに新たな感動のある最高の完成度を誇る名作です。

●4月11日(木)
『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ栄光のヤキニクロード』(監督=水島努、シンエイ動画=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2003.4.19)*89min, Color Animation
◎最高級焼肉の夕食を目前とした野原一家だが、突然謎の男に追われ、気がつけばなぜか指名手配犯に!?周りは報奨金目当ての敵だらけ!一連の事件は熱海に本部を置く組織"スウィートボーイズ"の陰謀によるものであることを知り、逃走の進路を熱海に向ける!果たして一家は焼肉にありつけるのか!?

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 初代監督の本郷みつる(1959年生まれ)のしんちゃん映画第1作は32歳の作品、2代目監督の原恵一(1959年生まれ)がしんちゃん映画を引き継いだシリーズ第5作は36歳の作で、本郷・原の両監督ともドラえもん映画の併映用中短編の監督作はありましたが長編アニメーション映画はしんちゃん映画が初作品でした。3代目劇場版監督(テレビ版3代目メイン監督はムトウユージ監督)の水島努(1965年生まれ)もOVAや短編作品はありましたが劇場版長編アニメーション作品は37歳時の本作が初めてになり、次作の監督後にフリーになりますがシンエイ動画はやはり児童アニメの老舗・亜細亜堂から迎えた本郷監督、生粋のシンエイ動画育ちの原・水島監督と精鋭スタッフに恵まれており、水島努はテレビアニメ版「美味しんぼ」で遊びすぎた演出をして以来シンエイ動画内で仕事を干されていたところを本郷監督がしんちゃん映画第2作『ブリブリ王国の秘宝』'94で社内の反対を押し切って演出補佐に起用したことからしんちゃんアニメのチームに加わり、以来原恵一に監督交代して以来は演出(チーフ助監督)にずっと就き、第7作『温泉わくわく大決戦』では併映短編「クレしんパラダイス!メイド・イン・埼玉」で初の劇場用短編を監督しています。本郷みつる監督が社内で不遇だった水島努を見いだしたのもさすがの慧眼ですし、原恵一自身が「本郷さんの作品はハリウッド映画風の雰囲気」で原監督自身は「古い日本映画風」にできないか、と考えたように、水島監督は本郷みつるに近いハリウッド映画的なムードにさらに'70年代~'80年代初頭の国産テレビアニメを観て育った世代ならではの感覚があり、原監督を継いでテレビ版メイン監督になっていたムトウユージ(1962年生まれ)監督の前に下積み時代が長かった水島監督が長編2作を担任したあと40歳を目前にフリーになり劇場版のあとを継ぐものの、原恵一時代の最後の2作がいずれも話題作でヒット作だった分大変だったと思われますが、かえって水島監督は「もう大人に褒められる必要はない、子どもを沸かせる」内容に専念できたそうで、本作は『戦国大合戦』をしのぐ興行収入14億円のヒット作になりました。ジェットコースター・ムーヴィー的コメディの本作に対して次作『夕陽のカスカベボーイズ』では春日部市民たちが時間の止まった西部劇映画の世界の中に閉じ込められてしまうメタ映画手法で異色作を作ることになり、同作も興行収入13億円のヒットと好成績を収めて出来は甲乙つけ難く、水島監督のしんちゃん映画をもう数本観てみたかったと欲が出ますが、続くムトウユージ監督の3作も好作揃いなので贅沢は言えません。
