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映画日記2019年4月4日~6日/一気観!『映画クレヨンしんちゃん』シリーズ!(2)

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 劇場版『映画クレヨンしんちゃん』シリーズの初期3作は「クレヨンしんちゃん」原作者の臼井儀人氏が映画スタッフとの共同原案のもとに長編原作コミックを描き好評のもとにシリーズ化されましたが、シリーズに現在まで続く要素が出揃ったのは臼井氏がタイトルの命名だけ関わって映画スタッフのオリジナル作品になる第4作『ヘンダーランドの大冒険』以降で、第4作のあとテレビ版のメイン監督でもあった本郷みつる監督の降板とともに本郷監督の下で共同脚本・演出(チーフ助監督)を勤めてきた原恵一監督がメイン監督・劇場版監督を引き継いでいきます。原監督による最初の作品になる第5作『暗黒タマタマ大追跡』は原作・テレビ版で登場したしんのすけの妹ひまわりが初登場した作品になり、続く第6作『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』ではしんのすけの幼稚園児友だち=かすかべ防衛隊のネネちゃん、風間くん、マサオくん、ボーちゃんも大冒険に巻き込まれるという具合に、本郷監督よりホームドラマ指向が強い原監督によりしんちゃんをめぐる春日部市の住人たちもテレビ版同様の(ただし劇場版ならではの絶体絶命の)大騒動に巻き込まれることになります。2002年の第10作『嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』(文化庁メディア芸術祭・アニメーション部門大賞、毎日映画コンクールアニメーション映画賞受賞)まで原恵一が脚本・監督した6作で『映画クレヨンしんちゃん』はファミリー映画としての地位を確立し(また映像ソフトでロングセラーとなり)、'80年代後半~2000年代に国民的作品とされてきたスタジオ・ジブリ作品に匹敵する評価の声も上がるようになったので、ここから先のしんちゃん映画は非常に充実した作品が現在まで続く。やや落ちるかな、と思われる作品でも十分な水準はクリアしているので長寿シリーズともなれば多少の出来不出来はありますが、大きく期待を裏切るようなことはありません。第9作『嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』2001の頃には洋画・邦画総合年間ベスト1に選出する映画誌(「映画秘宝」。「キネマ旬報創刊90周年オールタイムベスト・テン」でも日本映画アニメーション部門4位)も現れ、同業者など滅多に褒めないアニメーション監督の大家・富野由悠季氏も「クレヨンしんちゃんがライバル。だから目標値はすごく高い」「視聴者側がこの面白さを理解を出来ないようではいけない」とまで言い切っており、以降もシリーズが高い水準の作品を送り続けているのはご覧の方には言うまでもないでしょう。それだけに拙劣な感想文など恥ずかしい限りですが、観落とされた作品がある方の参考にでもなれば幸いです。なお各作品内容の紹介文はDVDボックスの作品紹介を引用させていただきました。

●4月4日(木)
『映画クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』(監督=本郷みつる、シンエイ動画=ASATSU=テレビ朝日/東宝'1996.4.13)*97min, Color Animation
◎幼稚園の遠足で出かけた"群馬ヘンダーランド"。実はそのヘンダーランドこそオカマ魔女とその一味が地球征服を企む本拠地だった!そこで立ち上がったしんのすけ。強力な助っ人たちを引き連れて、オカマ魔女率いる強敵陣と世紀の大勝負!さあ、地球の運命はいったいどうなる!?

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 初代しんちゃん監督本郷みつる時代(のち2008年の第16作『ちょー嵐を呼ぶ金矛の勇者』で1作きりのメイン監督の中継ぎ作品をてがけますが)の第4作にしてシリーズ初の完全映画オリジナル原案・脚本作品(原恵一と共作)、本郷監督自身が自分のしんちゃん映画の集大成とする意欲作で、意欲作はこれまでの3作もそうですが本作公開から半年後には原恵一がメイン監督を引き継ぐと決まっており、テレビ版から5年に渡るしんちゃんアニメ、劇場版もこれで一旦は最後となるとしんちゃんアニメ立ち上げ監督としてやりたいことはやりつくす、という思いだったでしょう。前3作も徐々に劇場版しんちゃんらしい要素が揃っていくのがわかるエンタテイメント性抜群の快作でしたが、本作は日常世界を浸蝕してくるダーク・ファンタジー・コメディでサスペンスもギャグもアクションも各段に切れ味が違います。のちに本郷みつる監督時代のしんちゃん映画の最高傑作と熱烈な支持を集めるのももっともな出来で、しんちゃんが出会う妖精人形のトッペマ・マペット(渕崎ゆり子)が当初の設定では男の子だったのを原作者の臼井氏の提案によって女の子に変更したのも適切で、トッペマが男の子でも冒険ファンタジーとしては問題ありませんがこれはやっぱりヒロインにしたのが作品に華を添えています。本作は魔法の国ヘンダーランドの王女メモリ・ミモリ姫(渕崎ゆり子)を幽閉し姫を守る勇者ゴーマン王子(保志総一朗)を倒した二人組のバレリーナ姿のオカマ魔女マカオ(大塚芳忠)とジョマ(田中秀幸)が、日本をのっ取る(らしい)ために群馬県桐生市に大遊園地「群馬ヘンダーランド」を開き、大々的にテレビCMを流します。♪ヘンダヘンダよ、ヘンダーランド~、とCMソングも話題になり、ふたば幼稚園も遠足でヘンダーランドに遊びに行くことになります。勝手に工事中のサーカスのテントに忍びこんだしんのすけは、一瞬メモリ・ミモリ姫の幽閉された姿を見、それからねじ巻き人形のトッペマ・マペットを見つけてネジを巻いてやります。目を覚ましたトッペマはしんのすけにオカマ魔女のマカオとジョマの存在と悪だくみを話し、しんのすけに人間にしか使えない魔法のトランプを使って魔女退治を頼みますが、すぐに次々と魔女の手下の狼男クレイ・G・マッド(辻親八)、妖術使いチョキリーヌ・ベスタ(深雪さなえ)の攻撃を受けます。遠足から帰宅した夜、トッペマはしんのすけの家に現れ再度魔女退治を頼みに来ますが、しんのすけは怖くて断ってしまいます。それでもトッペマはトランプをしんのすけに託して去りますが、数日後かすかべ市に新たな魔女の手下で「人の心にとりいる」能力の持ち主、ス・ノーマン・パー(古川登志夫)が現れ、ふたば幼稚園の教育実習の先生として教職員に交わり、子どもたちを手なづけ、さらには野原一家の家にも訪ねてきてひろしとみさえの信頼も勝ち得てしまいます。そしてス・ノーマン・パーからの招待券で野原一家がヘンダーランドで遊んできたあと、ひろしとみさえに起こった異変に気づいたしんのすけは、トッペマとともにヘンダーランドに乗りこむことになります。……と、この調子で淡々とたどっていくときりがありませんが、雪だるまに手足が生えたス・ノーマン・パーはヘンダーランドに洗脳されたかすかべ市民には当たり前にそこら辺に歩いている存在なので、しかも「人の心にとりいる」能力の持ち主なのでオカマ魔女の部下の中でももっとも厄介な敵です。本作ではエンディング主題歌も歌う雛形あきこが本人役ゲストで、しんのすけが「魔法なんて信じないゾ」と試しに「スゲーナ・スゴイデス」の呪文を唱えると水着姿の雛形あきこ本人(アニメですが)が現れて自己紹介(「特技は日本舞踊、スリーサイズは……」)の途中で消える。「正義のためにつかわないと効果はすぐ消えるのよ」(トッペマ)。雛形あきこ登場はひろしにしんのすけがトッペマの願いに協力させる時にも使われます。