 さて『映画クレヨンしんちゃん』で初めてデジタル原盤(以降は全作品デジタル原盤)になった本作は、夕飯の高級焼肉を期待して朝食を簡素に済ませたばかりの野原一家の庭先のブロック塀を突き破って謎の白衣の男(石丸博也)が現れ一家に助けを求めるのが発端です。そこに下田(江原正士)と名乗る小太りの男が率いる白衣の男を追う集団が現れひろし(藤原啓治)と名刺交換しますが、一家はわけもわからず逃げ出します。とりあえずふたば幼稚園に駆け込みますが、園長先生(納谷六朗)が観ているテレビは突然凶悪犯逃走中の臨時ニュースに切り替わり、ひろしは異臭物陳列罪、みさえ(ならはしみき)は年齢詐称、しんのすけ(矢島晶子)は幼児変態罪、ひまわり(こおろぎさとみ)は結婚詐欺、シロ(真柴摩利)は騒乱罪・暴走罪その他で報奨金1億円の凶悪指名手配犯の速報が流れ、まつざか先生(富沢美智恵)やあげお先生(三石琴乃)はあ然、よしなが先生(高田由美)は「信じています!自首してください!」と泣き出してしまいます。とりあえずひろしの秋田の実家に隠れようと一家は報奨金目当てに狙ってきたヨシリンとミッチー(阪口大助、草地章江)をかわし自宅で旅支度をしますが、アクション仮面の時間だゾとテレビを点けてみたしんのすけは臨時速報でアクション仮面(玄田哲章)と助手のリリ子(小桜エツ子)がしんのすけの指名手配を「とんでもない奴だ」と指弾するのに大ショックを受け、チャンネルを変えたひろしは双葉商事がひろしを懲戒免職し、部下の川口(中村大樹)がひろしを悪しざまに言う証言を聞いて大ショックを受けます。一家は町中の人たちが野原一家の陰口を叩くのを悔しがり、しんのすけ憧れのななこおねえさん(紗ゆり)までが一家の姿を見て逃げ出すので用品店に忍びこみ変装しますが、秋田のひろしの実家が手入れを受けているテレビ報道から熊本のみさえの実家も無理と判断し、下田の名刺から本拠地の会社「スイートボーイズ」は熱海にあると睨んだ一家は熱海の本拠地に乗りこむことにします。ムードや旅程は違うものの原恵一監督のしんちゃん映画初作品『暗黒タマタマ大追跡』'97同様ロード・ムーヴィーになりましたが、元温泉旅館スイートボーイズのボス(石塚運昇)が野原一家を追うために放った下田、堂ヶ島少佐(徳弘夏生)、少佐の部下女隊長・天城(皆川純子)が妨害しあったり協力したりと追われるうちに女装したひろしに一目惚れして男とわかっても惚れこむドライバー(真殿光昭)の協力で熱海まで着く間に一家は離ればなれになり、また合流するとめまぐるしく追っかけは進行し、ついにボスと対面して一家は組織の追う洗脳装置「熱海サイ子」の実態と自分たちが指名手配犯にされてしまった真相を突き止めます。クライマックスの対決と解決はややあっけない観もありますが、本作は始まってすぐ逃走劇になり逃走そのものが本編なので発端や解決はシンプルで十分と言える仕上がりになっています。合流した一家がシリアス絵柄で焼肉を思うリアル絵のリアルひろし、リアルみさえ、リアルしんちゃん、リアルひまわり、リアル雑種犬シロのギャグでは映画館の爆笑が聞こえてきそうであり、テレビ版から大きく離れた内容が続いた原恵一監督作品からテレビ版の拡大版だった初期の本郷みつる監督作品に戻って、さらに長期化したシリーズ分の洗練を推し進めた出来とも言えそうです。また次作と対照をなす本作の爽快なコメディ感覚は出来ばえでは甲乙つけ難いものがあります。

●4月12日(金)
『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ』(監督=水島努、シンエイ動画=ASATSU=テレビ朝日/東宝'2004.4.17)*97min, Color Animation
◎映画館"カスカベ座"で西部劇の映像に目を奪われているうちに、映画の中に迷い込んでしまった春日部の住人たち。その世界ではこれまでの記憶を失ってしまい、それぞれ新しい生活を送ることに……。果たしてしんのすけたちは、本当の自分を取り戻して春日部に帰ることができるのか!?

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 映画の中で主人公が「上映中の映画の世界の中に入り込んでしまう」アイディアはバスター・キートンの『探偵学入門』'24やウッディ・アレンの『カイロの紫のばら』'86が有名ですし、異世界トリップものの変奏としてゲーム世界その他と昨今は猖獗を極めて陳腐化していますが、キートンやアレンの作品を向こうに回すにはこの『夕陽のカスカベボーイズ』くらいのアイディアと脚本・演出の力量がなければと痛感させてくれるほど、本作は見事な出来ばえです。春日部市民たちが時間の止まった西部劇映画の世界の中に閉じ込められてしまうメタ映画手法自体は画期的なものとは言えませんが、これを展開していく脚本の構成力と豊富で意外性と説得力あるアイディア、緩急わきまえた演出の妙は心憎いばかりで、前作『栄光のヤキニクロード』では本郷みつる監督時代を思わせる作風で好作を放った水島監督は、本作ではさらに原恵一監督時代のしんちゃん映画のムードを折衷して本郷作品でも原作品でもない、これまでのしんちゃん映画にないような緊迫感を打ち出しながら哀切な後味を残すファンタジー作品に成功している。あまりに構成要素が盛りだくさんなので『~ヤキニクロード』のようなシンプルな痛快さと爽快感ではなく、家族やカップルで観たら観終えたあとちょっと会話が弾まないような沈鬱な印象が残るので、設定は『オトナ帝国の逆襲』を思わせるようなものですが『オトナ帝国~』とも違った意味で傑作ながら異色作なので、好みを分けるような作品です。映画は、高鬼をしていたかすかべ防衛隊たちが町中を駆け回っているうちに一軒の古びた廃屋の映画館「カスカベ座」を見つけるのが発端です。誰もいない場内では荒野が映し出されているだけの映画がひとりでに無音で上映されていました。かすかべ防衛隊は不思議に思ってスクリーンを観ましたが、トイレに立ったしんのすけ(矢島晶子)が戻ると、みんなの姿は消えています。夜になってもしんのすけ以外の4人は家に帰っていないと知り、行方不明になったみんなを心配したしんのすけら野原一家はカスカベ座を探りに行きますが、荒野の映像に目を奪われているうちに、気がつけば映画と同じ何もない荒野に立っていました。突然の状況に困惑する野原一家は、しかたなく荒野を歩いて数時間後、ようやく荒野を走る一本の線路を見つけ、その線路沿いに進み、そこで西部劇のような古びた町を見つけます。春日部への帰り道を聞くため酒場に入る野原一家ですが、変な顔の男(宝亀克寿)たちに因縁をつけられ乱闘騒ぎになります。間もなく保安隊が現れますが、その隊長の保安官は行方不明の風間くん(真柴摩利)でした。しんのすけはいつも通り親しげに風間くんに話しかけますが、いきなり腹を殴られてしまいます。風間くんはしんのすけたちのことをすっかり忘れており、性格も乱暴になっていました。保安隊から追われる身になってしまった野原一家は逃亡の途中、この町「ジャスティスシティ」の独裁者の悪徳知事ジャスティス(小林清志)に仕える少女、つばき(齋藤彩夏)に救われます。つばきもこの場所がどこかはわかりませんが「この世界に来た人間は次第に元の世界の記憶を忘れていく」ということと「帰りたいと気持が強いのなら、その気持を忘れずに持ち続けてください」という助言を野原一家に伝えて戻っていきます。つばきが去ったのち保安隊に暴行を受けている男を目撃した野原一家は保安隊の目を盗んでその男を助けます。マイク(村松康雄)と名乗るその男も春日部の元住人で、どうやらここは映画の中の世界で、時間が止まっているらしいのを野原一家に教えてくれます。マイクは荒野に3か所あるらしい、ジャスティス指定の「立入禁止区域」に元の世界に帰る手がかりがあるのではと思い侵入しましたが、何も見つからず保安隊に見つかり厳しい体罰を受けたと言います。マイクも自分の名前と春日部在住以外の、職業や家族のことを忘却していました。そんなマイクを見た野原一家も自分たちもそうなるかもしれないと不安に陥ります。しんのすけは町の中で行方不明だったマサオくん(一龍斎貞友)とネネちゃん(林玉緒)を見つけますが、夫婦となって暮らしていた二人も風間くん同様に記憶を失っており、さらに今の状況に満足しているからと春日部帰還を拒否します。町はずれに住んでいたボーちゃん(佐藤智恵)だけはまだ春日部にいた頃を憶えており、しんのすけとともに全員無事に春日部への帰還を誓ってくれますが、しかししんのすけとボーちゃんからも少しずつ、春日部の幼稚園児だった頃の記憶が消えていきます。