「俺は魔法の存在を信じる!」(ひろし)。芸能人カメオ出演はこういう具合にやってほしい、というスマートな演出です。また反復ギャグが冒険ドラマと結びついているのはしんのすけが呪文で呼び出すお助けヒーローは毎回アクション仮面(玄田哲章)、カンタムロボ(大滝進矢)、ぶりぶりざえもん(塩沢兼人)の3人組で、しんのすけのイメージが生んだ魔法ですからこの3人なのですが、アクション仮面とカンタムロボは正義の味方ですがぶりぶりざえもんはしんのすけの創作ヒーローなのですぐに敵に寝返る(「私は常に強い者の味方だ!」)、何の役にも立たないのに消えぎわに報酬を要求する(「お助け料100億万円ローンも可……」)といつものぶりぶりざえもんです。クレヨンしんちゃんはラテン文化圏(イタリア、スペイン、南米諸国)でもキャラクター商品(パジャマやスリッパ)が出るほど人気が高いそうですが、「救いのヒーロー」ぶりぶりざえもんの微妙な味がどう伝わっているか気になります。
 また本作は原作コミック・テレビ版ともにひまわり登場以前の最後のしんちゃん映画なので、テレビ版・劇場版とも本郷みつる監督から原恵一監督にバトンタッチされるのがひまわり登場で分けられるのも気づかされます。一人っ子のしんのすけだけの野原一家に0歳の赤ちゃんの女の子ひまわりが加わっただけでシリーズのホームドラマ色はぐっと強くなり、劇場版初登場の第5作ではまだねんねと泣く、笑う、むずかるだけ(ようやくハイハイできる)ですが翌年の第6作以降では積極的にハイハイする、座る、喜怒哀楽に応じた意思表示の声が出せるし聞いた会話も理解できる0歳児に成長していて、以降のひまわりの成長限界まで育っています。本作はひまわりがいたらできなかった加速感が後半のオカマ魔女の部下との戦闘~クライマックス20分の野原一家3人とオカマ魔女2人との対決(ダンス対決、ババ抜き対決、塔の頂上への追いかけっこ)にあり、以降の作品でも似た趣向のクライマックスはくり返されますが赤ちゃん連れの危なっかしさも強調されることになるので、本作のたたみかけてくるようなスピード感とはニュアンスが違ってきます。また第1作の宇宙人、第2作の壺の大魔人、第3作の未来人、本作の魔法の世界ヘンダーランド(とオカマ魔女)や魔法のトランプの精(八奈見乗児)といったファンタジー趣向は次作以降でもなくなりませんが、ドラマ自体は悪の秘密結社対正義の秘密組織の抗争などの誇張はされているもののスパイアクション的なもの、ファンタジー趣向が必ずしも核心ではないものに移っていくので(またはクライマックスまで核心となるファンタジー趣向が明かされないものになるので)、冒険アクションでも人間ドラマ的なホームドラマ性が前に出てくるようになったひまわり登場以降の作品より本作で頂点を極めたファンタジー&アクション・コメディの初期しんちゃん映画の方が良かった、という意見も出てくるのもわかります。しかしひまわりが登場してしんちゃん映画の表現の幅は一段と大きく広がったので、ひまわり登場前のしんちゃん映画の最大の成果が本作ならひまわり抜きではシリーズもそれほど長続きしなかったとも思えますし、『ヘンダーランドの大冒険』がひまわり登場前の切り札的作品として残されているのですからいいではありませんか。

●4月5日(金)
『映画クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』(監督=原恵一、シンエイ動画=ASATSU=テレビ朝日/東宝'1997.4.19)*99min, Color Animation
◎かつて暗黒魔人を封じ込めた埴輪と、その復活のカギとなる二つの"タマ"――、今、そのタマをめぐって、世界征服を企むホステス軍団と、それを阻止しようとするオカマ三兄弟の対決が始まった!タマの一つをひまわりが飲み込んでしまったことにより、争いに巻き込まれた野原一家は、東日本をまたにかけ所狭しと駆けめぐる!

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 本作はひまわり初登場で今後の作品に野原一家の活躍がよりホームドラマ色とアクション・コメディのギャップが際立つようになった一方、正義のオカマ三兄弟と悪のホステス軍団の抗争が目立ちすぎてテレビ放映では台詞から「オカマ」が削られ、以降の作品では露骨なオカマとホステスの登場が自粛されるようになったのは残念で(マッチョは問題なかったようです)、本作のオカマ三兄弟は新宿のショーパブ経営を表の顔とする先祖代々の霊感師珠由良一族の末裔、ホステス軍団はやはり先祖代々の霊感師珠黄泉一族の末裔という設定ですが、こんなことに水商売のかたがたご本人たちが怒るわけはないので例によって幼稚園児が主人公のアニメにオカマやホステスとは何だ、と話のわからない筋からの苦情があったのだと思います。劇場版5作目となっても世間の認知はまだそんな具合だったということで、原恵一監督は劇場アニメーションは'88年からシンエイ動画で「エスパー魔美」「ドラミちゃん」の中短編が数作ありましたが、長編作品の監督作品は本作が第1作になります。しかし『映画クレヨンしんちゃん』には第1作から演出(チーフ助監督)、2~4作目は本郷みつる監督と共同脚本を手がけており、テレビ版も初代メイン監督の本郷監督から引き継いだ上での劇場版監督で、さらに原恵一監督の代には演出(チーフ助監督)が水島努氏という面白くならないわけはない布陣です。テレビ版も6年目とレギュラー声優諸氏もすっかり堂に入った余裕の演技で、これまでの本郷監督作品でも監督に次ぐ位置だった原監督ですからクレヨンしんちゃんの世界やキャラクター、レギュラー声優陣の生かし方もがっちりつかんでいる。原監督は本郷監督の作風のハリウッド風の雰囲気に対して古い日本映画の雰囲気を意識し、またSFやファンタジーの要素を使わないストーリー展開を考えたそうで、本作のタイトル(原作者の臼井氏によるタイトルは本作が最後となったそうです)の「暗黒タマタマ」は魔人を封じこめた埴輪の両方の睾丸部分にはめ込むビー玉大の球で、片方ずつをかつては友好関係にあった珠由良・珠黄泉一族が伝承しており、それを争奪して魔人を甦らせようとする珠黄泉一族(世界征服を企む悪のホステス軍団)と紛失した一族の珠の行方を追う珠由良一族(ローズ、ラベンダー、レモンのオカマ三兄弟=郷里大輔、塩沢兼人、大滝進矢)が、珠を持ち帰ってきたもののチーママ・マホ(島津冴子)率いるホステス軍団に追われて野宿した朝にシロを連れて散歩中のしんのすけに珠を持ち去られ、それをひまわりが飲みこんでしまったことから野原一家をオカマ三兄弟が護衛して珠由良一族の本拠地・青森の「あ、それ山」に匿おうとするも立ち寄った健康ランドで懲戒謹慎中ながら手柄を立てたくて仕方ない女刑事グロリアこと東松山よね(山本百合子)が無理矢理一行に同行し、ホステス軍団と攻防をくり広げながら逃亡・追跡の東日本縦断になる……というのが本作前半2/3のおおまかなプロットで、珠黄泉一族はエスパー(読心術者)で武道の達人の日系アメリカ人マッチョのヘクソン(筈見純)を珠の強奪に向かわせており、この超能力マッチョにボディガードの珠由良一族七人衆(『七人の侍』から名を採られています)は叩きのめされてしまい、オカマ三兄弟の母の珠由良一族の長(水原リン)も太刀打ちできずひまわりは誘拐されて銀座に連れ去られてしまいます。