 結局、春日部に帰る方法が見つからない野原一家は、どうにか春日部にいた頃の記憶を保ちつつ、元の世界に帰る方法を見つけようと決意します。しかし、日が経つにつれ記憶は徐々に薄れていき、ひろし(藤原啓治)はマイクと共に強制労働を強いられ、みさえ(ならはしみき)はこの世界の暮らしに馴染んでしまって帰ることを諦め、ひまわり(こおろぎさとみ)もしんのすけが誰なのかを忘れ、さらにしんのすけもぶりぶりざえもんの絵が描けなくなってしまいます。それでも少女つばきはたびたび現れては野原一家を励まし、いつしかしんのすけはつばきに恋心を抱くようになります。そんなある日、つばきが与えられくれたヒントでしんのすけたちはジャスティス知事に虐待されている発明家の老人オケガワ(長嶝高士)とともに、とうとう春日部に帰る方法を思いつきます。それはこの映画世界の悪役ジャスティス知事を倒し、この世界に平和を取り戻して映画をハッピーエンドにすることでした。そのためのヒーローとして選ばれたのは、しんのすけたちかすかべ防衛隊の5人。しかし、完全に記憶が戻っていないかすかべ防衛隊の心はバラバラです。しかし保安官バッジを剥奪されジャスティスの部下に轢き殺されそうになった風間くんをしんのすけが助け、他の3人も駆けつけたて心がまとまり、かすかべ防衛隊は野原一家とマイクと正義のガンマンたち「荒野の七人」と協力してジャスティスを倒す事に「立入禁止区域」の秘密を暴きに列車に乗り、追跡してくるジャスティスの手下たちを撃退しながら突っ走ります。そして無事映画にエンドマークを打ち、カスカベ座に戻ってしんのすけが気づいたのは……。本作は脚本から絵コンテを起こしていく段階でどんどんつばきのヒロインとしての比重が多くなり、脚本自体を当初からの狙いのかすかべ防衛隊の友情と同等にしんのすけとつばきのロマンスが膨れたそうですが、外見だけで妙齢の「おねいさん」に無差別にデレるしんのすけがまだ中学生くらいの清楚で控えめ、地味な少女に恋するのは異例の事態です。また本作は野原一家が映画館を探しに入るためシロは留守番で、現実に戻ると時間は最後に迷いこんで映画に「おわり」をもたらした野原一家が入った時刻に戻るようになっている。記憶を失い映画の世界に順応した春日部の人々は『オトナ帝国~』を思わせる不気味な不吉さがあり、また大列車追跡でしんのすけたちを援護する「荒野の七人」は映画『荒野の七人』'60そのままをモデルにしており、声優も日本版の吹き替え声優をキャスティングしています。重要な案内役のマイクはマイク水野こと水野晴郎氏がモデルで、これは事後承諾だったそうで公開後水野氏から東宝と水島監督に問い合わせがあり水野氏は大いに喜んでくれたらしく、だったら水野氏本人が声優出演していたらなお面白かったと惜しまれます。本作をご覧になった方がずっと忘れられないのがカスカベ座に戻ってきたしんのすけが必死につばきの姿を探す場面で、水島監督のイメージでは「エイドリアンが見つからないロッキー」をやりたかったそうですが、これがあまりに痛切でしんのすけが泣きながら映画の世界に戻ろうとする結末も切なすぎる。本郷みつる、原恵一に続いて水島努監督もしんちゃん映画に傑作を残した手応えはありますが、しんちゃん映画としてこれも素晴らしい出来ながら位置づけはシリーズ中の異色作になると思えます。

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