 後半の展開は再び東京のど真ん中に戻り、珠黄泉一族の長でホステス軍団の首領・玉王ナカムレ(山本圭子)はボディガードのマッチョ、元悪役プロレスラーで前職はベビーシッターのサタケ(立木文彦)に子守させて無事ひまわりが排泄した珠由良一族の珠を珠黄泉一族の珠とともに高層ビルの最上階に渡した梁の上で魔人を封じた埴輪にはめこみ、魔人を呼び出そうとしますが、珠黄泉一族の悪事に嫌気がさして軍団を裏切りひまわりを奪還してくれたサタケとともにそれを阻止しようとする野原一家、オカマ三兄弟と女刑事が高層ビルの高架線上で超能力マッチョのヘクソンと格闘するクライマックスまで息もつけない加速感があり、早くも赤ちゃん連れで高所の追いかけっこがどんなものになるかを見せてくれるサスペンス満点のアクションが連続します。中途で一旦クライマックスがありさらに後半折り返すようにたたみかけてくる構成は本郷みつる・原恵一共同脚本の第3作以来ですが、原監督が自分の監督作でならどうアレンジするかを温めていたのがちょうど野原一家にひまわり増員という格好の機会を得て一気に溢れ出したような流露感があり、しんちゃん映画の新たなスタートを感じさせる快作になっています。興行収入20億円を越えた最初の2作から第3作では14億円台に落ち着き、本郷みつる監督時代最後の傑作の第4作が12億円、本作では11億3,000万円、次作では10億6,000万円と徐々に下がりましたが、劇場版オープニングタイトルはその時のテレビ版主題歌が使われており(エンドクレジット主題歌は作品毎にオリジナル)、第3作までは放映当初からの主題歌「オラはにんきもの」が使われていた時期であり、第4作から第6作までは毎回(つまり毎年)テレビ版主題歌も変わっているのに対応しています。つまりテレビ版の人気も年替わりに主題歌を変える必要があるほど放映当初ほどの話題作ではなくなっており、代わりに第1、2作の半数ほどに安定した観客動員数に落ち着いたと見るべきで、公開時の興行収入は低下していても映像ソフトではロングセラーを続けているのもこの時期の作品なので、本郷みつる監督時代の4作、原恵一監督時代の6作の最初の10作はテレビ放映や映像ソフトによる観客の累積では公開時の興行収入の低下を補う実績を上げていると考えられます。シリーズの長寿化が進んだ分近作・最新作からしんちゃん映画を知った新たな観客がたどり着くことになるのもシリーズ初期10年の人気作、ことにひまわりが加わっている点で原恵一監督時代になってからの作品に分があり、本郷みつる監督作品が『ヘンダーランドの大冒険』で極まったとすると本作は原恵一監督作品のスタート地点としてまださらに先を見たい気がする。また本郷みつる監督のSF・ファンタジー指向が持つガジェット趣味の表れがしんちゃん映画のポップ・アート感覚だったとしたら本作での原恵一監督のアプローチはあえて先輩監督の逆を行った面白さであり、日本映画からの素養をアニメ作品に持ちこんだ好ましい資質は感じられてもここからどんな発展がしんちゃん映画にもたらされるのか本作1作では予想がつかない面もあって、しんちゃん映画はすでに来年度作品の予告込みで新作公開されるシリーズ化していましたから次作の原恵一監督版ハリウッド風スパイ・アクション作品『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』は対になって発想されたことになり、次作では本郷監督の得意だった作風の土壌での手腕と成果が課題になります。テレビシリーズをキャラクター原案とするファミリー向けアニメーション映画ながら意外なほどしんちゃん映画が作家性の強い性格を持つのは制約にもなり得るテレビ版キャラクターの設定が逆に劇場版オリジナル長編に極度の圧縮性をもたらすからで、そのダイナミックな転換点が最初の爆発を起こしたのが監督交替を挟んだ第4作~第6作の推移と見ることができそうです。

●4月6日(土)
『映画クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦』(監督=原恵一、シンエイ動画=ASATSU=テレビ朝日/東宝'1998.4.18)*100min, Color Animation
◎世界征服を企む謎の組織"ブタのヒヅメ"が、恐ろしいコンピューターウイルスを作り出した!それを知った正義の秘密結社SMLの一員、コードネーム"お色気"は、偶然出会ったしんのすけとともに戦うことになり……。巨大飛行船を舞台に、かすかべ防衛隊が地球の平和を守るために大活躍!

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 前作の「グロリアと呼んで」こと懲戒謹慎中の女刑事東松山よねもやたら銃をぶっ放すくせにちっとも当たらないおねいさんのギャグキャラでしたが逃走中に立ち小便中のひろしに迫ってくる追っ手から車に引っ張り上げようとしてひろしとともに取り残される。二人は徒歩で真夜中に田舎の駅までたどり着いて待合室で青森まで乗り継ぐ下り鈍行列車を待って一夜を過ごすのですが、若い女刑事と家族が危機一髪の中年サラリーマンの一夜、と艶っぽくもなりそうなシチュエーションを、夜のしじまで仕事の愚痴をため息まじりに交わすあっさりしてしみじみする後味の良いシークエンスになっていて、またクライマックスでは現役刑事なりに体力・体術はあるが狙った狙撃をことごとく外すのが超能力で思考を読む敵を意外にも苦戦させる上にしんのすけがふざけかかってうっかり発射した最後の残弾が命中し敵に決定的な足止めを食らわせるおいしい役ももっていき、全員必死で追いかけあっているので何度も高層ビルの梁から突き落とされてはゼイゼイ息をしながら戻ってくるギャグ要員でもあるのですが、この野原一家の味方役にしてギャグキャラも兼ねる役割の人物を一家と同等に物語の主役級にした初の試みがスキンヘッドの首領マウス(石田太郎)率いる全世界的なサイバーテロを企む悪の秘密結社ブタのヒヅメの陰謀を阻止しようとする正義の秘密組織(国連承認)SMLのエージェント、ブタのヒヅメに潜入して起動プログラムの記録ディスクを奪ってきたコードネーム"お色気"(三石琴乃)と、"お色気"救出に向かうコードネーム"筋肉"(玄田哲章)で、お色気はブタのヒヅメの巨大気球基地からパラシュート脱出し東京湾に流れつき園長先生が福引きで当てた屋形船でお食事会中のふたば幼稚園の屋形船に這い上がる。追ってきたブタのヒヅメの巨大気球が屋形船をクレーンでさらってしまい、先生たちは園児たちを急いで屋形船から脱出させますが、トイレに入っていたしんのすけに駆けつけていたかすかべ防衛隊の友だち(ネネちゃん、風間くん、マサオくん、ボーちゃん)はへたばっていたお色気ともども脱出に間に合わずブタのヒヅメに捕らえられてしまいます。一方春日部市(本作からはっきり野原一家の居住市は「春日部市」と表記されます。三人家族だった時縦書き表示だった「野原ひろし/みさえ/しんのすけ」の標札は横書き表示の「野原ひろし/みさえ/しんのすけ/ひまわり」に変わっています)の家のひろしとみさえはテレビニュースを見て半狂乱ですが、そこに「大丈夫、息子さんは無事だ。俺が必ず連れ返す」とスーツ姿の外国人マッチョ大男が現れ、あんた誰という夫婦の問いに正義の秘密組織SMLの筋肉だと名乗ります。「SMLなんて聞いたことねえよ」「当たり前だ、秘密組織だからな」ブタのヒヅメに捕らえられたSMLのエージェントに息子さんたちは巻きこまれたんだ、確認のため写真をくれ、とネネちゃんや風間くんたちの写真を見せられたひろしとみさえは写真じゃなくて俺たちを連れて行けと筋肉にあの手この手で強引に迫りますが、結局置いていかれてしまいます。筋肉が席を外したうちにスーツケース内の書類を見た夫婦はひまわりを連れて香港に向かい、見かけた筋肉になおも迫り、根負けした筋肉は夫婦の覚悟を見こんで同行を認めます。一方ブタのヒヅメの三人の幹部、冷酷な短足のバレル(山寺宏一)、刃物使いのブレード(速水奨)、マッチョの大女・ママ(松島みのり)とリーダーのマウスはお色気にディスクを返せと迫りますが、お色気はディスクはSML本部でないと解除できない自爆装置つきリュックの中でお色気の心音が感知できなくなっても自爆すると拒否し、お色気としんのすけたちはブタのヒヅメ本部へ連れて行かれることになります。飛行船が南米の荒野の高山地帯らしい本部へ向かう途中、お色気としんのすけたちは牢屋から脱走し、そこにみさえとひろし、筋肉が乗る飛行機が救助しに来ますが、ブタのヒヅメの飛行船の攻撃で大破され地上に不時着。3人は徒歩で飛行船の目的地のブタのヒヅメ本部へ向かいます。混乱に乗じてお色気はしんのすけたちを脱出ポットで飛行船から逃がすことに成功するも囚われの身になり「女の身で耐えられるかな?」という「デジタル合成拷問」を受けます。その頃脱出に成功したしんのすけたちかすかべ防衛隊は、とりあえず人のいる場所を目指して歩き出しますが、到着した場所はブタのヒヅメ本部で、そこで目的も知らずサイバーテロ・プログラムを開発させられていた元春日部市民の天才老発明家・大袋博士(滝口順平)とオカマの中年助手アンジェラ青梅(増岡弘)と出会ったかすかべ防衛隊は、しんのすけたちより少し先に着きマウス一味と対決していた筋肉とひろし・みさえの助っ人に博士とアンジェラ青梅の助けを借りて駆けつけます。そこで明らかになったブタのヒヅメの全世界征服サイバーテロ計画の全貌とは……。
 前作がロードムーヴィー型アクション映画なら本作はスパイ・アクション型ロードムーヴィーとも言えるアクション・コメディで、しかもほとんど野原一家と同格の主役として活躍するお色気・筋肉の二人のSMLエージェント(「だいたいSMLって何だよ!?」「正義(Seigi)の味方(Mikata)ラブ(Love)だ」「何で日本語と英語混じり何だよ!」)に実は5歳児(正義くん)がある離婚した元国際結婚夫婦であり、さらにかすかべ防衛隊の5人の5歳の幼稚園児たちが南米の高山地帯の荒野のど真ん中に放り出されて自力でブタのヒヅメ本部にたどり着くまでの大冒険もあり、5歳児ですから大人1人分のサバイバルキットでしのぎ何とかたどり着きますが、荒野の幼稚園児5人組というのも『映画クレヨンしんちゃん』ですら滅多に見られないシチュエーションで、しんちゃん映画以外ではこんな展開は皆無でしょう。1枚のシートに5人が放射状に寝て「見てよ、星空だ」「星空っていうより宇宙って感じ」と夜を明かす場面の演出も緩急心得た心憎い名場面になっており、児童アニメの名門老舗シンエイ動画でスタッフが培ってきたファミリー向けアドベンチャー作品の最良の面を見る思いがします。また劇場版シリーズ化の定着とともにスケールの大きい内容が風格を帯びてきて、最大手映画社の東宝の配給と地上波大手のテレビ朝日系列との提携も多くのスポンサーを集めるバックアップ体制になり、これまで台詞で春日部市が言及されても文字表記は「春我部」「かすかべ」と濁されていたのが「埼玉県春日部市」と堂々と表記されるようになりました。またシンエイ動画自体は児童アニメーション映画の独立プロですが実質的にはメジャー映画社の規模で実力・実績のある製作プロ(手塚プロ、マッドハウス、京都アニメーションなども毎作原画・背景・仕上げなどを分担しています)やアニメーターの参加を得ることができた。前作までは原作者の臼井氏が作品タイトルを決定していましたが本作以降は原作者は実質的に監修のみにまわり、その代わり前作・本作では「マンガ家・臼井儀人(好きなタイプの女性・松たか子)」とテロップが出て前作では健康ランド、本作では屋形船でカラオケを熱唱し、前作では埼玉、本作では香港でしんのすけ捜索中のひろし・みさえにカラオケ大会の会場を尋ねてぶっ飛ばされるというおいしいカメオ出演をしています。前作『暗黒タマタマ』では芸能人カメオ出演はありませんでしたが(健康ランドに登場したホステス軍団が三波春夫の「世界の国からこんにちは」を流してパラパラを踊る、1970年の箇所だけ「1997年の~」と歌う場面はありましたが)、本作ではしんのすけたちに子ども好きの大袋博士とアンジェラ青梅が新発明のホログラム装置でアンジェラ青梅をSHAZNAのIZAM(本人声優出演、エンドクレジット主題歌も担当)に変えてみせるという趣向があり、『ヘンダーランドの大冒険』で雛形あきこ本人を登場させたのと同じ手法ですが、実はこの感想文を書くまでこれがマウスがお色気に「女の身のお前に耐えられるかな」というデジタル合成拷問の伏線だったとは気づきませんでした。お色気役の三石琴乃さんは原監督が「美少女戦士セーラームーン」「新世紀エヴァンゲリオン」以来起用したかった声優さんだそうで、テレビ版でもふたば幼稚園三人目の女性職員あげお先生としてレギュラーキャストとなり、劇場版では次作から出演することになります。本作で玄田哲章さんの演じた筋肉は前作までなら立木文彦氏の役どころですが山寺宏一氏も悪役出演していますし、玄田さんはアーノルド・シュワルツェネッガー公認専属吹き替え声優でもあり、また碇ゲンドウの立木文彦氏では「エヴァンゲリオン」を連想させてミスマッチになるという判断でしょう。本作最大の仕掛けは史上最大のサイバーテロ・ウィルスのプログラムが自立型人工電子生命体ぶりぶりざえもん(塩沢兼人)で、大袋博士は春日部在住中に散歩していてしんのすけの家の塀を越えてみさえが投げ捨てたしんのすけのぶりぶりざえもんの絵に発想を得て自立型人工電子生命体の開発を始め、秘密結社ブタのヒヅメに目をつけられて何に使われるか興味なく「発明を完成したいから」と助手のアンジェラともども秘密結社に雇われていたのですが、マウスがついにぶりぶりざえもんウィルスを通信宇宙衛星に送信した時に真相を知った博士は「ぶりぶりざえもんの生みの親」しんのすけでないとできない脳波接触でぶりぶりざえもんを「救いのヒーロー」に目覚めさせ、おのれの使命に気づいた人工電子生命体ぶりぶりざえもんは消滅するまでがしんのすけの語る作中作「ぶりぶりざえもんのぼうけん」によって描かれる。ぶりぶりざえもんはクレヨンしんちゃん作中の人気キャラクターですからテレビ版でも作中作の形式でぶりぶりざえもんを主人公にした特別編が人気を集めており、塩沢兼人(1954-2000)の生前まで25エピソードがテレビ版放映されました(のち2枚組DVD『クレヨンしんちゃん ぶりぶりざえもん ほぼこんぷりーと』2011に集成)。塩沢氏の没後ぶりぶりざえもん役は代役が不可能とされ、2016年に神谷浩史さんを後任に特別編のリメイクがテレビ放映されるまで時折台詞のない登場、台詞の落書きボードを持った登場以外は封印されることになったキャラクターです。しんのすけがぶりぶりざえもん説得中にコントロールルームに侵入してマウスの操るキーボードの上を滅茶苦茶にハイハイしまくるひまわりの活躍も本作で本格化した要素ですが、本作はしんのすけの語る「ぶりぶりざえもんのぼうけん」を聞いて浄化され消えていくぶりぶりざえもん、爆発炎上するブタのヒヅメ本部からちゃんと悪人たちも救出して巨大気球で脱出するサスペンスと危機一髪を救って気球を押し上げ炎の中に落ちていくぶりぶりざえもんの精霊、結びの野原一家と筋肉・お色気一家のピクニック(しんのすけが正義くんにぶりぶりざえもんの絵を見せます)……と、大人も泣かせるクライマックスの展開が怒涛のようにたたみかけられる原監督作品ののちの2大名作『オトナ帝国の逆襲』『戦国大合戦』につながる作品であり、『オトナ帝国』『戦国』がシリーズ代表作として観られる機会が多いあまり見過ごされがちですが、冒頭から始まる緊迫感や豊かな情感、見どころたっぷりの充実感では本作もシリーズの最高水準の作品です。また前作でも超能力者は登場するにせよ最後まで「(壺に封印された)魔人」という要素なしで物語が展開しましたが、本作では超能力も神秘的要素もなしに物語を語りきっており(唯一クライマックスのぶりぶりざえもんの精霊のお助けだけはファンタジー要素ですが)、原恵一監督の脚本・演出の冴えも前作以上に発揮された仕上がりが堪能できる秀作です。

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